2022年03月11日

自己変革の行動科学

自己変革は難しい。忘れること、後回し、怠惰などに取り組んでも何度も失敗することだろう。でもそれは正しい戦略を見つけていないからだ。解決のためにはどんな力が働いているのか理解する必要がある。全てを解決する一つの方策というものはない。行動科学の力を借り問題に沿った策を採ろうというのが本書の主張だ。変化したい人にオススメ。何度も読み返してほしいとのこと。

How to Change, Katy Milkman

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変化を始めるのに理想的なのは何かで再出発したときだ。失敗は過去のもの、楽観的になれる。また悪癖から逃れる可能性もある。新年や誕生日や週初めなどなんでもいい。退院後や転居など環境の変化も理想的だ。カフェを新しく見つけたりしよう。野球選手を調べるとトレード前に成績が悪い選手はトレード後に好成績になり、またその逆も然り。現状で既に上手くいっているなら気を付けよう。再出発は意志を起こす助けになる。

現在志向バイアスすなわち衝動性は、長期的な目標の達成に対する天敵だ。やるべきことがあるなら、やりたいことと抱き合わせるようにするといい。ジムに来ればそのときだけiPodを聴けるようにするとジムに通う人は増える。あるいはこの抱き合わせを促すだけでも効果がある。誘惑を減らし目標に取り組む時間は増えるだろう。単調な作業は印をつけたり成績上位者を表彰したりとゲーミフィケーションで面白くするのも手。とはいえこれは参加したくない人にやらせると裏目に出る。

先送りもまた天敵である。誘惑が起きるのを見越して制約(コミットメント装置)を作っておくといい。目標の貯蓄額に達するまで凍結される口座や破ったら嫌いな団体に寄付金が行くようにするなど厳しい制約は特に有効。みんなの前で誓うなどの緩い制約も有効。あまりこういう方法が使われていないのは楽観的すぎる人がいるからだろう。

忘却に対策するには、直前にリマインダーを設定しよう。そして「〜になったら〜する」というような、手がかりに基づいた計画を立てよう。後で遭遇しがちで思い出すのに役に立つなら、時間や場所はなんでもいい。特徴的であるほどいい。具体的に計画することで無理のない進度で達成していき、また自分自身に誓いを立てることにもなる。込み入りすぎない計画を立てよう。

怠癖もうまく利用すれば変化の手助けになる。ブラウザのホームをSNSではなくメールにするなどデフォルトをうまく使おう。硬直的すぎない習慣を作るのも効果的だ。理想的な状況でなくても続けることでよりその習慣は長続きするだろう。成功は喜び失敗は説明できるようにするため、記録づけるといい。休みすぎないで流れを作ろう。古い習慣の上に新しい習慣を重ねるのもあり。

自分を疑うと進歩もできないし目標を設定することもできなくなってしまう。お節介な助言をすると、暗黙のうちにその人の能力を疑っていることになり、自信を失わせる。むしろ、同じ目標を持つ他の人に助言をさせることで自信をつけさせる方がいい。友人や同僚と集って助言をしあったり誰かのメンターになろう。期待は現実を左右する。掃除が健康に良いと思わされた人は実際に健康になる。野心的な目標を立て、緊急事態に備えて余白を持たせよう。そうすれば少し遅れをとっても自信を失わずに済む。失敗は成長の機会だと捉えるようにしよう。成功体験や誇りを思い出し、自分を疑うことから抜け出そう。

社会的な圧力をうまく利用しよう。大きな目標を達成したいなら良い仲間がいるといい。似ている相手からはとても影響を受ける。成績の良い仲間の行動を、自分に合うように真似よう。ただしあまりに似ていないと逆効果になる。人には仲間から賛同を得ようという傾向があるため、見られているという感覚があると投票に行くなど行動が変化する。軋轢が起きないようにするために、良い行動をすると賛辞が送られるようにしよう。不人気なものの良い行動を広めたいなら、それが流行りつつあるという情報を流そう。

自己変革は慢性病に取り組むようなもので、すぐには効果が出ない。ジムに行くのがどうしてもできないなら違うことをしてもいい。問題に適した手段を粘り強く探していこう。

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・自己啓発の本は滅多に読まないのだけど、ビジネススクールの先生なら人間のいろんな認知バイアスに取り組んで行動変容を促す科学的な方法を探してくれていてきっと再現性があるだろうということで例外にしている。まあ再現性がない場合もあるのはご愛嬌wやる気出る燃料になればいいんだよね。
・天邪鬼なので新年の誓いとかやらずに来たんだけど損してたかも〜〜〜!!!変化したいには良い方法のようだ。
・やるべきことをやりたいことと抱き合わせてやるようにするというの、実行してる!オーディオブック聴きながら走ったり、小説読みながら歩いたりして運動時間増やすの長続きするからおすすめ。ほんとは自動操縦モードになって危険なので可能ならランニングマシンでやるのがいいんだろうな…
・「これまで全ての投票行動が記録され、次の投票行動を一緒に住んでいる相手や近所にバラす」という通知が送られるという政治学の実験が紹介されていた。怖すぎだろ!でもおもろいからおっけーです。

