2012年02月24日

よくわかる現代ロシア

北方の国の現代史を読んでみた。著者はロシアの専門家としてよく知られた国際政治学者です。

"Return" by Daniel Treisman



謎だとか邪悪だとか言われるロシアのイメージを払拭するとのことで、ゴルバチョフからプーチンまでの政策が著述されていく。
1章はゴルバチョフ。米国との緊張関係を緩和し、浮いた予算で経済政策に臨んだ。リアリストだけど対外関係では戦争というオプションより対話を重視する姿勢をとっていた。改革の必要を感じグラスノスチ(情報公開)やペレストロイカ(改革)を進めたが、次第に国民からの人気を失い、またソ連八月クーデターを招き、不本意なことにソ連を崩壊させた。改革が結局はコケてしまった理由は、飢饉や資源価格の低下などで国内消費に危機が迫っていたからとみている。
2章はエリツィン。クーデターを失敗させたのちロシアの大統領に就任し、チュバイスとガイダルを起用し急進的な市場経済導入を目指した。しかし経済は混乱し、チェルノムイルジンを首相に指名したりと妥協せざるを得なくなってしまった。バウチャーによる民営化でオリガルヒは国有資産を手に入れたが、言われるほどには政治的影響力はなかったとみている。人気取りに終止腐心する姿が描かれている。チェックの効かない議会を超法規的な方法で統制したが、民主化のためにはむしろよかったのでは、とのこと。唯一の失敗は政権委譲くらいなもの。
3章はプーチン。KGBから恩師サプチャークの引き立てにあって政界入りし、サンクトペテルブルク市副市長を経てロシア大統領府第一副長官になった。そしてエリツィンの後継者として大統領になり、政権当初は西洋寄りであり彼と同じく自由経済保護を推進した。新興財閥に対抗し白ヴィキを政府高官として登用した。秩序のために中央政府の権限を強めたが、統計を見る限り汚職も治安も改善してはいない。彼の行動は、チェーカーでもKGBの虜でも権力の追求でもなく、CEOとして経済的利得を目指しているとみたほうが説得的とのこと。西洋受けのいいメドベジェフに政権を委譲したほうが得だった、と。メディアへのしめつけは強いけれど、彼の高い国民人気は経済の高成長によって支えられているとのことだ。
4章はメドヴェージェフ。法学者としてスタートし、やはりサプチャークの引き立てにあってプーチンを補佐していた。2008年からは大統領になったものの、政権内にはプーチンの影響下の人物が多いため、彼独自の路線を歩むことは困難。自由経済を維持するという姿勢は示しているが、改革の進展は遅い。こうした状況はしかし金融危機とグルジア紛争で一変した;再び西洋への疑念が持ち上がったのだ。周縁部がロシアから離れていく可能性を見過ごせず、再びプーチンが帰ってきた。
5章はソ連の崩壊について。経済危機、政治の自由化、少数民族のナショナリズムの再起、際どい選挙戦、地方の実力者(ノメンクラトゥーラ)の貪欲さ、中央が軍を動かせなかったこと、ソビエトがそもそも他民族を不安定に抱えていたこと、これら「全てが組み合わさって」生じた事態だった。周縁部に住むロシア人は、「ロシア」に住むよりも得だと捉えていたようだ。
6章は民営化について。しばしばなされる批判は、「政治的にどんな方法が可能だったか」を見落としている。強圧的な手段をとったり、利益団体に離間の策をとったり、アメを与えたりしながら改革を遂行する必要があったのだ。ゴルバチョフから引き続く消費危機のため国民人気が低下した大統領は、批判者に対して譲歩をせねばならなくなった。98年の通貨危機は、誤解によって生じたとみている。海外投資は増えていたし、黒字予算だったし、経済は順調に伸びていた。プーチン政権のもとでは、石油価格の高騰で経済は安定しているが、汚職や裁判所の政治化が進んでいるようだ。
7章は政治力学について。制度が変わっても必ずしも政策が変わるわけではない。また他の国同様、ロシアの指導者は国民の声を気にしている。
8章はチェチェンについて。その古く多様な文化が綴られ、19世紀以降の政治史も描かれる。他の地域は中央からの譲歩を得たが、チェチェンだけは紛争に至った理屈が考察される;現地の指導者は軍隊出身で政治交渉のやり方を知らず、また周辺部への安全保障が危惧されたのだ。
9章は欧米との新しい対立について。ロシアからしてみたら、ソ連から脱退した国々は次々にNATOに加盟して四面楚歌になるし、コソボでのNATOは平和維持のはずなのに無辜の市民を殺害しているし、グルジアでは反露な指導者を応援するしで、欧米は信用できない。欧米からしてみたら、歴史を鑑みればハンガリーやポーランドの恐れはわかるし、コソボでは虐殺が相次いでおり即時の鎮圧が求められていたし、ロシアの政権は暴力的手段をとりがちだし謎めいているしと、やはり軍事的に脅威を覚える。ただ相互理解の兆しが見えなくもない。
10章は国際比較。よくメディアから独裁的だと非難されるけど、同じような所得の国々と比べれば、そう大差ない。民主的と言い切れず、メディア報道の自由は完全ではなく、資源価格に影響を受け、アルコールのせいで人口問題に苦しんではいるけれど、中所得の普通の国だ。民主主義に関しての理解も西洋とほとんど変わらない。そのうちまた隆盛するでしょう。

(感想)
・政治家の生い立ちを述べたり、政策のみならず人物評価にまで踏み込んでいたり、政治学の人というより歴史学の人のような本のスタイル。とりあえずエリツィンがすごいことがわかった!
・各章では通説を批判し、新しい視点を導入するという書き方になっている。二重否定が延々と続くので読むのはしんどい!でも、「誰がいて」「どんな目的を持っていて」「どんな代替手段をもっていたか」、この三点が非常に明確に述べられている。そのためわかりやすいのは確か。(チェチェンの説明、ドゥダエフがアホだからというのはちょっと苦しいけど。。。)
・好き放題やれる邪悪な指導者というイメージが払拭された;ロシアの政治家はいちおうルールに則って権力争いをしているのがわかった。おすすめです。
・著者みたいなスパイや外交担当のアドバイザーが欲しい!メディア報道や政策から動機を洗い出すのって、交渉のテーブルに付く前に重要なスキルだよね。共通の利がないかどうか探るのにこれほど適した人材っていない。

(気に入ったエピソード)
中学生「スパイ映画格好良いや、僕も将来スパイになろう!」
諜報局「志願してくる人は絶対採らないから、大学で法学を勉強しておいでよ」
その後KGBや副市長を経て少年は大統領になったとさ。
posted by Char-Freadman at 03:55| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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