2013年02月04日

オーストラリアの繁栄

好きな経済史シリーズ(ココ:http://press.princeton.edu/catalogs/series/pehww.html)、オーストラリアの経済発展について調べた本が出版されていた。

"Why Australia Prospered: : The Shifting Sources of Economic Growth",by Ian Mclean



19世紀後半にイギリスを抜いてから第一次世界大戦後にアメリカに追い抜かれるまで世界一発展していたこと、そして150年もの長期間先進国の仲間で居続けていること、それらがこの地域の特性となっている。成長に適した地形とは言いにくいし、また「資源の呪い」ーー資源は為替相場や政治を悪化させて発展の妨げになるという理屈ーーからも例外となっている。歴史を比較し、その理由を考察するのが主な目的だ。

オーストラリアの盛衰は概ね世界経済の盛衰と軌を一にしてきた。例外は深刻な打撃をもたらした1890年から1904年までの期間くらいである。

アボリジニは狩猟採集民であり、イギリス人の入植時には広大な大陸の人口密度は非常に低かった。搾取の対象になるような蓄積された資本はなく、複製可能な資源はなかった。南米やインドで宗主国が現地の余剰を奪ったのとは対照的に、最初から自給をする必要にかられた。焼き畑農業が牧草地を提供したこととや、労働集約的な業務に適していたこと、またオーストラリアという地に詳しかったことが、その後の発展に寄与した。またニュージーランドのマオリは定住農耕民族であり対決姿勢をとったこととも対照的に、アボリジニは入植地の労働市場に参入した。
イギリスの流刑地として二つの経済をもっていた; 受刑者の強制労働と、それ以外の自由な経済活動だ。数々のインフラ建設に適した人材(=若い男)が選ばれた。文学の上では過酷な労働環境が多く描写されるもののそれは例外的。法的権利が全くない奴隷とは異なり、雇用者からの劣悪な扱いに抵抗する権利はあった。
入植後は英国政府の補助金によって発展を続けたが、羊毛業の進展に従い自力で成長するようになった。距離の近い地域で貿易がなされるという「重力モデル」の例外となっている。

羊毛業は、労働力と資本が少なく土地は豊富にあるというオーストラリアの条件に即して進展した。船に積み込みやすく、また羊は肉にもなった。遠隔地間の商売を仲介するため金融の発展も促した。
政治権力はオーストラリア総督から植民地へと移った。政治闘争には3つの主体がいた;イギリス政府とその代理人、不法または合法にオーストラリアに住み着いた大土地所有者たち、そして賃金労働者たちだ。大土地所有者は土地の自由な利用を合法化するのを求めた。賃金労働者たちは大土地所有者の土地の独占及び受刑者の受け入れに反対し続けた。

ゴールドラッシュには長期的な影響があった;移民、特に若者が非常に増えたのだ。これはたとえばメルボルンの急速な都市化を促し、また地方の産業も発展させた。セレクション(selection)と呼ばれる小区画農地を払い下げられた小農が増え、大牧場主(squatter)との対立が激化した。地方では羊毛が栄え、貿易により利益を得た。

1890年にはバブルがはじけ、長く続く深刻な打撃となった。海外投資が減り、消費は冷え込んだ。長期的な旱魃も打撃となった。債務の繰り延べができたし通貨の切り下げができたアルゼンチンとは異なり、オーストラリアでは1901年まで国家が存在しなかった。このように、対処に失敗したことも要因の一つ。大土地所有の農業が発展した南米とは異なり、オーストラリアの牧羊業では次第に人力の必要性が減っていった。

第二次大戦に至るまで、長期の不況に見舞われた。これはオーストラリアでグローバル化が進んでいた結果であり、戦争により貿易がなされなくなったため。また戦費調達の際に借り入れた分の返済にも苦しんでもいた。

太平洋戦争以降は1970年代に至るまで黄金期を迎えた。戦争により抑えられていた投資や消費が活性化し、朝鮮特需によりウールの価格が伸び、また東アジア各地(特に日本)が成長して需要が伸びていったのだ。東アジアは原料は少ないものの労働力は豊富であり、オーストラリアとは補完的な関係になっている。

70年代以降は他の先進国と同じく賃金上昇やインフレに苦しんだ。とはいえ更なる経済の自由化を目指して政策の転換がなされ、90年代以降の成長の土壌は育まれた。オーストラリアの歴史は、その時々の環境の変化に対し政策を適合させることの重要性を私たちに教えてくれる。

経済史や経済成長論に興味のある方は是非!