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・キャロル・ドウェックのグロースマインドセットを褒めてるのは気になったな〜。再現に失敗してる論文いくつかあるやん。
https://doi.org/10.31235/osf.io/tsdwy
http://psychbrief.com/growth-mindset-fails/
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/01973533.2020.1806845
まあ本だと再現に成功してる実験が紹介されてるんだけど。結局有効なの?どうなの?失敗は成功の糧と捉えようという話には賛同なんだけども。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31391586/
・本のまとめを紹介するの、自分の理解を深めたいからやっているのでこの本でもそれが正しいと説明されていてよかった〜😄理屈がよくわからなかったらそこは俺がよくわかってないという点なので突っ込んでもらいたかったりする(他力本願)
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2022年03月09日

遺伝というくじについて

遺伝学の知識は決して社会変化を妨げるものではないと主張する本が出ている。

The Genetic Lottery, Kathryn Paige Harden
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ゲノムワイド関連分析(GWAS)が何をやっているのかを簡潔に説明してくれるし、反実仮想を重視する現代の統計学の入門にもなるし、遺伝にまつわる色々な誤解を解いてくれるとてもお得な本だ。

米国で高卒者と大卒者の生活の差は非常に大きい。前者は低賃金で未婚で鬱で幸福度が低い。また貧者は貧者と結婚する。この社会格差は環境からだけでなく遺伝からも来るのだ。リベラルは遺伝学の研究に疑問符をつける傾向がある。優生学という悲しい歴史はあるが、現状では多くの白人優越主義者が喜んで遺伝学の研究を引用する傾向があり、これは是正すべき状況。平等な社会づくりのためには正しい知識が必要である。

赤ん坊は遺伝子を男から半分女から半分受け継ぐ。これはものすごい組み合わせの中から一つだけ選ばれているくじのようなものだ。人の性格や寿命や知能といった表現系に関係する遺伝子は単一ではなく複数ある。人は遺伝だけでなく環境や文化によっても違う。これを集団階層化といい、たとえばアジア人はALDH2遺伝子を持ち箸を使うが前者が後者の原因となっているわけではない。遺伝の影響を考えるなら兄弟を比べ条件を揃えるべきである。教育の積みやすさという点について多因子遺伝指数を構築すると、ある研究ではこれは富に影響することがわかった。集団階層化の影響を外すため兄弟間で比較するより最新の研究によってもこの指数と富との関係は見られた。

DNAは料理のレシピにたとえるといい。材料は確かに美味しさに影響するが、レストランの良さは店内の雰囲気や一緒に行く友人の機嫌に左右されるだろう。遺伝子は遺伝病に関わる致命的な因子もあればもっと影響が微々たるものまである。旧来の研究では、生物学の理論から予測を立てて比較的少ない人数についてどの遺伝的要因が重要かを調べていた。しかし5HTTLRと鬱の例が示すように、実際には全く関係がないにもかかわらず何年も誤解されているということが生じるのがこのやり方の欠点だ。この失敗は、レストランの成功を決めるのは一つの材料ではないのと同じように、一つの遺伝子が鬱の傾向を決めているわけではないことからきている。複数の因子がある場合どれが有効なのか把握するには極めて多くの人について調べる必要がある。レストランの評判としてYelpを利用するのと同じように遺伝学でも何を測定するか決める必要がある。良し悪しを決めているわけではない。ゲノムワイド関連分析(GWAS)ではゲノムの塩基配列が一つだけ他の塩基に変わっているSNPに着目する。何百万ものSNPを身長や体重や教育水準などの表現形と関連づけていく。黒胡椒があれば塩も使うだろうという予測が立つのと同じように、あるSNPが測定されたらいくつかの他の遺伝的変異が伴っている。減数分裂で組み換えが起きるときに近くにある遺伝子はセットになりやすい。この連関を連鎖不平衡(LD)と呼ぶ。このためあるSNPが教育水準に関わるとわかったとしても、そのSNP自体なのかそれともそれに伴う因子が関係しているのか判断はできない。そして測定したい変数について関わるSNPを全て加えていって指数にしたものが多遺伝子指数となる。教育についてのこの指数が最も低いものが大学を卒業する率は11%であり、最も高いものが大学を卒業する率は55%となる。教育水準のばらつきのうち10-15%ほどを説明することになる。教育というのは複雑な要因があるので完全な予測ができるほど決定的ではないが、無視できないほど大きい影響はあるのだ。

