2012年03月03日

独裁の手引き

独裁者の必読書!タイトルに惹かれた。

"The Dictator's Handbook: Why Bad Behavior is Almost Always Good Politics", by Bruce Bueno de Mesquita, Alastair Smith



政府やビジネスで、政治がいかに動くかを説明するのが本書の目的。
いい政治とは何かとかは他を当たってくれとのこと。政治家個人の同期に焦点を当て、政治のルールを探っていく。
政治とは権力を得て維持すること。生き残るためには、頼れる相手は最小限にしてポストに止まり続けること。支持者になりうる人がたくさんいるとき、リーダーは好き放題やれるようになること。これが本書の中心的内容だ。

1章はelectorate theoryの概要。名目上の選択者、事実上の選択者、勝利連合の三つの次元に分ける。名目上の選択者とは、リーダーを選ぶ権利を法的に持っている人のこと。事実上の選択者とは、リーダーを「実際に」選んでいる人のこと。勝利連合とは、事実上の選択者のうちで、リーダーがオフィスに留まるために必要な支持を構成する人たちのことだ。たとえばソ連なら、全市民が名目上の選択者、共産党が事実上の選択者、その中の派閥が勝利連合となっている。それぞれ、交換可能なもの(interchangeable)、影響力のあるもの(influential)、必要不可欠なもの(essential)と呼び、区別していく。
2章は権力の座に登りつめるときについて。以下の要因が効いてくる。
現職が死にかけていること;既存の支持者はこれまでどおり権益を得られるか不安になる。
破産;カネがなければ支持は得られない。ウォッカの販売を禁止したツァーとケレンスキーはどちらもしくじった。
沈黙は金;支持者の疑いを招くことはしてはならない。ベン・ベラは失言によって放逐された。既得権益から追い出されることを恐れた支持者の反抗にあったのだ。
制度改革;勝利連合を小さくするための制度変化は政治家の好むところだ。
民主制のもとでは、立候補するには簡単だが、より多くの支持者が満足しそうなものを提供することになる。
相続;アメリカ大統領たちの20%は親戚同士ーー家族の財産を守ってくれるのは家族だけ。民主制のもとではより暴力が少なくなる。
良い政策;民主制にあっては、国民により多くのものを提供できる政策が勝つ。アイデアの競争になるのだ。戦争に疲弊したイギリス国民は、チャーチルではなく国民健康保険や福祉国家の建設を目指したアトレーを選んだ。
離間;現職の味方を分裂させること。リンカーンは奴隷に関して民主党を分裂させることに成功した。
現職が死にかけていたり、支持者にとって間違った政策を採っていたり、自己中心的になりすぎていたりしたら、対抗馬にとっては挑戦するチャンスだ。機会をうかがい、素早く実行に移すべし。
3章は権力の座を維持することについて。頼る人数はできるだけ少なくし、挑戦者を退け、仲間には適度な利益を分け与え続けねばならない。ヒューレット・パッカード、フセイン、レーニン、サミュエル・ドウといった例が挙げられている。連記投票は未熟な民主制のもとでしばしばみられる。
4章は課税について。カネは、支持者を集めるのに非常に効果的。貧者から奪い、金持ちに与えると良い。専制のもとでは少数者に頼ればいいので、税率は非常に高くなりがちだ。確かに国民全体は働かなくなるけど、独裁者が支持者に分け与えるに充分なパイだけ確保できればよろしい。
5章は政府支出について。公共財は供給するけど、ギリギリ生活するのに必要なだけあればよい。独裁のもとですら最低の教育水準や栄養は維持されることになる。
6章は汚職について。汚職があれば政権維持は容易くなる;政府に反抗的な人間に対して難癖を付けるとよい。ロシアの警官の給料は低く、汚職せねば生活が成り立たない。彼らは訴えて追放されるのを恐れて政府に従っている。
7章は援助について。独裁者のふところを暖めるだけだ。危機があると国民は立ち上がるかもしれないことを考えれば、むしろ悪と言える。確かにNGOはある種の公共財の供給に優れているけど、5章でみたように専制のもとでも最低限の水準は提供されるから、余分なカネが独裁者のもとに行くだけ。民主制の国が独裁制の国へ援助するのは、共産主義やテロリストに対抗するといった外交目的があるから。以下のように説明できる;
民主制A国;多数の国民がB国の政策を自国に有利なものに変えたいと思っている
独裁制B国;A国に有利な政策にするために満足させねばならない人の数は少ない
パキスタンのアルカイダ対応をみていると、援助をするなら結果が出たあとに支払うほうが良さそうだ。テロリストを殲滅してしまっては援助が得られなくなるという構造では、やる気が引き出せない。
8章は反抗について。政府の転覆がありえそうに思わない限り、人々は立ち上がらない(※)。地震や津波など危機が起きると、政府に反抗する人が充分な人数になる可能性がある。しかし、死者が多すぎる場合は、立ち上がることすらできなくなってしまう。ミャンマーのタン・シュエは海外援助を断り、餓死者がでるまま放っておいた。
9章は戦争と平和について。孫子曰く、(1)素早いこと(2)最初にしくじったらさっさと撤退しろとのこと。これは独裁制のもとでうまくいく方式。民主制では、(1)じっくり練る(2)勝つまでやる、という方式になる。独裁制での軍は、内外の敵に対応せねばならない。しかし民主制の軍は、敵国に専念できる。また政府のために国民が一丸となって闘う。実際、イスラエルはアラブの国々に勝利した。民主制の国は勝てそうな相手を選んで戦争し、勝った暁には自国に都合の良いように政体を変える。
10章は何をすべきかについて。コーポレートガバナンスについては、ネット上で株主同士が話し合える場を設けるのが望ましい。アメリカでは勝利連合の大きい地域ほど発展している。選挙区いじりをやめさせ(&数理政治学者とプログラマーに設定させ)、選挙人団を廃止し、移民を受け入れてより多くの人の厚生が上がるようにすると良い。観光収入を狙って市民の自由を認める権力者もいる。援助によってインターネットや携帯電話など、自由のために市民が蜂起しやすくする技術を導入すると良さそうだ。

