2011年09月20日

繁栄のキー

効果的な政府を作るにはどうしたらよいだろうか。ヨーロッパの誇るポリエコ学者、Timothy BesleyとTorsten Perssonのユルヨ・ヨハンソン講演がPillars of Prosperityとしてまとめられました。



途上国はさまざまな問題を抱えている。先進国は、家計や会社にサービスを提供する政策を実行する能力=state capacityをもっている。また、衝突する各種の利益を暴力=political violence無しに解決する能力もある。強い政府、高い一人当たりGDP、紛争の平和的解決、これらは相関があるーー著者はこれをdevelopment clustersと呼んでいる。

本書は政府の能力を二つに分割する。一つ目はfiscal capacityであり、事務管理・監視・強制のできる税務署が広い税源から充分な税収を得ることができるかを示す。二つ目はlegal capacityであり、所有権や契約を守る各種のインフラ、たとえば法廷・教育のある判事などをもっているかどうかを示す。

この本が答える主題は三つだ。

1.state capacityを形作る力は何か、そしてなぜその二つは補完性があるのか。
2.政治的暴力を異なる結果に導く要因は何か。
3.政治制度、暴力、収入はなぜ相関するのか。

(国内の)平和・課税のしやすさ・そして所有権を守る裁判制度、これらが繁栄に至るキー。

政策策定と、制度の策定とは分けられる。将来の政府の能力は、既存の政府の投資によって決まっていくと捉えられている。現在のコストと将来の利益を勘案して既存の政府は投資を行い、既存の政府がとりうる政策は現在の政府の能力によって制限を受けていると考えていく。

2章では基本的枠組が示される。2グループ、2期、政治能力は一つの形態というモデルだ。各期で政府は税率を設定し、収入は自分のグループを利するように分配してもいいし、次期の収税能力を高めるために使ってもよいとする。次期に誰が政権を担当するかは不明だ。このとき、三つの状態がありえる。
(i)みんなのための政府:税収は防衛など公共目的に使われ、収税能力も高まる
(ii)御手盛り政府:税収は自分のグループのために配分されるものの、収税能力は高まる
(III)虚弱な政府:税収はやはり再配分に使われ、不安定で収税能力は高まらない。

3章では市場を維持する規制と法制度が考慮される。賊や官僚の搾取から身を守る制度の重要性が強調される。収税能力と司法能力は補完的、すなわち収税能力が高いほど高い司法能力が利益をもたらすことが示される。というのも、司法能力が高ければ市場で得られる収入は高くなり、課税ベースが広がるからだ。戦争、民族の単一性、政治制度、安定性といったトピックも扱われる。

4、5章では紛争について扱う。民族紛争は途上国特有のもの。政治的抑圧と紛争の可能性をモデルに組み込み、これらの形態がどう政府の能力に影響するかをみていく。そして政治的安定性が内生化される。また、政府の構築がどうなされるかもみる。

6章では異なる種類の海外援助がどのように影響するかを分析する:現金、プロジェクト、技術支援、平和維持、紛争後の解決策。バウアーのパラドクス=援助はそれが必要とされないところでのみうまくいく、ほど悲観的ではないこともわかる。うまくいく枠組みも可能なのだ。

7章では政治制度のまとまりをみる。民主制度は独裁制度より、議会制度は大統領制より、比例代表制は多数決より、結合を生み出している。いっぽう、連邦制は単一政府より結合しているとはいえない。

8章ではまとめ。司法能力と税収能力との補完性が、異なる政府の能力が存在する理由。暴力の異なる形態もまた同じような要因が鍵。政府の能力・暴力・収入が相関するのも、それらの間にフィードバックがあるから。

歴史家の視点を踏まえたモデル化を心がけている模様です。ポリエコに興味がある人にはオススメ。
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2011年08月09日

経済の変わり目

理論経済学者、未来予測に挑む!



