2012年04月04日

創造性の分解

脳科学の研究や豊富な企業のケースを駆使し、創造性はどこから来るのかを考察していく。

"Imagine" by Jonah Lehrer



1章は全体構造の把握について。右脳はかつて役立たずと考えられた時期があった。しかし右脳に欠損がある患者は、絵を描くことや皮肉の理解ができない。これは、右脳が全体構造を把握する能力を司るためだ。すべき方策をすべてなし、いらついたのちに解決策がみえてくるもの。閃きの前には右脳からガンマ波が流れてきている。

2章はリラックスについて。白昼夢の研究によると、白昼夢の中に自分がいると認識している場合に、特にひらめきがもたらされるそう。また、早朝のリラックスしている時間帯が創造的な思考には適しているとか。注意を集中させることが必ずしも創発性には繋がらず、むしろ多動性の人のほうがひらめきをもたらす可能性がある。新しい状況に古いやり方を当てはめると解けることがあり、複数の領域をまたぐとよさそうとのこと。従業員の労働時間の15%を新しい問題の追究に当てていいとする3Mの多くの成功事例が取り上げられている。

3章は多様な思考方式について。オーデンやエルデシュのように薬物を使いながら創造的な仕事をする人がいる。薬物は脳内のドーパミンを活性化する;ドーパミンは喜びを得ると同時に思考を集中させる効果を持つのだ。ドーパミンは注意を高めると同時に、アイデアを結合させもする。ワーキングメモリとなる前頭葉が活動し、より多くの情報を得られるのだ。I ハート(トランプ) NYなどの優れたデザインを手がけるミルトン・グレーザーは、芸術は仕事だという。繰り返し繰り返し、もうその先にはいけないくらいまでアイデアを洗練し続けるのが彼のやり方だ。ワーキングメモリーは重要、というのも必要な思考が現れるまで注意を払い続ける必要があるから。アイデアは再帰的に結合し続けることで豊富になる。
憂鬱な気分は閃きを減らすものの注意力は高める。まるでアンフェタミンのように働いている。作家に鬱病や躁鬱病者が多いのはそのため。
問題が多様なら解決策もまた多様。久々に会った人の名前を忘れているとき、ちょっと努力すれば思い出せるのにと感じるだろう。この「知っているという感覚」のおかげで、どちらの思考方式を当てはめればよいかわかる。袋小路に追いつめられたようであればシャワーでも浴びてリラックスするとよいし、もう少しすれば解けるというときはとことん集中するのがよい。

4章は自我の解放について。ヨーヨーマは演奏の際にミスを恐れず、むしろそれが自分らしい表現に繋がるという。研究によると、ジャズの即興演奏では、自分を表現するという脳の部位が活性化されているようだ。プロサーファーのクレイは、自閉症ーー想像力の欠如と一般には考えられているーーであるため、むしろ波をよく理解できている。ハリウッドの喜劇養成所では、自分を抑制しないことを学ぶ。前行性痴呆症の人は、自分を抑制する脳の機能が欠けていくため、新世界が開けたように感じ芸術に興味を持つようになる。

5章は外部について。傷心からバーテンダーに挑戦しヒットするカクテルを生み出したプログラマーや、欧州旅行で見かけた人形をヒントに生まれたバービー人形、自社で解けない科学的問題をネットで懸賞にかける薬品会社イーライリリーのInnoCentiveなど、解決策は外部からもたらされることが多い。作家もまた作品の校正の際は寝かせた後にすべきと言われる。子どものように若々しく恐れを知らない心意気があれば、ずっと生産性を高め続けることができる。

