子育ての経済学 愛情・お金・育児スタイル
マティアス・ドゥプケ&ファブリツィオ・ジリボッティ著

子育ての経済学:愛情・お金・育児スタイル - マティアス・ドゥプケ, Matthias Doepke, ファブリツィオ・ジリボッティ, Fabrizio Zilibotti, 大垣 昌夫, 鹿田 昌美
1970年代の親は反権威主義的でリラックスした子育てをしていたが、現代の親は習い事をさせ学校成績を気にするようになっている。教育方針は国や階級ごとに異なる。過去に人気だった体罰はここ数十年で忌避されるようになった。親の経済的動機に着目すればこれらの現象を解明できると本書は説く。
まず、育児方針を三つに分ける。一つ目は親が子に服従を要求しコントロールするという専制型。二つ目は自立を奨励する迎合型。三つ目は説得により子どもの価値観を形成しその選択に影響を与えようとする指導型。重要なのは、どの教育方針を採る親もみな子に対する愛情に優劣はないという仮定だ。1980年代以前は所得格差は少なく教育を受けなくても悲惨な人生にはならなかったため迎合型の人気が高かったが、格差が拡大すると教育を受ける利得が大きくなるため専制型や指導型の徹底的な教育方針の人気が高まったとみている。実際「タイガーマザー」「ヘリコプターペアレント」は経済格差が大きい国で人気であり、格差の小さい国々ではそうでもない。
社会階層が固定化していた頃は専制型の教育方針に人気があった。そのような社会にあっては自分の生きる道を子どもに見つけさせることができないというデメリットが薄いためだ。でも工業化社会になり自分の才能を見つける必要が出てきてからは専制型の人気は落ちた。それに代わり、子どものやる気を引き出そうという指導型が人気になっている。
男子と女子とでは育て方に違いがあり、文化的な影響が大きいとされている。でも本書は経済的な影響こそが差を生むと見る。技術進歩で体力が必要な労働への需要が減り認知能力と社会的スキルが求められるようになった。このためジェンダーによる教育内容の分断も埋まっていった(紡績など技術進歩がその逆を生んだ例もある)。
歴史を見ると、土地のあがりで暮らす貴族階級は余暇を重視し美意識を高めるような教育方針を取り、労働階級は労働倫理を埋め込むような教育方針になり、職人や商人など中流階級は忍耐力と計画性を重視するような教育方針を取っている。
試験など公的な教育制度が家庭内の方針に影響があることも国際比較でわかる。フランスや日本は大して格差が大きくないにもかかわらず厳しい試験があるから徹底的な教育方針になりがちなのだ。
教育制度の変更や累進的課税など公共政策で教育の格差を埋めることができるとみて楽観的に締めくくっている。子どもの未来は明るい!
−−−−−−−−−−−−−−−
・安易に優劣をつけないというのが経済学的分析の強い魅力。本書でもそれは大いに発揮されている。子どもには怖い専制型の祖父も愛情あったなと懐かしく思い出した。孫には大甘だったし…
・日本の親は勤勉は重視せず想像力と自立を重視しているというのが意外だった。ヘンリック先生のWEIRDest Peopleでも日本は個人主義的と言っていたのとかぶる。腐っても技術大国、今後も世界にその存在感を出せそうだ。


・実験やその他のうまい因果推論の方法が使えないためその点については若干弱い。でも最大限努力はしてるし著者の経験談も無理なく挟み込まれて読みやすくなっているから論文でなく本としてはとてもいい出来。教育って誰もが語りたがるテーマで、子どもを一流大学に入れた親が書いてたりする本とは一線を画している。育児指南本としては読めないのでそこだけは要注意。
・タイガーマザー、堅物っぽいなーと思って敬遠してたけど「内なる自身を身につけさせる」「うまくやれるから好きになる」という主張には頷けるものがあった。反省。
・体罰はいけないものとされてるけど実験でその長期的影響を調べてる研究見たことがない。ほんとなのかね???交絡要因コントロールしたらあんま影響ないんじゃないかなんて疑問を持っている。
・教育方針を取る要因として子どもの性質もあるんじゃないのーとは思う。迎合型8割指導型2割って家だけど、社会環境を意識してというより人の話を聞かない子に合わせてくれたという点が大きいような。。。まあ歴史的変遷や国際比較やらの本書のロジックには不満はないのだけども。