2012年05月08日

中世国家の財布事情

中世〜近世の国家財政に興味が湧いたので目を通してみた本↓

"States of Credit: Size, Power, and the Development of European Polities", by David Stasavage



都市国家と領域国家と、中世には二種類の国家があった。前者には小さい地理的規模という優位と流動的な資産を持ったエリート層の存在があり、内包的な議会をうみ信用借りができるようになったことを示していくのが本書の目的。

2章は都市国家と領域国家の財政の違いについて。都市国家も領域国家も傭兵への賃金を支払う必要があった。都市国家は領域国家より早く長期国債の発行が可能になった。また1500年以降に領域国歌も発行するようになると、それらより低利率での支払いを可能とした。
3章はヨーロッパでの代表制の進化について。何らかのグループが王からの承認を得るという形か、または王が財政のために開くという形で議会が生まれてきた。都市国家は規模が小さいために会議の頻度が高く、代表者が働いていることを確認することが容易だった。また都市国家は商人によって議会の椅子が占められており、国債の発行の認証も議会が担っていた。領域国家の議会は、新しい税に関して合意を得るために開かれていた。
4章は負債発行と政治制度の関係について。国家が支払いを果たせないリスクがあり、貸し手には履行を果たすことを監視する代表者を選ぶことができ、国のトップはデフォルトのリスクを下げることは監視抜きには嫌がるとする。このとき監視コストが低ければ、より監視するようになり、借りるコストも下がり、より借りることが出来るようになる。都市国家内でも差があり、より商人により運営されているほど信用借りがしやすくなることが示されている。
5章は都市国家の起源について。843年、カロリング朝はヴェルダン条約により三分割された。その中で特に中王国の分裂は早かった。その後西には西フランク王国、東にはバヴァリア(バイエルン)を中心とするオットー朝(神聖ローマ帝国)が現れたが、ロタリンギア地方は政治的にずっとばらばらであった。このエリアの都市が自律を保てたのはこのため。メルセン条約の国境線からの距離を操作変数にし、都市の発展をみている。
6章はケルン・ジェノバ・シエナを具体的に取り上げる。どの都市でも、商人の議会での存在感が信用借りのしやすさと関係している。
7章は都市国家が信用借りの出来なかった理由を探るため、フランス・カスティリャ・オランダを取り上げる。フランスにも一応は議会があったものの王の介入する余地は大きく、またパリ以外から資金を調達する権限もなかった。土地の広大さと、議会がしっかり利益を代表していなかったのだ。カスティリャは絶対王制、オランダはそうではないという違いはあれど、双方の財布事情は同じように地方の商人に握られていた; しかしカスティリャは広大なため契約の履行の確認が困難であり、資金調達がしづらくなってしまった。
8章はまとめ。戦争は支配者にとって課税のための交渉を可能にする議会を必要とさせた。情報獲得のためのコストが大きいと、コミットメント問題を解決するのは困難。革命を避けるために民主化するという議論は、一度権力の地位に就いたらその特権をコスト無くふるえることを暗黙の前提にしている。商人による寡占は、財政上は優位だったものの、結局は新規技術をもつ人の参入を阻害したり、高リスクなビジネスから低リスクなビジネスへと移行したりするのかもしれない。

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(感想)
・大量の回帰分析が出てきて頑健性のチェックに辟易するものの論旨は分かりやすく、大変読みやすかった。

・堺や今井町などの都市国家が、伊賀・甲賀・雑賀・根来などの傭兵で名高い地域の近くにあるのも、同様の理由かしらん。

・「経済成長の決定要因は地理じゃない?」
→「いや、政治制度じゃない?」
→「政治制度を決定するのは地理じゃない?」(イマココ)
混乱してきた。

・このプリンストンの経済史シリーズいいなあ、全部邦訳されないかな〜
http://press.princeton.edu/catalogs/series/pehww.html
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2012年04月25日

創業者の苦悩

テクノロジーと生命科学を焦点にしたケーススタディおよび10000のデータベースに基づき、創業者の直面する各種のジレンマを明らかにしていくのが本書の目的。必ずしも富を追うのと権力を追うのとは一致しない。他の職に就いていたほうが稼ぎは大きかったかもしれないのに、なぜ創業するのか。一見、不思議な人たちではある。