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(やっつけ整理)
・何で経済学者が歴史とか政治制度とか気にするの?
→単純なソローモデルを考えると経済成長率は収斂するはずで、発展途上国は先進国に追いついても良さそうなもの。ところがなかなかそうはならず、んじゃ何ででしょうという。本書の二章にも成長論の簡単なおさらいが載ってる。
乳児死亡率の高い地域では搾取するような制度ができて、それが低い地域では全員参加の政治制度ができ、その制度の差が経済発展の差になるみたいなお話(A,J&R AER2001)からの流れになってる。

概ね以下の3つの派閥がある;

1. 地理要因が成長に「直接」効くよ仮説
マラリアや海岸への距離が経済発展には効くかも。(Sachs JD, Malaney P. 2002. The economic and social burden of malaria. Nature. 415:680–85)

2. 政治制度が重要だよ仮説;地理要因は「制度を通じてのみ」発展に効いてくるよ
2-1. 参政権重視派
奴隷を使えない地域だと、各人に権利を持たせて発展するほかない。みんなが参加できる政治制度のときだけ、持続的な発展および成長に適した技術の導入が図られる。
http://whynationsfail.com/

2-2. 司法制度重視派
英米法の地域は市場参加者への保護が手厚く、より成長している。(La Porta R, Lopez-de-Silanes F, Shleifer A, Vishny R. 1997. Legal determinants of external finance. J. Financ. 52:1131–50)

3. 人が重要だよ仮説
「ヨーロッパからの植民が成長に効いているらしい(A,J&R 2001)」といっても、「ヨーロッパ人は既に技術やら教育やらの水準が高かった」からという可能性は排除できない。(Glaeser EL, La Porta R, Lopez-De-Silanes F, Shleifer A. 2004.Do institutions cause growth? J. Econ. Growth 9:271–303)
世代によって受け継がれていくナニカ(文化)が発展には効いているかもしれない。遺伝的に離れている集団には何らかの障壁があり、発展を阻害している。(Spolaore, Enrico and Romain Wacziarg. 2009. "The Di.usion of Development." Quarterly Journal of Economics 124 (2): 469-529.)
遺伝的多様性自体にトレードオフがあるかも。多様すぎると紛争の種、一様だとアイデアがない(Asraf, Galor AER 2013, The “Out of Africa” Hypothesis, Human Genetic Diversity, and Comparative Economic Development)
↑人類学者から批判が殺到しているようですが、、、;http://www.jstor.org/stable/10.1086/669034

あたかも実験しているかのような、うまい比較方法を考えたもん勝ちの世界ですね!

(感想)
*イギリス:初の経済発展
*日本:欧米以外で初の経済発展
*アフリカ:失敗国家
*南米:かつての先進国、でも落ちぶれた
*オーストラリア:「ずっと」先進国←New!
どこの地域も例外的に思えてきた!^O^

・本書は地理学派かな?時代によっては地理が直接成長に効くよという。特定地域を取り上げると、それなりに説明力があるように見えるのう・・・。

・不法占拠者に権利を認めれば発展が促されるというロジックにはよく出会うので、今回はそれが逆なので新鮮。なるほど牧草地の所有者は大土地利用になって不平等化が促進されてしまうからか。北米の不法占拠者とは状況が違ったようだ。

・白豪主義には潔いほど触れていない。発展には関係ないってことかな?
posted by Char-Freadman at 07:59| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月03日

組織

現代人の多くは、愛しい家族と過ごすより仕事に費やす時間のほうが長い。それならより快適に働けるようにしたいもの。本書は、組織がどうしたら上手く動いてくれるか考察していく。

