2012年01月21日

技術進歩と雇用喪失

Erik Brynjolfsson, Andrew McAffee著、"Race Against The Machine"が面白かったので紹介してみよう。キンドル版しかないので日本のアマゾンでは買えない。

2008年から続いた米国の大不況は一応の終わりをみたが、失業率の回復には至っていない。通常の景気循環での需要の不足にその理由を求める向きや、技術革新の不足のせいと唱える説もある。この本の主張は、むしろ技術進歩によってマンパワーが不要になってきたから、景気が回復しても前ほどには雇用に繋がらないということだ。

2章では近年のデジタル技術の粋を眺める。人間のみに固有の能力と思われていたパターン認識や複雑なコミュニケーションは、機械がかなりの程度既に実現している。大量のデータ活用によりグーグルは無人運転を可能にし、世界各国の顧客対応を扱う翻訳技術やクイズ番組に解答する機械も存在する。チューリングが望んだほどには追いついてはいないものの、機械と人間とは競合するようになってきている。多目的技術(General Purpose Technology)の躍進は目を見張るものがあるのだ。かつての蒸気・内燃機関と同様、コンピュータは当該(IT)産業のみならず他の産業の生産性を改善している。

3章ではこの技術進歩が経済にもつ影響を見る。過去10年にわたりアメリカの中位所得は水準を落とす一方で一人当たりGDPは伸びている。これは技術進歩が勝者と敗者を生み出しているためで、高い技能を持つ人は技術から恩恵を受けるが、コンピュータと競合してしまう人は損をするからだという。以下の3つの観点での格差拡大が述べられる。
i. 高い能力対低い能力
技能偏向型技術進歩(SBTC, skill biased technological change)という学術用語がある。それは、高い技能をより必要とするいっぽうで低い技能を不要にするような技術進歩を意味する。たとえば工場の自動化がそれだ。過去40年の間、高卒の賃金は低下していったが、大卒の給料は著しく伸びた。(cf. Acemoglu, Autor) また、高い技能のある労働力、特にデジタル技術のそれは、技術進歩によって需要が伸びている。(cf. Autor, Katz, and Krueger) この種の進歩のキーは、組織内の決定機構やインセンティブ設計、情報の流通などの点で、会社に偏向をもたらすということだ。そのためそれまでとは全然違う労働力を必要とするようになってくる。

ii. スーパースター対その他
音楽やスポーツマンやCEOたちをみてみよう。一握りの勝者がすべてをもっていく構図となっている。デジタル技術はそんな市場を拡大する。彼らの挙動が決定的に重要になっていく。収入トップ10%内、1%内、0.1%内、0.01%でも格差は拡大しているのだ。
一番すごいものだけに支払いたいような市場でこのスーパースター現象は顕著になる。このときサービスの複製が安上がりであればあるほど、トップがより多くの利益をもっていけることになる。(cf. Sherwin Rosen, Economics of Superstar) レコード化の到来まで各地にミュージシャンがいたけど、安く売れるようになってからはヨーヨーマやレディガガのような少数の人だけがいるようになった。
コンピュータプログラムによるトレーディングみたいに、技術投資した割には、連との再配分だけに使われて真の富を生むことに繋がらないものもある。

iii. 資本対労働
生産過程では資本も労働も使われるけど、その結果の富の分配では、資本の産むものと労働の産むものとが比べられる。どちらがより多いかが交渉力を決める。技術進歩が労働の相対的な重要性を減らすなら、資本の持ち手がより多くを手に入れることになる。

4章ではこの現実にどう立ち向かうかを考察する。演算能力において人類に勝ち目はないが、機械を使うことはできる。蒸気機関が生まれた産業革命時では、技術によって人がむしろ必要にされるようになったし、チェス対戦機だって組み立てるのはチェスを知るプログラマーたちだ。重要なのは、『いかに使うか』。組織構成に革新をもたらしたり、人的投資に役立てたりとよい。
新しいビジネスモデルなら苦しむ中位層を救える。デジタル技術は個人個人が持っている特有の知識を結びつける。少数人からなるものの世界各地に顧客を持つようなビジネスを可能にしていくだろう。人的知識が組み合わせ数的に伸びれば、指数的に伸びる機械の能力に打ち克てるかもしれない。
教室の質は高まり、オンラインで学べる教科も増えている。優れた教員の授業をコピーするのも簡単だ。リーダーシップや創造性の重要性もなくならないだろう。

5章では楽観的に結論づけている。ま、なんだかんだ言っても技術って生活の改善に繋がるものだ。より多くの知的・感情的結びつきが可能になるし、市場も効率的になる。そのうち慣れるでしょう。

技術進歩による雇用喪失というテーマに沿って著名な学術文献が手際良くまとめられており、大変読みやすい。

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(感想)
1. 時間を投資して身に付けた能力がコンピュータによって価値のないものと見なされるようになるというのはやっぱり恐ろしい。(経済学は永遠に不滅です?^^;)
それ自体は事実なんだろうけど、雇用創出に至らない主原因かと聞かれると・・・うーん。アメリカ同様に技術進歩の影響を受けているはずの他国は、結構雇用創出してないかなぁなんて思ったりしなくもない。他にもデータ見たいところ。
マクロなのにオモシロかったのでこの辺の議論は追っていきたい。

2. 進路決定にあたり統計データを見るのって重要ですね。我が身を顧みたら、統計データなぞ気にせず大学進学とか結構テキトーに決めている。でも、新卒一括採用や(崩れつつもあるけど)年功序列など、自分だけでは変えられない社会の仕組みってあるわけで。これまた寒気が・・・

3. 教育に求められるモノも変わってくるかも。PCにできることとできないことの境界を把握する能力は身に付けとかないと。複数のコンピュータ言語を使いこなす小学生が当たり前になってるかな。

4. PCやタブレット型PCなどの新技術に関しては、不要な理屈をゴタゴタと並べて買い控えておくより、とりあえず使ってみるという経験則をもっといたほうがよさそうだ。人の親になる皆さん、我が子にはいろいろ新しいおもちゃを学ばせてあげてくださいね。(※予算や時間との相談の上です。)
・・・あとアンチ電子書籍の人って痛々しいよね!

5. チューリングテストに合格するような、人間と見まごうほどのデジタルなエア恋人マダー?
ま、あんま発達されてもウザくなるだけか。
不気味の谷は造形にだけ生じる現象なのか、それとも言語能力(というか人と識別不能になりつつあること一般)に生じるのか、気になるところではある。
あ、アルは好き。

(補足)
技術進歩に関して人類がどう捉えてきたか変遷の描写は先月出版されたこの邦訳が面白かった;



ただの都市伝説にあらず。併せて読むとよさげ。
posted by Char-Freadman at 04:55| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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