2012年06月11日

繁栄へのキーは信頼

吸血経済学者、オキシトシンの威力を語る。

"The Moral Molecule: The Source of Love and Prosperity", by Paul Zak



1章はトラストゲームについて。妊娠に関わる女性ホルモンのオキシトシンは、トラストゲームにおいてどれだけ相手を信頼して振る舞うかどうかにも関連する。国富論で自己利益の追求が社会に善をもたらすかもしれないと説いたアダム・スミスは、道徳感情論では共感のもつ重要性を理解していた。一方経済学は彼の後自己利益の追求というモデルを追うことになった。
2章は信頼の進化について。オキシトシンの供給はセロトニンとドーパミンの供給を引き起こす。セロトニンは不安を打ち消し、ドーパミンは目標達成する気分にさせる。オキシトシンを与えられた被験者はトラストゲームでも最後通牒ゲームでも相手を信じてより多くを分配するようになる。
3章は共感について。人間は他者を救う行動を取るが、生理的に何が生じているのか確認するのがこの章の目的。共感は四つの要因からなる; その感情をみなが共有していること、他者の認識、他者へ自己を投影すること、そして適切な行為をするよう自己を律することだ。オキシトシン→共感能力→道徳→信頼→オキシトシンという好循環がみられるようになる。猿にとって性交やハグが共感を楽しむ行為であるのと同様、ヒトは会話(ゴシップ)を楽しむもの。
4章は放蕩児について。信頼と懐疑はともに生存には重要。女は育児の必要から共感・信頼・寛容の能力を、男は狩猟や戦争の必要から懐疑・懲罰・向こう見ず・衝動的になることの能力を高めるようになった; テストステロンはオキシトシンを妨害する。懲罰は社会の連帯を強めるものの、各個人がそれを行うにはコストがともなう。より寛容でないほうが罰するにはよいのだ。
5章は社会から孤立してしまっている人たちについて。オキシトシンの受容体は幼いうちに発達するので、虐待を受けると成人後も共感する能力が低くなってしまう。道徳的に振る舞うとはどんなことかは学習できるけど、実際には共感は覚えていないという道徳的ゾンビになってしまうかもしれない。ストレスは外敵から逃げるにあたりヒトの祖先にとっては大事な能力だったが、心臓への負担を高めることになる。死にやすいのは、マネーゲームに興じ権力闘争に活発に励む人ではなく、責任はあるものの権限の弱い職に就く人なのだ。自閉症の人もオキシトシンの吸引により少しは社交的になる; とはいえ、受容体自体を強化したほうがよい。精神病の人は共感能力には疎く、人をモノのように扱ってしまう。
6章は性と宗教との関わりについて。人間は音楽やクスリ、瞑想などで恍惚状態に入る。この際オキシトシンが放たれており、人間は外の世界へと向かっているのだ。宗教もまたその能力が作り出したものであり、教義や儀式で信者間の共感を高めるいっぽう異教徒への敵愾心も煽ったり、あるいは何か崇高なものがいつも見ているから不道徳なことは出来ないと思わせることで、連帯を強化している。人間の本性は善悪にあるのではなく、適応性にあるのだ; 環境によって敵対するか友好的になるか決めている。
7章は市場と道徳とについて。市場を倫理的に非難する声は史上絶えないけど、自給自足の生活を営む民族のほうが寛容さは低く、むしろ市場に参加することでより道徳的になるのだ。つながりを持つこと、人を信じること、短期的な得よりサービスと質を重視すること、誰もが得をすることなどが市場を道徳的にする条件。
8章は社会での信頼を高めるにはどうしたらいいかを考察する。ボゴタの市長は犯罪解消のために市民間の信頼の醸成を狙った。新しいメディアを活用して新しい知見に繋がろうとすること・多様性を楽しむこと・手続き的公平・教育が繁栄へのキー。

生体反応と心理の関係に興味のある方はどうぞ!

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(感想)
・血液を採取して遠心分離でホルモンの量を計るというその研究スタイルから"Vampire Economist"と呼ばれているようだ。結婚式・ダンスクラブ・軍隊・エヴァンジェリスト・パプアニューギニアの住民など、共感のチャンスさえあればどこへでも駆けつけていた。フットワーク軽いなぁ。というか明らかにその場で異物なのに居心地の悪さ覚えないのかなぁ…w

・どうやら心配すべきなのは外銀やらコンサルやら弁護士事務所やらで激務に励む友人ではなく、的外れな非難を食らう官庁や無茶なノルマを課される金融で働く友人たちのようだ、、、

・オキシトシンを嗅がせると寛容になるということは、「今日決める!」とか思ってる人はオキシトシンを相手に吸入させて拝み倒したらいいのかもしれない^^
…吸入器を手に入れたり薬事法を回避するのはとても大変だけどな!

