2011年07月04日

忙しい人のための開発経済学 其の弐

本第二弾。前述の本が「仮説→例外→それを解決する仮説→例外・・・」と続くのに比べて、この本はより論旨がシンプルだし文章も気楽な感じで読みやすい。著者の経歴を反映して、行動経済学的な知見が述べられていることも特色。



良い意図を持っているだけでは貧困は解決できない。援助が役に立つか否かという議論より、どういう計画なら効果的なのか考えた方がよい。そしてその証拠を出すにはランダム実験が望ましい。
貧しい人には魚を与えるのではなく釣りを教えろという暗喩より、具体的に困難を解決する策を考えていこうとする。行動経済学に造詣が深い著者は、アイデアが実際に働くまでのプロセスにも特に意識を払っている。

どんなに良いモノでも、売り込まなければダメなときがある。売れていなかったスランケットから派生したスナギー(毛布に袖を付けただけの商品!w)や、1986年に流行りだしたカリフォルニアのレーズン(http://www.youtube.com/watch?v=pM2OK_JaJ9I)、ローンの広告に美人の写真と返済計画の一例を載せて応募者を増やしたりといった例を挙げている。

マイクロクレジットに半分のページが割かれている。どれも具体的だ。

信頼の出来る組織から紹介を受けた人物による訪問販売で保険加入者を増やそうとすること、たとえ利子率が負でも貯蓄する口座を持つのが好ましいこと、やる気だけはあるけどコミットする機会が無い人にはそういう口座を与えれば貯蓄が増えることなどがストーリーとともに語られる。
女性に貸すと良いとか社会的繋がりが増すとかいうデータに合わない都市伝説は一蹴し、でもマイクロクレジットの価値は認める。読むうちに、うまくいかないアイデアを改善していこうとする著者の姿勢が伝わるだろう。グループ貸しだと足を引っ張られるのがイヤで加入しない人は?;個人を対象に貸すーーでも同じくらいの返済率がある。返済率に効くのは何か?;信頼や文化的近さ。
教育や防疫についてもふれられている。制服や虫下しを配って生徒の出席率を上げる、カメラを設置して教員の欠席をなくす、タダの蚊帳を配ってマラリアを防いだり、塩素を水源の近くにおいたりするなどの取り組みが載せられている。

ある方法がうまくいかないからといって失望することはない。以前より良く知っていることにはなっていて、他のことを試せばいいとわかるからだ。どのように計画が働くか、精確に把握しているべき:お金が払われました、人々は参加しましたーーこれだけでは足りない。全てを解決する策はなく、アイデアは漸進的に試されなくてはならないのだ。
本の締めくくりに、良い意図を実現しそうな七つほどの方法をまとめている。最後まで実践的だ。

2章には著者の略歴が載ってた。こまけぇこたぁいいんだよ貧困をなくせてりゃ!という、竹を割ったような性格のようだ。

とにかく、このレビューでは伝えきれないくらいの活気ある描写になっています。
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(感想)

・アイデアを売り込む方法を考えるのは経済学者より広告会社や経営学者の仕事じゃないかとも思ったけど、とにかく貧困をなくそうぜ!(&そのために上手くデータを取ろうぜ!)という著者の姿勢には賛同した。体育会系バンザイ。

・年間80%超(!)の高利って実に魅力的な投資先。貧者を全て拾える交通手段が安価で発達しないものかな、そうしたらほとんど0%でへばりついてる日本の口座なんか捨ててしまうものを…。

・ランダム実験(RCT)は仮説を試すのにとても効果的。「大きな政府か小さな政府か」「バウチャーか否か」「死刑制度は効果的か否か」etcの荒れる討論に使われるようになるといいな。教育関係の人は「大きいクラスより小さいクラスのほうが良い」という結果を気に留めてもらいたいところだ。
posted by Char-Freadman at 03:11| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月13日

才能=努力

「才能」などというのは幻想の産物で、練習が傑出したパフォーマンスになる!



グラッドウェルの"Outliers"やコイルの"The talented code"等、突出した能力と努力とは必要充分の関係にあると主張する類書は多い。本書の特徴は身体に特化している点だ。反射神経や作曲や画力など通常は先天的に与えられたものと考えられている…しかしそれらですら後天的に獲得されたものなのだ!

一流のスポーツ選手とはほど遠い生活を送るCharにとってはこの本からその世界が垣間見えるようで、ワクワクした。彼らが練習によって培うものは素人には思いもよらないほど多いようだ。対戦相手の動きから情報を読み取るという予測能力、意識しないでも一連の動作を淀みなくできるようになること etc、スポーツ科学や心理学の結果を効果的に援用している。

教育や自己啓発のヒントも読み取れよう。内面化された動機を保ち続けることが成功の秘訣なのだから、褒める対象は才能ではなく努力であるべき。努力を維持する/あがらない/達成後の喪失感に囚われないようにするにはどういう心構えで居るべきか。翻訳版には本書の内容に水を差すような訳者のツッコミがあって、多面的な感想を持たせる一助となっている。

オックスフォード卒のもと卓球英連邦王者たる現ジャーナリストという異色の経歴の持ち主が「全ては努力」と言い切っていたら、実際反論できない!

