2013年06月22日

応分理論

MankiwのJEPの近刊サーベイは、適切な税制とは何かを論ずることの難しさを示している;
http://gregmankiw.blogspot.jp/2013/06/defending-one-percent.html

1. 現状認識
アメリカの所得格差は1970年代以降広がっている。これはロビー活動の結果でもあるけど、技術偏向型の経済成長に乗り遅れた低スキルの労働者が機械や国外の低賃金労働者との競争に曝されているためというのも大きい。

2. 最適課税論
公平と効率のトレードオフを論ずるフレームワークはマーリーズが完成した。政府は人々の所得をできるだけ平等にしたいけれど、人々の稼得能力には差があってどれだけ働いたかは政府にはわからない。このためあまり税が高くなりすぎると高い能力のある人は低い能力しか無いかのように振る舞い、税収がむしろ落ちてしまうーーそんなお話だ。ここで重要になるのは、「税が課されるとどれだけ働きたくなくなるか」という特徴だけ。
でもここだと人々の好みはみな同じだと仮定されている。もし異なる好みを持つとしたら、再分配は適切ではなくなる;お金が得られない職に就いているのは、「そう望んだから」なので、政府の出番は無いというわけだ。

では、そもそもこのモデルが前提とする功利主義自体がおかしいのでは、とマンキューは問う。効用の個人間比較が可能だとしているのはおかしいし、人々の厚生を考えるのなら国境で区切ることにはなんら正当性が無いーー先進国に重い課税をしろなんて提言する人は居ないわけで。
功利主義からすると、「高い収入を得るような生得的能力が見える」なら、それをもとに重い税を課せば良いということになる。秘密にできないからだ。たとえば背の高い人は高い収入を得るという研究結果があるけれど、身長をもとに税を課せという提言に耳を貸す人はあまりいないだろう。この「タグ付け」に対する多くの人の不快感は、衡平感を論ずるのに功利主義が妥当ではないことを示しているのかもしれない。
またもし政府が個人の生産性を観察できるなら、働くやる気を考慮する必要はなくなる;仕事のできるヤツに働かせて、できないヤツと同じだけ消費させることが「最善」になるのだ。でもこれもやっぱり直感に反している。

3. 左派の事実誤認
i. 逆進的課税になっているというのは間違い;CBOによると税負担は所得が高いほど重くなっている。
ii. 市場の失敗や政治を利用し分不相応なほど収入の多い人間が居る;基本的には収入は貢献に見合ったもの
iii. 高収入なほど社会インフラから多くの便益を得ているのだから、負担すべき;十分負担している
とはいえ耳を傾ける価値のある議論、としている。

4. 応分理論
ここでマンキューはJust Desert Theory(訳すなら「応分理論」とでもなるか)を提言する;各人はそれぞれが社会に貢献したのにふさわしい分だけ収入を得るべき、とするのだ。競争均衡にあるなら政府の出番は無く、ピグー税は外部性の是正のために課され、累進所得税は応益負担から正当化され、救貧制度は公共財の提供としてみなされる。この考え方のほうが、我々のもつ衡平観により近いのではないか、とみている。

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(補足)
元ネタとおぼしき彼のサーベイを発見;
http://www.palgrave-journals.com/eej/journal/v36/n3/full/eej201022a.html
内容ほぼ一緒だけどこちらのほうが応分理論の概略を簡潔に説明している。


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(感想)
・いろいろ突っ込み待ちなサーベイ。刺激的。

・マーリースモデルへの批判がいまいちよくわからない;
個人間効用の比較はできないとしても、多くの政策があればそのうちのどれかは公平になっているだろう。まあパレート改善を目指せばいいよね、という古典的な擁護もある。
課税理論で前提にするのは、課税できるような中心的な権力があること。国境を越えた権力なんてのはないのだし、そこは批判してもあまり実りのある議論は出てこないような。。。


・身長は高収入の目安だとか。そういえば見た目も高収入に影響するから課税してしまえという議論もあったな;



ちんこやおっぱいの大きさとか、はげ方ってどうなんでしょう。年収に影響するのかしら。

・経済学だと、垂直的公平性を論ずるのはできても、水平的公平性を論ずるのはできない感じ;

水平的公平なんか考慮に値しないとバッサリ切っている。

・税を誰が負担しているかという現状認識すら調べるのは結構しんどい。以下の本はよく要約できているのでオススメ;
posted by Char-Freadman at 14:28| 北京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年05月20日

新しい金ぴか時代

所得格差の拡大が指摘されて久しい。いま、世界は二つの「金ぴか時代」を迎えているーー発展途上国も先進国も、ともに。19世紀末に泥棒男爵が経済を席巻していたのと似たような状況なのが前者であり、グローバル化による低賃金労働力との競争と機械化による人員削減に曝されているのが後者だ。本書は古今の実務家がいかなる生態であるのかを描写してゆく。

