2012年11月30日

経済発展とか

今年イチバン学会プロレスの面白かった本を選んでみたよ!



著名な学者によるレビューにいちいち著者たちが好戦的な反応を示すのが楽しい。

Francis Fukuyamaによるレビュー
http://blogs.the-american-interest.com/fukuyama/2012/03/26/acemoglu-and-robinson-on-why-nations-fail/
著者たちの応答
http://whynationsfail.com/blog/2012/4/30/response-to-fukuyamas-review.html

Jared Diamondによるレビュー
http://www.nybooks.com/articles/archives/2012/jun/07/what-makes-countries-rich-or-poor/
著者たちの応答
http://www.nybooks.com/articles/archives/2012/aug/16/why-nations-fail/

Arvind Subramanianによるレビュー
http://www.the-american-interest.com/article.cfm?piece=1334
著者たちの応答
http://whynationsfail.com/blog/2012/11/2/china-india-and-all-that.html

Jeffrey Sachsによるレビュー
http://www.foreignaffairs.com/articles/138016/jeffrey-d-sachs/government-geography-and-growth
著者たちの応答
http://whynationsfail.com/blog/2012/11/21/response-to-jeffrey-sachs.html

Sachsのレビューにいたっては相手にする必要なしとハッキリ言い切ってる。ヒエエ・・・。

(本の概要)
・経済発展の必要条件となるのは、中央集権がなされていること。ソマリアをみてみよう。
・政治制度には二種類あって、inclusiveなそれとextractiveなそれとがある。inclusiveとは参政権(de jure power)を認められる人が多いことを指し、extractiveはその反対。
ところで前読んだとき(http://charkid.seesaa.net/article/260054188.html)はそれぞれ包括的/収奪的とテキトーに訳を付けたんだけど、他にいい語彙無いかなぁ。extractは抽出の意があるので、少数のエリートが国富を食い物にする感じにみえるから「収奪的」としたのだけど。
・長期的に経済発展が可能になるのはinclusiveな政治制度があるとき。ソビエトは途中でこけちゃった。
・沿岸部への近さや気候といった地理的要因は直接的には経済発展には結びつかない。分断国家を比べてみよう。

最後の点に批判が集中していますね。

この本は"The Colonial Origins of Comparative Development: An Empirical Investigation
Daron Acemoglu, Simon Johnson, and James A. Robinson
American Economic Review, 91, December 2001: pp. 1369-1401."からの研究の流れをまとめたもの。そこでの主張は『入植時に乳児死亡率の高かった地域では搾取するような制度ができて、それが低い地域では全員参加の政治制度ができ、その制度の差が経済発展の差になる』というもの。これを批判するなら
(1)著者たちの依るデータはおかしい;特定地域のデータが彼らの主張に有利になっており、それらを外すと彼らの結論は支持されない(http://ideas.repec.org/a/aea/aecrev/v102y2012i6p3059-76.html)
著者たちの反応;http://economics.mit.edu/files/8012
(タイトルからしてこれもとても好戦的)
(2)因果関係の方向が逆:500年前の乳児死亡率の差は今日の経済発展の差に直接関係は無いことが前提になっているけど、本当?
著者たちの反応;"The Rise of Europe: Atlantic Trade, Institutional Change and Economic Growth
Daron Acemoglu, Simon Johnson, and James A. Robinson
American Economic Review, 95(3), June 2005: pp. 546-579."→「かつて経済発展の著しかった地域とそうでなかった地域は「逆転」している。地理がもし発展に有益なのならそんな逆転は生じないよね」という内容
となるのかな。

なるほどinclusiveな制度が重要なのはわかった、それじゃどうすれば参政権の与えられる人口が増えるのか(franchise)というのが著者たちが次に行っている仕事のようです。
http://whynationsfail.com/blog/2012/11/29/disrupting-the-dysfunctional-equilibrium-in-naples.html
反例探したくなるのが人情ってもんですよね。何かいいネタないかなー。参政権増やすインセンティブが誰にも無かったはずな例。
posted by Char-Freadman at 08:08| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月26日

コスト病

教育や医療の生産性の上昇は低い。生活に占めるそれらの出費のシェアは伸び続けるだろう。ではどんな未来が待っているだろう?正しく理解すれば恐るるに足らずと主張する本がこちらだ。

"The Cost Disease: Why Computers Get Cheaper and Health Care Doesn't", by William J. Baumol, Monte Malach, Ariel Pablos-Mendez, Lillian Gomory Wu, David de Ferranti, Hilary Tabish



議論をまとめるとこうなる;
・経済は生産性が伸びる"進展"部門と、そうでない"停滞"部門とに分かれる。
・"停滞"部門の製品は"進展"部門の製品に比して高額になっていく。
・とはいえ社会全体にとっては"停滞"部門の製品を消費することは常に可能;生産性の上昇は購買力を上げ続け、生活水準を改善するため
・購買力の上昇は武器や環境汚染なども買いやすくなることを意味する。
・停滞部門の製品が買いにくくなることは政治的な不安を生み出すかもしれないが、社会にとって脅威となるのはむしろ進展部門の製品があまりに買いやすくなることだろう。