本書の構成は以下のようになっている。1部では戦後50年で経済の特徴がいかに変化したかを辿る。今後の姿を語るために過去の正しい認識は欠かせない。2部では、途上国で高成長の維持と貧困の削減がいかになされたかをみる。経済的な要因だけでは説明がつかず、リーダーシップ、政治、政府の構造もまた大きな役割を果たした。政府の主要な仕事はこれ;人的資源に投資し、経済構造変化の途上で国民の所得を守り、市場がうまく働くようにすること。廃れる産業を保護しがちだけど、それではダメ。3部では2008年に起きた金融危機後の短期的・長期的な影響を見ていく。途上国や新興国はどう対応し、金融のグローバリゼーションには何が必要かを考えている。4部では未来の問題を扱う。経済、ガバナンス、資源、環境など。

1・2部は開発経済学の知見のまとめなのでそれらのトピックに馴染んだ人は飛ばしてもよさそう。また3部の金融の部分もしばしば論じられる内容。興味深い分析はスペンスの現状認識と問題解決策が明確に述べられる4部にあった。

中国・インド・ブラジルなどの新興国は成長著しく、世界経済に無視できない影響を与えるようになっている。
たとえば金融面;これまで先進国は金融を自由化し変動為替制度を取り、途上国は金融を規制し固定為替制度を取るという分断があった。しかし新興国が先進国と協調しないことのデメリットは大きくなったため、今後はG20間での協調策が望まれる。新興国にとっても、自国通貨を安く誘導するのは得ではなくなっているのだ。なぜなら、国内向けの産業が発達するという適切な経済構造のシフトを妨害するから。
また、環境面:炭素の排出権取引は先進国から途上国への大きな援助を伴うものとなり、政治的に実行するのは難しい。そこで、当分は途上国が発展するまで待ち、G20間で環境対策をしていくのがよい。途上国にとってエネルギー効率を向上することがメリットになるまで時間が必要。
成長戦略:先進国は低成長を受け入れ、技術への投資を行うべき。新興国は補完的になる。

先進国と途上国、新興国が取り組むべき各種問題は顕在化してきている。そんな意識を持った人にオススメ。

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2011年07月19日

おそロシア

「汚職の経済学者(※)」、ロシアの民営化を語る!



1991年、英雄エゴール・ガイダル(※※)とアナトリー・チュバイスはロシア企業の民営化に着手した。夢のまた夢と思われていた改革が着実に進んだことは、ロシアですらインセンティブが働くことを示している。
本書では、ソビエト崩壊から民営化に至った経緯を簡単に触れ、所有権の分析でソ連時代の企業の非効率性を説明する。キャッシュフロー権(資産から得る利益を確保しコストを支払う権利)は国民にある一方、コントロール権(資産をどのように使うか決定する権利)は政治家と経営者にあった。正しく権利を守れるならコースの定理が教えるように効率的な意思決定になるけど、ロシアではそんな適切な制度は存在しなかった。経営者の役割は省庁により設定された計画を実行することだけであり、企業の効率性を高めるよりもいかにして政府から補助金その他の援助を得るかに気を配っていた。
改革者はコーポレートガバナンスの問題をひとまずおき、脱政治化を目指した。キャッシュフローとコントロール権を政治家から奪い、一つにまとめようとしたのだ。しかし政治家・労働者・地方政府の反対に遭った。そこで民有化において市民を味方につけることにした。ポーランドのように現金売却という手もあったけど、外国資本に渡ることを嫌う感情があるし時間もかかることから、チェコのようにバウチャーを全国民に配るという方式を選んだ。バウチャーは交換可能なもので、ロシア初の証券として機能した。脱政治下を目指し効率性は多少犠牲になったものの、民営化は進み外国資本が参入するようになり商法も発展し始めたことから概ね成功であったとみている。海外援助は改革者の支援をするように政治色を帯びるべきとのこと。
ベラルーシやウクライナなど徐々に改革を進めようとした東欧は失敗したけど、ショック療法をしたことでロシアは動き始めたそうな。準備できるまで待ってたら何も進まねーよと。