・性と宗教といったら、日本なら真言立川流!滅びし邪教。想像をかき立てられますよね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%8B%E5%B7%9D%E6%B5%81_%28%E5%AF%86%E6%95%99%29
誰か立ち上げてくれたら入団しますよ〜^p^
(性を否定せず大きく人間肯定していて、わりと真面目にいいこと言ってるとは思う)

・「自閉症も改善できるかもしれない」
これちょっと気になる発想。人と交わるのって楽しいことなので、その能力が奪われている状態とみなせば改善すべきかもしれない。でも自閉症もまた個性の一つではあるよね、、、

・ときおり著者の研究歴や黒歴史等を混ぜてくるので、読んでて楽しい軽い文体になっています。そのへんは↑で省いちゃったけど。
posted by Char-Freadman at 17:07| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月06日

資本主義化した中国

毛沢東死後の中国経済の歩みをまとめた本がこちら。

"How China Became Capitalist", by Ronald Coase & Ning Wang



なんと著者の一人はロナルド・コース、102歳!
1章は毛沢東の政策について。農業の発展を目指した大躍進はむしろ大飢饉を引き起こし、文化大革命では知識人階層や官僚が犠牲となった。毛沢東のもとでは地方分権が進められた。
2章は毛の死後について。華国峰は四人組を逮捕し、イデオロギーから離れた政策を採るようになった。「大後退」と揶揄されたものの、一定の成果が上がった。外交も開始し、ケ小平は各国を視察した。
3章は市場改革について。農地は次第に私有化され、農業が発展した。国有企業が相変わらず非効率な一方で、郷鎮企業も勃興した。労働力は都市に戻った。複数の都市が経済特区として指定され、市場競争が行われるようになり、また外国投資も行われるようになった。国有企業は一定程度のノルマを納めたら市場を利用していいという二重の路線(dual track)のもとで市場に馴れていくことになった。ケ小平は「語るな。やれ。試せ。」という実践的な思考の持ち主であり、毛とは正反対であった。
4章は社会主義化の市場改革について。陳雲は鳥籠理論を提唱した; 経済は鳥であり、政府は鳥籠としてその大きさを変えるとした。国有企業は主要な地位を占め、私企業により補完されるものとみていた。各種銀行が建ち、地方政府は資本の獲得のために競争するようになった。また法の改革も進んだ。
5章は社会主義からの離脱について。学生運動にも温情的であった胡耀邦と趙紫陽が追放された80年代末期は危機であった。ケ小平は南巡講話して改革の遂行を促し、保守派に圧力をかけた。市場以外にも人々の行動を調整する「組織」というメカニズムがあり、それは中国にあっては地方政府だった。各地方で重複するような投資は行われたものの、市場において様々な挑戦がなされるのは普通のことであり、問題視するには当たらないとされた。各地方の競争により海外資本が誘致されるようになった。
6章は資本主義化について。国有企業の再建は進んだものの、コモディティ部門その他ではまだまだ残っている。また大学の自治はなく、アイデアは政府に独占されており、まともな科学者を輩出することがない。これらは大きな弱点となっている。

近年の中国に興味のある人はどうぞ!

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(感想)
・はじめタイトルをみたとき「えー中国が資本主義とか。コースもぼけちゃったか;;」とか思ったけど、人民公社とか毛沢東思想とかが流行ってた頃と比較すれば断然資本主義化してますね。

・華国峰、ケ小平(胡耀邦&趙紫陽)、江沢民と危機がありながらも市場改革が続いて発展したという点は特に面白みはない。でもコースらしく、『市場以外にも人々の行動を調整する「組織」というメカニズムがあり、それは中国にあっては地方政府だった』という点は興味を惹かれた。あと近年の中国の弱点も面白い点かな。

・でも政治家のインセンティブにあんまり注意を払ってない感じなのは残念。
(i)そりゃアイデアが百花繚乱なら経済伸びるだろうけどさー、既存の政治体制を脅かすんだったら妨害されるぜ。政治家の妥協を引きだすような変化を望まないと。
(ii)政治家が経済の発展を望んでいることが前提にされているけど、違うんじゃないかなー。あくまで政権を維持することが政治家の目的。政敵を糾弾するための理由としてイデオロギーが使われているだけ。文革で走資派とされたのは毛の批判者だけど、共産主義者は多いし。毛沢東にとって国民生活とかはどうでもよくて、権力にしがみつくことのみには長けていたとみたほうがしっくりくる。ケ小平も学生運動自体には反対だったわけで、実際何人か六四天安門事件で死んでるしね。語録で何を言っていようと単なるリップサービスで、真に受けるのはバカというもの。彼らが実際に何をやったか見ないと。
(iii)なので「次第に国民生活が豊かになったのはなぜか」を考察するには、「なぜ政治家は国民に力を与えることに妥協するようになったのか」という視点で語って欲しいナァ。