親の親の親の…と辿るのは血統的祖先である。「全」人類の共通の祖先と見られる人物は直近では紀元前1500年前ごろに生きていたとみられている。そしてこれと異なる概念が遺伝的祖先である。性染色体を別にすると、父親から受け取るのは22本の染色体だ。そして父親は精子を作る減数分裂のときにその両親から受け継いだ染色体を平均して33本組み換えている。なので受け継いだ22本の染色体は55もの成分からなり、そのどれもが父系の祖父母にたどることができる。このようにして染色体の成分を辿ると極めて多くの祖先がいることになるのだ。数千年たどれば共通の祖先がいるのに、違う場所に暮らす人類を比べると遺伝的にとても古い差が見られるのはこのため。血統的祖先のほとんどは近くに住み交配を繰り返すが、そのほとんどはDNAを現在の人間には残していないからだ。祖先というのはこのように経過に関する概念であるが人種はパターンについての概念であり、地理的または社会的に構築される集団に人を所属させる。遺伝子がある集団ではあまり見られないが別の集団ではしばしば見られるということはよくある。またLDのパターンも人口間では異なる。そのためGWASの結果が全部の集団について同じであると考えることはできない。この研究は欧州の集団に偏っている。白人という集団内で個人間の差をある遺伝子が生むなら白人と黒人の差も遺伝的に生まれると考えるのは生態学的誤謬を起こすことになる。外国生まれの人は文盲になりやすいが、外国生まれの率が高いほどある州の文盲率は低くなる。この逆転は外国人は文盲率の低いところにやってくることから生じる。州の違いは相関を考えるために見ていた変数以外にあるのだ。このため現状のデータからは白人と黒人の差に遺伝が絡んでいると主張することはできない。遺伝学でどのような発見があっても社会を平等にしようという責任からは逃れられない。

社会科学や医学でXがYの原因であると呼ぶのは、Xを受けたときと受けてないときとでYになる確率が変わってくる場合である。最善のやり方は人をランダムにXか非Xに割り振りその平均の差を見ることだ。ここで、どんなメカニズムでその原因が結果を起こしているかは問わない。また、その因果性は確率的なものであり決定論的なものでもない。そしてその原因が通時的空間的に等しいとは限らない。

どの遺伝子が継承されるかはランダムに生じるので、遺伝子型が違えば違う人生になるのかという問いについて上記の意味で遺伝が原因であることを示せる。ばらつきがどれだけ遺伝要因で説明できるかを遺伝率と呼ぶと、背の高さは80%ほどとなる。遺伝率が高いからといって不平等が世代ごとに増していくわけではない。一卵性双生児は二卵性双生児と比べると、性格・認知能力・教育・雇用・健康・精神的問題・人間関係という全ての側面でより似通っている。双子研究はどの遺伝子が関係しているかまでは把握できず、またGWASは別の家族の人たちを比べるため環境要因の影響を拾う危険性がある。このため三つの比較方法で遺伝の影響が調べられている。まずは兄弟を比較するもの。そして養子と実子を比較するもの。最後に、両親と子の三人を利用するもの。親にとって遺伝子は子どもに受け継がれたものとそうでないものとに分かれるが、前者が後者よりどれだけ強く子の結果に影響しているか測ろうとするのがこれだ。これら三つ全てで、遺伝の影響があることが判明している。

メカニズムの解明も少しづつ進んでいる。遺伝子の影響は脳に起きる。そして2歳にもなると認知能力について影響が出始める。基本的な認知能力の遺伝率は100%である。我慢強さや対人関係など非認知的能力にも遺伝の影響がある。歳を重ねるにつれて遺伝の影響は大きくなる。これは、知性や好奇心ややる気や自律など社会環境との関わり方について遺伝が影響してくるから。初期に優位だと両親や教育者からより刺激が与えられより成長することになるのだ。

近眼は眼鏡で矯正できるのと同様、社会的介入により遺伝の影響を変化させることは可能だ。東独統合後や女性の権利が増してからは多遺伝子指数はより教育水準を説明できるようになる。これは選択や競争の機会が増すほど遺伝率が高まる例だ。義務教育を伸ばすと遺伝的に肥満の可能性が高い人が肥満になる率が下がったり、青少年に注意を促す方針がアルコール依存性になる可能性の高い人をそこから防いだり、進学校は遺伝的に数学に弱い人も落第させなかったりする。たばこ税はタバコの消費は減らすが遺伝的にリスクの高い人はより苦しむというマタイ効果(富めるものはますます富み貧しいものはますます貧しくなる)をもたらす。生物学的な影響があるから社会変化ができないわけではない。

善意で問題は解決しない。大量の時間と費用をかける前に正しく分析する必要がある。初の性交が早いほど精神に病が見られるという傾向があったとしても、因果関係ではない可能性がある。実際、初の性交の年齢がばらばらな双生児を比較するとこのような傾向は見られない。人間は環境と遺伝の両方の影響を受けるが、遺伝学的知識を踏まえることで環境の影響について正しく測定することができる。高い多遺伝子指数を持つ低い社会経済的家庭に生まれた子は平均して、低い多遺伝子指数を持つ高い社会経済的家庭に生まれた子よりも上手くいっていないことがわかっている。また、遺伝子には親から子どもへ受け継がれるものとそうでないものとがある。後者も子どもに影響しているとしたらそれは環境を通じてということになる。身長や体重については影響しないが教育については影響があることがわかっている。このように環境の影響を測ることができる。