"The Founder's Dilemmas", by Noam Wasserman



【職業選択】創業者になるべきか、早めになるか経験を積んでからするか、公平にアイデアを評価できているか、判断せねばならない。創業に適した年齢はない。若い創業者は他に立ち上げ人が必要かもしれないが、老いた創業者は一人で立ち上げられるかもしれない。
親友や両親が自営業だと、より創業者になりがち。創業というキャリアを選ぶ大きな動機は、男女を問わず支配欲と金銭面だ。
技能・知識・専門を深められる。教育を受けるとより創業しがち。どうやら未経験の分野で立ち上げると、資本が少なく、失敗率も高くなるようだ。大きな会社で働くより、小さな会社で働いた人のほうが創業しやすい。大きな会社でも、新製品の開発や外国でオフィスを立ち上げた経験などは、創業の準備になる。優先順位を正しく付けるのはより重要。年をとればコネもカネもでき、立ち上げやすくなる。
経験のしすぎもダメで、25年以内だと成功率は高い。心理的にも金銭的にも法的にも離れづらくなる。またヨメもガキもジャマだ。雇用ショックがあったり、雇い主の方針が変わったりする人は創業しがちとなろう。楽観はアイデアを生み出すもととなるものの、リスクを正しく図れなくなったりする; 需要や競争者の存在を常に意識すべき。

【誰とともに立ち上げるか】一人でやるなら関係・役割・報酬のジレンマは回避できるものの、人的・社会的・金融資本を得られない。仕事の好み・やり方などの基準がある。大きい集団はより多くの情報を得たり、間違いを訂正したり、多くの解決策を考え出したりできるため成長率も生存率も高くなる。

【関係のジレンマ】共同創業者の経験は、チームの問題解決緑野技能の多様性に影響する。
均一であるべきか異質性を持つべきか; 同一であればコミュニケーションが成り立ちやすく、またアイデンティティの構築もたやすい。一方、同じような弱点を持つ人ばかりにもなるし、ネットワークも広がらない。
家族や親友に頼むか否か; よく知ったもの同士でつるむと失敗しがち。関係性が壊れるのを恐れて大事な問題を議論しなくなる。関係を分け、うまくいかないときのことを予見してその際の策を練り、よく議論すべき。

【役割のジレンマ】分業は紛争のもととなる。より創業にコミットし、アイデアを持ち、人的・社会的・金融資本をより多く持つ人がCEOになりやすい。重要なのは、摩擦を避けようとしないこと、CEOの重要性を無視しないこと、地位のインフレを避けること、取締役会に味方を置こうとしないこと、共同事業者間の異なる動機を無視しないこと。

【報酬のジレンマ】 利益を調整するような報酬構造が必要となる。創業時に株式の分配を決める場合、やる気のある人を引き寄せることができるものの、モチベーションを下げたりフリーライドを助長する。いっぽう創業後に決める場合はその逆となる。過去の貢献(アイデア、資本)、機会費用(創業にあたりどれだけ犠牲にしたか)、未来への貢献(経験、コミット、地位)、モチベーションなどが勘案されているようだ。
動的に分配を決めるなら、このトレードオフを回避できる; その後の貢献によって権利を分配するのだ。

関係・役割・報酬は相互に関連する。たとえば家族や親友と立ち上げた場合は役割も報酬も平等になり、職業を通じての知己同士で立ち上げたなら階層的な組織構成・貢献に応じた報酬となる。議論を避けたり、変化を見落としたりしてはならない。

【雇用のジレンマ】立ち上げ後も、技能を持った人を集め、役割・報酬を決めねばならない。CEOは自らのネットワークを駆使して人材を獲得してくるが、投資家もまた雇用に口を出す; たとえば多くの場合CFOを任命する。どうなるかわからない初期段階では何でも屋を雇い、何をやるか決まった後は専門家を雇うとよい。営業マンは業績給を好み、エンジニアは固定給を好む。

【投資のジレンマ】さまざまな資本が必要となるものの、友人や家族から投資してもらうか、エンジェル投資家に頼むか、ベンチャーキャピタルに頼むか決めねばならない。友人や家族に頼むと失敗したときに全てを失う大きなリスクがある。エンジェル投資家の場合は規律は緩やかでよい。VCなら大きな額を借りられる。

【譲渡】創業者が退陣するときが重要な転換点。

出てくる創業者はみな魅力に満ちている。BloggerやTwitterで知られるエヴァン・ウィリアムズ、輝かしい野球経歴をもったカート・シリング、Zipcarを立ち上げたロビン・チェースなど、豊富な事例が楽しい。また手際よくまとめられていて読みやすい。創業に興味のある人にオススメ!