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感想

脳が問題なのだとしたら、頑張れば万能選手の機械を作れたりして!各スポーツに特徴的な作業を瞬時に行うプログラム群を解析したのち、想像を絶するほど大量に組み込むことになろうが。
posted by Char-Freadman at 14:34| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月18日

合理選択

意思決定理論家によるミクロ経済学的考え方の入門書が出ていたようなので、サラッと目を通してみた。



学説だったら反証可能じゃないといけないけど、この本ではもっと緩やかな思考枠組みを提示して、読者の実際の生活で是非使って欲しいとのこと。最適化、リスクと不確実性、集約、理性と情動というトピックを扱っている。

1章ではできることとしたいことの峻別が重要であると語る。混同している例;「取れない葡萄はどうせ酸っぱい」・「私を受け入れるようなクラブには入りたくない」・「愉快なものをもたらすものは、きっと真に違いない」
2章では効用最大化について。完備性と推移性が満たされていればあたかも効用関数を最大化しているかのように概ね叙述できる。経済学における命題は、規範的・著述的・論理実証主義的(理論的概念の意味は、現実に観察できるもので与えられるべきという考え方)な解釈が可能であることを強調している。
3章では制約条件付き最適化について。問題を考えるときには、何が目的で、自分には何ができて、制約は何なのかを分けねばならない。
4章では期待効用について。理論的概念を唯一定義したいときに公理化は便利とのこと。
5章では確率と統計。頻度・主観(期待効用で使われる)による確率の解釈を紹介したのち、因果と関係の違いを強調している。
6章では選好の総計について。コンドルセパラドクス、不可能性定理を説明してからパレート最適性と経済学における効率性の解釈を丁寧に行っている。
7章ではゲーム理論。囚人のジレンマ、繰り返し、均衡、均衡選択、共有知識と信用できる脅迫について扱っている。性善説に基づいた制度の構築はキケン。個人が最適なものを追求していったら全体にとって最適なものが得られなくなる場合がある。定言命法の出番だ!
8章では市場理論。第一定理の解説から入り、不完全情報(逆選択、モラルハザード)の問題点を示したり、パレート最適性という概念の限界について触れたり。
9章は感情の進化的説明。生存しやすくなるように感情が発達したかもとの見方。
10章では幸福について。効用についての数々の命題は、果たして幸福を増やすことに繋がるのかーーそして政策として従うべきなのだろうか。

幾つかの章は経済学嫌いな人vs好きな人という対話形式から始まっている。使える思考枠組みを増やしたい人にお勧めです。高校生でもわかる書き方だけれど、その平易さは陳腐さに繋がらない。
posted by Char-Freadman at 12:29| 北京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月30日

洗脳の経済学

書評をひっさげてひっそりとブログ再開。

近年の認知科学の人気は経済学者も感じ取っているようで、Akerlof&Krantonの新著ではアイデンティティを扱っている…本のタイトルはずばり"Identity Economics"。直訳すると認識/帰属/識別の経済学あたりとなるんだろう。(俺の語彙力が不足しているのかもしれないけど、アイデンティティって日本語で上手く表現できない!)



Beckerを嚆矢とする差別の経済学では、差別の選好は社会的文脈で変化しないと仮定され、価格や収入の差が以下に行動の違いを生むかを焦点に当ててきた。それに対し帰属の経済学では、社会的文脈がいかに問題となるかを分析している。著者のフレームワークはこうだ。
1. アイデンティティがある。
2. それらに沿って規範と理想点がある。
3. アイデンティティの規範から逸脱すると不効用を得る。
4. 人によってはそもそも特定のカテゴリの理想を満たすのが困難。e.g. 黒人が白人社会での象徴を満たすのは難しい

たとえば会社には社畜(insider)とそれ以外(outsider)とがいる。前者は「会社のために尽くすべき」(!)という規範を持っているので高い努力をする。後者は会社と自己を同一視していないので高い努力をすると損をしたように感じる。前者に支払う賃金は少なくて済む。
また学校には良い子(jock)と不良(burnout)とがいる。良い子は学校の求める行動をすると効用が上がるけど、不良はそうでない。
職業にも男女の色分けがあるし、アメリカ社会には白黒の分断がある。以上の事例を分析していき、アイデンティティの考慮の重要性を示す。

規範がどこから来るのかやいかにインサイダーにすればいいのかは載っていない(たぶんそれは経済学ではなく教育学や経営学、社会学の出番)ので、教育やマネジメントでの解決策を求めてこの本を読んだらまず肩透かしを食らう。事例がいくつもあって興味深かったけど、☆は四つというところ。

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以下の感想を持った。勘違いかもしれないので原論文(Akerlof&Kranton, QJE, 2000)に当たるべきか?