犯罪に走る傾向もまた遺伝の影響は大きい。善行については遺伝的な説明が受け入れられる一方で、悪事を行う人について遺伝的な説明がされても、責任が軽くなるわけではないと一般には考えられている。自由意志を考える上で双生児研究は参考になるかもしれない。環境によっても遺伝によっても説明されない差異は多くの点で少ない。それ以外にも振る舞えたはずなのにそうしなかったという個人の責任を問える領域は少ないのだ。右派と左派は人生が運か選択のどちらで決まるかには同意しないが、どちらも不運により生まれる不公平には反対である。遺伝もまた運であると捉えるようになれば再分配への支持が高まるだろう。

IQは標準化した問題を全ての子どもに与えることで、発達が遅れているかどうかを示す有用な情報として始まった。しかしその後高い知能は高い倫理性を有すると誤って考えられるようになってしまった。しかし上下関係があると捉えなくてもいいはずだ。高身長や耳の聞こえない人や自閉症の人には遺伝的影響があるが、それらのコミュニティは自分たちに尊厳があると主張している。どんな遺伝子を受け継いだとしても社会経済生活に完全に参加できるようにすればいいのだ。

優生学に対抗して社会を作るには以下の点に気をつけるべき。遺伝学の知識を用いて、時間や予算や才能を無駄な政策から避けること。人を分類するのをやめ、機会を改善すること。たとえば、同じような多遺伝子指数を持つ子どもが学校によって違う成績になっていれば、悪い成績の学校は改善すべきだろう。保険や教育や不動産や金融といった制度から排除するのではなく誰もがアクセスできること。運がいいことと善行をしていることを混同しないこと。そして、遺伝くじという点で最も不幸な人を改善するために社会を構築することだ。

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・やあああああああああっっっっっと遺伝学が何やってるのかわかった〜〜〜〜!!!既存のデータだと白人と黒人を比較するのは生態学的誤謬に当たるというのが特に勉強になった。遺伝的祖先は特定の地理に固有のもの。地理によって有効な生存戦略と能力が違ってもおかしな話じゃないと思うので、今後の研究を待ちたい。
・案の定ハーンスタイン&マレーのベルカーブ叩かれてるんだけど、言うほど叩くべき本か?とは思う。今のデータや洗練された統計手法からすると雑だけど問題自体は提起しても良かったのでは。
・耳の聞こえない人のうち、同じように耳が聞こえないような子どもを欲しがり技術を利用する人もいるというのは驚きだった。
・遺伝は運!だからハズレを引いたやつを重視して社会を改善しようというのはあんまり頷けず。ばらつきでかいやん…?
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2022年03月02日

西洋の例外主義の淵源はヴォルムス協約にあり!?

The Invention of Power: Popes, Kings, and the Birth of the West, Bruce Bueno de Mesquita

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現在、西洋はその他の地域に比べてずっと繁栄している。本書はこの例外主義を生んだ理由がヴォルムス協約にあると主張する。叙任権闘争の背景を描写し、ゲーム理論的分析を行い差の差の統計的分析で様々な証拠を見せてくれる。説明責任を果たす政府のもとで構造的に経済競争がなされるとその場所は繁栄するもので、何も不思議なことはない。どこの場所でもこの教訓を学べるとしている。社会制度と経済成長について考えたい人におすすめの一冊。

