2012年05月25日

雇用の地域化と国際化

雇用の状況を考察した本が出ていた。

"The New Geography of Jobs", by Enrico Moretti



アメリカにはチャンスが転がっている、長いことそう信じられてきた。でもいまや教育について格差が拡大しつつあり、中位所得者の生活水準は30年前のそれと比べて落ち込んでしまった。犯罪にまみれる都市がある一方、シリコンバレーは繁栄している。そこには付加価値の高い産業が集積しているのだ。
でも、何でハイテク産業を気にしないといけないのだろう?それは、生産性が上がり高い付加価値を生むことで経済の動力になっているのはハイテク産業であり、またエンジニア一人が雇われるとその他の職も生まれるーー弁護士や医者やタクシードライバーが必要になるーーからだ。情報技術の発展によって、世界はフラットになったはずじゃなかったっけ?でも事実、僕らがどこに住むかはより一層重要になってしまった。知識を持つ人のそばにいることは大きな利点になる。本書は多くの都市と職を検討し、変化の原因を探っていく。

1章は歴史の概観。製造業の勃興によりアメリカは繁栄に至った。でもいまの高卒者の賃金は30年前のそれと比べ、落ち込んでしまった; グローバル化と技術進歩がその原因で、労働が要らなくなってきた。地産地消という動きはあれど、その趨勢を覆すほどのものではない。中国の脅威に晒される土地はグローバル化の恩恵を受けられない。企業は品質を高めることで対応しようとしている。半導体やコンピュータの組み立てといった比較的高い技能の必要とされる職も減っている; 低賃金低技能か、高賃金高技能な職しかなくなりつつあるのだ。メーカーの復活を唱える声は至る所で聞こえてくる。
2章はハイテク産業について。貿易可能な産業は、貿易不可能な産業に比べて生産性が高い。床屋やレストランやフィットネスといった地域に特化した職は、イノベーション産業より多くの雇用を生むものの、生産性は全然伸びていない。生命科学やITなどハイテク産業の雇用1人につき1.6人の雇用が生まれる。Facebookやその他IT企業は技能を持った人を雇うために買収をするようになった。これほど知識が重視されるようになった原因は、技術進歩とグローバル化である; いったん作れば低コストで売れるようになったし、国際的に大きい市場を獲得できるからだ。インドや中国でも技術者は増えてきてはいるが、現状ではアメリカのそれに比べて補完的な存在となっている。企業のイノベーションによる利益は賃金に繁栄されている。
3章は大分岐について。シアトルは衰退していた都市だったが、マイクロソフトの本社が移ってきたことで息を吹き返した; 技術者にとって魅力的な都市となり、人を引きつけていったのだ。オースティンやサンノゼといった都市は高い技能を持つ人が集積するようになっている。大学卒が多い町では、高卒でも賃金が高くなる; それは高い技能と低い技能の職とが互いに補完的だから。地域の差は、健康面・離婚率・寄付・政治参加の面でも見られるようになった。都市の平均を比べると最大で15年も寿命に差が出る。周りの人の生活習慣は影響するのだ。教育があるほど政治参加しやすくなる。都市に企業の本社があると寄付金の量が増える; 法人自体は寄付しないけど、従業員が地域のために貢献するのだ。そのため活気のある会社があるほど地域は豊かになる。
4章は都市の魅力について。労働市場の層が厚く、企業にとっても応募者にとっても適した職が見つかりやすい。またベンチャーキャピタルにとっても、顧客企業を監視し相談することは近いほどたやすくなる。知識の流出も近いほど生じる; 特許を取る人の住所は密になって固まっており、また近くに住んでいるほど相互に引用しやすい。これらのことから、良いサイクルに乗った都市はますます人材を集め、そうでない都市はさらなる衰退をみることになる。大事なのは、新しい職が生まれてきたときにそれに適応することだ。
5章は移住について。アメリカ人は他国に比べて引っ越しの多い。教育程度が高いほど職を求めて移動する傾向にある。低技能な職は地域に適したものしかないが、高技能な職は国中で見つかるためだ。ある都市が不調でも他の都市は好調であり得るため、失業保険によって移住を促進させるとよい; 職が少ないエリアでも、失業者自体が減れば職を見つけやすくなる!また大卒は地域に根付かないため、連邦政府がある程度の投資をしたほうがよい。アメリカ人の支出の4割を占めるのは住居費で、職のある地域は家賃がとても高くなる: 家持ちの人は得をするけど、賃貸人は損をするのだ。あるエリアが雇用活性化で高級になると、それまで住んでいた老人や低技能な職の人はダメージを受ける。解決策は流入を抑えることではなく、新しい住宅を建設して家賃を抑えること。
6章は各地域の施策について。生命科学の発達したボストン・サンフランシスコ・サンディエゴをみると、産業の勃興の原因は大学にあると思えてくる。しかし真に重要なのは「各専門のスター学者がその地域に住んでいる」ことだ; 知識の源になるし、また創業を手伝いもする。ハリウッドの転換点は1915年にD.W.Griffithが超大作"The Birth of a Nation"をぶち上げたときで、その先進的動画技術に惹かれて多くの映画マンが集まるようになっていった。シリコンバレーも同様に伝説の技師Shockleyが多くの才能を引きつけていった。貧困の罠から抜け出すには、TVAのような真に大きな「ビッグプッシュ」が必要; ある程度の人材を引きつけるまでガンガン投資せねばならない。
7章は国策について。高い技能をもった移民を引きつけるか、高校や初等教育に投資してアメリカ人自体の労働の質を高めるかする必要がある。外国生まれの大卒者が増えた地域での特許の取得は著しく増える。高校の理数教育は国際比較すると劣っていることがわかる。

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(感想)
・都市万歳系の書籍。基本的なロジックに目新しいところはないけど、イキのいいIT企業やVCのお話や、アメリカの諸都市が比べられる点は興味深かった。セレクションバイアスをどう回避しているかの解説もあるし、読みやすい。
e.g.
「大卒が多いほど高卒者の賃金も高い」→「良い高卒者は大卒の多いところを選んで住むんじゃない?」→「時系列で見て、大学卒が増えたところの高卒者の賃金の伸びは、増えなかったところのそれに比べてやっぱり高い」
「スーパースター学者とコラボすると生産的になる」→「えーでもスゴイ人同士で固まるからスゴイ業績が生まれるんじゃないの」→「じゃあスーパースター学者が急死したときをみてみよう、やっぱりがた落ちしてるよ共著者たちの業績」
学者の著書はこういう地味だけど超重要な点にも配慮しているのが特徴でしょうね。

・「知識」とか「技術」とか「新製品による人間の技能の陳腐化」とかが強調される本を読むと大変居心地の悪さを覚える。プログラム言語はからきしだし、不朽不可侵の技術を持っているとは到底言えないわけで。。。

