How Civil Wars Start, Barbara F. Walter著
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民主化の波は常に内乱を伴って起きた。政治体制について-10から+10までの民主化指標を見てみると、専制国家でも民主史主義でもない中間の国がある。これをアノクラシーと呼ぶことにすると、不平等や貧困や民族の多様性や汚職といった点よりもずっと内乱に関係している。専制国家ほどは不満分子を抑圧せず、治安など基本的なサービスを提供できないほど分裂している。民主化への移行では勝者と敗者が生まれるが、新政府は弱く法の支配が行き届いていないため、敗者はリーダーが民主主義にコミットすると誓ってもそれを信じることができない。そしてまだ力があるうちに抵抗しようとする。これがインドネシアやイラクで起きたこと。改革が早いほど紛争のリスクは高まる。新しい現象として、ポーランドやハンガリーのように民主主義からアノクラシーへと移行する国もある。これは選挙で選ばれたリーダーが民主主義を守るためのものを無視し始める。そして市民に対し民主主義は汚職だらけで嘘に満ちており社会経済的政策を取るのに失敗すると説得している。内乱にならないアノクラシーもあるし、チェコやリトアニアのように民主化で流血が起きないこともある。
20世紀初頭は思想と階級によって内乱が起きたが、半ばからは民族や宗教の違いをめぐって争いが起きるようになった。でも多様な民族がいても平和な国はある。問題なのは、民族の違いに沿って政党が生まれてしまうことだ。政治的な分極化を派閥主義と呼ぶことにしよう。これは人を硬直的で変更不能な属性に割り振る。この程度がひどいほど内乱が生じる。体制に弱点が生じる機会に乗じてこの派閥主義は起きる。宗教的または歴史的な象徴への言及を通じて人々を煽り、その結果その集団は隔絶するようになり、社会での緊張が高まる。そして敵の派閥を抑圧しようとし、恐怖と不信が蔓延し問題解決のために武力が用いられるようになる。民族が同じなだけでなく宗教や階級や地理までも共有しているような超派閥があるとより内乱は起きやすい。これはチトー死後のユーゴスラビアで起きたことだ。恐怖を煽ることで「民族起業家」は頭角を表すが、市民は騙されているわけではない。しかし実際に脅威が起きると支持するようになる。ビジネスエリートも宗教的指導者もこの「民族起業家」である。インドやブラジルでは派閥主義が生じている。人々が気づかないうちに根付くことがあるのだ。
紛争を起こすのは、かつては権力があったがそこから滑り落ちた人たちである。ミンダナオ島のモロ、クロアチアやボスニアのセルビア人はこれにあたる。人は損失を本当に嫌がるものだ。代々その土地に住み歴史的に中心的な役割を果たした「土地っ子」が戦争を起こす。生まれた土地の正統なる後継であり特別な扱いを受けるべきと考えている人たちである。根強い抵抗運動を起こし不満が高くなりがちで危険な存在だ。ジョージアのアブハジア人やアッサム人がこの例。移民は摩擦を起こす。気候変動は貧困層や農村部に特に被害をもたらす。民族的に分断された国では自然災害の後に紛争が起きやすく、また悪化しやすい。気候変動で移民が起きると紛争が起きやすくなるだろう。
内乱の引き金となるのは希望の喪失である。まだ政府が聞く耳を持っていると期待するなら抗議をする。北アイルランドのカトリックやシリアのスンニー派などこれが失敗すると紛争になる。またコートジボワールやブルンジやウクライナやリンカーンのように選挙に敗北した少数派も紛争を起こす。選挙への関心は高いが、全く権力が無いという実感が引き金となる。比例代表でなく多数決だと声を反映できなくなるため危険。民族的派閥化が生じているとさらに危険。軍事的に鎮圧することで政府は反乱軍を自ら募集してしまうことになる。過激派は平和的な運動を乗っ取り、普通の人にも武装の必要を感じさせようとする。地位が脅かされていると考える政府は抗議に適切な対応ができない。政府の無知は過剰な対応に繋がる。
