2012年05月25日

雇用の地域化と国際化

雇用の状況を考察した本が出ていた。

"The New Geography of Jobs", by Enrico Moretti



アメリカにはチャンスが転がっている、長いことそう信じられてきた。でもいまや教育について格差が拡大しつつあり、中位所得者の生活水準は30年前のそれと比べて落ち込んでしまった。犯罪にまみれる都市がある一方、シリコンバレーは繁栄している。そこには付加価値の高い産業が集積しているのだ。
でも、何でハイテク産業を気にしないといけないのだろう?それは、生産性が上がり高い付加価値を生むことで経済の動力になっているのはハイテク産業であり、またエンジニア一人が雇われるとその他の職も生まれるーー弁護士や医者やタクシードライバーが必要になるーーからだ。情報技術の発展によって、世界はフラットになったはずじゃなかったっけ?でも事実、僕らがどこに住むかはより一層重要になってしまった。知識を持つ人のそばにいることは大きな利点になる。本書は多くの都市と職を検討し、変化の原因を探っていく。

1章は歴史の概観。製造業の勃興によりアメリカは繁栄に至った。でもいまの高卒者の賃金は30年前のそれと比べ、落ち込んでしまった; グローバル化と技術進歩がその原因で、労働が要らなくなってきた。地産地消という動きはあれど、その趨勢を覆すほどのものではない。中国の脅威に晒される土地はグローバル化の恩恵を受けられない。企業は品質を高めることで対応しようとしている。半導体やコンピュータの組み立てといった比較的高い技能の必要とされる職も減っている; 低賃金低技能か、高賃金高技能な職しかなくなりつつあるのだ。メーカーの復活を唱える声は至る所で聞こえてくる。
2章はハイテク産業について。貿易可能な産業は、貿易不可能な産業に比べて生産性が高い。床屋やレストランやフィットネスといった地域に特化した職は、イノベーション産業より多くの雇用を生むものの、生産性は全然伸びていない。生命科学やITなどハイテク産業の雇用1人につき1.6人の雇用が生まれる。Facebookやその他IT企業は技能を持った人を雇うために買収をするようになった。これほど知識が重視されるようになった原因は、技術進歩とグローバル化である; いったん作れば低コストで売れるようになったし、国際的に大きい市場を獲得できるからだ。インドや中国でも技術者は増えてきてはいるが、現状ではアメリカのそれに比べて補完的な存在となっている。企業のイノベーションによる利益は賃金に繁栄されている。
3章は大分岐について。シアトルは衰退していた都市だったが、マイクロソフトの本社が移ってきたことで息を吹き返した; 技術者にとって魅力的な都市となり、人を引きつけていったのだ。オースティンやサンノゼといった都市は高い技能を持つ人が集積するようになっている。大学卒が多い町では、高卒でも賃金が高くなる; それは高い技能と低い技能の職とが互いに補完的だから。地域の差は、健康面・離婚率・寄付・政治参加の面でも見られるようになった。都市の平均を比べると最大で15年も寿命に差が出る。周りの人の生活習慣は影響するのだ。教育があるほど政治参加しやすくなる。都市に企業の本社があると寄付金の量が増える; 法人自体は寄付しないけど、従業員が地域のために貢献するのだ。そのため活気のある会社があるほど地域は豊かになる。
4章は都市の魅力について。労働市場の層が厚く、企業にとっても応募者にとっても適した職が見つかりやすい。またベンチャーキャピタルにとっても、顧客企業を監視し相談することは近いほどたやすくなる。知識の流出も近いほど生じる; 特許を取る人の住所は密になって固まっており、また近くに住んでいるほど相互に引用しやすい。これらのことから、良いサイクルに乗った都市はますます人材を集め、そうでない都市はさらなる衰退をみることになる。大事なのは、新しい職が生まれてきたときにそれに適応することだ。
5章は移住について。アメリカ人は他国に比べて引っ越しの多い。教育程度が高いほど職を求めて移動する傾向にある。低技能な職は地域に適したものしかないが、高技能な職は国中で見つかるためだ。ある都市が不調でも他の都市は好調であり得るため、失業保険によって移住を促進させるとよい; 職が少ないエリアでも、失業者自体が減れば職を見つけやすくなる!また大卒は地域に根付かないため、連邦政府がある程度の投資をしたほうがよい。アメリカ人の支出の4割を占めるのは住居費で、職のある地域は家賃がとても高くなる: 家持ちの人は得をするけど、賃貸人は損をするのだ。あるエリアが雇用活性化で高級になると、それまで住んでいた老人や低技能な職の人はダメージを受ける。解決策は流入を抑えることではなく、新しい住宅を建設して家賃を抑えること。
6章は各地域の施策について。生命科学の発達したボストン・サンフランシスコ・サンディエゴをみると、産業の勃興の原因は大学にあると思えてくる。しかし真に重要なのは「各専門のスター学者がその地域に住んでいる」ことだ; 知識の源になるし、また創業を手伝いもする。ハリウッドの転換点は1915年にD.W.Griffithが超大作"The Birth of a Nation"をぶち上げたときで、その先進的動画技術に惹かれて多くの映画マンが集まるようになっていった。シリコンバレーも同様に伝説の技師Shockleyが多くの才能を引きつけていった。貧困の罠から抜け出すには、TVAのような真に大きな「ビッグプッシュ」が必要; ある程度の人材を引きつけるまでガンガン投資せねばならない。
7章は国策について。高い技能をもった移民を引きつけるか、高校や初等教育に投資してアメリカ人自体の労働の質を高めるかする必要がある。外国生まれの大卒者が増えた地域での特許の取得は著しく増える。高校の理数教育は国際比較すると劣っていることがわかる。

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(感想)
・都市万歳系の書籍。基本的なロジックに目新しいところはないけど、イキのいいIT企業やVCのお話や、アメリカの諸都市が比べられる点は興味深かった。セレクションバイアスをどう回避しているかの解説もあるし、読みやすい。
e.g.
「大卒が多いほど高卒者の賃金も高い」→「良い高卒者は大卒の多いところを選んで住むんじゃない?」→「時系列で見て、大学卒が増えたところの高卒者の賃金の伸びは、増えなかったところのそれに比べてやっぱり高い」
「スーパースター学者とコラボすると生産的になる」→「えーでもスゴイ人同士で固まるからスゴイ業績が生まれるんじゃないの」→「じゃあスーパースター学者が急死したときをみてみよう、やっぱりがた落ちしてるよ共著者たちの業績」
学者の著書はこういう地味だけど超重要な点にも配慮しているのが特徴でしょうね。

・「知識」とか「技術」とか「新製品による人間の技能の陳腐化」とかが強調される本を読むと大変居心地の悪さを覚える。プログラム言語はからきしだし、不朽不可侵の技術を持っているとは到底言えないわけで。。。

・「サービス業は虚業だけどメーカーは実際にモノを作るからエラい」これ日本だけの病気かと思ったらアメリカでもあるのね。何が原因なんだろね。
エンジニアがまあモノが出来上がることに固執するのはわかるけど、ソニーの営業マンが「モノづくりだよね」とか言ってると何か違和感あるんだよなー。

・今後の子どもはPCにできるだけ早くから触れさせて技術を覚えて(というか楽しんで)もらうことが大事なんだろうな−。PCにできることとできないこととを峻別させて、後者の技能を磨かせると。

・デトロイト見てると東海地方が怖く思えるなー、特に豊田市。企業都市ってリスクめっちゃ高いよねえ。

・東京ガンバレ。超ガンバレ。日本中の俊英が集まり金融の調達もしやすいはず。
posted by Char-Freadman at 14:41| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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