・「サービス業は虚業だけどメーカーは実際にモノを作るからエラい」これ日本だけの病気かと思ったらアメリカでもあるのね。何が原因なんだろね。
エンジニアがまあモノが出来上がることに固執するのはわかるけど、ソニーの営業マンが「モノづくりだよね」とか言ってると何か違和感あるんだよなー。

・今後の子どもはPCにできるだけ早くから触れさせて技術を覚えて(というか楽しんで)もらうことが大事なんだろうな−。PCにできることとできないこととを峻別させて、後者の技能を磨かせると。

・デトロイト見てると東海地方が怖く思えるなー、特に豊田市。企業都市ってリスクめっちゃ高いよねえ。

・東京ガンバレ。超ガンバレ。日本中の俊英が集まり金融の調達もしやすいはず。
posted by Char-Freadman at 14:41| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月22日

オランド税率の最適課税論的起源

SaezとDiamondが最適税率は70%超かもしれないと言っている。

"The Case for a Progressive Tax: From Basic Research to Policy Recommendations", by Peter Diamond and Emmanuel Saez, Journal of Economic Perspectives Vol25, Number4, Fall 2011, pp165-190

【最適課税論とはなにか?】
以下の特徴を持った社会厚生関数を政府が最大化するとして、歪みの少ない税制にするにはどうしたらいいかを考える分野
・より平等な分配になると嬉しい
・富んだ人より貧しい人を重視する
ただ、課税しすぎると働かなくなる。効率と公平をどうバランスとるかというお話です。

著者はこの論文で三つの提案を掲げる

1. 超高所得者の限界税率は所得とともに上がるべきであり、現行のアメリカ税制より高くてもよい

トップ1%が所得税収に占める割合はなんと40%。公平の面からだけでなく税収の面からも焦点に当てるべきは高所得者層。
さて肝心の、税の悪影響。taxable income elasticityで測ろうというのが、Feldstein(1995)以降public financeの新しい伝統となっている。租税回避や脱税、労働時間減少など全部の影響は「課税所得がどれくらい減るか」で近似できるよねという発想だ。すると、国庫を最大化する税率は以下の式で与えられる;

τ=1/(1+a*e)

ここでaはパレート分布のパラメータ。パレート分布とは、所得分布が従うことが経験的に知られている分布のこと。アメリカでのaの値は1.5くらいと見られている。
さて残るはeの値の推計だ。急な税率の変更(1986年のTRAなど)の前後で、高収入者の変化と中位所得者の変化とを比べたり、トレンドを調整したり、色んなテクニックを駆使するとe=0.25くらいではないかと見られている。

するとτ=73%という値が出てくる!

限界税率は減るべきとする文献もあるけど、それは一番所得を稼いでいる人「だけに」当てはまる条件であり、データには当てはまらないのだ。
ただし長期的には教育水準や職も変えてしまうかもしれず、そんなデータは揃ってない。

2. 低所得者には補助金を与えとりあえず就職をさせるようにし、その補助率を段階的に減らしていくのがよい。

伝統的には「労働時間をどれだけ減らす」かが重視されてきたけど、「そもそも職に就かなくなる」人も多い。特に女性がそうだ。そこで就職したときのみに恩恵を受ける税制にし、稼得が増えるとともにその援助を無くしていこうとのこと。

3. 資本は課税されるべき

Chamley(1986)とJudd(1985)以降、資本には課税しないほうがいいという論文は多い。資本に課税すると、重複して税をかけすぎちゃうというのがその理屈;
今日の1円を貯めると利子rのおかげでT年後には(1+r)^Tの価値になるけど、利子rに資本課税τがかかるとたった(1+(1-τ)r)^Tにしかならない。Tが長いほどその影響は大きくなってしまうのだ。税収が必要なら現在の富裕層から分捕り、資本市場で運用して調達するのが歪みが小さくなる。
でもそんな長期のことを考えて最適化している個人はいないし、たとえば思いがけず急死した人の遺産に課税したところで歪みは生じないーーだってもう死んでる!おまけに現在の富裕層からカネを取ってこようとしたって、政治的な反対に遭うに決まっているのだ。
労働による収入と資本による収入とを綺麗に分類するのも難しい(Char注; ストックオプションとかをイメージするとよいのだろう)。所得税と資本課税にあまり差が生じるとよくないのだ。
借り入れ制約に引っかかっている人も居るかもしれず、そういう人にとりあえずの流動性を供給してあげるのは望ましい。カネのあるところから政府が調達してあげればよい。
将来の収入が不透明だと、予備的に貯蓄をしすぎるかもしれない。そして労働を減らすだろう。そこで貯蓄に課税をかければ労働の歪みが減り、ひいては税収増となる。

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(感想)
・オランドの主張する75%の税率、根拠はこの論文かもしれない!?

・まあ「最適課税論」という考え方を使ってアタマの体操をしてみました!という位置づけでいいんじゃないかな…w

・New Dynamic Public Financeという文脈だとマクロ経済学者がメカニズムデザインを駆使して誘因制約を満たした上で税収を最大化するような問題をグリグリ解いているけど、「実行するには複雑すぎ」とのこと。実証するのはなお難しそうだなぁ。

・日本のaの値はどうなってるんだろう。

・この論文だけだとあんまりピンとこないかもなので、併せてMankiw, Weinzierl and Yagan(JEP, 2009)"Optimal Taxation in Theory and Practice"も読むと良さそう。そこでは最適税率は所得とともに「下がる」こともありうるとしている。パレート分布かどうかわからないじゃんというのがその理屈。

・最適課税論と政策との関係を追った本ならこんなのがあるみたい;



いま目を通してるけど、70年代中盤から80年代中盤にかけてのStiglitzはまさに鬼だね。引用される論文の多いこと多いこと。いまは、、、
posted by Char-Freadman at 11:26| 北京 霧| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月20日

法と地理とアメリカ政治

政治制度が重要と多くの経済学者が指摘するようになってきた。では、政治制度の形成に重要な要因となるのは何だろうかーー地理と法制度がそれらに当たると指摘する本がこちら。

"The Evolution of a nation: How Geography and law shaped the American States", by Daniel Berkowitz and Karen B. Clay



