
The Triumph of Injustice: How the Rich Dodge Taxes and How to Make Them Pay
Emmanuel Saez, Gabriel Zucman
税は金持ちが負担すべきか?経済学者の仕事は主に現状を明らかにすること。著者は金持ちの税の抜け穴を塞ぐ良い課税案があると力強く説得してくる。
GDPではなく国民所得を見てみよう。GDPは国内の総生産で、これに資本の償却を引き海外からの純所得を足したものが国民所得だ。アメリカの一人当たりGDPは9万ドルだけど国民所得は75000ドルになる。さて所得下位50%の所得平均を見ると18500ドルしかない。その上40%までの中流の平均は75000ドルとなる。所得上位1%が占めるシェアは上がり続けている。さて税を見てみよう。所得税は税収の1/3を占める。配当や退職金や留保利益は免税となり、課税可能収入は所得とは一致しないのだ。1980年には71%の所得が課税できていたが、課税ベースは萎みに萎んだ。給与税は132900ドル以上の収入だと免税となり逆進的になっている。消費税は燃料やアルコールなど物品税として課されておりこれも逆進的。法律上ではなく経済的に誰が税を負担してるかというと結局のところ国民である。所得のほとんどの層には28%程度の一律税となっているが、上位400人くらいは20%しか負担していない。これは所得が課税を免れ法人税も課せず控除を受けているため。税収の上げやすさや公平の観点や不平等を防ぐ観点から直したほうがいいだろう。
17世紀のアメリカは資産に課税することで税収を集めた。新大陸の税制は旧世界より累進的だったのだ。南北戦争で所得税は導入されたけどしばらく違憲とされたけど1913年に実施された。固定資産税が累進的なのと格差是正の側面を持つという点で米国は世界の先を行っていた。1951年から63年まで所得トップ層の限界税率は91%で、租税回避は起きたものの国民所得の推移を見ると課税前収入の不平等は実際に減ったことがわかる。
レーガン政権でこの状況は一変した。限界税率は28%まで落ちたのだ。イデオロギーの影響もあるけど、租税回避が横行し金持ちへ課税できないと嘆いていたのも大きい。でも、1930~1986年の間に租税回避を防ぐことはできていたのだ。キャピタルゲイン課税は25%で所得税は90%だったから所得じゃなくてキャピタルゲインでもらう誘因は大きかったけど自社株買い戻しは違法とされてた。税控除を受けるためだけに損害を計上する租税シェルターはレーガンの就任までは流行っていた。レーガンは減税と同時にこれを撲滅すると公約し、それを果たした。貧者は脱税し富者は節税するという俗説はあるけど、IRSの監査のデータやパナマ文書を見るとまるで逆なのがわかる。普通の人は税を回避するのは難しいけど金持ちは様々な手法で回避できる。でも絶望する必要はない。海外銀行は顧客のアメリカ人がどのように収入を得ているかIRSに情報を伝えるという条約が国際的に交わされた。脱税をどこまで許すかは政府、ひいては人々が決定することなのだ。
法人税はずっと下がり続けている。グーグルやアップルはバーミューダやアイルランドに会社を設立し、利益を移すことで課税を逃れている。社内の取引で商標やらロゴやらを移転させているのだ。多国籍企業の40%、アメリカのそれは60%もが租税回避地に利益を移しているという推計がある。そういう国々は主権を売り渡して世界中から税収を奪うことで利益を得ているのだ。実際の経済活動は租税回避地には移らない。国際的に協調してこういう逸脱を潰す必要があるけど現状はうまくいっていない。
アメリカは税負担が低いとされているが保険料を考えるとそんなことはない。いっぽうで法人税は下がり続けている。生産には資本と労働が必要で、このうち弾力性が低い方が法人税を負担していることとなる。一般に資本は弾力性が低いと言われてきていてそれなら課税しない方が良いという極めて有名な議論がある。でも実際には法人税が高い時期にも投資は行われているし、資本は税よりも規制に反応するのだ。法人税率を低くすると法人化で給与を誤魔化すことが横行してしまうから直さねばならない。
でもこれは以下の手段を取れば解決できる。まずは、各国がそれぞれの多国籍企業を監督すること。フィアットがジャージーに利益を移して0%を収めたとしても、イタリアは伊企業として支払うべき法人税率例えば25%を徴収してしまえば良い。各国が最後の課税者として振る舞うのだ。そして各国で協調して最低課税率を決めること。そして従わない国に制裁を科すこと。こうすれば二重課税を防ぐ条約には違反しないし今すぐ始められる。
税収を最大化するために累進税を課すなら弾力性の低いものに課税すべきで、収入が集中してるようなら富裕層に多く課税すべき。租税回避は防げるし、課税所得は弾力性が低いのだ。限界税率を75%(平均では60%)くらいにすると良い。このために公民保護局を立ち上げ、租税回避を見張り海外の税実践を監視させよう。キャピタルゲインを含めどんな収入も同じ税で扱うようにし、法人税と所得税を統合し、資産税を課せばこれを達成できる。資産は隠しにくい。会社の株が取引されていないようなら市場を作り出し、資産税として代わりに納めるようにできるようにすれば良い。オークションにかけて正しい価値が割り出せる。
1946-1980はほとんどの所得層が2%の収入の伸びを得ていた。でも1980年以降ではトップ層しか伸びていない。フランスと比べるとアメリカの労働階級の伸び悩みは顕著だ。不平等は権力の不公平を生むし、富裕税の正統性が増してきている。
保険料は給与税から支払われていて非常に逆進的になっている。そこで著者は一律の所得税を提案する;労働収入も企業の利潤も利子も同じ率で課税するというものだ。教育や金融は免除されるVATと異なり税源は極めて広くほぼ100%だし、生活保護受給者には負担がない。より良い税制を作ることはできると力強く呼びかけている。
・taxjusticenow.orgで税率と税収の計算ができて楽しい。
・累進課税の淵源をアメリカに求めてるけど、代表なくして課税なしの精神もまたアメリカだと思う。
・所得の計算かなりツッコミが入ってるので解決策はともかく数値は注意を持って見守りたい。主に法人税は誰が負担してるのかという点について議論になっているのだ。