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(感想)
・色々意外だった。ビルゲイツみたいに、若いうちに創業してずっと辣腕を震い続けるのは稀な例なのね。あとこの種の本には珍しく、危機が生じた事例も扱っていたので面白かった。元カノと創業したからトラブった、みたいな。

・MBA生と遭うと、以下のような二種類の値踏みする視線が返ってくる;
a. 小難しくてビジネスには使えなさそうなネタを追ってるんだろうな、ネットワークもしょぼそうだ
b. もしかしたらネタに結びつくかもしれない、(駄目元でも)専門何やってるか聞いてみよっと
もちろん後者が好きなのでそんな人は全力で応援したいところ。

・スタンフォードGSBはホント起業が好きだナァ…w
posted by Char-Freadman at 06:04| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月19日

金融でイイ国を作ろう

Financeはラテン語の語源からして目標という意味がある。目標を達成するにあたり手助けをするのが金融であり、インセンティブを調整したり価値を発見したり、効能は大きい。2008年の金融危機以来、金融業の発展を制限しろと声高に叫ぶ輩は多い。でも、良い社会を作るために本当に必要なのは、さらなるイノベーションでより多くの人が金融に参加できるようにすることだと説くのが本書の目的だ。



一部は今日の金融資本主義を概観する。金融業を取り巻く人々の役割と責任について述べる。
CEOは意思決定者であり、会社の価値を高めるような行動をするよう動機付けがなされる。ボーナスよりもstock optionのほうが長期を見据えた経営をするようになる。問題はある; 大きすぎて潰せないから政府が救済するであろうことを見越して過大なリスクを取ったり、給料をもらうまでは都合の悪い情報を隠しておいたりする。規制をかけるべき対象は、給料の水準ではなくその構造。たとえば給与の支払いを5年くらい伸ばしたり、政府救済が起きたら給与を奪ったりすべき。
様々な組織の描写がなされる。改善するにはいかにしたらいいかが考察される。また敵意はどこから来るのかも理解される。
投資マネージャーもまたいかに資金を運用するかを決める。市場を打ち負かすことはできないものの、IQや能力の高い人は実際に高いパフォーマンスを上げる可能性がある。シャープ比もまた実情とはかけ離れた数値に操作される可能性があるため、必ずしも信用できない。
銀行は一般人の預金をプールし、企業に貸し付ける。情報を収集してモラルハザードを防ぎ、個人にとって貯蓄は優れた運用方法であるものの、口座を持たない人はまだかなりの数いる。より多くの人が利用できるようになると良い。
投資銀行は企業がシェアを発行するのを手助けする。企業がうまく軌道に乗るよう、金融面から動機付けを行う。
不動産ローン業者は、家を買いたい人の手助けをする。不動産が永遠に値上がりするとの非現実的な仮定を置いてしまったため失敗したものの、モートゲージの発券でリスクを下げるという発想自体は間違っていない。誤解されがちだがAAAの格付けになっていたサブプライム証券の0.17%しか損失を経験していないのだ。ただ貸し付ける側と借り入れる側に情報の非対称はあるのでその解消は今後の課題。
トレーダーは価格が真の価値を表すようになるまで奔走する。脳の構造に似ており、新しい情報を瞬時に価格に反映するのだ。技術の発展により、早くかつ多様な取引を行えるようになってきた。もしかしたら不動産のデリバティブが一般的に行われ、将来の家の価格が評価されるようになっていたら、バブルは起きなかったかもしれない。新しい取引が生まれるようにするため、課税で動機付けしてはどうかという提言がなされる。
保険は事故が起きた際の損失を回避する。幾世紀にもわたるその歴史は、より多くの人を参加させてリスクをシェアするよう方向付けられてきた。長期のリスクはカバーされていないものが多く、たとえば生計はそのうちの一つ。いかなるキャリアを歩むかに関して保険をかけてはどうかとしている。
マーケットデザイナー・金融工学者はよりよい暮らしに向けて取引が行われるよう理論を発展させている。たとえば臓器移植の市場が生まれ、より体に馴染む臓器が提供されるようになった。排出権取引や、政府による安価な薬の購買と分配なども提言されてきた。ゲール・シャプレーのマッチングアルゴリズムも紹介されている。
デリバティブ業者は財の将来の取引に関して市場を作る。起源は古代ギリシャまで遡ることができ、オリーブについて取引がなされていた。天然資源の利用、婚約などオプションのようなものは多い。
弁護士や金融アドバイザーは、より多くの人が正しく金融という機会に恵まれるために必要。依頼人の利益を守るように制度を構築すべき。
ロビイストは公共心を持った人がやりがち。全ての人に発言権を与えるように政治制度を改革するとよい。
規制主体は必ずしも業界団体に取り込まれるとは限らない。
会計士や教育者はよりよい情報の伝達に必要な職。
マクロ経済を自動安定化させるような政策も必要。

