2012年05月22日

オランド税率の最適課税論的起源

SaezとDiamondが最適税率は70%超かもしれないと言っている。

"The Case for a Progressive Tax: From Basic Research to Policy Recommendations", by Peter Diamond and Emmanuel Saez, Journal of Economic Perspectives Vol25, Number4, Fall 2011, pp165-190

【最適課税論とはなにか?】
以下の特徴を持った社会厚生関数を政府が最大化するとして、歪みの少ない税制にするにはどうしたらいいかを考える分野
・より平等な分配になると嬉しい
・富んだ人より貧しい人を重視する
ただ、課税しすぎると働かなくなる。効率と公平をどうバランスとるかというお話です。

著者はこの論文で三つの提案を掲げる

1. 超高所得者の限界税率は所得とともに上がるべきであり、現行のアメリカ税制より高くてもよい

トップ1%が所得税収に占める割合はなんと40%。公平の面からだけでなく税収の面からも焦点に当てるべきは高所得者層。
さて肝心の、税の悪影響。taxable income elasticityで測ろうというのが、Feldstein(1995)以降public financeの新しい伝統となっている。租税回避や脱税、労働時間減少など全部の影響は「課税所得がどれくらい減るか」で近似できるよねという発想だ。すると、国庫を最大化する税率は以下の式で与えられる;

τ=1/(1+a*e)

ここでaはパレート分布のパラメータ。パレート分布とは、所得分布が従うことが経験的に知られている分布のこと。アメリカでのaの値は1.5くらいと見られている。
さて残るはeの値の推計だ。急な税率の変更(1986年のTRAなど)の前後で、高収入者の変化と中位所得者の変化とを比べたり、トレンドを調整したり、色んなテクニックを駆使するとe=0.25くらいではないかと見られている。

するとτ=73%という値が出てくる!

限界税率は減るべきとする文献もあるけど、それは一番所得を稼いでいる人「だけに」当てはまる条件であり、データには当てはまらないのだ。
ただし長期的には教育水準や職も変えてしまうかもしれず、そんなデータは揃ってない。

2. 低所得者には補助金を与えとりあえず就職をさせるようにし、その補助率を段階的に減らしていくのがよい。

伝統的には「労働時間をどれだけ減らす」かが重視されてきたけど、「そもそも職に就かなくなる」人も多い。特に女性がそうだ。そこで就職したときのみに恩恵を受ける税制にし、稼得が増えるとともにその援助を無くしていこうとのこと。

3. 資本は課税されるべき

Chamley(1986)とJudd(1985)以降、資本には課税しないほうがいいという論文は多い。資本に課税すると、重複して税をかけすぎちゃうというのがその理屈;
今日の1円を貯めると利子rのおかげでT年後には(1+r)^Tの価値になるけど、利子rに資本課税τがかかるとたった(1+(1-τ)r)^Tにしかならない。Tが長いほどその影響は大きくなってしまうのだ。税収が必要なら現在の富裕層から分捕り、資本市場で運用して調達するのが歪みが小さくなる。
でもそんな長期のことを考えて最適化している個人はいないし、たとえば思いがけず急死した人の遺産に課税したところで歪みは生じないーーだってもう死んでる!おまけに現在の富裕層からカネを取ってこようとしたって、政治的な反対に遭うに決まっているのだ。
労働による収入と資本による収入とを綺麗に分類するのも難しい(Char注; ストックオプションとかをイメージするとよいのだろう)。所得税と資本課税にあまり差が生じるとよくないのだ。
借り入れ制約に引っかかっている人も居るかもしれず、そういう人にとりあえずの流動性を供給してあげるのは望ましい。カネのあるところから政府が調達してあげればよい。
将来の収入が不透明だと、予備的に貯蓄をしすぎるかもしれない。そして労働を減らすだろう。そこで貯蓄に課税をかければ労働の歪みが減り、ひいては税収増となる。

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(感想)
・オランドの主張する75%の税率、根拠はこの論文かもしれない!?

・まあ「最適課税論」という考え方を使ってアタマの体操をしてみました!という位置づけでいいんじゃないかな…w

・New Dynamic Public Financeという文脈だとマクロ経済学者がメカニズムデザインを駆使して誘因制約を満たした上で税収を最大化するような問題をグリグリ解いているけど、「実行するには複雑すぎ」とのこと。実証するのはなお難しそうだなぁ。

・日本のaの値はどうなってるんだろう。

・この論文だけだとあんまりピンとこないかもなので、併せてMankiw, Weinzierl and Yagan(JEP, 2009)"Optimal Taxation in Theory and Practice"も読むと良さそう。そこでは最適税率は所得とともに「下がる」こともありうるとしている。パレート分布かどうかわからないじゃんというのがその理屈。

・最適課税論と政策との関係を追った本ならこんなのがあるみたい;



いま目を通してるけど、70年代中盤から80年代中盤にかけてのStiglitzはまさに鬼だね。引用される論文の多いこと多いこと。いまは、、、
posted by Char-Freadman at 11:26| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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