2012年05月01日

ご飯の美味しい経済学

ご飯だって需要と供給のもとに成り立ってるんだから、経済学を使えばもっと効率的に食事ができるのだ。新鮮かつ創造的な供給者は誰で、需要者に情報が行き渡っているのはどんなときかを考えていくとよい。本書は「食事は大事」「安くても良い食事にはなる」「賢い消費者であろう」という信念を伝えるために著されている。

"An Economist Gets Lunch" by Tyler Cowen



アメリカの食事が残念になったのは商業化のせいではない; 禁酒法の時期に良いレストランが潰れ、二次大戦で質より量という流れが生まれ、移民排斥がなされたため。レストランはワインで利潤を得るので、アルコールを売れないと大打撃を被る。ワインを供するフレンチは特に深刻だった。また大戦では女性労働が必要となり、便利に食事の出来る缶の文化が広まった; 翻って欧州ではそもそも農業自体が困難となっており、自給自足の生活を強いられたため皮肉にも食事の質は保たれた。またアメリカでの育児では子どもの望むものを与えがち; しかし子どもは甘いものや菓子が大好きで、ファストフードの餌食となる。テレビは夕食時に面白い番組を配信していたため、時間をかけて準備することへのコストが高まった。

エスニックのスーパーのほうが食の流通に気を遣っているからいいかもしれない。試してみると、安上がりで健康的な食生活になる。最初に時間はかかるものの慣れてしまえばすぐ気に入るだろう。緑のものが欲しければ中華食材店に行けばいい。自分の食生活をちょっと変えるだけで優れた食品を発見できるかも。

良い外食をするには以下の点を覚えておくといい。原料集約的ではなく構成に集約的な食べ物を選ぶこと。補完性(ご飯があるとより楽しくなるもの)のある店のレストラン、たとえばカジノの経営するレストランを選ぶこと。郊外や大通りから外れたところに立地している店、顧客が家にいるかのようにけたたましく振る舞っている店、店員がブサイクな店なども狙い目。
アメリカのバーベキューは多様かつ伝統がある。古典的な店や機械に頼る店もあれば、開店時間もまちまち。ソースも添え物も美味しい。
ベトナム料理店は美味しい。タイやインド料理は人気を博したがゆえに質は低下気味。日本は高賃金な国なため低価格な良い日本料理を見つけるのは至難の業。韓国料理なら野菜。Hunan(湖南)やCanton(広東)と表記のある中華は避け、Sichuan(四川)とある店を選ぶとよい。とにかく、あんまり聞いたことのないものを選ぶとよい。それを真に必要としている顧客層があるから。
品種改良により農業の生産性が伸びたことは緑の革命と呼ばれる。肥満や飢餓を解決するのは、100年前の農業に戻るのではなく、新しい技術を採り入れること。近年農業の生産性は伸び悩んでおり危機が生じているが、遺伝子組み換え食品は栄養価も高く収穫量も多いので、アジアやアフリカでの飢饉を解決する方策となろう。
不買運動は必ずしも環境に優しくない。環境税で市場を利用したほうがより効果的。ゾーン規制を撤廃して都市化したほうがエネルギーは効率的になるし、安価な味の食品を楽しんだり、環境によくない食品は高値にし、精製された砂糖の利用は避け、皿は手洗いし、無駄な食品の購入や車の運転を減らすとよい。
アメリカの「メキシコ料理」と本場のそれとは異なる; 安全面に課される基準と、一般家庭が可能な調理方法が両国で異なるためだ。豚・牛・鳥・チーズやラードに課されるFDAの基準は重い。
旅行では現地の食事を目一杯楽しむべし!東京では、有名なところに降りて歩き回ったり、地下鉄の正しい駅・正しい出口を使い、タクシーの運ちゃんに頼むとよい。本場のエスニックを楽しめる。安上がりなので日本料理以外に金を使ってもイイかも。居酒屋もお勧め。シンガポールなら屋台(ホーカー); 安いし衛生面の心配もない。インドならホテルの料理。パリにいるなら、お金をかけない限りロクなものは食べられない。ミシュランを使うなら安い店に焦点をあてるべき。イギリスならエスニックに行っとけ。ドイツやシチリア島やイスタンブールは安いし美味しい。イタリアにいるなら、ベネチア・フィレンツェ・ローマなどの観光客向けの店は避けるべし。
有名店のシェフによる料理本はしばしば役立たず。自炊に使う器具を自省し、よく使うものは質のいいものを選ぶべき。料理は敵ではない;自炊に電子レンジや冷凍食品を利用したってよいのだ。

アメリカ(特にNYとDC)在住でご飯がまずいとお嘆きの貴方に!