二部は改善する各種の提案が述べられる。人間心理の描写が多くなされるのが特徴だろう。
射幸心も保守主義もまた人間の心の一部。金融用語は人々の反発を食らわないようなものになるとよいかもしれない。効率市場仮説はしばしば議論の的になる;我々は無関係な証拠に影響され、都合のいいお話にも影響され、自信過剰だし、周りに影響を受けるもの。こういった心理状況がバブルを引き起こすのだ。とはいえ金融がない世界、たとえばソ連の計画や中共の大躍進政策もまたバブルといえる。株式市場は全体としてみては予測がつかないけど、個々の株式をみていくとそれなりにファンダメンタルを表している;これはサミュエルソンの二分法といわれる。また配当を払わない会社のほうがキャピタルゲインが大きい。
不平等度に基づく所得税が提案されている。不平等が生じる前に税制を構築するのがよい。
農地・住宅地・会社などの所有権は各種の改革により、多くの人が恩恵に与れるようになった。金融もまた多くの人に利便をもたらすようになるべき。

冗長なものの、一般読者に語りかける平易な書き方になっています。金融の嫌いな人にオススメ!

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(感想)
・嫌われがちな職を擁護するのもまた経済学者の仕事のうちなのかもね。そういえば学部を卒業するとき当時の経済学部長が「堂々と金儲けをしてください、価値があると胸を張って良いのです」という趣旨の発言をしていた記憶がある。

・保険屋にみんなムカついてるのはそのビジネスモデルを理解していないからじゃなくて、支払うべきときに支払わないで渋るからじゃないのかな。お金に愛を込めることは事前にはやってもらって結構ですが事後には保証されません^q^

・後半部だけ読めばいいような気がしなくはない。金融の話のはずなのに税制やら寄付やらに脱線しているし。。。

・まあぶっちゃけ、金融嫌いな人は、ビジネススクールの教員が書いているというだけで読まないだろうなーw

・シラー先生は不動産価格のデータを構築したありがたいお人。前著でもそのまた前著でも心理的要因を指摘している。

・経済だけじゃ説明付かない→心理的要因に飛びつくというのは何とも不満がががが。。。アニマルスピリットって要は経済学の敗北宣言だよね。

・悪徳商人から改心して慈善家になった人としてカーネギーが紹介されていた。日本だったら笹川良一かなあ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%B9%E5%B7%9D%E8%89%AF%E4%B8%80
posted by Char-Freadman at 07:46| 北京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月04日

創造性の分解

脳科学の研究や豊富な企業のケースを駆使し、創造性はどこから来るのかを考察していく。

"Imagine" by Jonah Lehrer



1章は全体構造の把握について。右脳はかつて役立たずと考えられた時期があった。しかし右脳に欠損がある患者は、絵を描くことや皮肉の理解ができない。これは、右脳が全体構造を把握する能力を司るためだ。すべき方策をすべてなし、いらついたのちに解決策がみえてくるもの。閃きの前には右脳からガンマ波が流れてきている。

2章はリラックスについて。白昼夢の研究によると、白昼夢の中に自分がいると認識している場合に、特にひらめきがもたらされるそう。また、早朝のリラックスしている時間帯が創造的な思考には適しているとか。注意を集中させることが必ずしも創発性には繋がらず、むしろ多動性の人のほうがひらめきをもたらす可能性がある。新しい状況に古いやり方を当てはめると解けることがあり、複数の領域をまたぐとよさそうとのこと。従業員の労働時間の15%を新しい問題の追究に当てていいとする3Mの多くの成功事例が取り上げられている。