2章は大陸法とコモンローの比較。司法が議会に従うのが大陸法、両者に同じ権力があるのがコモンローという通説はアメリカでも成立する。大陸法の州の住民は強い議会と弱い司法を望んだ。アメリカの各州を分類し、13の州は大陸法、35の州はコモンローだとしている。各州が獲得された際、大陸法の州では大陸法に馴染んだ多くの住民がおり、土地を持っていて、フランスやヒスパニックの系列からの政治家もいた。確かに多くの州では大陸法は抹消されていったものの、議会と司法の権力の緊張を通じて影響は続いていったとみている。
3章は各州の初期条件と政治競争について。ラニー指数(100 - {(上院での民主党の割合) + (下院での民主党の割合) - 100})や投票指数などの複数の指標が、政治競争の度合いは長年変わらなかったことを示している。これらの指数は、降雨量があるほど低く、河や海に遠いほど低いことが示されている。それは農業に適している土地には農家が、取引に適している土地ならば商人が住み、政治的な競争が生じたため。初期条件が政治競争の度合いに強い影響をもっているのだ。
4章はそのメカニズムについて。州の居住者の職業が同じであればあるほど政治的な競争の度合いは低く、逆もまた然り。職業の同質性の政治競争への因果関係をみるには、河川からの距離を操作変数として使えばよい; 鉄道が発達した後は河川の役割は薄れたため。そしてその政治的・経済的な力は党の加盟に長い影響を及ぼした。奴隷制も確かに要因ではあるものの、職業の同一性も競争の要因。
5章は法廷について。政治家の間で競争が弱いと、議会の与党は判事間の選挙を好む; 判事は選挙で勝つために政治家に迎合せねばならないから。いっぽう政治家の間で競争が強いと、議会の与党は判事を任命することを好む; もし党が代わっても、既存の与党に沿うような形で裁判を行うため。大陸法の州はコモンローの州に比べ、この変化の生じる水準が高いことがデータによって示されていく。
6章は議会と法廷との関係について。大陸法の州はコモンローの州に比べて選挙を用いがちで、裁判所の独立性は弱く、政治競争が強いときに独立性と予算とを伸ばす傾向にある。大陸法の州ほど上訴審は地域密着型になり、裁判所への支出は低い。裁判所の独立性が強いほど予算がある。
7章はまとめ。独立性を高めるために選挙をやめたり、よりよい分析ができるよう時系列のデータを整えたりしようう。

制度発展に興味のある人はどうぞ!

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(感想)
・法制史関連の文献を読むとき、日本のそれとはかなり違うので疲れるなぁ。

・内容はともかくグラフだの表だのが見づらいレイアウト。もっとガンバレ電子書籍、、、

・議会と法廷の関係が気になってきたのでこんな本でも読んでみるかなー;



posted by Char-Freadman at 06:24| 北京 晴れ| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月18日

新興国と新しい貿易パターン

今号のJournal of Economic Perspectivesは100号記念ということで、編集者が気合いを入れてきている。なんとKindleやNookに対応するようになったとのこと。
http://www.aeaweb.org/jep/mobile.php

読みやすいしブログのネタに丁度良いので、学習のコミットメントとして適宜とりあげていってみます(宣言)

ということでさっそく第1段、"The Rise of Middle Kingdoms: Emerging Economies in Global Trade", by Gordon H. Hanson
Journal of Economic Perspectives, Volume 26, Number 2, Spring 2012, pp41-64

近年、先進国はふるわない一方、中位所得国の伸びは著しい。本稿は貿易パターンが変化してきたことを示していく。1950年代から1980年代までは、先進国間の北北貿易が顕著だったが、南南貿易や南北貿易といった形が増えてきている。85年には先進国間の貿易は世界の8割だったが、ここ10年では半減しているのだ。

☆南南貿易
・1994-2008で途上国でのGDPに占める貿易額の割合が高まった
・途上国での輸出入の相手は途上国になった
→貿易障壁がなくなったから?; 実証的には影響は薄い
→国際的な生産ネットワークが拡大したから?; 加工貿易という形が進化したというデータは乏しい
⇒より国際的な特化が進んでいるからかも!!!

☆比較優位説への回帰
80年代にはリカードモデルの受けは悪かった。国のサイズや距離でだいたい説明がついた(重力モデル)からだ。しかし近年は比較優位説に再度注目が集まっている。Eaton and Kortum(2002)はリカードの比較優位説が重力モデルと整合的であることを示した; 技術の性能と配達にかかる貿易コストによって相手国の市場のシェアを獲得すると見ていったのだ。またFeenstra(2010)は国際的な生産ネットワークのなかでの中間財の供給における比較優位の存在を強調している。
また、資源の少ない途上国が資源の多い途上国(中印)から原料を輸入するというパターンが観察されている。

●特化
中位所得国では、アルゼンチンやブラジルが農業を、ロシアと韓国と南アフリカが鉱業を、韓国とマレーシアとタイとフィリピンが電機産業の輸出を伸ばしている。中国とインドは特徴的で、高所得の国々に輸出品を送っている。
北から南への海外直接投資も、またその逆も伸びている。

●特化の変遷
衣服や靴を輸出していた国が、電器を輸出するようになってきた。中国は携帯電話やコンピュータを組み立てて輸出してきている。コンピュータへの特化と、依然として低価格品を輸出することが中国の特徴といえる。とはいえ高品質のものを作り上げる能力はある。

●超特化というナゾ
少数の製品だけに特化するということが多くの国で見られる。低所得国では石油・アルミニウム・茶・コーヒー・ナッツ・木綿・ダイアモンド・銅・織物、中位所得国では石油・半導体・自動車・織物・冷凍魚・サトウキビ・アルミニウム鉱石・鉄の合金・銅・船などを輸出している。両者の差は教育程度と使う機械にある。
なぜか?
→企業の生産性の違いのせい?相手国の規模が小さい割に貿易障壁が大きい場合、それでも輸出がペイするほど高い生産性がある企業がなくなってしまう。このため何も取引されない財が存在することになる。各種のMelitzモデルでは輸入国のサイズが小さい場合に取引が無くなることが予見されるが、実際には取引は行われている。
→Eaton-Kortumで説明はできるか?技能の差が貿易パターンを導くことになるが、取引がないという状況はモデルからは出てこないはず。超特化までは説明し切れない。
→輸出品は生産に外部性があるから?ある企業が生産を拡大すると、知識や金銭のスピルオーバーにより他の企業のコストも下げることになる。でも、低所得・中位所得国で輸出されるのは多くが一次産品で、外部性があるような製品とは言えなさそう。

☆まとめ
中国の成長の原因や、国際的な厚生、高所得国にもたらす影響といった点が研究されてきている。
・近年の取引増は付加価値の真の量をどれだけ表しているか; どれくらい特化が輸出シェアの伸びをもたらしているのだろう
・輸出への高い特化の理由はなんだろう
・中国政府は工業政策をとっているんだろうか?
・コモディティのブームはどれくらい低所得国の生活水準に影響するんだろう
国際経済学はこれらの疑問に答えていきそうだ。

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(感想)
・各時代の貿易パターンを受けて貿易論が発展しているのが面白いところ。

・今号は貿易特集になっているようだ。寄稿者が豪華すぎるw

・半導体を輸出するのは「中位」所得国です。ちなみに日本は「高」所得国です。

・そういえば工場が先進国に回帰しているという記事もあるね;
http://www.economist.com/node/21552901
貿易パターンはホントに豊かだな〜。
posted by Char-Freadman at 13:02| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月17日