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(感想)
・外食探しに経済学を使うというのは普段からやってるので、その点は目新しくなかった。ただ、規制が食文化にもたらす側面が大きいかもと言うのは面白い。料理って結構変遷するんだよね。たとえば四川料理はかつて辛くなかったし。

・町外れに行って買い物やら外食やらするにはアシが必要なはずなので、「車を持つこと」という前提の指摘が欠けてないかな。まあ著者にとってはあまりにも当たり前のことだからかw

・(先進国での)ファストフードのメイン顧客ってガキなのかー。言われてみれば中高生がたむろしてて客層よくないね。ただ途上国ではちょっとしたブランド品みたいな店にも見える。

・アメリカのメシがマズイのは女性労働が進出している裏返しでもあるのね。あんま罵倒するのやめることにしようっと。不満はあるけど。あるけど。。。;;

・空港のご飯が美味しくなったというのは納得できないw成田のご飯は高くてマズイ。

・中国人が食を気にする???段ボール肉まんやら髪醤油という都市伝説の発祥地では^^;

・アメリカで食べるエスニック料理がまずい理由を供給面から語ってる(9章はエル・パソとシウダー・フアレスという米墨の隣接地区を比べているので、同じ需要があることが暗黙の前提になっている)けど、需要面のほうが大きいんじゃないかナァwびっくりするくらい味覚がおかしいと思うけど。。。

・アメリカでもご飯の美味しいエリアってあります。参考までに↓(※ネタバレです)


・学術に興味があって世界の大学ランキングを眺めると愕然とする;
http://www.topuniversities.com/university-rankings/world-university-rankings/2011
うわっ……私のご飯、マズすぎ……
留学を考えている人は料理の腕を上げることを強くオススメします^w^

・東京に関する著述はきわめて精確だった!w
「英語を話せる人は多くないし、日本語は難しい。通りの名前は秩序立ってないし、新宿駅は難解。(略)名店は地下とかに隠れてる。」
$5でまともなもんが食べられるのは驚異ですね。食道楽にとって天国だのう。

・イギリス観光で「エスニック行け」って、イギリス料理自体はアレってことだよなw明示的に書かれてはいないけどw
posted by Char-Freadman at 19:35| 北京 🌁| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月29日

よくわかる新興国

今後の世界経済の予測に興味がある人は本書を読むとよいかも?