Crystia Freeland, "Plutocrats: The Rise of the New Global Super-Rich and the Fall of Everyone Else"



かつて所得階層の最上段を占めたのは大地主だったが、現在では高い報酬を受け取る労働者だ。ウォールストリートのトップたちは、その社内の働き手と比べても遥かに高い給与を受け取っている。トップ1%内部でも競争は激しく、トップ0.1%との差は拡大していっている。教育への熱は高く大学入学への競争は激しい。技術やアイデアが利益の源泉だ。その資金を活かして政治的に影響も持っている。

デジタル技術が進化し商品を広めるのが容易になった現在では、スーパースター現象が生じやすくなっている。かつての歌姫、エリザベス・ビリントンが不可能だったほどたくさんの人に歌を聴いてもらうことが可能になっているのだ。ほんの少しの能力の差が大きな収入の差を生み出してしまっている。

大きな社会変革の波に乗ることも重要だ;ロシアの新興財閥はみなソビエト崩壊時のバウチャーにより富を成した。彼らは数物系の専攻のエリートではあるものの、ソビエト社会主義の本流からは離れていた人たちだった。中国の自由化でも、経済特区にいち早く駆け込んだ人が財を成している。

社会の流動性が失われつつある危険を指摘し、結語としている。

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(感想)
・ジャーナリストだけあって経済学の論文と実務家の逸話を同時に語るのがうまい。学術ネタに聞き飽きてる人は逸話を、創業者の偉そうな話にウンザリしてる人は学術で大きな流れを、といった別種の楽しみ方ができそうだ。
・本書は2013年度のライオネル・ゲルバー賞を受賞しているみたい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%8D%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%B2%E3%83%AB%E3%83%90%E3%83%BC%E8%B3%9E
他にも面白そうな本がたくさん!
posted by Char-Freadman at 19:45| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月28日

単純化

あれはクルーグマンだったか、政府の仕事してるとバカになるみたいな嫌味をどこかで読んだ記憶がある。Cass Sunsteinは何冊も学術書を著している法学者だけどそのジンクスからは逃れられなかったようで…



"Simpler", by Cass R. Sunstein

著者はオバマ政権でOIRA(規制をシンプルにする部局)の任に当たっていたそうで、行動経済学の知見をいかに活かせたかその経験を語る・・・とのことなのだけど前作Nudgeから目新しいポイントはまるで増えていなかった。費用便益分析を利用して有効な政策であるかチェックすべきとか、もっとデザインを工夫して健康促進させようとかはそのとおりなのだけど、でもそれならどうやればその国民の福利をのばすような研究会を超党派で保っていけるのかとの考察は無く。任用にあたり共和党から痛烈な反対に遭ったとかいう話を載せるだけでなく、どうすれば適任な人を摩擦無く選べるような制度を作れるか考察してほしいところだ。また、健康や年金制度のデフォルトをいじるというリバータリアン・パターナリズムが合憲たりえるのかの解説も薄い。

前作のNudgeを読んでないならまあ面白いのかもです……。

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・オバマの二期目が始まる年に出版されてるのをみると政治的意図があるのかと勘ぐってしまうな〜w
・とはいえ今年からアカデミックに復帰しているようなので今後の活躍には期待しておきます。
・「人間にはこんなバイアスがあるよ」だけで終わってる行動経済学系のお話はもう飽き飽き。各種のバイアスをもとに、それがどんな意外な結果をもたらすかとか語ってほしいところ。。。
posted by Char-Freadman at 19:03| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

うつるんです

ネットを漂流すると、色んな炎上が散見される。ではどんなコンテンツが広がりがちでどんなコンテンツなら広がらないのだろう?それを調べている本があった。



Contagious: Why Things Catch On, by Jonah Berger

もちろん売り出しに成功しているものだけをみてもしかたない。失敗しているものを含めて比較しないと意味が無いのだ。事例と統計によって筆者は以下の6つの要因(STEPPS)があると説いていく;

1. イケてること(Social Currency)
その内容を話していると格好良く見えるような内容を語りたがるもの。良い印象をもたれたいのが人間というものだ。希少であったり排他的であったりすると、自分がその製品の仲間であると思うようになる。秘密にしてねと言われた「からこそ」ついしゃべってしまった経験は誰にでもあるだろう。そんな気持ちを利用して口コミで広まる秘密のバーがある。

2. 思い出しやすいこと(Triggers)
どれくらいの頻度でその製品のことを思い出すかも重要。「金曜日」、という曲は実際金曜日にyoutubeでの再生が伸びるし、コーヒーに関連づけることでキットカットは売り上げを伸ばした。何か話さないとな、と思ったときに頭の中にある内容を話すものなのだ。