1. 扱っている全部のトピックで「洗脳バンザイ」という結論が導き出されている。実に不気味だ。

2. アイデンティティが恣意的すぎない?;不合理な行動があったとしよう。「そういうアイデンティティに沿って生きているんだよ!」という説明がいかなる状況下でも言えてしまう!与えていいラベルとそうでないものとの基準を明らかにしたほうがいいんじゃないかしら。

著者たちに言わせるとモデルは簡潔で、結論は前提から自明ではなく新しい知見をもたらしているとのこと。生徒は「試験の準備が好きで読書しているわけじゃねーよ」と感じる→試験を課すほどパフォーマンスが下がる、なんて言え…ううーん。そのラベリングおかしくね?という突っ込みがいかにも聞こえてきそう。イマイチ好きになれない思考枠組みだった。
posted by Char-Freadman at 02:03| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月31日

Superfreakonomics (超ヤバい経済学)

面白かったので一気に読んでしまった!画像は著者の一人、Steven Levitt。善良なオタクも、ナイスミドルな雰囲気を醸し出すことができるようになるのがお金のマジックか・・・!

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前作より社会的な問題を扱っている。綺麗なデータを編み出して、解くのが難しく思えることの背後にある人間の動機をあぶり出す手法はやっぱり圧巻。流石にオリジナル研究のみで2冊目を書くのは無理なのか、紹介がメインではある。いくつものパズルとそれに対する回答が提示されるという格好。読む気を減退させるのは嫌なので適当に紹介してみる。

一章は女として生まれることのコストを分析している。インド女性の生活が向上した理由、売春婦の生態(シカゴの娼婦と高級娼婦の生活は明らかに異なる!)や、男女の賃金格差、お金が好きなのはどちらかなど。
昏活ブームに踊らされる日本の女どもは、撤退時期を見計らう(!)賢い娼婦を見習ったほうがいいんじゃないかしら。さて店じまいをした娼婦は次に何をしたか、是非読んでみて欲しい。ニヤリとするだろう。

二章は生と死についてのインセンティブを扱う。いい緊急医師の見分け方、死の延期、テロリストを見破る方法などだ。
とりあえず子どもができたら、Aから始まる名前をつけたり、4月に生まれるように生殖行動をしてあげたりするとよさげ。

三章は利己的/利他的行動について。傍観者効果(キティ・ジェノベーゼ事件について一般に言われるのとは違う話に焦点が当てられる)、経済実験で言われていた利他的行動が誤解だったこと(cf. ジョン・リスト)など。
三流大で学士・博士を取り、二流大で教鞭をふるい、超一流大でテニュアをとった男の話でもある。

四章は安上がりな解決法について。医師と産婦とで出生児致死率が異なったのはなぜか、運転手の死亡率を下げるためのマクマナラの奮闘、チャイルドシートとシートベルトのどちらが安全かなど。

五章は地球温暖化について。人々の認識を変えようとするアルゴアの方法と、地球工学でちゃちゃっと解決してしまおうというIntellectual Venturesの方法とを比べている。どちらが安上がりで実行可能性があるかは論争があるようだけど。

六章はエピローグ。猿でも貨幣を理解するようで、人間社会の縮図が生まれたりして・・・。

センセーショナルな話を狙ったためか、発売直後から評判が悪い。特に五章の気候変動について批判が集中しているようだ(※)。以下ネタバレを含むので購入する気の方は読み飛ばしてください。

ピナツボ火山の噴火によって地球が寒冷化したことにヒントを得た、二酸化硫黄を成層圏に撒けば太陽光が散って温暖化効果が減るというアイデアに関しての懐疑的な視線が殺到している。地学には全く詳しくないので、これが科学的に可能かどうか詳しい人、是非読んでからコメントくださいな。

個人的にはネイサン・ミルボルトのほうに軍配を上げたい。人間はそんなに綺麗なもんじゃなくて習慣を曲げるのも苦手なので、皆のために汚染を減らしてよと呼びかけても効果はないって著者の意見に賛成だからだ。ガンガン技術を発展させて解決させようぜっていう野心家の方法のほうが実現可能性は高いと思う。
少なくとも安上がりな方法を探そうよって呼びかけに耳を傾けてもいいんじゃないかな、著者たちみたいに挑戦的な書き方だと伝わらない人は多そうだけどね。

※まとめが載っている。
http://languagelog.ldc.upenn.edu/nll/?p=1824
http://delong.typepad.com/sdj/2009/10/links-for-2009-10-17.html
http://climateprogress.org/2009/10/12/superfreakonomics-errors-levitt-caldeira-myhrvold/
posted by Char-Freadman at 02:01| 北京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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