2012年03月06日

文明の対価

Sachsがアメリカに関してボヤいているようだ。

"The Price of Civilization: Reawakening American Virtue and Prosperity ", by Jeffrey Sachs



アメリカの価値観は崩壊しつつある。儲け過ぎなCEOや学者は社会的責任を果たしていない。富の追求にいそしむだけで、あとはどうでもいいという態度だ。税を公平にし、社会の要求に応えるように教育を行い、将来にわたり社会の連帯を維持するという管理義務を果たす、つまり「文明への対価」を支払わねばならないーーこれが著者の問題意識だ。アメリカの現状に興味のある人はどうぞ。

政府への信頼は薄く、幸福指数は伸び悩み、中位所得は横ばいで、失業率は高く、貯蓄率は低く、CEOは儲け過ぎ、政治も機能していない。経済、社会、政治、心理といった点から分析を進めていく。

市場だけでは効率性も公平も維持可能性も保証されず、政府の助けは必要。ニューディール以降、道路やダムなどのインフラ建設・地域振興・社会保障といったサービスを政府は供給するようになった。成長の守護者として信頼を積み、60年代半ばには貧困との戦いを打ち出し絶頂期となった。しかし、金本位制の崩壊・赤字予算・オイルショックといったマクロ経済的要因によってその信頼は失われ、「政府こそが問題」と言われるようになってしまった。レーガン政権は高所得者への減税・民間予算の削減・規制緩和・政府サービスの民営化といった特色がある。研究開発の資金は削られ、ウォールストリートで不届きものが私腹を肥やすようになってしまった。

市民権運動、ヒスパニックの増加、サンベルトの勃興と都市の空洞化により、アメリカは分裂してしまった。とはいえ、平等に機会が与えられるべきこと、最大限努力すること、不運な人は救うべきことといった点に関しては、概ね同意がある。ただ、誰が税負担をしているのかに大きな誤解が生じている。重い税負担をする金持ちはカリフォルニアなどの「青い州(※)」に住んでいるけれど、むしろ高い税率によって利益を得る州は民主党に反対してしまっているのだ。

グローバル経済はアメリカの立ち位置を変えた。中国その他途上国からは低賃金労働力が大量に供給されるようになったため、技能の低い労働者の賃金は低下した。いっぽう資本は移動性が高いため、各国は税率を低くして誘致している。したがってアメリカ国内では、会社は勝ち、労働者は失うものが多いという状況だ。国際協調で税率を設定し、天然資源が失われないようにせねばならない。

アメリカでは政党が弱く、各地区の代表が強い。また産業界のロビイングが強い。会社のカネが選挙キャンペーンに影響する。民主党も共和党も同じカネを目当てに、似たような政策(right-center)を打ち出すようになってしまった。軍産複合体、ウォールストリートとワシントン、石油、健康といった産業がアメリカ政治を蝕んでいる。外交も中東の石油を目的に組まれている。気候変動は人によりもたらされたという多くの科学的業績があるのに、エネルギー産業とグルになったメディアはそれに不当な疑問を投げる。

アメリカ人はメディアを過剰に使っている。平均すると、TVの前に8時間半も座っているのだ。心理学が明らかにする所によると、人の心には展性があり、衝動的になったり、無意識に行動したり中毒になったりする。過剰消費や借り過ぎといったマクロ経済要因にもなっている。インターネットは発達したものの、基本的な知識を持っている人の割合はだんだん低下しつつある。

過剰消費をそそのかすメディアからは目を背け、自分自身と向き合い社会のことを考えるべき。ワークライフバランス、教育、協調、生態系の保護、貯蓄、多様性の認識、といった点に関して、"mindfulness"(=注意深く考えること)を持つべし。教育効果の高い0~6歳児が貧困の犠牲になるのを食い止め、化石燃料には課税する一方で低炭素なエネルギーに補助金を与え、無駄な防衛費を削減し、幸福指数や発達指数を使いながら真の厚生に向けて国を改革する。人的資本にスピルオーバーがあるとき、地区ごとに競争があると望ましくないことが生じる;税率を低くして住民を誘致したり、金持ち同士でつるんで貧乏人が住めないような高い地価になったりする。公共財の提供は各地で行い、収入の担保は中央政府が行うべき。さしあたってはガソリン税を上げたり、付加価値税を導入したり、とにかくなんとしても税収を増やす。そして政府は明確な目標を持ち、専門家を駆使し、政策は長期的展望から描き、金権政治を廃止し、地方分権を推進するべきとする。新しい世代はより進歩的で、真の福利を推進する第三の政党が芽生えるかもしれないとみている。