"Breakout nations", by Ruchir Sharma



ここ数年、金融危機に至るまでは、世界的な低利子により溢れたカネが新興国に流れ込んでいた。今後はどうなるかは不明瞭とのことで、現状分析がなされている。

【中国】最も大きな影響力を持つだろう。農村から都会への安価な労働力移動はやみつつあり、賃金は上昇気味。鉄道やネットや住宅などインフラも整備され、中位所得国になりつつあることから今後の成長は伸び悩む。国内負債は高く、高齢化の急激な進展という懸念材料もある。輸出産業の伸びはこれまで堅調であり、成長が遅れても各国との摩擦が減るからそう悪くもないかもしれない。
【インド】シン首相のもとで経済自由化が進んできたものの、彼の政治的基盤は弱く、今後も改革が続くかは疑わしい。輸出中心で国内は資金不足になっている。ハイコンテクストな多様な社会であり、汚職が蔓延している。多すぎる億万長者は政府関係者と繋がりをもっている。若い平均人口は労働力の源となりうるかもしれないが、それは農村から都市への移住がなされるときだけだろう。民主的な制度には希望がもてるかもしれない。
【ブラジル】インフレ懸念から常に高利子になっていたため、資金が集まり通貨高になっている。政府がGDPに占める割合は高すぎる。税が高く訓練や新技術に投資できなくなり、発展が阻害されている。空港や道路は古いままだし、教育水準の高い労働者が不足しているのだ。コモディティにも依存しているため通貨高に悩まされ、輸出業が発展しないというオランダ病にもなっている。
【メキシコ】寡占企業が政治も握っている。寡占企業は非効率だし実際に経済活動している多くの企業が上場されていないため、当地の株式市場は活気がない。アメリカに輸出を依存しているため、中国の伸びにより脅かされている。金融危機以前は資金を借りる格好の契機だったのにチャンスを逃した。麻薬組織の暗躍や誘拐も多発しており治安は保たれていない。未来があるとしたら工業部門くらいだろう。
【ロシア】90年の一人当たりGDPは$1500だったが、いまあや$13000になった。プーチン政権は、当初は改革路線だったものの、次第に変化した。規律に基づいていた政府支出は年金給付を伸ばしたために増大してGDPの半分を占めるようになった。金融セクターは貧弱で資金調達はおぼつかず、石油以外の産業を必要としている。高齢化も著しい。
【ヨーロッパ】旧共産圏のうち、ハンガリーはかつてソ連の介入が緩やかだったために比較的成長していたが市場改革は遅れた。いっぽうチェコとポーランドではEUへの参加のために制度改革が進み、海外直接投資の多くを受け取るようになっている。両国での金融部門の整備を見込んで多くのカネが流れ込んでいるようだ。共通通貨を導入すると、貨幣価値による調整がきかなくなるので、輸出が下がったり賃金が下がったりしてしまう。このため両国はユーロの導入に躊躇している。自由市場に任せるという方策をとった国々のほうが回復は早い。
【トルコ】アタテュルクから西洋化の流れは続き、イスラムの党派は政治参加が認められてこなかった。沿岸部の都市による党が支配したが、どの内閣も短命に終わった。このため支出のしすぎにより混乱が生まれることが多かった。エルドガンは反革命の典型政権であり、イスラム国としてのトルコを復権させようとしている。財政を規律付けてインフレを解決し、GDPの伸びは年に5%となっている。経常収支の赤字はネックだったものの、通貨安を受けて輸出には追い風になっている。イスラムとはいえ穏健派といえそうだ。
【東南アジア】スハルトの支配を脱し、インドネシアは好調だ。大企業の改革は進み、政府負債は減り、地方分権が進んでいる。フィリピンはノイノイ・アキノのもとで改革が進められており、人口は若く都市部の居住者が多い。また英語が母語という強みもある。タイは都市部と農村の対立が続き、経済成長が阻害されている。政治的不安が取り除かれるかどうかがキー。マレーシアはむしろパーム油などのコモディティに依存する経済へと逆行しつつあり、政策は次々と打ち出されるものの効力はあまりない。
【東アジア】台湾と韓国は輸出志向で延び続けてきた。特に韓国の工業部門は依然として国の中心を占めており、サムソンやヒュンダイの活躍は著しい。新興国への進出にも欧米や日本に先駆けている。いっぽうサービス部門への認識は甘く、銀行はあまり発達していない。台湾は賃金の優位性を失い、世界シェアを下げてきている。
【南アフリカ】マンデラ以降、政府支出を規律付け、物価を安定化させてきた。民主的ではあるものの格差を示すジニ係数は高く、黒人の失業率は白人のそれに比して高い。金融市場は発展しているもののアパルトヘイトの影響で閉じた社会となっており、カネは国内に留まっている。格差の縮小は止まったが、アフリカ諸国へ投資が乗り出しつつあり、商機はそこにありそう。
【第四世界】新興国になろうとしている国は法秩序が不安定なためより変動が大きい。ウガンダ、モザンビーク、イラクは紛争終結を受けて成長しだしたが、平和の恩恵を受けるのはスリランカも同じだろう。中国と同じくベトナムも専制的だがカネの使い道に失敗し、港も道路も古い。インフレになってしまった。アフリカのなかには高成長を続ける国もあり、たとえばナイジェリアはグッドラックジョナサンのもとで政治が安定した。映画産業は盛んになり、確かにインフラは不足しているものの、成長のための条件は揃いつつある。湾岸諸国は無税の国家であり、アラブの春を受けて国民に大盤振る舞いをしている。

賞味期限の短そうな本なので読むならお早めに!