南米の失敗

母を訪ねて三千里というお話をご存知だろうか。主人公の母親は、イタリアからブエノスアイレスに出稼ぎに行った。そう、南米はかつて先進国だったのだ。

ではなぜ今日北米と南米に差がついたのだろう?そんな興味の湧いた人には本書がオススメ。

"Economic Development in the Americas since 1500", by Stanley Engerman & Kenneth Sokoloff



2章は新大陸の初期条件について。北米と比べて南米では、白人は相対的に少なく、富は不平等であり、経済発展に全員が参加できるような政治・経済の制度は整えられなかった。人口が同質的なほど、機会の平等が保たれるような制度が発達していた。
3章は制度の役割について。富と人的資本と政治力の不平等は制度によって保たれていったが、その源泉は土壌かもしれない。砂糖その他の商品作物が栽培されたエリアは特に不平等であった。それらの作物は奴隷による大量の労働が必要となったのだ。いっぽう北米で可能だった農業は家族経営によるものだった。参政権・移民法・教育といった分野で、この差は維持されていった。
4章は選挙権について。人口が同質的であり、より平等な地域であるほど選挙権は広がった。南米では識字能力によって選挙権は制限されることとなったが、北米では白人については選挙権が次第に認められていった。合衆国にあっては、より労働力を必要とした西部の開拓地は選挙権を認めやすくなっていた。
5章は初等教育について。アメリカでは草の根運動で公立の学校教育がひろまることとなったが、南米の多くの国ではそうではなく私立の学校や大学のみが創設された。これは(1)富が一部に集中していたので、公立校を建てるメリットがなかった(2)人口が異質であり集合行為問題を解決するのが困難だったため。とはいえアルゼンチンやチリやコロンビアの高地では移民を引き寄せるため、教育に投資することになった。北米では地方が教育方針を握ったが、南米では中央政府が決めていった。
6章は税制について。途上国では所得の把握は困難なため、関税や消費税や物品税に収入を頼るようになる。とはいえ、北米と南米の差は19世紀半ばには既に存在した。南米では政府支出が抑えられ、課税もまたされなかった。北米では地方と中央政府とが両方財源をもち、より累進的になり、政府の規模もまた大きくなっていった。国有企業からの収入も南米では重要だった。
7章は土地・移民法について。北米では不法居住者にも土地が認められ、来るものは拒まずという方針だった。南米では移民は制限された。
8章は銀行の発達。ブラジルやメキシコでは政治権力者が銀行とグルになり、少数の銀行による寡占が生じてしまった。アメリカでもそのような結託はあったものの、次第にそれに抵抗する勢力があらわれ、多くの銀行が設立されることとなった。信用借りするには議会が必要だ。
9章は植民政策について。植民地の人口構成を変化させたのが最大の影響とみている。不平等を長続きさせるような制度が維持されていってしまった。
10章は制度的要因と非制度的要因について。異なる制度がどちらも成長に適していたり、制度もまた内生的たりうる。成長に不可欠の制度というものは、歴史を見る限りなさそうとのこと。
11章はまとめ。社会が取りうる制度のありようは多様。古典派経済学に対抗した制度学派のときから制度への関心はあり、近年さらにその傾向は増している。これからもその分析は実りのあるものとなろう。

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(感想)
・地理要因は政治制度の発展に効いてくるからやっぱり重要じゃないかーAJRのばかやろー。
・砂糖やコーヒーが大規模に向いてて、小麦が小規模に向いてるってのは、当時の技術を反映しているわけだよね。
→技術が根源的理由なんじゃない?
→技術が進展するのは政治制度が発達していて特に所有権が守られているときだとか
→以下∞ループ
頭がおかしくなりそう!!!
「生産様式が制度を決める」「階級間で闘争する」というマルクスの思考方式はまだまだ息づいてるのね。
posted by Char-Freadman at 12:57| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月08日

中世国家の財布事情

中世〜近世の国家財政に興味が湧いたので目を通してみた本↓

"States of Credit: Size, Power, and the Development of European Polities", by David Stasavage



都市国家と領域国家と、中世には二種類の国家があった。前者には小さい地理的規模という優位と流動的な資産を持ったエリート層の存在があり、内包的な議会をうみ信用借りができるようになったことを示していくのが本書の目的。

2章は都市国家と領域国家の財政の違いについて。都市国家も領域国家も傭兵への賃金を支払う必要があった。都市国家は領域国家より早く長期国債の発行が可能になった。また1500年以降に領域国歌も発行するようになると、それらより低利率での支払いを可能とした。
3章はヨーロッパでの代表制の進化について。何らかのグループが王からの承認を得るという形か、または王が財政のために開くという形で議会が生まれてきた。都市国家は規模が小さいために会議の頻度が高く、代表者が働いていることを確認することが容易だった。また都市国家は商人によって議会の椅子が占められており、国債の発行の認証も議会が担っていた。領域国家の議会は、新しい税に関して合意を得るために開かれていた。
4章は負債発行と政治制度の関係について。国家が支払いを果たせないリスクがあり、貸し手には履行を果たすことを監視する代表者を選ぶことができ、国のトップはデフォルトのリスクを下げることは監視抜きには嫌がるとする。このとき監視コストが低ければ、より監視するようになり、借りるコストも下がり、より借りることが出来るようになる。都市国家内でも差があり、より商人により運営されているほど信用借りがしやすくなることが示されている。
5章は都市国家の起源について。843年、カロリング朝はヴェルダン条約により三分割された。その中で特に中王国の分裂は早かった。その後西には西フランク王国、東にはバヴァリア(バイエルン)を中心とするオットー朝(神聖ローマ帝国)が現れたが、ロタリンギア地方は政治的にずっとばらばらであった。このエリアの都市が自律を保てたのはこのため。メルセン条約の国境線からの距離を操作変数にし、都市の発展をみている。
6章はケルン・ジェノバ・シエナを具体的に取り上げる。どの都市でも、商人の議会での存在感が信用借りのしやすさと関係している。
7章は都市国家が信用借りの出来なかった理由を探るため、フランス・カスティリャ・オランダを取り上げる。フランスにも一応は議会があったものの王の介入する余地は大きく、またパリ以外から資金を調達する権限もなかった。土地の広大さと、議会がしっかり利益を代表していなかったのだ。カスティリャは絶対王制、オランダはそうではないという違いはあれど、双方の財布事情は同じように地方の商人に握られていた; しかしカスティリャは広大なため契約の履行の確認が困難であり、資金調達がしづらくなってしまった。
8章はまとめ。戦争は支配者にとって課税のための交渉を可能にする議会を必要とさせた。情報獲得のためのコストが大きいと、コミットメント問題を解決するのは困難。革命を避けるために民主化するという議論は、一度権力の地位に就いたらその特権をコスト無くふるえることを暗黙の前提にしている。商人による寡占は、財政上は優位だったものの、結局は新規技術をもつ人の参入を阻害したり、高リスクなビジネスから低リスクなビジネスへと移行したりするのかもしれない。