6章はチームの重要性について。ブロードウェイのミュージカルでは、見知ったもの同士だけで組んでも、まったく見知らぬもの同士で組んでも、ヒットすることがないことが研究により明らかになった。ジョブスはピクサーの建物を設計したとき、カフェやら土産店やらトイレやら重要なものを全て中心部に押し込んだ。それは社員同士が偶然遭って思いもよらない会話を始めるよう狙ったため。より多くのメッセージを送りあうトレーダーが、より稼いでいる。褒めあうだけのブレインストーミングより、批判をしあう討議のほうがより生産的;たとえ間違っても、グループが直してくれると信じるから、発言するようになる。ナイキやピクサーの成功例が取り上げられている。

7章は都市について。多くのものが集積するというメリットがある。特許取得は同じ都市に住む人同士で起きがち。歩行者は早歩きで少し居心地は悪いものの、相互干渉が新しいアイデアをもたらす。ボストンのルート128はかつて大企業が集まっていたが、水平方向にアイデアが行き来せず上意下達となってしまい、サンノゼ周辺のシリコンバレーに追い抜かれる結果となった。人が増えるほどに都市は加速していく。イスラエルでは91%の都市人口率を誇り、皆が皆を知っている。予備役の必要から「弱い連帯」が人々の間に生まれており、これがハイテク企業の集積地になっている理由の一つかもしれない。

8章は天才たちの集積について。アイデアは失われることなく、他のアイデアを刺激する。シェイクスピアはマーロウなど同時代の劇作家たちや歴史書から盗用し、文学史に名を刻むような傑作を残した。アイデアが広がるには必要な方針がある;エリザベス期のイングランドは文芸の検閲が緩くなり、また貿易で人の繋がりが多様になった。多数のアーティストをニューオーリンズから輩出するNCAAは、徒弟制で生徒たちに「作りながら学ばせる」というやり方をとっている;創造性は教えることが可能なのだ。リスクを取ることも重要。

創造性に興味がある人にオススメ。

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(感想)
・ボブディランの歌に言及したり詩文の解説をする節があったけど、洋楽や英文学に疎いのでさっぱりわからんからまとめから割愛してしまいました。ご了承ください。知らんもんは知らん。

・探すのを止めたとき 見つかることもよくある話で;ミネルバのフクロウはたそがれに飛びますね。

・脳科学の研究紹介の部分は大変わかりやすかった。一方それを利用して各種の創造的行為を説明する部分にはなんか胡散臭さが残ってる感じが。。。ヤクをやれば必要な知識を持ってるみんなが数学解けるの?とか詩人になれるの?といった疑問が湧くわけで。

・大学はコーヒー飲む時間を設けるとよさそうだね。交流ということで。

・都市に言及するんだったらやっぱ東京を語って欲しいな〜。古本屋街・スポーツ店街・楽器屋街・電気街が立ち並ぶ東京は例としてうってつけだし。

・大学院生向けにまとめるとこうなるか
(i)早起きしろ&メモをこまめにとれ
(ii)コーヒーアワーやセミナーに行ってとにかく人と話せ
(iii)指導教員や上司の手足として四の五の言わずにまず働け
posted by Char-Freadman at 01:40| 北京 | Comment(4) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
本書は不適切な引用(?)などで絶版になったようですね…。日本では絶賛発売中のようですけど。著者のplagiarismも最近問題になっていて驚きました。
Posted by k at 2012年09月02日 10:42
なんと!それは知りませんでした。よければことの顛末を教えていただきたく。。。
Posted by Char at 2012年10月10日 04:37
理解している範囲では:

ブログなどで、過去記事と最新記事の重複が指摘

記事掲載先の雑誌・新聞社がチェックチェック〜

雑誌・新聞社「omg...」

各方面から謝罪等&著者活動休止(?)(←イマココ…)

です。NYTの書評では酷評されている部分もあったかと思います。詳細はウィキペディア先生に…:

en.wikipedia.org/wiki/Jonah_Lehrer
Posted by k at 2012年10月17日 18:17
Wikipedia詳しいですね、ありがとうございます!

ネタとしては面白かったので本が回収されてしまったのは残念です・・・。
Posted by Char at 2012年10月27日 06:14
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