The Social Order of the Underworld: How Prison Gangs Govern the American Penal System (English Edition) - Skarbek, David
カリフォルニア州の監獄では囚人は身の安全を保障するために必ずしも刑務官を頼れない。本書は方法論的個人主義を取り合理的選択という見地から監獄内での囚人の行動を説明していく。暴力的だがふさわしく振る舞えないと命取りになるのが監獄内であり、様々な動機が存在している。通常、統治機構は3つの役割を果たす。所有権を保護し取引から利益を得ることができるようにし安全保障など集合行為を解決しているのだ。しかし麻薬の売人はブツを奪われても詐欺にあっても警官には頼れない。囚人は信頼できる存在とは言えず、自律的な秩序が生まれるのか確かめるには適した素材といえる。監獄内にはギャングがおり重要な存在となっている。学術文献や法廷資料や調査官の日記やギャングの旧メンバーの著述からその機能を示すのが本書の目的だ。
囚人は暴力的だが暴動発生率を見てみると概ね平和が保たれている。刑務官は全てを見張れるわけではなく怠慢になったり未経験であることもあり囚人としては頼れない。収監者間で取引してはいけないという規則になっておりスマホや麻薬など禁制品の売買に当たっては自分で何とかしなくてはならない。不実な取引相手を罰する第三者として刑務官は頼れず、取引相手を信頼できる相手に限定できるわけでもなく、相手は長期的取引を旨味に感じるほど我慢強いわけでもない。解決は困難だ。そこで秩序の形成にあたり囚人は規範と組織を利用している。前者は何がふさわしい行為かを決める。破られたとき誰が罰するかは決められていない。会議で決めるわけではないので費用はかからない。後者も何がふさわしい行為かを決めるが規則破りを誰が罰するかもまた決まっている。これは情報収集や執行規則を決める必要があるため費用がかかる。かつての収監者は囚人規則と呼ばれる規範に従っていた。規律付けについて監獄や刑務官を助けてはならず、情報特に同じ囚人に損が生じるようなものは決して渡してはならず、囚人に対して忠実であることというのがその内容だ。これに従うほど囚人としての地位は高まる。児童性的虐待者や密告者や女殺しの地位は低い。規則違反者には悪評がたち無視され処罰が下る。また暴力は度合いを高めやすく規範への忠実さを示すことができるので罰として利用されている。1960年代以前には囚人は3,4人ほどの派閥を組み分散的に秩序を形成していた。リーダーシップは一時的なもので重複して加盟することもあるし抜けることもあった。これは現代とは違う。規範は人数が少ない場合には違反者を確かめやすく評判も働きやすいが、収監者が増えるにつれこの規範の拘束力は薄まった。より暴力的な者や初犯者や若者が増え、黒人やヒスパニックも増えたからだ。このため1960-1973年の間には暴力沙汰が増した。
組織犯罪の本質は取引の保護にある。商人は売買の保証としてマフィアに頼ることがある。ヤクザは公的な訴訟の代わりに利用され債権取り立てなどに従事する。アメリカのストリートギャングも若い組織員を保護している。政府が所有権を保護しない場合に現れる。地理的に孤立している場合、禁止品の売買、革命や暴動など政治的に不安定な場合に発達する。矯正を目指し建てられた刑務所は大量の若者を収監し、メキシコ系ギャングを発達させてしまった。他の監獄でもメンバーを募り巨大化した。これはメンバーの保護を目的に生まれたが次第にその他の囚人を搾取するようになり、黒人も白人もそれぞれ自衛のためにギャングを形成していった。監獄外からもたらされる麻薬取引を保証する存在として役割を果たしている。監獄内ギャングは外から輸入されたわけではない。また裁判所の介入が影響したわけでもない。矯正政策が変化したせいでもない。自衛の需要のせいでもない。差別主義のせいでもない。統治権力の不在を埋めるために発達したのだ。
