2012年05月28日

マイクロファイナンスの批判的検討

血も涙もない借金取りと言われたり、いやいや貧困の罠から抜け出せる希望だとも言われたりする。結局のところ何が本当なのかを探るのが本書の目的だ。前半ではなぜマイクロファイナンスが必要なのかを概説し、後半ではその現状について語っていく。

"Due Diligence", By David Roodman



先進国に生きる我々にとり生命保険・健康保険・クレジットや貯蓄などの金融は当たり前のものであり、いかに優れた機能を発揮しているか認識するのは難しい。しかし途上国で利用可能なものは限られている。不安定な日々の収入を安定化させることすらままならないのだ。貧困を抜け出すことはできないものの、手助けにはなっている。
ROSCA(回転型貯蓄口座=頼母子講)は簡単だが硬直的なため、ASCAを選ぶ人は多い。連帯責任という特徴をもつ小口金融は、先進国がいつか来た道だ; 富の有無を問わず金融サービスには需要があること、貧しい人には質の低いサービスしかえられないこと、需要は一定であっても目的は多様なこと、金融のアイデアを思いつくのは難しいがコピーするのは簡単なこと、政府の役割はあまりなかったこと(イギリスの郵便貯金は例外)などが、歴史を辿るとわかる。万能な方法ではないのだ。
インフラ建設に重点を置いた貧困対策は、次第に生活に密着したサービスに重点を置くようになった。ユヌスの始めたグラミン銀行は連帯債務というモデルを発展させ、他の団体も貧困対策に乗り出した。金だけではなくノウハウも与える団体もあるし、自助で何とかしようという団体もある。インドネシアでは個人貯蓄を提供するサービスが成功した。村ごとに貸したり、保険を提供するという動きもある。マイクロファイナンスの提供は、女性を対象になされてきた。こんにちでは信用口座から貯蓄口座への転換がなされている。
マイクロファイナンスもまたビジネスであり、女性が顧客になりやすいのはより信頼できるからで、イデオロギーからではない。最初の貸し出し限度額は少なく、ちゃんと返せれば次第に限度額が上がっていく。より多額を借りたいというインセンティブから、返金しようという意識が生まれる。村による貸出しでは、強制貯蓄という形態が見られる; これは借り手にとっては一時的に払えなくなっても余裕があることになり、また貯蓄を失うことを恐れて支払いを努力することに繋がる。また生命保険にも加入させられる。人が居る地域のほうが監視しやすいため、農村より都会のほうが業務をやりやすい。
マイクロファイナンスが本当に効果があるのかを示すのは難しい。たとえば能力に満ちた人が借りに来るのかもしれず、貸付が貧困の減少に関係していても、その原因ではないのかもしれない。確かに計量的な分析はできる。こんな具合に;
土地を持たないなら貸付が可能になり、貸付が貧困減少に繋がる。
土地を持っている場合は貸付が受けられない
→貸付の資格(半エーカーの土地)がギリギリ満たされる人とギリギリ満たされない人との貧困減少の差を比べれば、貸付が影響しているかがわかる!
でもこの場合は土地の所有が直接的には所得に影響ないことを仮定しており、そこは疑問の余地がある。Pitt&Khandkerの研究例では、本来は貸付の資格がない人にも貸付がなされており、「返済がなされそうな人が選ばれている」というセレクションバイアスの問題を回避し切れていないのだ。Colemanの研究では「貧者の中の貧者」に貸付がなされているとは言えない。
ランダム比較実験がこの問題を多くの場合解決する。Karlan&Zinman(2005)では、収入や支払い履歴により決定される「信用スコア」をちょっとだけ下回る(=本来なら貸付が拒否される)人をランダムに選び、「貸付を拒否しない」ように銀行側を説得した。より職があるし、貧困線を下回ることもなかった。実際に$1の貧困線で暮らしている人を調べたのはBanerjee, Duflo Glennerster&Kinnan(2009)であり、貸付を受けた人はそうでない人に比べて開業しがちであり、スナックやタバコといった誘惑財ではなくミシンのような耐久財を買いがちになった。とはいえ貧困が減ったようにはみえない。
8割のMFは年35%ほどの利率を課しており、MF間の競争によってか利子率は低下しつつある。透明性は高いとは言えず問題を含んでおり、信頼性と融通性にも改善の余地がある。硬直的なスケジュールにコミットさせてきたが、GrameenIIではより柔軟な返済日程が可能になってきた。多重債務や支払いへのストレスもまた問題ではある。
MFは産業として確立しつつあり、商業化し、証券化もなされ、規模が大きくなり、効率性も上がり、競争によりサービスも多様化してきた。更なる金融の自由を貧者に与えるべく、改善していくとよいだろう。

マイクロファイナンスに興味のある人にオススメ!

-----------------------------------------------
(関連文献)
・著者のblog;
http://blogs.cgdev.org/open_book/

・東大の澤田先生が4.16付けの日経新聞の経済教室で簡単に紹介していた模様
・Pitt&Khandker vs Roodmanの論争が手際よくまとめられているページ;
http://www.ide.go.jp/Japanese/Publish/Download/Overseas_report/1105_takahashi.html

本書の5章にもこの論争が載ってあり、一番面白い部分。でもナァ、「現実に計量の前提が当てはまる」という信念と「MFは効果あるんだ」という信念に大差は無いとか言われるとちょっとモヤッとくる。。。

・マイクロファイナンスを調べたもの(下は邦訳);



もちろんKarlanとBanerjee&Dufloにもマイクロファイナンスに関する章はある。手法の宣伝コミなので効果が誇張気味なのはご愛嬌…(cf: http://charkid.seesaa.net/article/263532961.html)



------------------------------------------------
(感想)
・ちょくちょく貧者の生の声がさしはさまれるため、自分には読みにくかった。地味な計量分析を並べてくれたほうがサクサク読み進めて楽しいんだけど、統計の無味乾燥さに嫌になって著したっぽい書なのでむべなるかな。。。
(背景;この著者は「MFの効果を測れてない」「いや測れてる」という非常にテクニカルなやり取りをここ10年くらい延々と続けているのです)

・途上国で災害が起きると心を痛めるより先に「おお開発のデータを手に入れるチャンス」と心が浮き立つ因業深き商売である。また、全ての途上国が発展しきったら役割がなくなる。Warm Heart&Cool Headが一番要求される分野でしょうね。

・ランダム実験の結果は混沌状態にあるため、最近では構造を推定しようという動きが再び見られます。たとえばこんなん;
"A Structural Evaluation of a Large-Scale Quasi-Experimental Microfinance Initiative", by Joseph P. Kaboski & Robert M. Townsend
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.3982/ECTA7079/abstract
マイクロファイナンスの効果を測るにあたり、その構造をモデル化して推定した初のペーパー。残念ながらコストのかさむ計画であるという結果が。
しかしこのTownsendというジジイは構造推計やリスクという話になるとペンペン草も生えないくらい焼き尽くすなー。
posted by Char-Freadman at 07:05| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/272171322
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。