3章は多様な思考方式について。オーデンやエルデシュのように薬物を使いながら創造的な仕事をする人がいる。薬物は脳内のドーパミンを活性化する;ドーパミンは喜びを得ると同時に思考を集中させる効果を持つのだ。ドーパミンは注意を高めると同時に、アイデアを結合させもする。ワーキングメモリとなる前頭葉が活動し、より多くの情報を得られるのだ。I ハート(トランプ) NYなどの優れたデザインを手がけるミルトン・グレーザーは、芸術は仕事だという。繰り返し繰り返し、もうその先にはいけないくらいまでアイデアを洗練し続けるのが彼のやり方だ。ワーキングメモリーは重要、というのも必要な思考が現れるまで注意を払い続ける必要があるから。アイデアは再帰的に結合し続けることで豊富になる。
憂鬱な気分は閃きを減らすものの注意力は高める。まるでアンフェタミンのように働いている。作家に鬱病や躁鬱病者が多いのはそのため。
問題が多様なら解決策もまた多様。久々に会った人の名前を忘れているとき、ちょっと努力すれば思い出せるのにと感じるだろう。この「知っているという感覚」のおかげで、どちらの思考方式を当てはめればよいかわかる。袋小路に追いつめられたようであればシャワーでも浴びてリラックスするとよいし、もう少しすれば解けるというときはとことん集中するのがよい。

4章は自我の解放について。ヨーヨーマは演奏の際にミスを恐れず、むしろそれが自分らしい表現に繋がるという。研究によると、ジャズの即興演奏では、自分を表現するという脳の部位が活性化されているようだ。プロサーファーのクレイは、自閉症ーー想像力の欠如と一般には考えられているーーであるため、むしろ波をよく理解できている。ハリウッドの喜劇養成所では、自分を抑制しないことを学ぶ。前行性痴呆症の人は、自分を抑制する脳の機能が欠けていくため、新世界が開けたように感じ芸術に興味を持つようになる。

5章は外部について。傷心からバーテンダーに挑戦しヒットするカクテルを生み出したプログラマーや、欧州旅行で見かけた人形をヒントに生まれたバービー人形、自社で解けない科学的問題をネットで懸賞にかける薬品会社イーライリリーのInnoCentiveなど、解決策は外部からもたらされることが多い。作家もまた作品の校正の際は寝かせた後にすべきと言われる。子どものように若々しく恐れを知らない心意気があれば、ずっと生産性を高め続けることができる。

6章はチームの重要性について。ブロードウェイのミュージカルでは、見知ったもの同士だけで組んでも、まったく見知らぬもの同士で組んでも、ヒットすることがないことが研究により明らかになった。ジョブスはピクサーの建物を設計したとき、カフェやら土産店やらトイレやら重要なものを全て中心部に押し込んだ。それは社員同士が偶然遭って思いもよらない会話を始めるよう狙ったため。より多くのメッセージを送りあうトレーダーが、より稼いでいる。褒めあうだけのブレインストーミングより、批判をしあう討議のほうがより生産的;たとえ間違っても、グループが直してくれると信じるから、発言するようになる。ナイキやピクサーの成功例が取り上げられている。

7章は都市について。多くのものが集積するというメリットがある。特許取得は同じ都市に住む人同士で起きがち。歩行者は早歩きで少し居心地は悪いものの、相互干渉が新しいアイデアをもたらす。ボストンのルート128はかつて大企業が集まっていたが、水平方向にアイデアが行き来せず上意下達となってしまい、サンノゼ周辺のシリコンバレーに追い抜かれる結果となった。人が増えるほどに都市は加速していく。イスラエルでは91%の都市人口率を誇り、皆が皆を知っている。予備役の必要から「弱い連帯」が人々の間に生まれており、これがハイテク企業の集積地になっている理由の一つかもしれない。