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(感想)
・大量の回帰分析が出てきて頑健性のチェックに辟易するものの論旨は分かりやすく、大変読みやすかった。

・堺や今井町などの都市国家が、伊賀・甲賀・雑賀・根来などの傭兵で名高い地域の近くにあるのも、同様の理由かしらん。

・「経済成長の決定要因は地理じゃない?」
→「いや、政治制度じゃない?」
→「政治制度を決定するのは地理じゃない?」(イマココ)
混乱してきた。

・このプリンストンの経済史シリーズいいなあ、全部邦訳されないかな〜
http://press.princeton.edu/catalogs/series/pehww.html
posted by Char-Freadman at 00:56| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年05月01日

ご飯の美味しい経済学

ご飯だって需要と供給のもとに成り立ってるんだから、経済学を使えばもっと効率的に食事ができるのだ。新鮮かつ創造的な供給者は誰で、需要者に情報が行き渡っているのはどんなときかを考えていくとよい。本書は「食事は大事」「安くても良い食事にはなる」「賢い消費者であろう」という信念を伝えるために著されている。

"An Economist Gets Lunch" by Tyler Cowen



アメリカの食事が残念になったのは商業化のせいではない; 禁酒法の時期に良いレストランが潰れ、二次大戦で質より量という流れが生まれ、移民排斥がなされたため。レストランはワインで利潤を得るので、アルコールを売れないと大打撃を被る。ワインを供するフレンチは特に深刻だった。また大戦では女性労働が必要となり、便利に食事の出来る缶の文化が広まった; 翻って欧州ではそもそも農業自体が困難となっており、自給自足の生活を強いられたため皮肉にも食事の質は保たれた。またアメリカでの育児では子どもの望むものを与えがち; しかし子どもは甘いものや菓子が大好きで、ファストフードの餌食となる。テレビは夕食時に面白い番組を配信していたため、時間をかけて準備することへのコストが高まった。

エスニックのスーパーのほうが食の流通に気を遣っているからいいかもしれない。試してみると、安上がりで健康的な食生活になる。最初に時間はかかるものの慣れてしまえばすぐ気に入るだろう。緑のものが欲しければ中華食材店に行けばいい。自分の食生活をちょっと変えるだけで優れた食品を発見できるかも。

良い外食をするには以下の点を覚えておくといい。原料集約的ではなく構成に集約的な食べ物を選ぶこと。補完性(ご飯があるとより楽しくなるもの)のある店のレストラン、たとえばカジノの経営するレストランを選ぶこと。郊外や大通りから外れたところに立地している店、顧客が家にいるかのようにけたたましく振る舞っている店、店員がブサイクな店なども狙い目。
アメリカのバーベキューは多様かつ伝統がある。古典的な店や機械に頼る店もあれば、開店時間もまちまち。ソースも添え物も美味しい。
ベトナム料理店は美味しい。タイやインド料理は人気を博したがゆえに質は低下気味。日本は高賃金な国なため低価格な良い日本料理を見つけるのは至難の業。韓国料理なら野菜。Hunan(湖南)やCanton(広東)と表記のある中華は避け、Sichuan(四川)とある店を選ぶとよい。とにかく、あんまり聞いたことのないものを選ぶとよい。それを真に必要としている顧客層があるから。
品種改良により農業の生産性が伸びたことは緑の革命と呼ばれる。肥満や飢餓を解決するのは、100年前の農業に戻るのではなく、新しい技術を採り入れること。近年農業の生産性は伸び悩んでおり危機が生じているが、遺伝子組み換え食品は栄養価も高く収穫量も多いので、アジアやアフリカでの飢饉を解決する方策となろう。
不買運動は必ずしも環境に優しくない。環境税で市場を利用したほうがより効果的。ゾーン規制を撤廃して都市化したほうがエネルギーは効率的になるし、安価な味の食品を楽しんだり、環境によくない食品は高値にし、精製された砂糖の利用は避け、皿は手洗いし、無駄な食品の購入や車の運転を減らすとよい。
アメリカの「メキシコ料理」と本場のそれとは異なる; 安全面に課される基準と、一般家庭が可能な調理方法が両国で異なるためだ。豚・牛・鳥・チーズやラードに課されるFDAの基準は重い。
旅行では現地の食事を目一杯楽しむべし!東京では、有名なところに降りて歩き回ったり、地下鉄の正しい駅・正しい出口を使い、タクシーの運ちゃんに頼むとよい。本場のエスニックを楽しめる。安上がりなので日本料理以外に金を使ってもイイかも。居酒屋もお勧め。シンガポールなら屋台(ホーカー); 安いし衛生面の心配もない。インドならホテルの料理。パリにいるなら、お金をかけない限りロクなものは食べられない。ミシュランを使うなら安い店に焦点をあてるべき。イギリスならエスニックに行っとけ。ドイツやシチリア島やイスタンブールは安いし美味しい。イタリアにいるなら、ベネチア・フィレンツェ・ローマなどの観光客向けの店は避けるべし。
有名店のシェフによる料理本はしばしば役立たず。自炊に使う器具を自省し、よく使うものは質のいいものを選ぶべき。料理は敵ではない;自炊に電子レンジや冷凍食品を利用したってよいのだ。

アメリカ(特にNYとDC)在住でご飯がまずいとお嘆きの貴方に!

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(感想)
・外食探しに経済学を使うというのは普段からやってるので、その点は目新しくなかった。ただ、規制が食文化にもたらす側面が大きいかもと言うのは面白い。料理って結構変遷するんだよね。たとえば四川料理はかつて辛くなかったし。

・町外れに行って買い物やら外食やらするにはアシが必要なはずなので、「車を持つこと」という前提の指摘が欠けてないかな。まあ著者にとってはあまりにも当たり前のことだからかw

・(先進国での)ファストフードのメイン顧客ってガキなのかー。言われてみれば中高生がたむろしてて客層よくないね。ただ途上国ではちょっとしたブランド品みたいな店にも見える。

・アメリカのメシがマズイのは女性労働が進出している裏返しでもあるのね。あんま罵倒するのやめることにしようっと。不満はあるけど。あるけど。。。;;

・空港のご飯が美味しくなったというのは納得できないw成田のご飯は高くてマズイ。

・中国人が食を気にする???段ボール肉まんやら髪醤油という都市伝説の発祥地では^^;

・アメリカで食べるエスニック料理がまずい理由を供給面から語ってる(9章はエル・パソとシウダー・フアレスという米墨の隣接地区を比べているので、同じ需要があることが暗黙の前提になっている)けど、需要面のほうが大きいんじゃないかナァwびっくりするくらい味覚がおかしいと思うけど。。。

・アメリカでもご飯の美味しいエリアってあります。参考までに↓(※ネタバレです)


・学術に興味があって世界の大学ランキングを眺めると愕然とする;
http://www.topuniversities.com/university-rankings/world-university-rankings/2011
うわっ……私のご飯、マズすぎ……
留学を考えている人は料理の腕を上げることを強くオススメします^w^

・東京に関する著述はきわめて精確だった!w
「英語を話せる人は多くないし、日本語は難しい。通りの名前は秩序立ってないし、新宿駅は難解。(略)名店は地下とかに隠れてる。」
$5でまともなもんが食べられるのは驚異ですね。食道楽にとって天国だのう。

・イギリス観光で「エスニック行け」って、イギリス料理自体はアレってことだよなw明示的に書かれてはいないけどw
posted by Char-Freadman at 19:35| 北京 霧| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月29日

よくわかる新興国

今後の世界経済の予測に興味がある人は本書を読むとよいかも?