・二重の路線ってよく称賛されるけど、もっと過激に市場開放できてたらどうなってたんでしょうね。とにかく政治家の手から力を奪うのが先決みたいなアドバイスもあるよね。
http://www.voxeu.org/index.php?q=node/7593

・もはや共産主義ではないそうだけど、55年体制下の日本のように発展できるかな〜。民主化しないと成長はどこかで止まるとみるむきもあるけど、どうでしょう。
http://www.huffingtonpost.com/daron-acemoglu/china-superpower_b_1369424.html
posted by Char-Freadman at 08:52| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年06月04日

不平等な民主主義(修正)

アメリカでは多元的な民主主義が失われてきている。本書によれば、低所得者の選好は全く考慮されていないのだ。

"Unequal Democracy: The Politial Economy of the New Gilded Age", by Larry Bartels



1章は不平等に関する基本的なデータを示す。80年代以降不平等は拡大した。技能偏重型成長が指摘されるものの、コンピュータ科学者の賃金はさほど伸びておらず、政治要因も寄与しているだろうとみている。平均的には、民主党政権では共和党政権に比べて、中位所得者の収入は2倍伸びており、また低所得者の収入は6倍伸びている。
2章は二次大戦後の各大統領を比較している。低所得者の伸びや所得の不平等は、共和党政権において一貫して悪化していた。インフレの度合いは両政権で同じ程度なものの、共和党政権での失業率は高くGNPの伸びも低い。民主党政権は2年目に予算を拡大し、その後縮小する。共和党政権はその逆が見られる。(政治循環)この章以降、なぜ多くの人のためにならないにもかかわらず共和党が勝つのかについての分析がなされていく。
3章は階級ごとの政治行動について。南部は民主党の基盤だったが、次第に共和党化していった。所得分布の層ごとに階級をわけた後、言われているようには保守化していないし、文化や価値観や宗教といった点より経済的観点が重視されていることがわかる。
4章は投票者の心理について。民衆は視野狭窄であり、選挙直前の年の経済状況しか考慮しない。共和党はイデオロギーのとおりに2年目に予算を縮小させ、選挙になると拡大するため、生活が良くなったと錯覚するのだろう。またどの所得層も「高所得層が得をしているかどうか」を考慮していることがわかる。また高所得層ほど選挙で寄付をしている。
5章は不平等について。概ね機会の平等が与えられるべきという立場にはみな納得する。富者より貧者のほうが共感をもってみられる。不平等の度合いは、実際にはそれが低くなりつつあった時期は高かったと誤解され、市民はあまり精確に平等度を測れていないことがわかる。政治への理解が高まるほど、不平等に関する認識が分極化し、事実の理解にすら影響を与える。
6章はブッシュ減税について。強きを助け弱きを挫く減税だったが、概ね支持されていた。政治的価値観や自分の経済的負担に関して減税がどう影響するかあまりよく考えない人が多かったようだ。
7章は相続税について。影響を受ける人はあまり居ないにも関わらず、相続税の廃止は常に大衆の好むところだった。民主党の頑張りにより維持されてきたとみなせる。
8章は最低賃金について。インフレ調整後の賃金は、ここ40年で40%も減額してしまった。賃上げをしても概ね悪影響は少ないだろうという推定や、大衆からの好意的な反応にもかかわらず賃上げはなされてこなかった。これは共和党政権が反対したため。
9章は政治家の行動について。民主党も共和党も同じように低所得層にはあまり関心を払わない。民主党は中所得層に、共和党は高所得層により注意を払う。高い所得の層は直接・間接に政治家へ影響を与えることができる。政治家は大衆の望むものより自分のイデオロギーに忠実に政策を選ぶ。
10章はまとめ。政党間競争があっても必ずしも貧者のためにはならない。ハリケーンカトリーナは貧者が見捨てられてしまう例であるが、政治に出来ることは多く、改善していくべき。

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(感想)
・はっきりと共和党批判にまで踏み込んでいた。狂愚漫や捨愚律の批判も的外れではない…のか…。

・共和党の政策は低所得・中位所得の人には損、この事実の指摘だけでなく、「それでもなお政権を取れるのはなぜか」も考察しているのが面白かった。不平等の文脈でよく引用されるのもわかるというもの。まあでもデータが少なくいくつかの統計分析がビミョウなのはご愛嬌、、、^^;

・本書が執筆されたのは2007年なので、スーパーPACに関する記述は見られない。ますます高い所得の人に有利な政策が取られそうね。
(cf; http://whynationsfail.com/blog/2012/3/20/whos-afraid-of-super-pacs.html )

・経済学者は不平等を経済活動の影響から説明しようとするけど、政治学者は政治から説明しようとするな〜w経済要因だけからじゃ説明付かないよね→多分政治のせいじゃね?と。

・はて、市民が視野狭窄なのなら、それを前提にした行動を民主党がとらなかったのは何故かという疑問が湧いてくるなあ。
posted by Char-Freadman at 08:24| 北京 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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