1章
ヴォルムス協約は三つの規約からなる。まず、カトリック教会のみが司教を指名できること。次に、神聖ローマ皇帝は指名された人物について受諾か拒否を選べること。最後に、指名が拒否された場合、その教区の世俗的支配者は受け入れられる司教が指名され就任するまでその司教区の収入を維持できることだ。
独英蘭ベルギーをみるとヴォルムス協約のもと世俗の支配者のために働いていた司教が多いほど現在でも経済的に繁栄している。
一人当たりGDPをみると西暦1000年には西洋は中東の後塵を拝していたが1500年には逆転している。1500年頃までは地域ごとの差はあまりないが2000年にもなるとその差は甚大となる。一見、西洋の人間が優れているように思えるかもしれないが長い歴史を見ればそうでないことがわかる。西暦1000年以降に西洋が特別になった理由は、皇帝と法王が政治的な競争相手にあったことだ。
2章
ビザンチン皇帝が信頼できる擁護者ではないと判断した教会はフランク族のピピンを支持し、その寄進により教皇領を得た。その後は布教よりも政治権力を得ることに腐心するようになり、縁故主義が蔓延った。支配者が権力の座に残るためには有効な支援者が必要だが、その人数が多いほど費用がかかる。支援者が受ける利益は二種類あり、永遠の救済などの公共財と、宗教的権威などの私的財とがある。必要な派閥が大きくなると二つのことが起きる。支配者は私的財ではなく公共財により引き付けておこうとする。そして、違う支配者によっても必要とされるようになるため、忠誠心が薄れる。教皇は教会を保護するような支配者を戴冠するようになった。
誰が司教を選ぶのか、司教の追放を正当化する理由は何か、誰が司教を免職するのかが重要となる。
教皇位の乱立に介入したハインリヒ3世は自らの影響下にあるスイトガーをクレメンス2世として擁立した。このため教会の側でも組織を改革する必要を感じたものがおり宗教会議を開くこととなった。そして、教皇を選べるのは教区で選ばれた司教だけであるという決定がなされた。
グレゴリウス7世は、教皇がその地位を維持するのに必要な支持者の規模を縮小した。これは部外者が教会や既存の教皇に干渉する危険性を減らすため。教皇と皇帝の力関係がどうなっていたかをみるには二つの方法がある。一つは、縁故主義がどれだけあったかであり、縁故主義があるほど教皇の力が強い。これはベネディクト9世以降、減っている。もう一つは、芸術に占める世俗的なものの割合だ。これはベネディクト9世以降増えている。
叙任権闘争は教皇になる権利を売り飛ばしたベネディクト9世に端を発した。教皇職を家族経営にするのはやり過ぎであり、神聖ローマ皇帝は教会の権力を制限しようとすることとなった。
3章
叙任権闘争は激しさを増し、カノッサの屈辱で頂点に達した。これを解決するための協約が英仏の王との間でまず結ばれ、そしてローマとの間にも結ばれた。その内容は、「司教が受け入れられると、収入は教会のものとなる。王が受け入れなければ司教は空位となり、収入は王のものとなる。」というものだ。司教を任命するという教会の権利は回復したが、その決定には世俗権力が絡むようになった。協約以前には司教の有無に関わらずその教区での収入は教会に流れていたがこれが変更された。これにより以下の三つの状況が生じた。まず、貧しい教区では、教皇のために働くような候補が選ばれる。これは、司教がいなくて得られる収入よりも居てもらったほうが王にとってはよく、それを見越して自分のために働く候補を教皇が選ぶから。次に、中程度の教区では、王のために働くような候補が選ばれる。それなりに収入が見込めるため王のために働かないような候補は拒否され、それを見越して教皇は王に従う候補を選ぶようになるからだ。最後に、非常に富んだ教区では空位になる。これは、司教がいるよりも大きな収入が王にとっては魅力的となるためだ。これらの結果から、世俗の支配者にとっては経済を発展させようという動機が生まれる。
4章
協定が有効であったのはアヴィニョン捕囚でフランスの影響下に置かれるまでである。協定前には破門は異端者に出されていたが、協定後は政治的理由により破門がなされるようになっている。交易路からの距離が近い地域、またはカロリーの高い農産物を収穫する地域を豊かとすると豊かな地域では協定後には世俗的な影響下にある司教が選ばれるようになっている。司教の任命を拒否した王に課す聖務禁止などの費用は、教会から離れるほど低くなる。実際、遠いほど世俗的な司教が増える。一方、ヴォルムス協約の影響下にない地域ではこのような差は見られない。世俗化は協定の締結後に始まっている。
5章
ヴォルムス協約後にはローマから遠く離れた地では世俗的な絵が増えた。王は経済成長を促進する動機を持ち、教皇は阻害する動機を持った。ヴォルムス協定の影響下にない地域では世俗的な司教と宗教的な司教のどちらのもとでも教区は同じように成長しているが、影響下にある地域では世俗的な司教の教区の経済はそうでない司教のものに対して成長している。この影響は現在に至っても消えていない。協定後の教皇には、資源を教区ではなく自らに集める動機が生まれた。このため各種の騎士団を設立した。労働に対して軽蔑していたのが変化したのはこの頃で、教会騎士は勤勉だった。教皇は司祭の婚姻を禁じ財産が教会に残るようにした。また高利貸しを禁止し経済的の拡大を阻害し、権力の安定を図った。実際禁令のあとは巨大な城の建設は止んでいるが教会の建設は依然されており影響があったことがわかる。これに対し王は財産権を守ったり神明裁判を廃止したりして対抗した。商業革命の影響は協定の元でどのような動機があったかによって変化する。経済が最も成長したのは、世俗的な司教がおりローマから離れたところであった。
6章
協定前は司教の有無にかかわらず教区の利益は教会のものとなったがこれは変更された。協定前は司教の空位は多かったが、協定後は貧しくローマに近い教区だけが高い空位率を示すようになった。これは教会が力を示すことができたのはこのような教区だけだから。協定後にフランスの富は伸び始め、富からして教会に反乱しそうな絶頂期にまさにアヴィニョン捕囚を行った。一方イギリスを見てみると、反逆しそうにもなかったにも関わらず教会から離れてしまったことがわかる。大分裂の後は教会は権力を集中させようとしたが、プロテスタントとの競争の中で次第に宗教的な存在へ変化していった。人口増加の時期にローマ近くには貧しい教区が増えているがこれは教会が力を振るおうとした結果。
7章
協定では、世俗の権力者がその教区という領域で主権を持つことを意味した。これはウェストファリア条約で各国家が領域内で主権を持つことが確認されたことの起源にあたる。戦争は国家を作るが、説明責任を果たす国家は作らない。ヴォルムス協約後には、王たちはその経済を発展させるために中小領主や商人などと交渉してしっかり働いてもらうようにする動機を持つようになった。こうして議会が生まれた。議会は戦争を減らし、実際に影響力がある。交渉はお互いに得になる。議会、特に課税や支出に関して発言権があるそれは王の在位期間を延ばす。王と法王の交渉は、次第に王と民衆との交渉へと変化したのだ。
8章
権力のありようは次第に変化していった。ヴォルムス協定の影響は今日にも残っている。当時協定下にあり富んでいた地域はそうでない地域に比べ今日でも経済的に繁栄し、民主的な政府を持ち、長生きし、透明な政府を持っている。またノーベル賞受賞者も多い。西洋の例外主義は、聖と俗の競争が秩序正しく制度化され、交渉の場で管理されることから生まれたのだ。説明責任を果たす政府のもとで構造的に経済競争がなされるとその場所は繁栄する。