"Breakout nations", by Ruchir Sharma



ここ数年、金融危機に至るまでは、世界的な低利子により溢れたカネが新興国に流れ込んでいた。今後はどうなるかは不明瞭とのことで、現状分析がなされている。

【中国】最も大きな影響力を持つだろう。農村から都会への安価な労働力移動はやみつつあり、賃金は上昇気味。鉄道やネットや住宅などインフラも整備され、中位所得国になりつつあることから今後の成長は伸び悩む。国内負債は高く、高齢化の急激な進展という懸念材料もある。輸出産業の伸びはこれまで堅調であり、成長が遅れても各国との摩擦が減るからそう悪くもないかもしれない。
【インド】シン首相のもとで経済自由化が進んできたものの、彼の政治的基盤は弱く、今後も改革が続くかは疑わしい。輸出中心で国内は資金不足になっている。ハイコンテクストな多様な社会であり、汚職が蔓延している。多すぎる億万長者は政府関係者と繋がりをもっている。若い平均人口は労働力の源となりうるかもしれないが、それは農村から都市への移住がなされるときだけだろう。民主的な制度には希望がもてるかもしれない。
【ブラジル】インフレ懸念から常に高利子になっていたため、資金が集まり通貨高になっている。政府がGDPに占める割合は高すぎる。税が高く訓練や新技術に投資できなくなり、発展が阻害されている。空港や道路は古いままだし、教育水準の高い労働者が不足しているのだ。コモディティにも依存しているため通貨高に悩まされ、輸出業が発展しないというオランダ病にもなっている。
【メキシコ】寡占企業が政治も握っている。寡占企業は非効率だし実際に経済活動している多くの企業が上場されていないため、当地の株式市場は活気がない。アメリカに輸出を依存しているため、中国の伸びにより脅かされている。金融危機以前は資金を借りる格好の契機だったのにチャンスを逃した。麻薬組織の暗躍や誘拐も多発しており治安は保たれていない。未来があるとしたら工業部門くらいだろう。
【ロシア】90年の一人当たりGDPは$1500だったが、いまあや$13000になった。プーチン政権は、当初は改革路線だったものの、次第に変化した。規律に基づいていた政府支出は年金給付を伸ばしたために増大してGDPの半分を占めるようになった。金融セクターは貧弱で資金調達はおぼつかず、石油以外の産業を必要としている。高齢化も著しい。
【ヨーロッパ】旧共産圏のうち、ハンガリーはかつてソ連の介入が緩やかだったために比較的成長していたが市場改革は遅れた。いっぽうチェコとポーランドではEUへの参加のために制度改革が進み、海外直接投資の多くを受け取るようになっている。両国での金融部門の整備を見込んで多くのカネが流れ込んでいるようだ。共通通貨を導入すると、貨幣価値による調整がきかなくなるので、輸出が下がったり賃金が下がったりしてしまう。このため両国はユーロの導入に躊躇している。自由市場に任せるという方策をとった国々のほうが回復は早い。
【トルコ】アタテュルクから西洋化の流れは続き、イスラムの党派は政治参加が認められてこなかった。沿岸部の都市による党が支配したが、どの内閣も短命に終わった。このため支出のしすぎにより混乱が生まれることが多かった。エルドガンは反革命の典型政権であり、イスラム国としてのトルコを復権させようとしている。財政を規律付けてインフレを解決し、GDPの伸びは年に5%となっている。経常収支の赤字はネックだったものの、通貨安を受けて輸出には追い風になっている。イスラムとはいえ穏健派といえそうだ。
【東南アジア】スハルトの支配を脱し、インドネシアは好調だ。大企業の改革は進み、政府負債は減り、地方分権が進んでいる。フィリピンはノイノイ・アキノのもとで改革が進められており、人口は若く都市部の居住者が多い。また英語が母語という強みもある。タイは都市部と農村の対立が続き、経済成長が阻害されている。政治的不安が取り除かれるかどうかがキー。マレーシアはむしろパーム油などのコモディティに依存する経済へと逆行しつつあり、政策は次々と打ち出されるものの効力はあまりない。
【東アジア】台湾と韓国は輸出志向で延び続けてきた。特に韓国の工業部門は依然として国の中心を占めており、サムソンやヒュンダイの活躍は著しい。新興国への進出にも欧米や日本に先駆けている。いっぽうサービス部門への認識は甘く、銀行はあまり発達していない。台湾は賃金の優位性を失い、世界シェアを下げてきている。
【南アフリカ】マンデラ以降、政府支出を規律付け、物価を安定化させてきた。民主的ではあるものの格差を示すジニ係数は高く、黒人の失業率は白人のそれに比して高い。金融市場は発展しているもののアパルトヘイトの影響で閉じた社会となっており、カネは国内に留まっている。格差の縮小は止まったが、アフリカ諸国へ投資が乗り出しつつあり、商機はそこにありそう。
【第四世界】新興国になろうとしている国は法秩序が不安定なためより変動が大きい。ウガンダ、モザンビーク、イラクは紛争終結を受けて成長しだしたが、平和の恩恵を受けるのはスリランカも同じだろう。中国と同じくベトナムも専制的だがカネの使い道に失敗し、港も道路も古い。インフレになってしまった。アフリカのなかには高成長を続ける国もあり、たとえばナイジェリアはグッドラックジョナサンのもとで政治が安定した。映画産業は盛んになり、確かにインフラは不足しているものの、成長のための条件は揃いつつある。湾岸諸国は無税の国家であり、アラブの春を受けて国民に大盤振る舞いをしている。

賞味期限の短そうな本なので読むならお早めに!

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(感想)
・各国経済の描写としては大変読みやすいんだけど、「国々が競争している」「中国は企業に似ている」みたいなレトリックはなんだかな〜。著者は投資銀行マンなので彼の金をどこに使おうかという発想で書いているのだろうけど。。。馬鹿ホイホイな表現なのはいただけません

・この本で扱ってる国々の多くに行ったことあるんだけど、著者はどうも高級ホテルに泊まっているらしく、描写がなんともバブリー。そうですか道路がデコボコだったらヘリで飛ぶんですか。物価比較のものさしにフォーシーズンズホテルーー友人に言わせるとあくまでビジネス用であって華美なブランドではないらしいがーーの一泊料金使ってるし。これが格差社会。許せん(#^ω^)ピキピキ

・韓国が世界に向けて音楽・映画を発信しているという文があるけどこれも強く違和感が。自演だとか指摘されてないかしらwヨーロッパやアメリカでホントに売れてるの〜???