"The Org", by Raymond Fisman and Tim Sullivan



組織はそもそもどうして存在するのだろう?一人で原料調達から販売まで全ての行程をこなす売れっ子眼鏡アーティストを見ていると、組織をたてて事業を拡大すれば良いのにと思うかもしれない。市場を利用するにもコストがかかる。様々な業務のコーディネートを市場により行うか組織で行うか、適切なほうが選ばれると看破したのはロナルド・コースだった。パロアルトが今日知識の集積場となるのに貢献したヒューレット・パッカードでの働き方は、かつてHP wayとしてもてはやされたもの;従業員の自立性を重んじていた。とはいえ大企業になるにつれ、官僚的になっていってしまった。創造性を保ちたいために職人になることもありえる。

人は評価される軸では頑張るけれど、そうでなければだらけてしまうもの。賃金を業績に連動させるべきと言うは易し、けれどたとえば警察業務は広範に及ぶ。交通規制や薬物取り締まりや殺人事件など、どれも重要なのだ。課をわけて分業すれば良いと思うかもしれないけれど、それぞれの業務には関連性がある。

組織内で正しく動機付けするのは重要。衆生の救済を目指す教会ですら、牧師間で昇進競争させたり、金銭的に釣ったりする。米国の主な宗派であるメソジスト派では、新しく信徒を獲得したら月給が伸びたり、または同僚の牧師から信徒を奪ったりすると得になるように制度設計されているのだ(!)いわんや魂の救済ではなく利益第一な企業で正しく動機付けるのはなお大変。P&Gは成長を続ける成功企業ではあるけど、各人の利益衝突を減らすため事業形態は試行錯誤が続いている。

生死がかかる軍隊において、情報の素早い伝達はことに重要。上意下達は軍隊にあっては生存率を上げ、企業にあってはコスト減をなす。とはいえ創造性を潰すことにはなるので、バランスが重要。ときにはスカンクワークスのように特殊な部門を作るのもありかもしれない。

経営は本当に役に立っているのだろうか?この問いに真摯に向き合った研究がある(http://www.stanford.edu/~nbloom/DMM.pdf)。コンサル会社のアクセンチュアにインドの織物業者をランダムに選び経営指南させるという内容であり、その結果生産性が伸びたというものだ。

CEOの仕事は戦略策定に重要な情報を下部組織から抽出することであり、業務時間の大半は会議に出ることによって費やされている。情報技術は確かに伸びたものの、必要な情報を拾い上げ、また誤解なく意図が伝わるようにすることは、会議にしかできないことなのだ。CEO西化できないこと、それは全体像をつかむこと。彼らは同業他者より抜群に優れているわけではないものの、その両肩にかかっている利益は莫大なものなので、年俸はとても高くなる。CEOを株主のためにしっかり働かせるのは大変であり、よりよい経営者にバトンタッチしやすくさせるというメリットをもつゴールデンパラシュートもしばしば批判の的となっている。

右側通行から左側通行にいきなり変えるのは難しい。文化は経路依存性をもち、人々がどう予想するかの焦点となる。組織を変えるためにわざと危機を迎えることもある。

BPはコスト削減に重きを置くあまり、安全性を無視してしまった。その結果メキシコ湾原油流出事故に至った。FBIはそもそも組織犯罪に対抗するものであったが、9.11以降はテロリスト対策も行うようになっている。両方の目的を追うのは大変であり、トレードオフには気を配らねばならない。

組織を考察したい方はどうぞ!

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(感想)
・軍隊ネタ多いけど、ミリタリーオタクなのかなぁ・・・w
・著者のR.Fismanはネタ志向の経済学者として有名で、たとえば犯罪捜査に計量経済を利用できるんじゃないかって提唱している;武器売買が禁止されているはずのエリアで紛争が起きたとき、前もって軍事会社の株が伸びてたらおかしくねえ?とか。



あとは文化が腐敗に影響するかどうか検討する際、外交官特権を利用している;腐敗している国から来ている外交官ほど特権を行使して駐車し放題だったり。とにかく比較方法を考えだすのが上手く、頭の中がどうなってるのか気になる御仁。それだけに本書でも実験っぽいネタが面白かったかな。5章とか。

・組織の経済学、ハンドブックが出ていたようだ。



流行ってるのか、はたまたハンドブックが出るほど整理されてきていて参入するのは無謀なのか。さて。
posted by Char-Freadman at 01:40| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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