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・ヴォルムス協約の内容についてこうやってまとめてるの、初めて見た!正しいのん?
・現在のノーベル賞受賞者まで影響があるって言われると話ができすぎているような気がしてくる。。。うーん。
・例外主義の起源を植民地時代まで遡るのがかの有名なAJR(AER, 2001)。そっから500年ほど遡ってきたな。もっっっっっっと行けるのでは?!新石器時代とかどうよ。
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2022年02月10日

スケールすることの重要性

The Voltage Effect, John A. List

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経済学で30年にわたりフィールド実験を行なっている著者は、ビジネスとその研究に共通点があるという。それは「スケールできるか」ということだ。小さい教室で上手くいく方針も全国の教室では上手くいかないかもしれない。事業もまた然り。本書は規模を拡大するにあたり注意すべき5つの点をまとめ、そして上手く拡大するために重要な点を示している。大統領府やリフトやウーバーでの著者の経験もあり、標準的な価格理論と行動経済学の最新の知見もありと盛りだくさんな内容でお勧め。

まずは、偽陽性。これは、本当はそうではないのに証拠を真であると捉えてしまうこと。例えば1980年代に流行った、中高生に対して薬物についてノーと言わせるプログラムがある。最初の試行ではうまく行ったがそれはたまたまで、大規模にすると失敗した。仮説に沿う証拠ばかりを集めてしまうという確証バイアス、周囲の影響を受けてしまうというバンドワゴン効果、価値の不明確なものについて競争があると生じてしまう勝者の呪いはこれを助長する。また、証拠の捏造もある。避けるには独立した試行で再現できるかみるといい。動機に着目したり、意に沿わない証拠があるか反対意見を述べる部署を設けるといいだろう。
次は、顧客をよく知ること。メンバーシップを作り二部料金制にしても、割引かれるともっとサービスを使う人もいれば、サービス利用を増やさない人もいる。後者の方が多ければむしろ利益は落ちる。どんなサービスや財を提供していて顧客がどんな人たちなのか把握しなくてはならない。試供テストに来た人たちが想定顧客を代表するようなサンプルなのか考慮すべき。選択バイアスがあるかもしれない。西洋人以外にも試すなどすべき。想定と違う顧客層を開拓したい場合は地道に調べていくしかない。
そして、何が妥協可能で何がそうでないかを見極めること。事業がうまくいくための要素が妥協不可能な場合は規模を拡大するのは困難となる。例えばレストランならシェフは妥協不可能であり、これは通常拡大するのは難しい要素だ。そして妥協不可能な要素に対しては誠実に扱わねばならない。遵守も重要であり、素晴らしい案であっても客がそれを正しく使わなければ効果は出ない。すぐ目に見える形で影響があるように設計しよう。
また、三つの外部効果も重要だ。事業規模を拡大すると意図せぬ結果が出てくることがある。まず、一般均衡効果がある。すなわち市場規模に正または負の影響を与えること。例えば、技能を積ませるという事業を拡大しすぎればその技能の供給が溢れて賃金が下がる。第二に、社会的な行動変容。他の人の行動を見たり直接絡んだりすると人は行動を変えることがある。第三に、ネットワーク効果。使う人が多いほど便利になるようなサービスがある。例えばSNS。
最後に、コスト。規模の不経済が働くようではうまくいかない。固定費をかけても変動費は下げるようにすべし。技能のある人を惹きつけるには費用がかかるから、そこそこの人でも十分に回せるよう最初からしっかり案を練るといい。
望むことをさせるためには上手く動機づけるべき。金銭的報酬だけが重要ではない。損失回避という人間の性質を利用し、社会的に圧をかけたり理想の自己像を脅かしたりすることも効果がある。ボーナスではなく、しっかり働くと損失が出なくなるというように受け取らせるとより人は働く。ただし、公正に扱うべき。
限界効用を考えよう。ある施策を費用便益分析する場合、平均費用だけでなく限界費用のことも考慮すべし。最後の1円があまり効果的でない部署や地域に使われていないかどうか確かめよう。この過程は発見を伴う。サンクコストのことは忘れるべし。
上手くいかない案はすぐに捨てよう。自分にとり機会費用が低い活動、すなわち比較優位があるものを見つけて専念しよう。転職や離婚には勇気はいるがたいてい変化した方が幸せになれる。試行錯誤しよう。
協調と競争をうまくバランスする文化を育てよう。事業が小さいうちは能力主義かつ個人主義でもいいかもしれないが、組織が大きくなると部門ごとの相互の協調が重要となる。有能で多様な背景を持つ人を惹きつけるために、体裁主義を避けたりCSRへの取り組みを見せたりするといいかもしれない。また不祥事が起きたら正しく謝ろう。職場の文化は職場の外にも影響が起きるものだ。
企業に弱点があるなら、規模を拡大したら必ずそこが問題になる。スケールできる案こそが世界の問題を救う鍵だ。くじけず証拠を集めていこう。