どうだロシアを正しい方向に導いてやったぜ!という著者の態度はどうにも気にくわないし、ガイダルやチュバイスを支持する政治的意図を持った本であるけれど、分析自体の面白さは損なわれない。民営化に興味のある人はオススメ。

(※)アンドレイ・シュライファーは賄賂の分析や行動ファイナンスの分野でよく知られた、JBCメダル保持者。ここ数年で最も引用されている偉大な研究者だけど、ロシア投資をしたかどで司法省の訴追を受けて巨額の賠償金を支払うこととなった。主要業績をまたいで悪事を働いたのかしら…なんともすごいバイタリティの持ち主だ。

もちろん論文の洞察の美しさは著者が何をやっていようと関係ないです、念のため。悪党が優れた分析を残したっていいじゃない。学者は聖職者ではない。

(※※)50代で亡くなっている。毒を盛られた経験もあるから、友愛されたのかな…

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シュライファーはその後もロシアの民営化に関する著作を数冊上梓している。時間を作って読みたい。時系列順に挙げてみた。







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posted by Char-Freadman at 00:59| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月16日

財産権と経済発展

本書は途上国における法的障害の多さを初めて指摘したことで知られている。Acemoglu, Rodrick, Dixitなどがしばしば引用するので、所有権と経済発展という文脈ではたぶん定番の書籍と思われる。



資本主義が発展しているのは西側の諸国だけで、その他の国々は置いて行かれているように思える。自由貿易を行い国内通貨を安定させ債務を減らすというマクロ経済指標の改善を行ってきたラテンアメリカは、依然として発展しきれていない。この本では発展を阻害する要因を公的な財産権制度の欠如にみている。
たいてい人々は生産に必要な資産は持っている。しかしそれは死蔵されている。資産が資本となり拡大再生産を始めるためには、公的な財産制度が必要なのだ。たとえばハイチでは政府所有の土地に住んでから賃貸することが認められるまで5年かかる。合法になるにも、合法で居続けるにもコストがかかるようでは政府の保護の外で暮らすことを選ぶのも頷けるというもの。資産を資本(=拡大再生産可能なもの)にすることができ、社会に広がった情報を一つに統合でき、所有者の説明責任を果たさせ、資産を分割・統合・移動可能なものにし、人々のネットワークを育て(分業が行いうるようになる)、取引を守る。このような法的保護のメリットを受けられない闇市場は潜在的にとても大きいのだ。
役所は治安や衛生、ダムといったそれぞれの職務を抱えている。そのため所有権制度の欠如という総合的なものの見方をすることができなかった。
アメリカの歴史は示唆的だ。Green vs Biddleやゴールドラッシュなどの事例で、先占権(※)、占有権の判例法が生じていった。事実上生じていた権利関係を尊重し、公的に保護することが重要であると何度も何度も繰り返される。
もちろん途上国は公法・私法の欠如に気付いていなかったわけではない。しかし現実の関係を無視して書類上で権利を与えるだけで、効果を生まなかった。たとえば犬が土地の境界線を知っているなら、任せてしまえばいいのだ。事実を重視すべきという姿勢がまた繰り返される。

法学用語は直訳できないし、マルクス経済学や哲学の抽象的議論は多いしと読むのには骨が折れたけど、死蔵されている資産は驚くほど大きいと知れてよかった!