2010年以降西洋は民主的でなくなりつつあり、アフリカは民主化こそ進んでいるものの暴動が起きつつある。これはおそらくソーシャルメディアのせい。人は多くの時間をこれに費やす。いいねがつきやすい記事は恐怖や間違いや怒りに満ちたものである。お勧め機能を通じてより極端な集団に繋いでしまう。ミャンマーのロヒンギャ虐殺はFacebookが悪化させた。ドゥテルテやエルドアンはSNSが既存政党やメディアを攻撃しアウトサイダーが躍り出る手助けをする例だ。情報の捏造で民主主義の制度自体に疑いを持たせ、投票者自体が専制者を招いているという点でこれは新しい仕組みである。また民族的社会的宗教的分断を強化する。恐怖を煽り極右の台頭を許す土壌となる。イエローベストのように平和的運動を乗っ取る企みがなされる。
アメリカ建国の父たちは階級による対立を懸念したが、現代では人種や宗教といったアイデンティティをめぐり対立が生じている。民主化指標はアノクラシーとなり派閥主義指標も高まってしまった。白人は数の上でも少なくなり、白人労働者層は経済的にも社会的にも弱体化しまさに内乱を起こしがちな権力の座から滑り落ちた存在である。力を失ったという思いが共和党を支持している。SNSは白人保守層の怒りを煽っている。保守は誤ったニュースに飛びつき、また広めがちである。米国人は暴力をより受け入れるようになり、極左ではなく極右が民兵組織を運営するようになってきた。議会襲撃事件は内乱が起きる兆候かもしれない。
今後米国で起きるとしたらテロだ。既存の党から譲歩を強いるか有権者にもっと過激な指導者を選ばせるようにするだろう。「虐殺への10段階」のうち米国はすでに1.分類2.象徴化3.差別4.脱人間化を経ている。現段階では5.組織化である。過激派には現状の制度を破壊し新しい秩序を導入すべしとする加速主義が蔓延っている。SNSでは中心のない活動が行われている。過激派の戦術はいくつかある。まずは消耗戦であり、市民と公共インフラをターゲットにするというもの。次は脅迫で、警官や公僕を誘拐し説得するというもの。そして激化であり、他の過激派との差別化のために行う。最後が台無しにすること。これは穏健派と政府が結ぶ妥協を破壊し、市民が暴力を支援するのをやめるのを防ぐ行動だ。7段階目は準備であり、犠牲になる恐怖が煽られる。民族浄化には少人数の過激派がいれば十分。米国人は民主主義を疑うようになり、政治家が正しいことをしていると答える人は減り、互いへの信頼も減り権威主義へと傾いている。
内乱は内乱を呼ぶ。この罠から抜け出せた国は統治の質を改善したところだ。法の支配、説明責任、質の高い公共サービス、これらが特に必要。独立した選挙管理委員会を作り、自動で投票登録をし、選挙人制度を改善しよう。権力がどのように振るわれるかの教育を行おう。左右のどちらの政治家も現状では国内発のテロに関しては口をつぐんでいる。テロ集団は退役軍人をよく採用する。民主党と共和党のどちらもが協力すれば民兵は減る。弱者を助け、暴力には屈せず、市民をしっかり保護する味方であり過激派は要らないと思わせよう。派閥主義を強化するSNSを断ち陰謀論と外国勢力の活動を止めよう。民主主義を育む草の根運動をしてもいいかもしれない。
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・アメリカの話が始まるまでは特に研究のまとめとして面白い。誰がいつ内乱を起こすかが色々な国を具体例に説明されている。
・アメリカの話も、極右集団の活動例がいくつか知れて面白い。でも言うほど内乱前夜か?連邦議会襲撃事件に引きずられすぎてね?という気はする。
・一般向け書籍を書いてくれないFearon先生がどんな研究してるのかわかってよかった。おもろ!
・共和党員の方がSNSで騙されやすいとか言われてるけどほんと?ハイト先生かなんかの本でどっちもどっちって聞いたように思う。
・フランスのイエローベストがSNSのせいで乗っ取られたの知らなかった〜〜〜。国歌といい昔から血生臭い国だなとか思ってゴメンネ!
・政治的に中立には書いているものの、共和党叩きが多いように感じた。まあギングリッチといい民主主義の手続きを踏み躙るような汚いやり方を始めたのは共和党だけど、高学歴向けな政策ばっかやってる民主党にもだいぶ責任があるのでは…。内乱研究の人なので特にやり口に興味が湧くのはわかるのだけども。
・最後の段落はアメリカ大好きで締めている。こういうのに弱い…