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(感想)
・「賃金を上げたのに運転手一人当たりの稼ぎが変わらなかった」とか、謎があらわれた途端にその理屈が解明されるような書き方になっててとてもわかりやすい!
・スケールできるかどうかを考えるにあたっては特別な才能がある必要はないという本書の姿勢大好き!そうそう、チェックするんだったら標準的な訓練を受ければ誰にでもできるもんね。
posted by Char-Freadman at 18:55| 北京 | Comment(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年11月30日

仕事と家庭の両立のために

男女の賃金格差がなぜ生じているかを歴史的なデータを使って考察している本が出ている。

Career and Family, Claudia Goldin著
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1940年代にはあからさまな差別があったが、女性の地位は向上し続けてきた。とはいえ今でも男女の賃金には格差がある。これは両者が違う職に就いているからではない。たとえ職業分布が同じでも格差は1/3程度しか縮まらない。原因は、「貪欲な仕事」にある。それは24時間不測の事態に備えることが要求される管理職や、ずっと頭を働かせていることが必要となる研究職のような時間のかかる業種のことを指している。一方で、親は病院や学校からの連絡に対応する必要があり、家庭を持つことは時間のかかる活動だ。このためには労働時間が柔軟な職が必要となる。著者は、賃金格差が縮小するには柔軟な職種がもっと増えて生産的になることが重要とみている。ここ100年で仕事と家庭の両立という考えがいかに生まれてきたかを眺め、今日どうなっているかを語るのが本書の内容だ。
家庭とは子どもを持つことと定義し、キャリアとは昇進したり持続的に行う仕事のことと定義する。後者はアイデンティティとなりうる。収入のために就く仕事は職と呼ぶこととする。学士号を持つ女性のうち、1878~1897に生まれた世代を第一、1898~1923の世代を第二、1924~1943の世代を第三、1944~1957の世代を第四、1958~の世代を第五とする。こう分けると、世代内では似通っているが世代間では差がある。第一世代の特徴は、キャリアを築くか家庭を持つか二者択一であること。第二世代は第一世代と同様に初婚年齢が高めで、職に就いてから家庭を持ち、その後は働かなかった。第三世代は一番似通っており、多くの雇用制限が撤廃されまた人口動態の変化があった。初婚年齢が低くまた結婚率も高いのが特徴だ。家庭を持ったのち職に就いているがキャリアを積むまでには至れなかった。離婚率も高い。第四世代は前の世代を教訓とし、家庭内ではなく市場における能力の重要性を知った。避妊法が普及し望まない結婚を避け教育を積むことが可能となり、キャリアを積んだのちに家庭を持った。間に合わず子を持てない人も多かった。第五世代はようやくキャリアも家庭も持てるようになってきた。初婚年齢は高いが出産率は上がっている。1940年代中盤から1960年代中盤の大学は男が圧倒的に多かった、これは軍から帰ってきた人が多かったため。大学はパートナー探しの場としても機能している。大学に行ける層が変わっただけであるという指摘もありうるがそうではない。ラドクリフ/ハーバード大学を見ても同様にこのような世代ごとの差があるからだ。
第一世代の学士女性は3割が生涯未婚で5割が子どもを持たなかった。この頃は既婚女性に対する雇用規制と、夫と同じ職場には雇わないという縁故規則があった。当時は家電製品はなく家事は重労働だった。避妊法が発達しておらず、衛生も悪く抗生物質もなかったため新生児死亡率は高かった。子どもを失う率は農婦の方が女性教授よりも低いほどだった。この世代の著名人は学者や公務員やジャーナリストや作家や先生だ。子どもがいる人は作家やジャーナリストである場合が多い。それは時間の融通が効くからだ。活動家が多いのも特徴だ。データはあまりないが、ある調査では生涯独身のままの理由は金銭的に独立しているからとされている。このように歴史を見ると、個人では抗えない力の重要性がわかる。
第二世代は過渡期に当たる。生涯未婚率は減り、子を持つ人は増えた。家電製品により労働を節約できるようになり、また労働環境も変化した。オフィス内のホワイトカラー職が増えたのだ。これにより労働参加率が上がった。この事務職には教育が必要だったため、高校が増加した。入学した女子は男子よりも多かった。既婚女性規制を減らすような動きは大恐慌前まではあったが後にはなくなってしまった。この規制は、既婚女性を雇うかどうかを決めるものと、既婚になった既存の従業員を雇い続けるかどうか決めるものと二種類あり、前者が多かった。新しい先生候補はたくさんおり、学校は従順な労働者を求めたので既婚女性を雇わずにいてもあまり打撃がなかった。第二世代の黒人の大卒女性は結婚している人も子どものいる人も働き続けている人も比較的多い。これは黒人は南部におり、南部には教師が少なく既婚女性規制がなかったためだ。
1963年刊でフェミニズム第二波となったフリーダンの「新しい女性の創造」では当時の学卒女子の野心が低くなったと嘆かれているがこれは間違い。大学を卒業する女子の率は上がっているし、いい人を見つけて中退する率も低くなっているし、また学士以上の学位を取る人も増えている。結婚後も再度就労できるように、教育を専攻する人が多かった。学位があると就労の機会が開けた。また高卒に比べ大学卒の男子と婚姻する確率が高まっている。フリーダンは、家庭とキャリアとで後者を選択した人と、当時の一般的な学部女子を比較した点で間違っていたのだ。第三世代は全体としてはキャリアをより積んでおり、家庭を持てている人も増えている。調査では働き続けたいとの回答も多い。「わがままなキャリアウーマン」という考え方が流行ったのは労働への制約となってしまったかもしれない。
第四世代はピルによる静かな革命が進行していた。これにより望まない妊娠からの結婚をせずとも済むようになった。初婚年齢が上がり離婚が減った。そしてキャリアを積むようになった。結婚しても旧姓を使い続ける人が増えた。第三世代を目にしながら育ち、もっと上手くやろうとしていた。労働参加率が高い。大学での専攻も教育ではなくビジネスなど長期を見据えた内容のものが増えている。JDやMDの割合が増えた。教師の割合は減りさまざまな職に就くようになった。労働者としてアイデンティティを育むようになったのだ。
80年代にようやく不妊についての医学的知識がうまれた。治療の進歩と健康保険の拡充の影響もありキャリアのある女性が出産をする率は上がっている。これが第四世代との差だ。年齢が上がるにつれキャリアのある人は増えるが、これは子どもが小さいうちには若い女性はとても苦労をすることを示している。第五世代はさらに結婚と出産を遅らせた。専門職の人は労働参加率が高い。MBA保持者は家庭とキャリアの両立はうまくいっていない。これはあまりフレキシブルに働けないためだ。卒業から15年後には子どものいる人のうち半数は仕事を辞めてしまっており、支援が必要ではある。
女性に対する偏見や女性があまり賃金に対して交渉する姿勢を示さないことや競争したがらないことが男女の賃金格差に繋がっているわけではない。同じ職についた男女は最初は同じような給料を受け取るが結婚や出産の後に格差が出て来るのだ。キャリアを中断したり長い時間働けないことは金融などのような労働時間を要する職では非常な不利に働く。子なしの女性には格差があまりない。時間要求が緩く、予測可能な日程であり、他の社員により代替可能であるような業種では格差は小さい。技術者や科学やコンピューターや数学などさほど対面を要しない職がこれにあたる。競争的である職は格差は大きい。
薬剤師をみるといい。自営業ではなく法人化が進み、薬の標準化が進み、情報技術の洗練により各々の薬剤師は他の誰かにより代替可能な職となった。このため男女の賃金格差は小さい。代替可能であるということは低賃金になることでも価値が下がることでもない。これらの変化は多くの職でも起きつつある。
昔に比べ現代ではキャリアが固まるまでかかる時間が長くなった。キャリアと家庭を両立させようという人にとっては状況は困難になっている。女医は他の専門職と比べ出産率が高いが、これは働く時間を若いうちに減らすことで達成している。獣医は働き方が標準化し、男女の賃金格差が小さい職の例だ。呼ばれたらすぐに反応しなくてはならない職の賃金プレミアムを減らしフレキシブルな職を生産的にし、育児費用を下げることが問題解消への展望だ。
コロナの影響で多くの人が家から働くようになった。悪影響は女性に起きている。学校兼職場となり集中できなくなっているという声もある。キャリアと家庭の両立には働き方のシステムを見直すことが必要なのだ。