ヘルスケアと教育産業の相対的コストの伸びはどの国でも観察されており、特定の国の制度が非効率というわけではない。医療事故は減り続けているし、医者間に競争はあるし、賃金の伸びはさほどでもない。

これまで多くの産業では労働の節約がなされるようになり、たとえば家事炊事は自分でやるようになったし、維持管理するのではなく大量生産品を捨てるようになった。でも教育や医療や芸術といった分野は、標準化できず、質を落とさずには労働を減らすことができない。それはこれら生産性の上昇の低い産業の製品の特性となっている。

便益は伸びているからコスト病には罹っていないという主張は誤り;一人が払っている負担はあくまで伸び続けている。経済成長を考えるならサービスや商品の質を考慮したデータを眺める必要があるけれど、ここで取り上げているのはコスト。適切な指標を使う必要がある。

ビジネスサービスにイノベーションが生じると、それを利用する他の産業も生産性が上昇する。実際医療の分野でもそれはみられる。コストを下げようと規制してもあまり効果はない。しっかり理解する必要があるのだ。

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(感想)
・一番面白かったのは測定に関する議論をしていた六章。いつも経済成長論でお目にかかるのは質を考慮したデータだけど、質を考慮してないデータも有益な指標になりえるって指摘は新鮮だった。

・ボーモル先生は90歳。経済学者は、不死身だ。
posted by Char-Freadman at 10:38| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年11月11日

王様は裸だ

アメリカの大学では一般に、入学審査の際に黒人が優遇されている。このアファーマティブアクション、一見すると黒人にとって恩恵になりそうだけど、むしろ悪影響をもたらしていると主張するのがこちらの本だ。

"Mismatch: How Affirmative Action Hurts Students It's Intended to Help, and Why Universities Won't Admit It", by Richard Sander, Stuart Taylor Jr.


まず以下のように、この問題に関する概ね合意事項が述べられる。
・高等教育でのアファーマティブアクションは人種選好にみられる
・人種には「学力が拮抗している候補者間でどちらを選ぶか決める最後の手段」と呼べるより多くの比重がかかっている。
・人種選好をもつほとんどの大学で、暗黙または明確な比重が人種に置かれている。
・人種選好は「ドミノ倒し」;良い大学がマシなマイノリティを得ると、悪い大学にはますます悪い候補しか残らなくなる
・追いつくのは難しく、落ちこぼれてしまう
・ドミノ倒しはかなり下のレベルの大学まで続くかもしれない
・アスリートや卒業生の子弟といった点でも同じようなミスマッチが生じているかも
・真に困窮しているマイノリティを救えているだろうか
・アジア系の学生が割を食っているのか
・人種選好を撤廃しても学力以外の点を入学審査で重視したら現状は改善されないかも

優遇されて入学してくる多くの黒人は、当該校で学ぶ準備をしっかりできていない。エリート校でなければ十分についていけたはずなのに、落ちこぼれてしまう。著者はこの「学力に不相応な学校に入ってしまい落ちこぼれる」仮説をミスマッチと呼び、本書の多くをその検証に当てていく。黒人は仮にエリート校を卒業できても、優遇を受けていたから大したことないのだろうと思われてしまったりするのだ。

Sanderは研究で様々な妨害に遭っている;アファーマティブアクションにまつわる不都合な真実を語らせないため、大学当局はデータの開示をしぶり、また見当違いの論難を浴びたり要職から遠のけたりする。人種主義者と思われたくないというタブーがあったり、各種団体から突き上げにあったり、この問題を語ること自体が困難になっているのだ。

では仮にアファーマティブアクションがなかったとしたらどうなるか?カリフォルニアでは大学入試における人種選好が禁止された;前後を比べると、黒人やヒスパニックの入学者は減ったものの、学位取得者の数は変わらなかった。これはおのおの身の丈にあった大学に進学するようになったからだ。
でも、この状況は悪化しつつある;司法の手に隠れたやり方で人種選好をするようになってしまった。ミスマッチは続きそうとのこと。最高裁判事は人種選好を黙認していると受け止められており、状況の改善には結びついていない。

学習環境に関する研究にふれた後、最後に提言もなされている;調査の透明性をあげてデータを使いやすくすること、人種ではなく所得階層によって下駄を履かせること、人種に基づく奨学金は廃止すること。

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(感想)
・ぶっちゃけ日本人にとっては「ふーん」というテーマではあるかも。女性枠を設けようなどとトチ狂った提言がなされることもあるけど・・・。
キング牧師の時代から数十年も過ぎてんのに「人種は学力に関係ない」とか当たり前すぎることを一応書かないといけないアメリカのリベラルの閉鎖性には唖然としますね。開かれた社会とはほど遠いなこりゃ。

・妨害に遭ってるとはいえ、本書の主張を支えるのが唯一カリフォルニアでの事例というのはちょっと弱いかも。

・「アファーマティブアクションは悪影響」という空気を読まない発言をしているのが経済学者ばかりでほっこり^q^
(統計学者のイアン・エアーズは名指しで批判されてたけど・・・w)
経済学部以外の人はテニュア取るまでこのテーマに触れないほうが良さそうですね!

