2011年06月26日

忙しい人のための開発経済学 其の壱

途上国での生活は信じられないくらい苦痛に満ちている。NSFその他ファンドへの絶え間ない嘆願と現地でのインタビュー、それにPCでの千本ノックの結晶がコンパクトにまとめられています。



1章でまず、どんな方策が本当に効くのか丁寧に追うべきとの姿勢を打ち出す。
じゃんじゃん金を出せと言うサックスにも、いやガバナンスが問題なんであって援助はむしろ害であると述べるモヨやイースタリーにも与しない。貧しいものはますます貧しくなるという貧困の罠があるのか、あるとしたらどうすれば抜け出していけるのか、ランダマイゼーションによって得られたデータから明らかにしていく。

2章では食料について述べる。栄養が足りないから充分働けず、貧しいままでいる…この単純な図式は正しくない。お金があったらあったで、より質の高い食料を買うだけで、摂取するカロリーは別に上がらないとのこと。みんなが食べたくなるようなものを配れるようにしたり、育ち盛りの子がしっかり食べられるようにしないとダメ。

3章では疫学について触れている。予防接種や蚊帳の配布で病気の蔓延を防ぐのは比較的安上がりにできるはずなのに、なぜかできていない。政府が提供する医師は資格を持っていて質が高いけど、固定給だから勤務をサボりがち。民間の(ヤブ)医者は、処方は雑だけど少なくともケアはしてくれる。その結果汚染された注射から感染を招いたり、抗生物質の投与のしすぎでウィルスが進化したりといったことを招いてしまっているようだ。

4章では教育について。学校が足りないのか、需要がないのか、親が反対しているのか。先生がそもそも学校にいなかったりする。緑の革命によって教育に関するリターンが上がったら登校率は伸びた。学校に来るという条件付けで補助金を親に上げたら登校率が上がったように思えたけど、本当は条件付けが無くても登校するようになるようだ。要するにお金が足りないということみたい。スハルトや台湾でのトップダウンの教育政策はどうやら効いたようだ。

5章では人口抑制について。栄養面でマルサスの罠に嵌っているわけでは必ずしもない。またベッカーの学説とは反対に兄弟が増えると教育水準がたかまるという結果もある。大家族が貧困に繋がるわけではないのだ。ただ不適切な時期に妊娠してしまうのは避けたいから、制服を配って学校に留まれるようにして年長者との結婚に便益を感じないようにするという解決策が考えうる。子どもに面倒をみさせるよりは社会制度で解決したほうがいいようだ。

6章では保険について。相互扶助は行われている。しかし保険屋を信じることができないため、天候や健康などについて耐え難いほど大きいリスクを負ってしまっている。

7章ではマイクロクレジットについて。まとめ貸しは地域の人たちにグループを組ませるため、よく知らない人が来ることから起きる逆選択を解決できるし、村八分にされることを恐れるから戦略的不履行も回避できる。確かに生活は改善するけど、リスクを極度に嫌うことから起業家精神を発揮するには不向きとなってしまっている。また、マイクロクレジットが扱える額と、銀行が扱える額とには開きがあり、その間を埋めるような金融業の発展が望まれている。

8章では貯蓄について。リターンが高いはずなのに貯蓄しないのは、銀行に口座を開設しづらい制度的要因とともに、時間不整合も問題となる。スナックやお茶などの財は魅力的だし、何やかやでお金は必要だからあれば使ってしまう。貧困にあえぐ人ほど時間不整合の問題は重大だ。

9章では起業家精神について。驚くほど生活の糧を稼ぐ知恵に満ちている。しかし、ほとんどの場合その事業規模が小さすぎる。別事業を開始するには初期投資が足りないものの借りることはできないし、またコミットもできない。規模を拡大する移行過程に政府が介入してあげてもいいかもしれない。

10章では政策について。ランダム実験では社会制度やマクロ政策の良さを測れず、開発経済学者の役割を貶めるとの批判がある。でも、汚職に戦う方策などの小さな戦術を積み重ねることが革命を起こすことに繋がるのではないかと示唆している。「民主主義」「所有権」と大上段に構えるより、「選挙手続や資格」「司法と行政」と細かく見ていくほうが生産的な議論だとのこと。小さな変更が大きな変革をもたらすこともあるのだから、必要以上に悲観的になるべきではないのだ。

ちなみに本記事のタイトルの由来↓

http://dic.nicovideo.jp/a/%E5%BF%99%E3%81%97%E3%81%84%E4%BA%BA%E5%90%91%E3%81%91%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA

もちろん本書は真面目なものなので、「本当に忙しい人」は各章のラスト1ページ、合計10ページだけでも読んでみてください!(特に「経済成長はいらない」とかアホなこと言ってる人が読んでくれないもんかなー。)
posted by Char-Freadman at 06:00| 北京 | Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