中世の商人は以下の問題を抱えていた。取引相手がどれくらい信頼できるかわからないこと、取引相手と将来に渡り関係があるかわからないこと、不正直に振舞われたらその悪評をちゃんと広められるとは限らないことだ。法廷にも頼れなかった。これは囚人も同じだ。このような場合には共同責任システムが発達する。共同体加入者は他の加入者の行動について責任を持つことになる。一人一人は知らなくてもその集団の評判を知っていればいい。このため囚人はギャングの構成員であることを入れ墨で示し、加入者の質を確かめその行動を監視している。監獄内では人種や民族により集団形成が行われている。いつ誰とどこで何をすればいいのか細かい規則がありそれを破ると袋叩きに遭うため、ギャングたちの支配からは逃れられない。ギャングの仕事は対立や麻薬取引や窃盗について囚人間の紛争をまとめることだ。それぞれの構成員につき集団として責任を負っている。情報を収集し新参者を教育しているのだ。快適に過ごせるよう、また刑務官の目を引き麻薬取引が駄目にならないよう監獄内の秩序を保っている。規則違反者の表があり何をしてもいいとされている。ギャングは確かに脅迫や暴力に従事しているが、秩序を保つためかもしれない。麻薬や売春など需要に応じているという側面もある。囚人にとり生産的なのかそれともただの掠奪者であるのかはランダム化による証拠がないため今のところ判然としない。政策的には以下の点が重要だ。まず、規範は囚人の統治にあたり必要でも十分でもないということ。そして受刑者の増員は必ずしも無秩序に結びついたりその防止には厳しい監獄が必要というわけでもないということ。そして、共同責任システムが重要ということは公的な統計は実際の暴力行為を過小に表しているということだ。
犯罪組織は以下の3点を解決する必要がある。まず質のいい構成員を集めること。暴力をちゃんと執行でき、賢く忠実でなければならない。次に、他の構成員に迷惑がかかるような行動は慎ませなければならない。臆病な振舞いや同性愛や密告は罰せられる。そして構成員の行動を監視できなくてはならない。そして無能なリーダーを降ろせるようにする必要もある。従うべき憲法が存在する。普通の組織とは異なり退出ができないため、事後の搾取を恐れて加入を控える恐れがある。憲法で発言権を与えて他の構成員からの機会主義的行動を防止することでこの問題を解決しているのだ。採用活動では忠誠が求められる。終生の誓いになるのはこのためだ。構成員同士の抗争は御法度とされ商売も敵対しないように調整される。独裁は情報収集に不適なためそのような構造にはならない。監獄内で情報収集をするのは困難である。またボスが一人だと搾取しがちになる。権力の抑制と均衡が生じるような構造になっている。(元)構成員からの不満はしばしば起こり、完璧な組織形態ではない。
ストリートギャングは監獄ギャングに税を納めている。しばしばそれは恋人の役割となる。監獄ギャングはストリートギャングにその他の麻薬売人から収税を任せてもいる。逮捕される可能性がありその場合は監獄で孤立してしまうこと、他のメンバーが人質に取られていること、その他のストリートギャングからターゲットにされること、これらの理由で税が払われている。監獄ギャングに近づく意図を持っている場合もある。監獄ギャングは納税ギャングを監獄内で守り、麻薬の売人をストリートで守り、納税ギャング間の紛争を解決している。
法の外にも市場は発達する。監獄から学べることは以下だ。法の外にある統治機構に人がどれだけ利用しているか把握しなくてはならない。不法な制度は合法な制度よりも重要でありうる。協調と取引は政府がなくても生じる。制度は意識的にでなくても生まれてくる。ギャングの蔓延に対処するには監獄をより安全かつ自由にし、収監人数を絞り、より多くの警官を雇うといいだろう。ギャングの統治への需要が減るからだ。
----------------------------------------------
・小児性愛者が忌み嫌われるの理由がよくわからない。。。殺人鬼の方が普通に怖くない???