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(感想)

・サックスは「偉大なる踏み台」として認識している。
「地理的要因が経済発展に効く」→「地理は効きません、効くのは制度です」by Acemoglu, Johnson, and Robinson
「ガンガン援助しようぜ」→「もっと丁寧にみましょう」by Duflo
というわけで彼とは逆の解釈を示しておこう;政府はあくまで脇役で、邪悪な鉄道王が改心したり、パソコン長者が福祉に目覚めたり、とにかくエネルギーの有り余ったヤツが牽引するのがアメリカ社会。山積する難題はすべて科学やカネーー物質的なモノーーで解決してやるぜという姿勢でいいんじゃなかろうか?

・まとめると「持てる者にじゃんじゃんカネを使わせよう」との提言なわけだ。
まったくもってブレない!!!wインフラや貧困家庭など、効果があがりそうなターゲットを探してくるのに長けているのが経済学者というもの。

・「〜べき」論をすぐにぶつからあんまり好きじゃないんだよナァ。価値観が崩壊とか、米国のかつての一流経済学者にしては使用する語彙が杜撰すぎる。。。とはいえ、「救いの手」を主張する左派の経済学者だけどハイエクやフリードマンへの理解も示している!凡百の論客とは異なり、流石。

・「真実はなかなか明らかにならない。ハ大の同僚がインサイダー取引で罰を受けたとき、大学当局は懲罰に抵抗しようとした。(中略)サマーズは規制緩和を進め、アカデミアでもウォールストリートでも栄光ある地位を占めている(2章)」「ウォールストリートとワシントンの繋がりは深い。(中略)オバマのもとではサマーズ(後略)(7章)」サマーズ・シュライファーの師弟コンビに敵意むき出しでワロタw

・(※)民主党を支持する傾向がある州のこと。

・税の国際協調についてふれており、あたかも他国の競争に巻き込まれているように書いている。でもさあ、「条約で決定された事項を議会であとからひっくり返せるようになっている国」はアメリカくらいのもんなんだけど・・・w

・「いまや海外のことではなくアメリカに興味がある」と前書きに高々と掲げているんだけど、世銀のトップの候補として出馬してるねえ。まあしっかり仕事してくれるぶんにはかまわないけど。

・Christina Romerも「要職から降りたあとに」増税を主張したとしてdisられていてワロタw経済学者に容赦ないw

・CEOの給料が高すぎるかどうかって結構議論の余地があるんだけど;

・ネットサーフィンは読書と違うって意見だけどさぁ、それSachsが老人だからじゃない?小さい頃からPCやタブレットで読み書きしてきた人だったら、普通にPCのスクリーンを通しても「読書」できるんじゃないかな。(データ求む;30年くらいかかりそうだけど。。。)

・宗教家やケネディの発言を持ち上げたり、レーガンをことあるごとに非難するSachsの書き方をナイーブだと捉える人がいるかもしれない。でも彼は若くして正教授に上り詰めた秀才で、長年にわたり要職に就いていた重要人物もある。ケネディの短所もレーガンの長所も知っているだろうし、何より政界での生存戦略に長けているだろう。「アメリカ政治を改革しよう!」という本を出版するウラには何らかの優れた意図があるんじゃないだろうか?

・たぶんほとんどの日本の読者は「多様性の認識(笑)」と聞いてもあんまりピンとこないと思う。アメリカの黒人やヒスパニックや原理主義的宗教はやることが過激で、それでもなお認めようと言っているわけです。

・読みながら結構イラつくこともあったけど、若い世代に希望をみていたのは素晴らしいの一言。自分たちの世代より開放的・多様・繋がりが多く・教育も受けているなんて、なかなか発言できるものではない。

・ちなみに「文明の対価」とはオリバー・ウェンデル・ホームズの言葉で、税金を支払うときには安全な地域に住めることに対して支払っているという意味。
posted by Char-Freadman at 05:12| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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