8章は天才たちの集積について。アイデアは失われることなく、他のアイデアを刺激する。シェイクスピアはマーロウなど同時代の劇作家たちや歴史書から盗用し、文学史に名を刻むような傑作を残した。アイデアが広がるには必要な方針がある;エリザベス期のイングランドは文芸の検閲が緩くなり、また貿易で人の繋がりが多様になった。多数のアーティストをニューオーリンズから輩出するNCAAは、徒弟制で生徒たちに「作りながら学ばせる」というやり方をとっている;創造性は教えることが可能なのだ。リスクを取ることも重要。

創造性に興味がある人にオススメ。

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(感想)
・ボブディランの歌に言及したり詩文の解説をする節があったけど、洋楽や英文学に疎いのでさっぱりわからんからまとめから割愛してしまいました。ご了承ください。知らんもんは知らん。

・探すのを止めたとき 見つかることもよくある話で;ミネルバのフクロウはたそがれに飛びますね。

・脳科学の研究紹介の部分は大変わかりやすかった。一方それを利用して各種の創造的行為を説明する部分にはなんか胡散臭さが残ってる感じが。。。ヤクをやれば必要な知識を持ってるみんなが数学解けるの?とか詩人になれるの?といった疑問が湧くわけで。

・大学はコーヒー飲む時間を設けるとよさそうだね。交流ということで。

・都市に言及するんだったらやっぱ東京を語って欲しいな〜。古本屋街・スポーツ店街・楽器屋街・電気街が立ち並ぶ東京は例としてうってつけだし。

・大学院生向けにまとめるとこうなるか
(i)早起きしろ&メモをこまめにとれ
(ii)コーヒーアワーやセミナーに行ってとにかく人と話せ
(iii)指導教員や上司の手足として四の五の言わずにまず働け
posted by Char-Freadman at 01:40| 北京 | Comment(4) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月25日

経済成長と政治制度(訂正)

世界を見渡すと貧富の差に気付くだろう。経済制度が貧富の差を決定する重要な要因だけど、政治および政治制度が経済制度を決めるーーこれが本書の中心的メッセージ。

"Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty", by Daron Acemoglu and James Robinson