・中国は著者が述べるよりリスキーだと思うけどナァ。アホみたいに軍事費伸ばしてるし。

・メキシコから米への移民は減っているという記事を見かけたような気がする;

・エリツィンの民営化で経済が混乱したけどプーチンが安定させたという書き方には強く違和感がががが; たまたま原油価格が乱高下したせいじゃないっけ。

・韓国褒めすぎじゃない?R&Dが盛んとは書いてあるもののノーベル賞を取るようなサラリーマンがいるとは聞かないし。あと歴史認識がおかしくて、日帝は台湾と同じくらい韓国にもインフラ投資をしたはず。

・日本の音楽市場って世界第二位の規模なのね、随分大きいんだな。

・「2位の都市が1位の都市に比べて1/3の経済規模なら政治制度が安定している」とか「現地の有力投資家、現地の中小企業や政府企業、そして海外投資家の順に資本逃避が起きる」とか「企業が多国籍化するのは必ずしも喜ばしくない、その国から逃げているだけかも」、わかりやすいお話ではあるもののちょっと胡散臭いような^^;
posted by Char-Freadman at 11:46| 北京 霧| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月25日

創業者の苦悩

テクノロジーと生命科学を焦点にしたケーススタディおよび10000のデータベースに基づき、創業者の直面する各種のジレンマを明らかにしていくのが本書の目的。必ずしも富を追うのと権力を追うのとは一致しない。他の職に就いていたほうが稼ぎは大きかったかもしれないのに、なぜ創業するのか。一見、不思議な人たちではある。

"The Founder's Dilemmas", by Noam Wasserman



【職業選択】創業者になるべきか、早めになるか経験を積んでからするか、公平にアイデアを評価できているか、判断せねばならない。創業に適した年齢はない。若い創業者は他に立ち上げ人が必要かもしれないが、老いた創業者は一人で立ち上げられるかもしれない。
親友や両親が自営業だと、より創業者になりがち。創業というキャリアを選ぶ大きな動機は、男女を問わず支配欲と金銭面だ。
技能・知識・専門を深められる。教育を受けるとより創業しがち。どうやら未経験の分野で立ち上げると、資本が少なく、失敗率も高くなるようだ。大きな会社で働くより、小さな会社で働いた人のほうが創業しやすい。大きな会社でも、新製品の開発や外国でオフィスを立ち上げた経験などは、創業の準備になる。優先順位を正しく付けるのはより重要。年をとればコネもカネもでき、立ち上げやすくなる。
経験のしすぎもダメで、25年以内だと成功率は高い。心理的にも金銭的にも法的にも離れづらくなる。またヨメもガキもジャマだ。雇用ショックがあったり、雇い主の方針が変わったりする人は創業しがちとなろう。楽観はアイデアを生み出すもととなるものの、リスクを正しく図れなくなったりする; 需要や競争者の存在を常に意識すべき。

【誰とともに立ち上げるか】一人でやるなら関係・役割・報酬のジレンマは回避できるものの、人的・社会的・金融資本を得られない。仕事の好み・やり方などの基準がある。大きい集団はより多くの情報を得たり、間違いを訂正したり、多くの解決策を考え出したりできるため成長率も生存率も高くなる。

【関係のジレンマ】共同創業者の経験は、チームの問題解決緑野技能の多様性に影響する。
均一であるべきか異質性を持つべきか; 同一であればコミュニケーションが成り立ちやすく、またアイデンティティの構築もたやすい。一方、同じような弱点を持つ人ばかりにもなるし、ネットワークも広がらない。
家族や親友に頼むか否か; よく知ったもの同士でつるむと失敗しがち。関係性が壊れるのを恐れて大事な問題を議論しなくなる。関係を分け、うまくいかないときのことを予見してその際の策を練り、よく議論すべき。

【役割のジレンマ】分業は紛争のもととなる。より創業にコミットし、アイデアを持ち、人的・社会的・金融資本をより多く持つ人がCEOになりやすい。重要なのは、摩擦を避けようとしないこと、CEOの重要性を無視しないこと、地位のインフレを避けること、取締役会に味方を置こうとしないこと、共同事業者間の異なる動機を無視しないこと。

【報酬のジレンマ】 利益を調整するような報酬構造が必要となる。創業時に株式の分配を決める場合、やる気のある人を引き寄せることができるものの、モチベーションを下げたりフリーライドを助長する。いっぽう創業後に決める場合はその逆となる。過去の貢献(アイデア、資本)、機会費用(創業にあたりどれだけ犠牲にしたか)、未来への貢献(経験、コミット、地位)、モチベーションなどが勘案されているようだ。
動的に分配を決めるなら、このトレードオフを回避できる; その後の貢献によって権利を分配するのだ。

関係・役割・報酬は相互に関連する。たとえば家族や親友と立ち上げた場合は役割も報酬も平等になり、職業を通じての知己同士で立ち上げたなら階層的な組織構成・貢献に応じた報酬となる。議論を避けたり、変化を見落としたりしてはならない。

【雇用のジレンマ】立ち上げ後も、技能を持った人を集め、役割・報酬を決めねばならない。CEOは自らのネットワークを駆使して人材を獲得してくるが、投資家もまた雇用に口を出す; たとえば多くの場合CFOを任命する。どうなるかわからない初期段階では何でも屋を雇い、何をやるか決まった後は専門家を雇うとよい。営業マンは業績給を好み、エンジニアは固定給を好む。

【投資のジレンマ】さまざまな資本が必要となるものの、友人や家族から投資してもらうか、エンジェル投資家に頼むか、ベンチャーキャピタルに頼むか決めねばならない。友人や家族に頼むと失敗したときに全てを失う大きなリスクがある。エンジェル投資家の場合は規律は緩やかでよい。VCなら大きな額を借りられる。

【譲渡】創業者が退陣するときが重要な転換点。

出てくる創業者はみな魅力に満ちている。BloggerやTwitterで知られるエヴァン・ウィリアムズ、輝かしい野球経歴をもったカート・シリング、Zipcarを立ち上げたロビン・チェースなど、豊富な事例が楽しい。また手際よくまとめられていて読みやすい。創業に興味のある人にオススメ!