まとめるとこうなる→独裁者五ヶ条;

一、連合は出来るだけ小さくすべし。
権力の維持に必要な人を減らすことができます。金正日万歳!

一、名目上の選挙権所持者は出来るだけ大きくすべし。
独裁者を支持する人がたくさんいるなら、反対する人を追い出すことが可能になります。レーニン万歳!

一、カネの流れをおさえるべし。
誰がパイにあずかれるかを決めるのは独裁者のアナタ。ザルダリ万歳!

一、市民は生かさず殺さず。
独裁者のアナタになりかわろうとするヤツが出てこないようにしましょう。ムガベ万歳!

一、支持者のカネで全員の生活を改善するべからず。
あまり支持者を虐めすぎると反抗します。空腹なヤツは反抗する気力もないのでパイを分け与えてやる必要は無く、味方にだけ利益をあげればいいのです。タン・シュエ万歳!

まもらねば、ぶるうすがしかる。
資源があるときは、労働に頼らなくとも搾取ができるため、独裁が蔓延りがち。

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(感想)
・政治学の研究書のはずなのにビジネス書みたいなハウツー本になっててワロタw
・妥当な仮定、わかりやすいロジック、当てはまる例多しと、実に読みやすい。豊富な事例を通して、独裁へのロマンが打ち砕かれること請け合い。政界での生存戦略を追及しているのは独裁でも民主制でも一緒で、結果が異なるだけ。
・中国の人権政策とかロシアが偉大な国に回帰するとかいう表現に対して、主語はなんだよといちゃもんを付けていたのが素晴らしい!そういう政治文学語る人は文学部に行ってもらいたいところだ。ゲーム理論と統計を使ってぐりぐりやるのがさっさと主流にならないかなあ。何言ってんだコイツと思ってた学者(ハーバーマス、フーコー、ロールズ)がまとめてdisられててほっこり^p^ 葬られてしまえ。
・なのでこの本で「アメリカが〜」とか「独裁制が〜」とか「民主制が〜」と表現されるときは、それぞれ「アメリカの大統領が〜」とか「大きな連合の国では〜」とか「小さな連合の国では〜」という表現の省略形となっている。
・ただ「共産主義を恐れたアメリカは〜」という表現はちょっとひっかかった。アメリカ大統領(=アメリカの一般国民の総意)はなんで共産主義を恐れるの?
・「Oxfordは独裁者養成校」ワロタwたしかにそのとおりw
・リアリストな書き方になってて、「残酷だけど政治戦略としては効果的だよね、わあすごい」という表現が至る所にみられる。普通に痛罵するよりこうやって皮肉をきかせてるほうが好きだなー。
・(※)これはスタグハントゲームといって、銀行の取り付け騒ぎと同じ構造;http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B0%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0
自己充足的な期待というヤツです。
・経済学者は優しすぎるという罵倒は珍しい!「援助は独裁者を増長させるだけ」という表現に開発経済学者は腹を立てるかもしれない。ただ、ランダム実験その他で蓄積された知恵自体は、まともな政府になった暁には、役に立つようになる。(おそらくその有効性は本書の著者も認めるところ。)それは、戦時中の人体実験が、戦後の医薬の発展に寄与したのと似たような構造だ。必要悪。それはそれ、これはこれ。
・FIFAやIOCの汚職にまみれた姿が描かれている。ロゴがちょっとでも似てたら訴追されたり、店の名前を強制的に変えさせられたり、権利者って横暴だなあ。数億も支払ってまで経済効果あるのか?地域の首長に利をもたらすだけではないのか?という気がしてきた。
・何がinfluentialとessentialをわけ、interchangeableとinfluenceを分けるんだろう・・・。

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posted by Char-Freadman at 02:21| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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