一章はアメリカとメキシコの比較。経済制度の差は経路依存性がある。南米大陸を征服したスペイン人は、現地人を搾取して富を得るという方法をとった。コルテス・ピサロ・トレドといった征服者は、エンコミエンダ(大土地所有制)・ミタ(強制労働)・トラジン(食料や織物の運搬)といった収奪的な制度を導入したのだ。北米では現地人を使うことも植民した人も搾取できなかったため、土地の付与を通じ植民した人がしっかり働くような制度が作られていった。いっぽうメキシコは政治が不安定で所有権保護がおぼつかなかった。そのため銀行の発達も遅れ、産業発展に必要な資本を融通することができなくなった。現在の富豪を比較しても印象的;マイクロソフトのビル・ゲイツは競争環境で勝ち抜いたけど、テルメックスのカルロス・スリムは政治家たちに取り入って成功を収めている。
二章は成長の要因について。マラリアなどの病原体、生産的農業を許さない土壌など地理的要因が効くという仮説がある。しかし熱帯でも発達した国は多く、また病気に対抗するのが政府の役割だ。所有権制度の結果として低い生産性になっている。畜産物の利用可能性だけでは近代の経済格差を説明できない。ヨーロッパの植民地が運命の逆転を引き起こしたことも説明できない。社会規範は重要で変わりにくく制度的違いを支持するけど、宗教や倫理観や価値観は関係ない。銃や文字や洋服屋家のデザインなど新技術を導入する。鋤を導入しなかったのは、収奪されるおそれがあるのでしっかり耕作するインセンティブが無かったから。同じ宗教や同じ言語だったとしても貧富の差はある。支配者が無知だから良い政策がとられないのではなく、市民を犠牲にして自分だけが富むような政策を支配者が好むのが問題。
三章は二つの制度の比較;包括的な制度と、収奪的な制度だ。包括的な政府とは参加者が多いものを指し、所有権を保護し、歪みの無い法の支配があり、交換を促進する公共サービスを提供し、新しいビジネスの参入を許す。暴力の正統な独占が必要。経済制度と政治制度には補完性がある。収奪的政治制度はエリートに権力を集中し、経済制度はエリートに寄って吐くあられ資源を奪うために作られる。制限が無いからあたらしく独裁者を生む。コンゴや北朝鮮は収奪的制度の例で、経済成長を阻むような行為もとっている。経済成長が可能なのは、変化により政治的・経済的に打撃を被る人がそんなに居ないときだ。収奪的政府であっても、高い生産性のある活動に資源を配分したり、包括的な経済制度を維持したりするなら成長が可能かもしれない。ただしそれにはある程度の中央集権が必要であるし、もし成長したとしても不安定になる。
四章は歴史の分岐路について。中世にはペストの流行により貧農は希少になり賃金は上がりつつあった。14世紀半ばには西欧と東欧は似ていたが、17世紀になると違いが生じた。西欧の農民は封建的な義務から解放されて市場に組み込まれつつあったが、東欧では農奴として働いていた。この違いは、農民の反乱への対応から生じた。東欧では地主がよりうまく組織を作ったのだ。イギリスでは名誉革命の時期に、権力に対して制限が課され、のちの包括的経済制度の導入に繋がった。コンゴや中東、東アジアでのこのような分岐について描写がなされる。
五章は収奪的政府下での経済成長について。ソビエトでは所有権が禁止され、農業は集団的になされた。このため人々には働く動機がなく非効率な配分になったが、生産性が高い重工業に人員が割かれたためいちおうの成長はみた。1928~60年までの間、田舎から移住させるという残酷な方法で6%という高い年の成長率を観た。コンゴのカサイでは河を隔てて二つの民族が暮らしている。片方は政治革命により中央集権を達成し、収奪的ながらも恐怖による専制で少しの成長をみている。Hilly Flanksで農業が始まった。
六章は制度の発達について。セメントを発明したマヤも、コンメンダにより商業を守る法が発展したヴェネチアも、ローマも、アクスム王国も、収奪的な政府だったため成長は不安定なものとなり紛争で滅亡してしまった。包括的な政府にも逆行する。市場を拡張し毛織物の利潤を高めるような法令が出された、これはジェームスに対抗するため。ファイナンス革命も生じた。集権を続けた。
七章はイングランドについて。マグナカルタから名誉革命に至るまでの道は平坦ではなく、クロムウェルによる独裁やジェームズによる先生の強化をみたものの、最終的には包括的な政府が誕生した。これは王に対抗する大きな連合が生じたため。王は貿易の独占ができなくなった。働くインセンティブが生まれ、金融の発展や産業革命が生じ、運河や陸路の発達により発展した。
八章は多くの国家が創造的破壊を恐れチャンスを逃したことについて。ハプスブルグの統治は絶対専制で、工場に集まった貧民が対抗するようになるため産業の発展を恐れた。また鉄道建設にも反対した。絶対王政の国々、たとえばロシアのツァーや宋・明・清といった中国の王朝やエチオピア王国も産業を恐れた。
九章は奴隷貿易について。オランダ東インド会社はインドネシアにプランテーション農業をもたらした。アフリカと欧州間では、1807年に奴隷貿易が廃止されたのちは、アフリカ現地で農産物が生産されるようになった。アフリカ諸国は奴隷を捕まえて売るような収奪的制度を発展させた。アーサー・ルイスは途上国における伝統社会と産業社会とのニ階層モデルを提唱し、あたかも南アフリカはそれに当てはまるように見えた。農業に従事する黒人は労働力があふれており、白人は工業に従事し都会に住んでいた。しかし実際にはその差は制度の差によるもの。
十章は英国以外で発展した地域について。豪州への移民では、アボリジニは少なく搾取できなかったので移民たちは自分で働いた。貴族・僧職・市民と階層が分かれていたフランスでは、ルイ16世の時代にEstates Generalが生じ、それぞれの階層を代用する人物が税収を決めることになった。恐怖政治をへてナポレオンの時代になり、領土拡大を目指した。侵略にあたり、たとえばユダヤ人ゲットーの解放にみられるように、各地の封建制を壊していった。欧州列強に脅威を感じた大久保利通のような日本人は徳川政権を葬る必要を感じ、明治維新により包括的政府の登場をみた。
十一章は包括的政府の好循環について。イギリスの名誉革命で生じた包括的政府は多元的であり多くの人の利益を代表するようになり、経済制度もまた包括的になっていった。穀物法の廃止にみられる。アメリカもイギリス同様、包括的な政府に向けて徐々に進んでいった。変化が急ではないことが、摩擦を大きくしない上で重要なのだ。ニューディール政策は最高裁との確執を生んだためルーズベルト大統領は自分に従わない判事を追い出そうとしたが、司法の独立は守られた。一方アルゼンチンのペロン大統領は司法の独立の侵害に成功し、彼は独裁者として振る舞えるようになった。政治家が判事を選ぶという体制はその後も続いた。包括的政府は国家権力を制限し、包括的な経済制度をうみ、報道の自由を守るようになる。
十二章は収奪的政府の悪循環について。シエラレオネではイギリスが収奪的政府を作り、マーケティングボードで農民を搾取するという形をとった。独立後も少数による支配が続くという点は、グアテマラでも同様にみられる。エチオピアで王を追放したマルクス主義者は独裁者となった。アメリカでは南北戦争後は奴隷制が廃止されたが、南部ではジム・クロウ法により本質的には同じような黒人差別が続くこととなった。少数による政府は、少数のみを利するような経済制度を作るようになる。このため権力を奪取するメリットは大きく、紛争が続くようになる。
十三章ではなぜ政府が失敗するかについて。シエラレオネやジンバブエでは収奪的政府が収奪的経済制度を支え、紛争に次ぐ紛争になっている。コロンビアは一見民主主義的に選挙がなされているが、制度は収奪的であり、民兵組織の暗躍により市民の身柄はいつも脅かされている。アルゼンチンもまたエリートのみが政治参加できるようになっていたため、経済成長が追い抜かれる羽目になった。ウズベキスタンでは綿花栽培が学校の生徒たちによってなされ、大統領の家族により成長が阻害されている。共産圏の国家は全て収奪的で経済成長を阻むようなものだった。
十四章では包括的政府に向かった国について。ボツワナやアメリカ南部、ケ小平の中国は収奪的政府の悪循環を打ち破ることができることを教えてくれる。
十五章はまとめ。高い経済成長を誇る近年の中国をみて新しい経済の形だと指摘する向きもあるけど、包括的な政府にならない限り、中位所得の水準に達したのちは政治エリートによって成長が阻まれるだろうとみている。経済成長を計画することはできず、援助は失敗しており、それぞれの国での方針を考えねばならない。