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(感想)
・色々意外だった。ビルゲイツみたいに、若いうちに創業してずっと辣腕を震い続けるのは稀な例なのね。あとこの種の本には珍しく、危機が生じた事例も扱っていたので面白かった。元カノと創業したからトラブった、みたいな。

・MBA生と遭うと、以下のような二種類の値踏みする視線が返ってくる;
a. 小難しくてビジネスには使えなさそうなネタを追ってるんだろうな、ネットワークもしょぼそうだ
b. もしかしたらネタに結びつくかもしれない、(駄目元でも)専門何やってるか聞いてみよっと
もちろん後者が好きなのでそんな人は全力で応援したいところ。

・スタンフォードGSBはホント起業が好きだナァ…w
posted by Char-Freadman at 06:04| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月19日

金融でイイ国を作ろう

Financeはラテン語の語源からして目標という意味がある。目標を達成するにあたり手助けをするのが金融であり、インセンティブを調整したり価値を発見したり、効能は大きい。2008年の金融危機以来、金融業の発展を制限しろと声高に叫ぶ輩は多い。でも、良い社会を作るために本当に必要なのは、さらなるイノベーションでより多くの人が金融に参加できるようにすることだと説くのが本書の目的だ。



一部は今日の金融資本主義を概観する。金融業を取り巻く人々の役割と責任について述べる。
CEOは意思決定者であり、会社の価値を高めるような行動をするよう動機付けがなされる。ボーナスよりもstock optionのほうが長期を見据えた経営をするようになる。問題はある; 大きすぎて潰せないから政府が救済するであろうことを見越して過大なリスクを取ったり、給料をもらうまでは都合の悪い情報を隠しておいたりする。規制をかけるべき対象は、給料の水準ではなくその構造。たとえば給与の支払いを5年くらい伸ばしたり、政府救済が起きたら給与を奪ったりすべき。
様々な組織の描写がなされる。改善するにはいかにしたらいいかが考察される。また敵意はどこから来るのかも理解される。
投資マネージャーもまたいかに資金を運用するかを決める。市場を打ち負かすことはできないものの、IQや能力の高い人は実際に高いパフォーマンスを上げる可能性がある。シャープ比もまた実情とはかけ離れた数値に操作される可能性があるため、必ずしも信用できない。
銀行は一般人の預金をプールし、企業に貸し付ける。情報を収集してモラルハザードを防ぎ、個人にとって貯蓄は優れた運用方法であるものの、口座を持たない人はまだかなりの数いる。より多くの人が利用できるようになると良い。
投資銀行は企業がシェアを発行するのを手助けする。企業がうまく軌道に乗るよう、金融面から動機付けを行う。
不動産ローン業者は、家を買いたい人の手助けをする。不動産が永遠に値上がりするとの非現実的な仮定を置いてしまったため失敗したものの、モートゲージの発券でリスクを下げるという発想自体は間違っていない。誤解されがちだがAAAの格付けになっていたサブプライム証券の0.17%しか損失を経験していないのだ。ただ貸し付ける側と借り入れる側に情報の非対称はあるのでその解消は今後の課題。
トレーダーは価格が真の価値を表すようになるまで奔走する。脳の構造に似ており、新しい情報を瞬時に価格に反映するのだ。技術の発展により、早くかつ多様な取引を行えるようになってきた。もしかしたら不動産のデリバティブが一般的に行われ、将来の家の価格が評価されるようになっていたら、バブルは起きなかったかもしれない。新しい取引が生まれるようにするため、課税で動機付けしてはどうかという提言がなされる。
保険は事故が起きた際の損失を回避する。幾世紀にもわたるその歴史は、より多くの人を参加させてリスクをシェアするよう方向付けられてきた。長期のリスクはカバーされていないものが多く、たとえば生計はそのうちの一つ。いかなるキャリアを歩むかに関して保険をかけてはどうかとしている。
マーケットデザイナー・金融工学者はよりよい暮らしに向けて取引が行われるよう理論を発展させている。たとえば臓器移植の市場が生まれ、より体に馴染む臓器が提供されるようになった。排出権取引や、政府による安価な薬の購買と分配なども提言されてきた。ゲール・シャプレーのマッチングアルゴリズムも紹介されている。
デリバティブ業者は財の将来の取引に関して市場を作る。起源は古代ギリシャまで遡ることができ、オリーブについて取引がなされていた。天然資源の利用、婚約などオプションのようなものは多い。
弁護士や金融アドバイザーは、より多くの人が正しく金融という機会に恵まれるために必要。依頼人の利益を守るように制度を構築すべき。
ロビイストは公共心を持った人がやりがち。全ての人に発言権を与えるように政治制度を改革するとよい。
規制主体は必ずしも業界団体に取り込まれるとは限らない。
会計士や教育者はよりよい情報の伝達に必要な職。
マクロ経済を自動安定化させるような政策も必要。

二部は改善する各種の提案が述べられる。人間心理の描写が多くなされるのが特徴だろう。
射幸心も保守主義もまた人間の心の一部。金融用語は人々の反発を食らわないようなものになるとよいかもしれない。効率市場仮説はしばしば議論の的になる;我々は無関係な証拠に影響され、都合のいいお話にも影響され、自信過剰だし、周りに影響を受けるもの。こういった心理状況がバブルを引き起こすのだ。とはいえ金融がない世界、たとえばソ連の計画や中共の大躍進政策もまたバブルといえる。株式市場は全体としてみては予測がつかないけど、個々の株式をみていくとそれなりにファンダメンタルを表している;これはサミュエルソンの二分法といわれる。また配当を払わない会社のほうがキャピタルゲインが大きい。
不平等度に基づく所得税が提案されている。不平等が生じる前に税制を構築するのがよい。
農地・住宅地・会社などの所有権は各種の改革により、多くの人が恩恵に与れるようになった。金融もまた多くの人に利便をもたらすようになるべき。

冗長なものの、一般読者に語りかける平易な書き方になっています。金融の嫌いな人にオススメ!

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(感想)
・嫌われがちな職を擁護するのもまた経済学者の仕事のうちなのかもね。そういえば学部を卒業するとき当時の経済学部長が「堂々と金儲けをしてください、価値があると胸を張って良いのです」という趣旨の発言をしていた記憶がある。

・保険屋にみんなムカついてるのはそのビジネスモデルを理解していないからじゃなくて、支払うべきときに支払わないで渋るからじゃないのかな。お金に愛を込めることは事前にはやってもらって結構ですが事後には保証されません^q^

・後半部だけ読めばいいような気がしなくはない。金融の話のはずなのに税制やら寄付やらに脱線しているし。。。

・まあぶっちゃけ、金融嫌いな人は、ビジネススクールの教員が書いているというだけで読まないだろうなーw

・シラー先生は不動産価格のデータを構築したありがたいお人。前著でもそのまた前著でも心理的要因を指摘している。

・経済だけじゃ説明付かない→心理的要因に飛びつくというのは何とも不満がががが。。。アニマルスピリットって要は経済学の敗北宣言だよね。

・悪徳商人から改心して慈善家になった人としてカーネギーが紹介されていた。日本だったら笹川良一かなあ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%B9%E5%B7%9D%E8%89%AF%E4%B8%80
posted by Char-Freadman at 07:46| 北京 雨| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする