2013年04月29日

途上国に学ぶ経済政策

ヨーロッパはこのところずっと金融危機に悩まされ続けている。ギリシャに続きスペイン・イタリアも危ない。これらの先進国が学ぶべき教訓は、実は途上国の中にあったと説く本がある。

Turnaround: Third World Lessons for First World Growth, by Peter Blair Henry



ある政策が効くか否かの評価は確かに難しい。とはいえ、投資家はたいてい合理的な判断を下すから、当該国の株式市場が政策変化に対しいかに反応したかを見ていこうというのが本書を特徴付ける主な手法だ。
たとえばカリブ諸国が財政破綻にあたり固定為替の維持とともに賃下げを選んだときも、ブラジルがインフレ対策で物価連動型の賃金体制を捨てたときも、中位所得国が従属理論を捨て輸出志向型工業化を目指したときも、株式市場は短期のコストより長期の便益を予期して株価は上昇した。そこでキーとなったのは「政策が規律付けられていた」ことで、各国が直面する状況は違えど規律は先進国にとっても重要であるとみている。
資本の自由化はしばしば非難の的になるけど、よくみてみれば、株式市場の開放は外資の導入に繋がり好影響をもたらす。債務超過になってしまうのは、必要な資本を外債でまかなうようにしたときなのだ。
ある国が債務超過に陥った場合、救うべきかそれとも見捨てるべきかは、それぞれ理論的には正当化しうる;貸し手が協調して債務を減免してあげればその後ちゃんと成長するかもしれないし、はたまたその後のモラルハザードを助長するかもしれない。さて事例をみてみると、中位所得国に関しては救ってあげた方が良さそうだ。とはいえより発展の度合いの低い国ではそうではない。債務減免以外の手法、たとえばバナジーやデュフロが主張するようなthinking smallが必要になるだろう。

もちろん先進国たる日本でも規律は重要でしょうね!

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(感想)
・途中までみんな知ってることばっかで投げようかと思ったけど、後半はよくできていた。特に株式の自由化はよくって負債はダメってところは意外で新鮮。
・負債のGDP比が9割を超えると低成長に繋がるという論文に瑕疵が見つかったという最近の事件を思い出した;
http://www.bloomberg.com/news/2013-04-28/refereeing-the-reinhart-rogoff-debate.html
posted by Char-Freadman at 21:33| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月28日

単純化

あれはクルーグマンだったか、政府の仕事してるとバカになるみたいな嫌味をどこかで読んだ記憶がある。Cass Sunsteinは何冊も学術書を著している法学者だけどそのジンクスからは逃れられなかったようで…



"Simpler", by Cass R. Sunstein

著者はオバマ政権でOIRA(規制をシンプルにする部局)の任に当たっていたそうで、行動経済学の知見をいかに活かせたかその経験を語る・・・とのことなのだけど前作Nudgeから目新しいポイントはまるで増えていなかった。費用便益分析を利用して有効な政策であるかチェックすべきとか、もっとデザインを工夫して健康促進させようとかはそのとおりなのだけど、でもそれならどうやればその国民の福利をのばすような研究会を超党派で保っていけるのかとの考察は無く。任用にあたり共和党から痛烈な反対に遭ったとかいう話を載せるだけでなく、どうすれば適任な人を摩擦無く選べるような制度を作れるか考察してほしいところだ。また、健康や年金制度のデフォルトをいじるというリバータリアン・パターナリズムが合憲たりえるのかの解説も薄い。

前作のNudgeを読んでないならまあ面白いのかもです……。

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・オバマの二期目が始まる年に出版されてるのをみると政治的意図があるのかと勘ぐってしまうな〜w
・とはいえ今年からアカデミックに復帰しているようなので今後の活躍には期待しておきます。
・「人間にはこんなバイアスがあるよ」だけで終わってる行動経済学系のお話はもう飽き飽き。各種のバイアスをもとに、それがどんな意外な結果をもたらすかとか語ってほしいところ。。。
posted by Char-Freadman at 19:03| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

うつるんです

ネットを漂流すると、色んな炎上が散見される。ではどんなコンテンツが広がりがちでどんなコンテンツなら広がらないのだろう?それを調べている本があった。



Contagious: Why Things Catch On, by Jonah Berger

もちろん売り出しに成功しているものだけをみてもしかたない。失敗しているものを含めて比較しないと意味が無いのだ。事例と統計によって筆者は以下の6つの要因(STEPPS)があると説いていく;

1. イケてること(Social Currency)
その内容を話していると格好良く見えるような内容を語りたがるもの。良い印象をもたれたいのが人間というものだ。希少であったり排他的であったりすると、自分がその製品の仲間であると思うようになる。秘密にしてねと言われた「からこそ」ついしゃべってしまった経験は誰にでもあるだろう。そんな気持ちを利用して口コミで広まる秘密のバーがある。

2. 思い出しやすいこと(Triggers)
どれくらいの頻度でその製品のことを思い出すかも重要。「金曜日」、という曲は実際金曜日にyoutubeでの再生が伸びるし、コーヒーに関連づけることでキットカットは売り上げを伸ばした。何か話さないとな、と思ったときに頭の中にある内容を話すものなのだ。

3. 感情を呼び覚ますこと(Emotion)
科学的内容は理解できたとき畏怖を抱くもので、広まりやすい。どんな感情でも広まりやすいかというとそうではなく、特に怒りや笑いなど興奮状態になるような感情が鍵だ。悲しみをよぶようなものはダメで、とにかく興奮状態であればいいーー運動後であったり。

4. 目立つこと(Public)
実際に見えるようになっていることが肝要。他の人が並んでいる店なら美味しいのだろうと推測したり、他の人が投票している候補なら優れているだろうと思ったりしがち。ヒゲをのばすという前立腺ガンの寄付を募るキャンペーンは、「見える」からこそ成功したのだ。

5. 役に立つこと(Practical Value)
他人を助けたくなるのが人情というもの。他の人に役立ちそうな情報ほどシェアされやすい。どんなものに価値を見いだすかはプロスペクト理論で調べられている;割引を喧伝したいなら、$100を超えるような商品であればその絶対的な値引き価格を、$100を超えないような商品ならその相対的な値引率を伝えると、より価値のある情報であると思われるだろう。

6. お話になっていること(Stories)
お話は簡潔で教訓やたくさんのメッセージを含んでいる。とはいえそのメッセージを、売り込みたい製品に関連づけなくてはならない。無関係な情報は、伝達されるにつれ失われていってしまうのだ。

簡潔だしユーモアのある文体で実に読みやすい。各種紹介されているyoutube動画を確認するためネットサーフィンしながら読むのが推奨されます。

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・著者は経営系のトップジャーナルに載せまくっている気鋭の学者のようだ。
・本書自体STEPPSを意識して書かれてるのかな。実体験を盛り込んだり(Stories)、どんな製品でもこの要因を付ければ広がるよと言ったり(Practical Value)、そう思える箇所が節々に。



・【ネタバレ注意】
紹介されているyoutube動画、どれもおもろい。
http://www.youtube.com/watch?v=lAl28d6tbko
http://www.youtube.com/watch?v=nnsSUqgkDwU
http://www.youtube.com/watch?v=iYhCn0jf46U
http://www.youtube.com/watch?v=RxPZh4AnWyk
http://www.youtube.com/watch?v=YnBF6bv4Oe4
posted by Char-Freadman at 16:51| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月01日

幼児に投資しよう

アメリカの不平等度は近年いよいよ増している。大検獲得者ーー労働市場では高校中退と同程度のスキルしか発揮しないーーを除くと、高校を卒業できる男性の割合は減っているし、大卒者も減っている。 教育のある女性は初婚年齢が高く、子どもの数も少なく、養育に時間もお金もつぎ込むことが出来る。これでは格差は広がる一方だ。 こんな状況を変えるために、Heckmanは早期の教育に焦点をあてろと提言していく。

“Giving Kids a fair chance”, by James Heckman



認知能力以外の能力、たとえば心身の健康、注意深さ、やる気、自身といった点も人生の成功には欠かせない。 ランダム実験かつ長期の追跡調査であるペリー就学前教育計画およびAbecederian計画が明らかにするところによると、 認知能力もそれ以外の能力も、発達するのは幼児期で、しかも大人になってからも影響がある。IQはさほど高くならないものの、認知能力以外の能力は高まるのだ。政策が一番効果を出すのもこの時期だ。小中学校の教員を増やしたり、犯罪更正プログラムより、学費援助より、遥かに効果が高いのだ。
とはいえ、どうターゲットを絞るか、どんなプログラムにするか、いかに提供するか、支払いをどうするか、いかにプログラムを遵守させるか、早期教育の時期は過ぎてしまった青少年の子をどう扱うかといった問題は残っている。

識者からのコメントが載っている。貧者を就職で救うのも大事、母親に補助を与えるのも大事、政治的反対に遭うかもしれない、上記のプログラムはサンプルが少ないがより大規模な追実験(IHDP)では同じような結果は得られなかった、否認知的能力を上げることは可能、実行するには問題があるなど。そして、それらに反論を加えて〆となっている。

不平等および教育に関心のある方はぜひ!!!

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(関連)
・不平等解消に向けてアツいディベートがなされているこの本の続きか;


↑一橋の川口先生のとってもわかりやすい解説を発見;
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&cad=rja&ved=0CDEQFjAA&url=http%3A%2F%2Fwww.econ.hit-u.ac.jp%2F~kawaguch%2Fpapers%2Fkrueger%26heckman_review.pdf&ei=tTxZUaWRJtT1qwGZq4CgBA&usg=AFQjCNF3hHdfjNQYNJ_Pbk2rjqzsCnQIHQ&bvm=bv.44442042,d.aWM

Handbook of Labor Economics, Vol4の15章も似たような内容(下はゲート無し);
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0169721811024130
https://www.princeton.edu/~jcurrie/publications/galleys2.pdf

・本邦でも就学前教育が重要との指摘がされてますね;
http://blogos.com/article/57423/
posted by Char-Freadman at 17:01| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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