Anthony Atkinson, Measuring Poverty Around The World

Measuring Poverty Around the World
貧困を定義するのは難しい。まず政治的な定義として、必要最低限の収入を考えてみる。政治的な定義は政治家の動機づけにつながり、正しい統計を示して政府をチェックする必要がある。次に、主観的な貧困について考えてみる。先進国からの分析ばかりで途上国の声が反映されていないという批判はよく聞かれる。自身が貧困状態か聞いたり、貧困を避けるために必要な消費はどれくらいか聞いたり、それが家計や人口全体でどれくらい満たされているか調べたりするという方法がある。色々な貧困線を導入したり、非金銭的な指標を導入するという手もある。著者はまず生理的に必要な消費量に重点を置くアプローチを考える。単純な方法だが価格を調整したり食事以外の財も考慮する必要があるので完全に機械的に決まるわけではない。次にセンにより提唱されたケイパビリティアプローチを考える。これは人々が生きる上の目標を達成することをどれだけ阻害されているかを見ていくことを意味する。実際に取られた行動のみならず妨害により取られなかった行動も考慮するのが特徴だ。人が潜在能力を発揮するには周りの社会に適応している必要がある。そういう媒介性を考慮できるのも特徴となる。他にも貧困を人権として捉えたり、絶対的・相対的なそれがあるとみることもある。色々な定義は色々な場面で有用なのだ。
どれだけ貧者がいる、みたいな主張を聞いたときいくつか気をつけるべき点がある。まずは、何が測られているのか。消費か支出かは耐久財を考えれば違いが出るのはわかるだろう。消費ベースのジニ係数は収入ベースのそれより低い値がでる。そして、パネルデータかどうか。慢性的な貧困は一時的なそれと区別すべきであり、同じ家計を追ったデータが必要となる。また、生活費がどれくらいなのか購買力平価で考えなくてはならない。そして、誰を図っているのかも問題となる。個人なのか、家族なのか、家計なのかで問いが異なる可能性がある。金銭以外の貧困もまた重要。そして、何が数に入れられているのか。貧者の頭数を見るより貧困ギャップを見る方が精確だが、コストがかかるのでそうできない場合が多い。
データが欠けていたり比較可能性がない場合は多い。例えば都市と郊外の定義を見てみてもどの国でも同じというわけではない。例えばCPIはラスパイレス指数だと生活費を過剰に見積もりがちになる、というのも財の代替を考慮に入れられないから。貧者は移動にコストがかかりがちでより生活費がかかるかもしれない。貧困を考慮するには価格がどうなっているか調べるのは重要な問題。色々なサーベイを見て三点測量のように突き合わせなくてはならない。
国際貧困線は理解を深めるのに役立っている。持続可能な開発目標がどれだけ達成できているかや、国際的な流れが国内の数値にも沿っているかなどチェックすることが可能となった。
気候変動への対策と貧困削減とはときに対立しときに補完する関係となる。数字は揃ってきており、政治を動かす時期に来ているのだ。
遺稿なのでまとまりがなく読みづらいものの、データを見るときに気をつけるべき点がわかりやすく解説されている。おすすめ。