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(関連文献)
・この分野の次のスターはこちら。ペルーの強制労働やメキシコの麻薬ギャングについて調べている。制度が重要なのはわかったので、これからは「制度のいかなる機能が」経済発展に影響するか、マニアックに追うのが流行と思われる。乗るしかない、このビッグウェーブに!

http://economics.mit.edu/grad/mdell

・アルゼンチンが遅れた理由を考察している文献。著者のEngerman, Sokoloffはとてもよく知られた経済史家で、2000年のJEPの論文で制度の重要性を指摘した。



・本書はブログもある。一つ一つが重い。。。
http://whynationsfail.com/

・アフリカの紛争がどのような形で行われているか調べたもの。上記ブログで紹介されている。



・もっとフォーマルな形での議論が見たい方はこちら。ゲーム理論と動的計画法を使って華麗にモデル化してくれてます。



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(感想)
・三行でまとめるなら、
(1)経済成長をもたらすのは多くの人が参加できる政治制度
(2)少数者からなる政治制度は反乱を恐れて有益な技術も導入しない
(3)多元的な政府も寡占的な政府もそれぞれ自己循環的
となるかな。一行でまとめるなら、経済成長には国家権力の制限が必要、ということになるか。
・たくさんのネタを載せているので、とっても読みづらい。まあ目次がよいまとめにはなってるけど。。。
・Samuelsonの教科書もソビエト礼賛してたのかー。61年版では84までにソビエト>アメリカになるなんて言ってたそうだ。
・坂本竜馬はSakamoto Ryumaじゃねえ、Sakamoto Ryomaだ!
・「孝明天皇の子明治」という表現があったけど、正確には「孝明天皇の子睦仁」のはず。
・倒幕の中心となったSatsuma, Choshu, Tosa, Akiとあるけど安芸じゃなくて肥前だよね?
(訂正)王政復古の倒幕時に実力行使に出たのは安芸藩ですね。
・謝辞に日本人名が見られないところをみるとチェックがなされなかったのかな。。。
posted by Char-Freadman at 21:11| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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