うーん、現地での法的関係を尊重しろとは言うんだけど、ローカルな取り決めの全部が全部経済発展をもたらすようなものとは限らないんじゃないかなーという気もしなくはない。どうなんでしょうね。

※preemptionは手持ちの辞書では「先取特権」と載っていたんだけど、「正当な権利は持たない土地に建物をたてたとしたら、その付加価値の分だけは補償されうるようになった」という文脈になっていたので「先占権」と訳してみました。

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posted by Char-Freadman at 05:31| 北京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月11日

勝ち鬨をあげる都市

大学町も悪くはないけど、やっぱり都会が大好き!そんな自分にぴったりの本がある。



集住の経済学を牽引するハーバード大教授の著者は生粋の都会っ子でもあり、本書で都市の素晴らしさについて述べていく。都市の強みを考察する上で、歴史を眺めて成功の要因を探っている。

たとえばNYは運輸に便利だったから発展し、その後アイデアの宝庫となり金融街も隆盛していまの姿となった。都市はたくさんの小さな会社と優秀な市民が居るとき繁栄する。それは職住近接の地、物理的な近さがものをいうからだ。遠隔通信技術が発展すればするほど対面での応対が重要になってきている。

行政が助けるべくは「市民」であって「都市」じゃない。衰退する街が示すのはそこが経済力に比して養う家とインフラが多すぎることで、ハコモノを作ったところで根本的な解決にはならない。また工業地帯が没落した事実をもって、都会の欠点を示すことにはならない;ピッツバーグやデトロイトが失敗したのは、特化した技能を持つ人を生み出したり外の世界と繋がったりということをしなかったからだ。工場を建てて技術の低い人を雇えば済むようにしたことが、長期的には仇となった。偏狭な人種主義に染まった黒人政治家が害を為したことも一環。

都市は住民を貧しくしない;貧しい人を引きつける。都市の貧者は富裕層ではなく貧農と比べられるべきで、ずっと良い暮らしをしている。
都市は途上国でより重要、なぜなら貧者に市場への道を開くから。リオやNYで公共交通機関が発展すると、より貧者を引き寄せる。都市にはは多様な職があるから、恐慌にでもならない限り安定しているのだ。都市がうまくいっているかどうかはそこに貧困がどれだけあるかではなくて、成功をどれだけ生み出したかで見るべき。レイラ・ヴェレス、ケネディ家、リチャード・ライトなどの成功譚が載っている。

犯罪や疫病や混雑など、集住のデメリットはある。でもその解決策を思いつくジョン・スノーやウィリアム・ヴィックリーが出てくるのは、都市なのだ。住みよい都市にするために政府の役割が強調される。

演劇や食事、ファッションといった顕示的消費が発展するのも都市。パートナーを求める独身者はもとより、共働きで双方の職が欲しいというカップルも引きつける。居住には、賃金・物価・生活の質という三つのトレードオフがある;高賃金には高物価、高額の家賃には高賃金へのアクセス。

景観を守るのは大事だけど、新たな建造物を建てさせないというのは間違っている。需要と供給の論理を理解しなかったジェイン・ジェイコブスのように、高層建築に対する嫌悪感はどこにでも見られる。NYやパリやムンバイでの高さに関しての規制はその都市の地価を高騰させ、貧しい人には手に入らないような土地になってしまう。不透明で長期にわたる法的許可の過程を単純化し、史的遺物保存はよく定義した上で限定しながらおこない、各地域がその特色を守るために行使する行政権は正確に明示するといったことを通じて統一の取れた都市発展をしようと提言する。

税制優遇で不動産のモートゲージは買いやすく、高速道路は無料でガソリン税も低く、また学校の質も良いーーこれらの理由から郊外に住む人は多い。でもそういう発展が続いたら排気ガスだらけになってしまう。コンクリートのジャングルに住む方が、森林に囲まれた生活を送るより、ずっと「環境に優しい」のだ。したがって都市の発展を妨げようとする環境保護団体は、むしろ環境を悪化させているといえる。

東京が大絶賛されていた。成功した都市の裏に教育の重要性を見ているようだ。

著者の歴史認識にはたまにおかしなところもみられ統計の使い方もしばしば雑だけど、興味深い分析ではあった。ただ実践的なことは書いていないので、たとえばディベロッパーや建築士が都市計画を期待して読んだらダメだろうなー。
posted by Char-Freadman at 12:10| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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