“Survival of the City”, Edward Glaeser and David Cutler著

Survival of the City: Living and Thriving in an Age of Isolation - Glaeser, Edward, Cutler, David
都市は創造性の塊だ。でも、内部の人を守り外部の人を放棄する傾向がある。コロナの影響でリモートワークが広まり社交も減ってしまった。本書は都市生活の存続と繁栄に必要な条件を探っていく。重要なのは説明責任を果たす政府と都市の成長を阻む規制の撤廃と学ぶ謙虚さだとみている。
疫病のせいでアテネはスパルタに負けた。ローマ帝国でも起きた。共同体から病人を隔離したり、家族で隔離したり、共同体の周りに防壁を作ったり、病原の周りに防壁を作ったりして人類は抵抗してきた。病気の蔓延を防ぐには正しい医学知識と有効な政府が必要だ。WHOは感染症を早期に抑え込める組織ではない。NATOのように、構成国を少数にして目的と統制を明確化し、科学を重視し、潤沢な予算のある国際組織が新たに必要である。
黄熱病やコレラと闘う上で上下水道の整備は政府がとれる非常に有効な対策である。隔離を担当する法の執行者は効果を上げるためには信頼されている必要がある。人と野生動物との接触を減らすために国際的な取り組みを作るといい。貧困国で疫病が蔓延すると結局は先進国にも被害が及ぶのだから、水道整備などを援助するのは先進国の利益にもなるだろう。
平均寿命は発展している都市の住民の方が長い。これは年収が低い人についても同様に言える。都市化するにつれ人は運動をせずともまた時間をかけずともカロリーを得ることができるようになった。フライドポテトのような大量生産品がすぐに手に入るようになり人は誘惑に負け肥満になっている。薬品会社はオピオイドの新製品を開発するたびに安全だという虚偽の主張をしてきており、薬物中毒者を大量に生み出した。教育程度は肥満にならなかったり薬物や酒や危険なセックスを避けたりと健康に直結するが、健康に悪いことを知ることができるというよりは我慢強さや健康促進製品を買う余裕を生んだりするという影響の方が大きい。感染症を避けるにはそもそも健康であることが重要であり、そうなるような行動変容が求められている。
アメリカは膨大な予算を医療制度のために割いているが効果は芳しくない。これは、私的な医療に焦点を置き、健康促進ではなく病人をケアすることを重視し、多くの保険未加入者がいるため。前もって感染症に対応するシステムを組んでおく必要がある。テストや封鎖を素早く行う能力も重要。
黒死病は生き残ったものを豊かにした。独占者は競合を潰すために規制を利用することがあるが、紡績工場の安全規制はその初期の例。滅菌と冷凍とパッケージ技術の向上のおかげで都市は拡大することができた。スペイン風邪は経済に悪影響をほとんど及さなかった。コロナと違いは、その頃は農場と工場で働く人が多くまた人々は必需品を消費していたこと。いまは対面が重視されるサービス業が中心であり疫病の影響をモロに受けるのだ。コロナ前からも米国の起業は減っている。第三者から規制の費用便益分析をして不要な規制は撤廃したり、規制を担当する政府の部局を一本化する必要がある。
技術革新には、車やテレビのように人口密度が高いことの魅力を減らすようなものもあれば、蒸気機関車や高層ビルやエレベーターのような増やすようなものもある。19世紀は後者が多く20世紀は前者が多かった。情報通信業が発展しても人は都市に住んだままだが、これは人と話すとアイデアが生まれたりするしまた楽しいため。テレワークは生産性を伸ばすが生産性の低い労働者を引き寄せる。すでに住んでいる人を守り引っ越してくる人を防ぐような規制を止めることが発展には必要。
ロサンゼルスのボイルハイツは米国都市の持つ問題を示す良い例。19世紀末に優れた市長がいて公園や教会や学校が建ち人気となった地域だ。自動車が発展して移動しやすくなってからは富裕層がそれまで使っていた古い住居を利用する多くの低中所得者が流入した。そして実質的な人種的隔離が起きた。優れた政治家と運動家が生まれ、ヒスパニックの多い地域としては収入は恵まれるようになった。しかし地下鉄が通るようになってからは移動して来ようとする美術館と、それはジェントリフィケーションであるとみなす住民との間に激しい対立が生まれている。しかしこれは新しい建築に対する規制が生んだ悲劇であり、真の敵は制度である。アメリカ内で引っ越しは減っている。フリーライド問題は小数名の間では解決できるものなのでそのような少数の政治集団が生まれる。この集団は既存の人員を守り新参者は防ぐ。これがまさに米国の都市で起きていることだ。
収監と犯罪発生の間には三つの関係がある。まず、収監を恐れて犯罪をしなくなる可能性があること。次に、犯罪を犯しやすい人間を閉じ込めること。最後に、牢の外で合法な職に就くのを諦め犯罪を犯すようになることだ。3ストライク法は確かに犯罪は予防しているがその費用はかなり高い。そして犯罪者を閉じ込めれば犯罪発生も減る。バランスが重要だ。レイ・ケリーというNYPDの能吏はパトロールを増やしてDV被害を減らし、テロの対策も優れていて賞賛された。しかし彼が導入した停止と捜検(stop and frisk)という方法はあまり効果を上げていない。犯罪が起きやすいところを重点的に警護するのは効率的だが、方法が良くないということだ。警官の組合は内部者を守るように動き、問題のある警官でも守ってしまう。しかし警察の予算を削っても結局悪影響が大きいのは貧しい人だ。治安と尊厳を守るよう明確な指標を導入していく必要がある。教育制度は警察よりもその目的を明確化するのは困難だ。人口密度が薄かったり都市の中心から離れていたりと優れた環境で育つほどのちに高収入になれ、教育は重要だ。しかし優れた教員や学校を表彰しようとテストを行っても教師により不正がなされるだけでうまくいかない。職業訓練を組み込んだりしていくと良いのかもしれない。
感染症に対応する科学的な国際機関を組織し、慢性病よりも感染症に主眼を置いた公衆衛生への予算を作りすぐにワクチンを作り広める公的機関を作り、感染症の犠牲になりやすい貧困者を助けるような教育改革を行い、企業と手を組み職業訓練をするような学校を試したり、公正な法機関を作ることが米国には求められている。都市は希望の源であり人々の強さを示す場所なのだ。
・一級の都市経済学者と医療経済学者が共著しているだけあって最新の研究を随所に盛り込んでいるため、細部は読んでいてとても面白い。公衆衛生の歴史とかも無駄がない。
・でもコロナを意識しないで書いたほうがよかったのでは。まとまりに欠けるし提言として上がっているのも普通だなあ…というのが正直な感想だった。BLMの件とか直接的には感染症関係ないやん!
・どういう教育をすれば成績が伸びるのかという点について一致した意見ないのね。意外〜!国じゃなくて地方が責を負っているアメリカの制度はなかなか大変そう。