人情の不当な利用

仮に以下のような主張をする二者がいたとして、自分なら後者をより信用する。

・「学力は遺伝では決まらない。実際私は無学だけどいつも勉強をしていた倅は4大卒。」
・「学力は遺伝では決まらない。双生児と養子とを比べた結果、ほとんど親とは無関係であることがわかった」

とあるアイデアを浸透させたいなら、そのロジック及び(精密な)統計データにのみ頼るべき。具体例は主張の裏付けとして十分とは言えない。ましてその例により当人への好感度を高め、対話者を納得させようとするのは卑劣な行為だ。

自分の子どもや配偶者や親友に言及すると、「教育をしっかりやる人間である」とか「配偶者や親友を大事にしている」といったアピールすることができるだろう。善人だと思われるかもしれない。でも主張の当否は発話者への好感とは無関係に決まっている。情を利用して説得しようとする意図があるとき、そこには政治的・宗教的・経済的野心が存在するだろう。大統領のスピーチではなく社会科学者として発言するなら、論理性重視の伝達方式が誠実かつ最適だ。

指摘があって気付いたのだけど、クルーグマンの文章はまさに上記を実践しているように思える。非常に好戦的な書き方で、論者への共感をわざわざ減らしている。だからこそ間違えると最高に格好悪いというコミットメント&相手の反論を促すという働きがある。理解に相当の自信がないとできない芸当ですね。
posted by Char-Freadman at 04:19| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月22日

セキュリティ

車の窃盗犯に対して警告音・光を発し、機種によっては場所まで通知してくれる優れもの。それがカーセキュリティだ。「狙ったクルマに付いているかどうかわからないから、ターゲットを変えようとするより窃盗自体を控える」ことがへそ曲がりの計量経済学者レヴィットから示された。社会的にも有益な製品である。2〜3万円で買えるし、なんともリーズナブル。

これが必要なのって、クルマに限らないと思う。

・いつも通勤時に使う
・高額
・耐久財

これらの条件が満たされている製品、たとえばPCには充分需要はあるんじゃないかな。

ただ、効果として物足りないよね!窃盗は私有財産制を脅かす非常に重大な犯罪だから、たとえば生まれてきたことを後悔するくらいの痛みが走る電撃を与えたり、急に拘束縄が飛び出て犯人を亀甲縛りにしたり監視カメラ兼電話として警察に即時通報したりといった過激なサービスが欲しいところ。
posted by Char-Freadman at 10:11| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月16日

未来の本屋

本屋が好きだ。タダで読める図書館も、安価で買える古本屋も、ワンクリックで手間がかからないネットも悪くはない。それでもやっぱり新刊を扱う本屋を利用することが一番多い。というのも、知らなかった世界に導いてくれるからだ。本に関しての好みは流動的で可変、自分でもわからないもの。

3D映像の技術が進んでいるみたいだから、ネット上の本屋はリアルのそれの役割をかなり代替することが可能になるかもしれない。

【表紙買いで参考にするもの】
・置き場所
リアルの本屋はスペースの制約から、ほぼ例外なく店頭に流行のものを置いている。定番の本は棚の下に置いてあることが多い。
いまでもAmazonは勝手に本を薦めてくるけど、3Dになれば「入店して店頭や棚のものを眺める」という体験がより鮮明になるだろう。
何が流行っているのか、みんな何を知りたいのか、そして本屋は何を売りたいのかという情報を逃してはもったいない!あえて場所の制約を置くことで、情報に価値があることを伝えられるのだ。ほとんど無限にある空間を区切って、有名な作家や評論家・学者のセレクションの「棚」を作ることも可能。要するにAmazonのリストマニアです。

・ポップや帯
センスのある店員が置くポップや出版社の付ける帯に魅かれることもあろう。邪魔だと思う人はオフに出来るようにしてあるとなお◎
Amazonだとわざわざレビュー欄を眺める手間が面倒なんだよね。3Dなら一瞬で目に入ってくる。

・カバー
表紙をめくると違う絵が出てきたり、パラパラめくることに意味があるように工夫していたりという本もたまにある。3Dだったらその体験が出来るはず。
Amazonを眺めるPCの画面はどうもショボくて、表紙に魅かれて買ったことはいまだない。3Dだったらどうなるだろう。

【それ以外】
・流行曲を知ること
流れてくる曲名を判断するにはスマートフォンのアプリの登場を待たねばならなかった……デジタルデータ上だったら楽にそれができる!音が出るサイトを毛嫌いする向きもあろうけど、オフにできるなら問題ない。

押し付けにならない程度に、顧客の選好を広げてくれるような本屋があらわれるといいなー。

ところで、印刷物としての書籍はなくなるのだろうか?
データを保存すること、それを再生すること、およびそれを人間の目に映るように表示することといった機能が一体となっている。言ってることがわかりにくい場合は、VHSはDVDプレーヤーで再生できないことを思ってみてほしい。
紙が進化して耐久性を増せば、デジタルデータと対抗することもできなくはないかも。
posted by Char-Freadman at 11:25| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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