・「アファーマティブアクションが逆効果というのに気付いていない」というより、気付いているからこそデータの開示を拒むのでしょうね。医者やら弁護士やらに頼むとき、黒人は避けたほうが良さげか(統計的差別)。

・そもそも「大学」が「多様性の維持」すべきとも思わねーけどなー。研究すんのがエリート校の本質じゃないの?黒人やヒスパニックならではの知的多様性がこの方法で保護されるとも考えにくいし。他の組織にやらせりゃいいよ。
posted by Char-Freadman at 09:35| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年10月27日

運転サービス

今週号のThe Economistに、運転サービスの売り手と買い手を繋ぐアプリが紹介されている。

http://www.economist.com/news/special-report/21565007-geography-matters-much-ever-despite-digital-revolution-says-patrick-lane

運転手もユーザもこのサイト(http://lyft.me/)を通じて登録し、お互い点数が付けられるそう。評判が生じるので悪い人は駆逐されるとのこと。寄付を募るという形にしてるため従来のタクシー規制からは逃れているそうな。

これを応用し、例えば以下のようなのはどうだろう。

1.都市内向け
・自家用車があり、シェアしてもいいという人は出発地・目的地・時間帯・空きシートの量を登録する
・買い手側が選ぶ

出社時間はたいてい決まってるから朝は出来そうだけど、退社時間はアレだから夜はマッチしないかなー。

2.都市間向け
・運送用トラックも出発地・目的地・時間帯・空きシートの量を登録する
・買い手側が選ぶ

サンフランシスコで可能なんだから東京ならもっと需給があるはずだ!
posted by Char-Freadman at 13:23| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

金融危機

大恐慌の後、世界は70年以上にわたり平穏な時期を経験した。金融危機が過去のものと考えられるようになったそのとき、リーマン危機が生じた。ではなぜ多くの経済学者がそう考えてしまったのだろう?本書は金融危機の歴史を辿りながらその謎に回答を試みる。

"Misunderstandi Financial Crises", by Gary B. Gorton



銀行は短期の債務を抱えるが、その担保は無リスクとはいかない。もともとアメリカの銀行は自由に紙幣を発行していた。担保として州債が裏付けられていたが、州政府はしばしばデフォルトしたため無リスクなものではなかった。割引されたり取引に使用できなかったりと不便であったが、南北戦争時の国立銀行法の施行により国債が担保として使われるようになりこの状況は改善した。預金保険の出現は、預金者保護というより取り付け騒ぎが生じるリスクを減らすことを目的としていたのだ。取り付けは景気循環のピークに生じ、損失は小さいというのがその時期の特徴。これらの金融技術により安定した時代がもたらされた。

どの危機にも共通するような要因が調べられる;急激な資金需要や、それ以前の期間における信用拡大など。また多くの場合不動産価格が伸びている。短期債券の所有者が引き上げたり再契約に不同意になる、または政府の介入がないと(予測)された場合にそうなったであろう状態をもって金融危機と定義する。

$10の小切手があったとする。もし無リスクの資産により裏付けられていれば、額面どおりの取引がなされる。でも本当はリスキーで$7の価値が無いと片方が知っていれば取引は疑心暗鬼からされなくなるし、両方が知っていれば$7の取引しかなされなくなる;秘密は無いほうがいいし、情報があるとかえって取引量が減ることもあるのだ。経済にショックが生じると、リスクに関する秘密も生まれる。取引を円滑にするために発達した手形交換所は、メンバーたる銀行間に債券を発行することで秘密を生まないようにした。情報を得ようと考える人が居なくなるようにするのが危機を防ぐのに効果的なのだ。

資本準備に焦点が当てられることも多いけど、金融技術の進展により銀行経営に必要な資本の量はずっと減り続けてきた。危機を防ぐカギは資本ではない。

後半では政策提言もなされている。銀行家を救うことになるため政治的には達成しにくいから、独立した中央銀行主導でもって危機の回避に当たることが望ましい。また、Asset Backed Securitiesの売買のみを行う機関を作ったり、レポに関する新しい規制をなすとよい。

金融危機に興味のある人はどうぞ。

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(感想)
・門外漢なので、「経済学者は金融危機を理解していない」とか言われてもいまいち何を指してるのかピンと来ない。。。警鐘ならしてた人たくさんいたしバブルのメカニズムやらグローバルゲームやらでモデル組んでるペーパー多いと思うんだけどうーん。もっと勉強しよ。
・本文の多くで当事者の発言の引用やら既存の経済学の批判があって、読んでて非常にダルかった。理論モデルとその示唆だけ載せてくれれば十分なのだが・・・。
posted by Char-Freadman at 06:08| 北京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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