(感想)
・これ系の話だと、「もうギリギリまで頑張ってる女性をさらにもう一押しする」「家事育児をしない男を罵倒する」など倫理観を変えようとする路線をよく目にする。いや、それで解決するならとうに解決してるやろ…となるんだけどこの本はマジで一味違って本当に感動してしまった。標準化することでフレキシブルな仕事を作り出していこうという解決策にシビれる。システムを変化させようというお話。
・カップルの片方がオフィスからの緊急の案件に対応する高級取りの職に就き、片方が家からの緊急の案件に対応するフレキシブルな職に就いているから男女の賃金格差が縮まらないというロジック。嫁が前者に就いて夫が後者に就いても良くない?とは思う。そうならない理屈が欲しいような、でもそれは小さい穴のような。
・格差を縮める方法として採用でのブラインドオーディションをするという非常に有名な著者の研究が挙げられてるけどちょっと待ったぁ!これあんま有効じゃないよってツッコミ入ってるからね。むしろ男の採用が増えるのでは的な。
・「他の人に代替可能じゃん、俺の価値って一体」みたいな実存的疑問は完全に解消されたな!そうであるからこそフレキシブルに働けるわけで。
・ロボットやAIが進展してくるとそういうフレキシブルな職が減っていくんじゃないの感はある。
posted by Char-Freadman at 00:20| 北京 | Comment(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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