Race Discrimination: An Economic Perspective
Kevin Lang, Ariella Kahn-Lang Spitzer
Journal of Economic Perspectives
vol. 34, no. 2, Spring 2020 (pp. 68-89)
https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/jep.34.2.68
労働市場で白人と黒人の格差は大きく、黒人は白人より28%収入が少ない。伝統的には回帰式で年齢や教育と人種を変数にして賃金を説明しようとしてきたが、これだと人種の係数は説明できない差としか意味しない。またいくつかの変数は過去の差別の表れでもある、例えば親の収入を調整すれば人種格差を縮めるが、低い水準の黒人親の収入はその世代での差別の表れだろう。統計的に綺麗に扱うため細かく状況を分けて調べられている。
雇用者からの差別の調査には監査研究というものがある。似たような履歴を持つ白人と黒人を比較すると芋のだ。でもこれは完全には似たような経歴を揃えきれないので差別以外のものを拾ってしまう恐れがある。この問題を避けるために応対研究というものが行われている。名前を黒人にしてそれ以外は架空の履歴書を送りつけ面接に呼ばれるか見るというものだ。とはいえ名前は社会階層を示している可能性がある。生誕地を調整すると黒人ぽい名前とそうでない名前に差が生まれないという結果がある。同一企業内での差を見るという方針もある。小売業のアウトレットで白人の管理職は黒人の管理職と比べ特に南部で白人を雇い黒人を雇わないという傾向がある。これは管理職による差別か、管理職と労働者が同じ人種だとシナジーが起きているということか、雇用ネットワークに差があることか、労働者が同じ人種の管理職を求めているという可能性ができそうだ。後者三つの効果は見当たらない。
黒人は同僚から差別を受けている。同僚が同じ人種だと辞めにくいという結果がある。同じ人種と働けるなら8%まで時給を下げていいという結果がある。
顧客からも差別を受ける。架空のスポーツゲームだと白人も非白人もドラフトやトレードで選ばれるが、客と従業員が相対する場合は違う結果が起きる。薄い肌の黒人と白人の売春婦にはプレミアがつき、シンガポールでは黒い肌の顧客に対し差別がある。黒人のタクシー運転手にはチップが減る。白人が多い地域で黒人が雇われると小売の売り上げが減るがヒスパニックが増えると少し売り上げは増える。アジア系言語しか喋れない人が多い地域でアジア系を雇うと売り上げは増える。黒人が営業しているとipodナノは購入されない。商品の信頼度を人種や民族から推測しているのだろう。
以上の研究は統計上の利便性からどれも限定された環境を調べている。どれくらい労働市場一般において影響をもたらしているかは不明だ。
刑事においても黒人は差別を受けている。黒人は白人より警官に呼び止められやすい。犯罪は黒人コミュニティで多く生じているが場所を調整しても黒人は職質を受けやすい。アウトカムモデルという調べ方がある。差別がなければ、呼び止められた運転手は白人でも黒人でも同じくらいの確率で間違っていることが判明するはずだ。もし差があれば差別があるということになる。でもこれはギリギリ呼び止められた人に関してしか通用しない考え方であり、例えばマリファナを持っている平均的な確率を単純に比較することはできない。黒人とヒスパニックについては呼び止める敷居は低い。夕闇のベールという考え方もある。夜になると人種がわかりにくくなるので差別があるなら日中に生じているという発想だ。道が明るいと黒人は白人に比べ呼び止められやすい。関連する特徴を調整すると射殺される確率には差がないという結果もあるが記録のつき方にバイアスがあるという意見もある。
法廷でも黒人は差別を受けており、保釈金なしで保釈されるより保釈金を支払ってから保釈される可能性が高い。ただこれは被疑者の特徴を捉えきれていないだけなのかもしれず、また黒人は弁護士に頼れずうまく法システムを利用できていないからかもしれない。法廷調査でもアウトカムモデルは利用されていて、ギリギリ保釈された黒人の被疑者は白人のそれに比べ不行跡の確率が低い。懲役の長さについての証拠は少ない。
好みによる偏見は市場が駆逐するという考え方がある。偏見がない方が比較的低賃金で生産的な労働者を雇用でき、どんどん拡大するから黒人への需要は上がり賃金も上がるという話だ。賃金の格差は、偏見を持っている雇用者がどれだけいるかと、市場が黒人労働者の配分についてどれだけ柔軟性があるかにかかってくることになる。市場に摩擦があり賃金が競争的に設定されないなら生産的な黒人労働者は平等に支払われる職に就けず偏見のある企業は利潤が低いわけではないということになり差別は消えないということになる。
調査で人種差別の度合いが高いところは賃金格差が見られる。暗黙の連想テストを行い偏見の度合いを確かめると、偏見のある管理職に配置されると北アフリカ人は時間外勤務を命じられにくかった。またのんびり働きサボりがちとなった。速度超過の運転手は警官が見逃してくれるとき罰則が跳ね上がる敷居のちょっと下として記録されることになるが、黒人運転手は白人に比べそういう記録は少ない。
統計的差別は合理的差別と呼ばれる。これは自己実現的になることもある。投資して鍛えても企業から報われないと思っていればそうはしなくなる。黒人の生産性が低いと間違って思っている場合は好みに基づく差別と同様の状況が生じる。しかし情報を与えると反応は異なる。人種に相関する特徴の情報を与えると差別を減らすことができる。犯罪歴を雇用にあたり聞いてはならないという規制ができると、企業は黒人を潜在的な犯罪者だと思うようになり雇わなくなった。ただし情報を与えると、雇われていない人たちのプールは品質が下がることになるので長期的な影響としてはどうなるかわからない。アルゴリズムは意思決定のバイアスを減らせると言われているが人のバイアスをそのまま示すこともある。
色々な段階で差別は生じシステムと化しているので全体としての理解を深めるのが重要なのだ。接触をすることでそれが減らせるなど明るい話もある。