2012年04月10日

Poor Economics 再訪

今季のJournal of Economic Literatureには、Banerjee & Dufloの"Poor Economics"への評が載っている。(Journal of Economic Literature, 2012, 50:1)
(関連; http://charkid.seesaa.net/article/211875275.html)

Martin Ravallion (pp 103-114)

・RCTもデータとして欠陥がある; 外部の妥当性がなかったり、再現可能性を欠いたり、スピルオーバーや一般均衡の効果が無視される。またインタビューされた人が一般的な貧者かどうかは不明だし、倫理的問題はあるし、政治的に問題ない地域にしか行われなかったり、良いNGOが選ばれていたりする。ただ、政策当局に対する指針にはなるだろう。
・大きな方向付けとして疑問; 貧困の罠は解決されるのか。

RCTに対して通常よくなされる批判が並ぶ。まあ、構造推定の仕事の人だしむべなるかな。

Mark Rosenzwieg (pp 115-127)

・真に貧困を離脱するのがいかなるときなのかには触れられていない; インドの緑の革命は無視されているし(※)、移住・職の流動性・産業の発展による貧農の吸収(※※)といったトピックはない。援助でいかに救いの手を差し伸べるかが本の焦点。一般読者を意識したのか、批判的な検討にはなっていない。データの欠損は無視されている。
・マラリア対策なら殺虫剤・湿地の除去といった方法があるのに、どれが一番効果的かは考慮されていない。
・誇大広告; 援助の利益は相対的には高く見せかけられているけど、絶対的水準で見たら大きくない。Progresaの学校補助は、0.66年しか学齢期を伸ばさなかったし、多分日雇い労働者にとって5セントくらいの価値しかもたないだろう。問題が大きすぎて解決する気をなくすという無力感に対抗するレトリックとはいえ過剰すぎ。
・貧者にとっての得を測るのは難しい; 賃金労働ではなく家族の一員として働くのが一般的なのだ。このため賃金のみならず、農場やその他の自営業のリターンを測らなくてはならない。また家族労働のコストも測らねばならない。また所得には大きな変動があるため、研究スパンが1年やそこらでは本当に貧者が得をしているのかは不明となる。
・虫下しの研究では大きな利得が報告されているけど、3/4のデータは失われていて、RCTの美点であるはずのデータの綺麗さはない。
・「小さく考える」のはいいけど、次に何をすればいいのかはよくわからない。

こちらは著者たちの使ったデータに踏み込んで欠陥を指摘しており、より具体的で深い。こんな批判ができるようになりたいものだ。……そして〆の言葉が痛烈;
"Thinking small may or may not have large future payoffs for the poor, but it has surely already done some good."
(拙訳)
小さく考えるってのがこれからも貧者にとっていいかどうかはわからんけど、いまのところはうまくやってるようだね。

(※)緑の革命のメリットが実はそんなにでかくはないという論文をどこかで読んだ記憶があるのだけど失念。。。誰の何てやつだったか。。。
(※※)Lewis-Ranis-Feiの、都市と農村の二重経済モデルのこと

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・邦訳がもう出ていますね、早いなぁ。補足でデータを眺められるのは素晴らしい。



http://cruel.org/books/poorecon/

細かいけど商品説明にあった「ランダム対照試行」は「ランダム比較実験」のほうがいいと思う。たしかにtrialは確率・統計の文脈だと「試行」と訳されるのが一般的だけど、疫学分野だとrandomized control trialはひとつながりとして「ランダム比較実験」と訳されることが多いから。処方箋を出すみたいなお話の流れだけに医学を範に取った方が近いのでは。
(……ただ大学教員の講義ノートでの訳って結構テキトーだけど。。。)
posted by Char-Freadman at 08:10| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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