2020年06月08日

米国大学における所得分離と再配分の可能性

親が金持ちだと子も金持ちになりがち(所得持続性)という内容を調べる文脈において、エリート大学の学生の配分を変えれば所得移動性が高まる(=貧乏人の親から金持ちになる子が増える)と主張されている。

Income Segregation and Intergenerational Mobility Across Colleges in the United States
Raj Chetty, John N Friedman, Emmanuel Saez, Nicholas Turner, Danny Yagan
The Quarterly Journal of Economics,
https://academic.oup.com/qje/advance-article/doi/10.1093/qje/qjaa005/5741707

1980年から1991年生まれの子供につき社会保障番号と納税番号を把握し人種と親の納税額と郵便番号を把握する。またSATとACTの得点も利用する。大学は先行文献に従いアイビーリーグ+スタンフォード・MIT・シカゴ・デューク(以下アイビー+と呼ぶ)を頂点に5段階に分ける。
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ハーバードの学生のうち所得下位20%家庭から来ているのは3%、所得上位20%家庭から来ているのは70%でこれはエリート私立に典型的な分布。
harvincom.png
所得上位1%の家庭の子はアイビー+に入学する確率は所得下位のそれと比べ77倍になる。低所得の家庭の子は最強公立校のバークレー校より私立校のハーバード大に通う確率が低い。低所得者は授業料をあまり払わないでいいことを考えると低中位所得層がエリート私立校に通わない理由は授業料ではない。バークレー校も半分の学生は所得上位20%から来ている。所得による分離は、大学の名門度が上がるほど強く起きている。低所得家庭の子は入学する年齢が遅い。
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住所と同じように大学入学についても所得により分離が起きている。アイビー+の学生は特に高所得に囲まれて育っている。アイビー+の低所得出身者は子供時代に比べより高所得な人に囲まれることになる。これは単に自分の近所の大学に通うから生じているわけではない。
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親と子の所得階層の関係は大学に通うと薄くなる。高所得の家庭の子が所得上位20%に入る可能性は低所得家庭の子のそれと比べ40pp高いが大学に通うことを調整するとこの格差は20ppに縮まる。
mobilityrate.png
同じ大学卒の低所得と高所得の家庭の子の収入差は学業成績では説明がつかない。高所得出身の人は働きがちで結婚しやすい。同じ大学卒だとそこまで差がないが大学間で比較すると差がある。低所得の人は低収入になる大学に通う。
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貧困出身でも上位20%になる移動性が最も高いのはカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校だ。公立大学では移動性が高い。
colchara.png
同じような特徴、例えば同じ立地でも移動性は大学によりばらつく。
ivyplusatt.png
所得上位1%になりやすいのはアイビー+の卒業生だ。人数が少なく寄付が多くSTEMの割合が高いのが特徴で、多様な移動性の高い大学と比べ同質的だ。低所得でSATやACTで高得点をあげる生徒は5%ほど。
cfallo.png
地理要因と人種構成を所与として親の収入に中立で試験結果だけを元に学生を再分配すると所得での分離は63.9%薄まる。試験結果・地理要因・人種構成で生じる所得分離は36.1%で、出願方式や審査や親の収入での入学審査で生じる所得分離は63.9%ということ。アイビー+での分離も38%ほど縮まるが全体よりは小さい。
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収入中立的な入学審査にしてもアイビー+に占める低所得層の割合は変わらないが中所得層の割合は27.8%から37.9%へ増す。現状では中流家庭が割りを食っている。分離を消すためには低所得層がSATで160点高い点を取る必要がある。現状行われているような卒業生の子弟優遇を低所得層出身者に行うと所得の分離は消えアイビー+ではより低所得層の学生が増すだろう。
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収入プレミアの8割が優秀な学生の選抜ではなく大学進学によるものという仮定を置くと、SATやACTのみを基準にし入学審査が行われていれば世代間の所得持続性は15%減る。現状のような黒人や卒業生子弟優遇を低所得層に行うと所得の世代間持続性は25%減る。
既存の教育計画を変えなくても学生の分配を変えれば世代間の所得移動性は変えうるのだ。
posted by Char-Freadman at 11:26| 北京 🌁| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月06日

インターネットとソーシャルメディアの政治経済学

Political Effects of the Internet and Social Media
Ekaterina Zhuravskaya, Maria Petrova, and Ruben Enikolopov
Annu. Rev. Econ. 2020. 12:19.1–19.24