3. 感情を呼び覚ますこと(Emotion)
科学的内容は理解できたとき畏怖を抱くもので、広まりやすい。どんな感情でも広まりやすいかというとそうではなく、特に怒りや笑いなど興奮状態になるような感情が鍵だ。悲しみをよぶようなものはダメで、とにかく興奮状態であればいいーー運動後であったり。

4. 目立つこと(Public)
実際に見えるようになっていることが肝要。他の人が並んでいる店なら美味しいのだろうと推測したり、他の人が投票している候補なら優れているだろうと思ったりしがち。ヒゲをのばすという前立腺ガンの寄付を募るキャンペーンは、「見える」からこそ成功したのだ。

5. 役に立つこと(Practical Value)
他人を助けたくなるのが人情というもの。他の人に役立ちそうな情報ほどシェアされやすい。どんなものに価値を見いだすかはプロスペクト理論で調べられている;割引を喧伝したいなら、$100を超えるような商品であればその絶対的な値引き価格を、$100を超えないような商品ならその相対的な値引率を伝えると、より価値のある情報であると思われるだろう。

6. お話になっていること(Stories)
お話は簡潔で教訓やたくさんのメッセージを含んでいる。とはいえそのメッセージを、売り込みたい製品に関連づけなくてはならない。無関係な情報は、伝達されるにつれ失われていってしまうのだ。

簡潔だしユーモアのある文体で実に読みやすい。各種紹介されているyoutube動画を確認するためネットサーフィンしながら読むのが推奨されます。

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・著者は経営系のトップジャーナルに載せまくっている気鋭の学者のようだ。
・本書自体STEPPSを意識して書かれてるのかな。実体験を盛り込んだり(Stories)、どんな製品でもこの要因を付ければ広がるよと言ったり(Practical Value)、そう思える箇所が節々に。



・【ネタバレ注意】
紹介されているyoutube動画、どれもおもろい。
http://www.youtube.com/watch?v=lAl28d6tbko
http://www.youtube.com/watch?v=nnsSUqgkDwU
http://www.youtube.com/watch?v=iYhCn0jf46U
http://www.youtube.com/watch?v=RxPZh4AnWyk
http://www.youtube.com/watch?v=YnBF6bv4Oe4
posted by Char-Freadman at 16:51| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年04月01日

幼児に投資しよう

アメリカの不平等度は近年いよいよ増している。大検獲得者ーー労働市場では高校中退と同程度のスキルしか発揮しないーーを除くと、高校を卒業できる男性の割合は減っているし、大卒者も減っている。 教育のある女性は初婚年齢が高く、子どもの数も少なく、養育に時間もお金もつぎ込むことが出来る。これでは格差は広がる一方だ。 こんな状況を変えるために、Heckmanは早期の教育に焦点をあてろと提言していく。

“Giving Kids a fair chance”, by James Heckman



認知能力以外の能力、たとえば心身の健康、注意深さ、やる気、自身といった点も人生の成功には欠かせない。 ランダム実験かつ長期の追跡調査であるペリー就学前教育計画およびAbecederian計画が明らかにするところによると、 認知能力もそれ以外の能力も、発達するのは幼児期で、しかも大人になってからも影響がある。IQはさほど高くならないものの、認知能力以外の能力は高まるのだ。政策が一番効果を出すのもこの時期だ。小中学校の教員を増やしたり、犯罪更正プログラムより、学費援助より、遥かに効果が高いのだ。
とはいえ、どうターゲットを絞るか、どんなプログラムにするか、いかに提供するか、支払いをどうするか、いかにプログラムを遵守させるか、早期教育の時期は過ぎてしまった青少年の子をどう扱うかといった問題は残っている。

識者からのコメントが載っている。貧者を就職で救うのも大事、母親に補助を与えるのも大事、政治的反対に遭うかもしれない、上記のプログラムはサンプルが少ないがより大規模な追実験(IHDP)では同じような結果は得られなかった、否認知的能力を上げることは可能、実行するには問題があるなど。そして、それらに反論を加えて〆となっている。

不平等および教育に関心のある方はぜひ!!!

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(関連)
・不平等解消に向けてアツいディベートがなされているこの本の続きか;


↑一橋の川口先生のとってもわかりやすい解説を発見;
http://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&cad=rja&ved=0CDEQFjAA&url=http%3A%2F%2Fwww.econ.hit-u.ac.jp%2F~kawaguch%2Fpapers%2Fkrueger%26heckman_review.pdf&ei=tTxZUaWRJtT1qwGZq4CgBA&usg=AFQjCNF3hHdfjNQYNJ_Pbk2rjqzsCnQIHQ&bvm=bv.44442042,d.aWM

Handbook of Labor Economics, Vol4の15章も似たような内容(下はゲート無し);
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0169721811024130
https://www.princeton.edu/~jcurrie/publications/galleys2.pdf

・本邦でも就学前教育が重要との指摘がされてますね;
http://blogos.com/article/57423/
posted by Char-Freadman at 17:01| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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