https://www.annualreviews.org/doi/abs/10.1146/annurev-economics-081919-050239

伝統的なメディアには無いソーシャルメディアの特徴がまとめられている。

【政治利用】
初期はネットは政治利用されなかったからネット民は政治に興味を失うだけだったが時間が経つにつれネットを介し有権者を政治的に繋ごうという動きが出てきた。ドイツでブロードバンドが拡張すると投票率は下がったが各党の割合には変化がなかった。英でもネットの高速化は政治ニュースと娯楽の代替を促し投票率が落ち、政府の収支が減った。イタリアでもネットは政治参加を減らすが、ネットでの動員が盛んな五つ星運動はネットが高速化した地域で得票が伸びた。極左も極右もポピュリストはネットのおかげで拡大している。強権政治のもとにある市民にはネットは検閲されないかけがえのない政治情報を与える。マレーシアでは既存政党が大敗し南アフリカでも地方選挙で与党が破れた。途上国ではネットの拡張は選挙競争に繋がっている。ネットは反汚職への意識を高める。FBで投票を友人に示すことができるようになると投票するようになる。TWは投票への同調圧力となりうる。
【協調】
ネットでは政府に批判的な情報を収集しやすく、また集合行為をする日時と場所を他人と調整できる。微博は抗議行動のために使われている。また汚職に関しての情報も流れている。アラブの春ではハッシュタグが抗議行動を促した。ソーシャルメディアの内容が外生的に変わる状況をとらえねばならないから因果推論は難しい。VKはSPbSUの学生を介して広まったので卒業生が多いところはVKが広まっていると見ることができ、ソーシャルメディアは抗議行動もその参加者も増やすとわかった。FBは抗議を増やす。ネットの拡張で協調がしやすくなりアフリカでも抗議活動が増えた。ウォール街占拠もネットの影響を受けている。チリの教育制度改革を目指した学生の抗議活動ではネットワークの構造が重要だった。オンラインの行動も構造が重要だろう。
【エコーチェンバー】
同じ意見の人同士で固まる傾向はある。FBでは人は自分と逆の思想には触れないようにしている。TWでも同じ政治意見の人たちがまとまる。とはいえオンラインはオフラインほど分離が起きているわけではない。Tw利用者は政治的穏健化するとか老人ほど分極化しているという話もあれば、逆の思想への敵意が増したりFBの構造が政治的に分極化しているという話もある。FBの利用を停止すると時事知識が減り分極化は減るという話はある。
【憎悪犯罪】
外人嫌いや憎悪犯罪にも結びつきうる。集合行為を調整し、寛容な人が外人を嫌うようになるような情報が流れ、外人嫌いが通常であると誤って思い込むようになるからだ。ロシアではもともと国粋主義的だった地域にVKが広まると憎悪犯罪が増えた。教育の無い人に態度の変容が見られる。ドイツでは極右のFBのネット活動が盛んな日に難民叩きが増し、違う日にはすぐ消えている。アメリカではトランプのTW使用以降ムスリム嫌いが増えた。
【フェイクニュース】
イタリアでは選挙の時期に誤情報が拡散された。アメリカでも大統領選でFBでトランプ有利な誤情報が広まった。誤情報は特にFBを介して広まる。TW上の政治的誤情報は6%ほどだがその8割は全利用者の1%だけが見ていて拡散しているのは0.1%の利用者にすぎない。右派の老人に届きやすい。誤情報の拡散はFB利用者では稀だ。誤情報は正しい情報よりTWでは早く広く拡散される。特に政治的なそれに顕著。誤情報には怖れや不快や驚き、正しい情報には悲しみや喜びや信頼という反応が起きる。事実確認がされると急速に広まらなくなる。
【政治の説明責任】
FBを利用する政治家は増え有権者との繋がりが増すため既存の政治家にとっては利益となるがそのぶんオフラインでの政治活動は減っている。ロシアでは汚職追求ブログの影響で長期的には経営統治が改善してきている。ソーシャルメディアでは罵倒が渦巻き政治家から情報が流れるだけの一方向での利用に繋がっている。新しい候補者はTWアカウントを開設すると少なくとも短期的には得になる。
【専制国家による利用】
中国では政府に批判的な抗議運動を呼びかける記事は検閲されて消されているが現実の行動を呼びかけない記事は残っている。公民感情を調査するには便利だが集合行為が起きるのは困ると捉えているのだろう。中国の検閲は多くが簡単に回避できるものだが何が検閲されているかは市民は気づいていない。検索結果を操作し情報を妨害するのが効果的で完全な検閲は逆効果。インスタグラムの遮断はVPNへの利用を増やしFBやTWその他の利用に繋がり政治的に活性化する市民が増えた。検閲されないインターネットを利用するよう少し促すと知識や態度はすぐに変わりその変化は持続する。情報取得はかなり習慣的な行為だ。
中共は政府やその象徴や革命の歴史を讃える記事をソーシャルメディアに大量に流している。アジェンダ設定や議題の語られる調子を整えるのがその目的で、正規の職とは別にパートタイムで政府に雇われている人が担当している。国外の民主主義国家にも情報操作は流れてきておりその72%はロシア中国イランサウジアラビアだ。アメリカの大統領選挙とイギリスのブレクジット国民投票はボットにより影響を受けた。ボットの多くはロシアと関連がある。とはいえロシアは極端な人としか繋がっておらず失敗している。
市民の監視にも利用している。中共は地方政府の失敗をごまかしている。
【展望】
この溢れる情報に批判的に接するようになれるかを調べるといいだろう。若者層は老人層より誤情報には強い。
またソーシャルメディアには極端な思想や外人嫌いやポピュリスト的な固有の何かがあるのかを確かめてもいいだろう。既存の勢力がどのように慣れるものなのか調べてもいい。

――――――――――――
・コロナ対策やら黒人の暴動やらで民主主義国家が失敗すると強権政治のリーダーがここぞとばかりに民主主義叩いてくる&その手先どもがネットに溢れてくるけど背景にはこういう状況があるのだろうね。毅然とした対応取りたいものです!どんなにゴミでも民主主義がいちばん。
posted by Char-Freadman at 07:41| 北京 | Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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