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(感想)
・各国経済の描写としては大変読みやすいんだけど、「国々が競争している」「中国は企業に似ている」みたいなレトリックはなんだかな〜。著者は投資銀行マンなので彼の金をどこに使おうかという発想で書いているのだろうけど。。。馬鹿ホイホイな表現なのはいただけません

・この本で扱ってる国々の多くに行ったことあるんだけど、著者はどうも高級ホテルに泊まっているらしく、描写がなんともバブリー。そうですか道路がデコボコだったらヘリで飛ぶんですか。物価比較のものさしにフォーシーズンズホテルーー友人に言わせるとあくまでビジネス用であって華美なブランドではないらしいがーーの一泊料金使ってるし。これが格差社会。許せん(#^ω^)ピキピキ

・韓国が世界に向けて音楽・映画を発信しているという文があるけどこれも強く違和感が。自演だとか指摘されてないかしらwヨーロッパやアメリカでホントに売れてるの〜???

・中国は著者が述べるよりリスキーだと思うけどナァ。アホみたいに軍事費伸ばしてるし。

・メキシコから米への移民は減っているという記事を見かけたような気がする;

・エリツィンの民営化で経済が混乱したけどプーチンが安定させたという書き方には強く違和感がががが; たまたま原油価格が乱高下したせいじゃないっけ。

・韓国褒めすぎじゃない?R&Dが盛んとは書いてあるもののノーベル賞を取るようなサラリーマンがいるとは聞かないし。あと歴史認識がおかしくて、日帝は台湾と同じくらい韓国にもインフラ投資をしたはず。

・日本の音楽市場って世界第二位の規模なのね、随分大きいんだな。

・「2位の都市が1位の都市に比べて1/3の経済規模なら政治制度が安定している」とか「現地の有力投資家、現地の中小企業や政府企業、そして海外投資家の順に資本逃避が起きる」とか「企業が多国籍化するのは必ずしも喜ばしくない、その国から逃げているだけかも」、わかりやすいお話ではあるもののちょっと胡散臭いような^^;
posted by Char-Freadman at 11:46| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月25日

創業者の苦悩

テクノロジーと生命科学を焦点にしたケーススタディおよび10000のデータベースに基づき、創業者の直面する各種のジレンマを明らかにしていくのが本書の目的。必ずしも富を追うのと権力を追うのとは一致しない。他の職に就いていたほうが稼ぎは大きかったかもしれないのに、なぜ創業するのか。一見、不思議な人たちではある。

"The Founder's Dilemmas", by Noam Wasserman



【職業選択】創業者になるべきか、早めになるか経験を積んでからするか、公平にアイデアを評価できているか、判断せねばならない。創業に適した年齢はない。若い創業者は他に立ち上げ人が必要かもしれないが、老いた創業者は一人で立ち上げられるかもしれない。
親友や両親が自営業だと、より創業者になりがち。創業というキャリアを選ぶ大きな動機は、男女を問わず支配欲と金銭面だ。
技能・知識・専門を深められる。教育を受けるとより創業しがち。どうやら未経験の分野で立ち上げると、資本が少なく、失敗率も高くなるようだ。大きな会社で働くより、小さな会社で働いた人のほうが創業しやすい。大きな会社でも、新製品の開発や外国でオフィスを立ち上げた経験などは、創業の準備になる。優先順位を正しく付けるのはより重要。年をとればコネもカネもでき、立ち上げやすくなる。
経験のしすぎもダメで、25年以内だと成功率は高い。心理的にも金銭的にも法的にも離れづらくなる。またヨメもガキもジャマだ。雇用ショックがあったり、雇い主の方針が変わったりする人は創業しがちとなろう。楽観はアイデアを生み出すもととなるものの、リスクを正しく図れなくなったりする; 需要や競争者の存在を常に意識すべき。

【誰とともに立ち上げるか】一人でやるなら関係・役割・報酬のジレンマは回避できるものの、人的・社会的・金融資本を得られない。仕事の好み・やり方などの基準がある。大きい集団はより多くの情報を得たり、間違いを訂正したり、多くの解決策を考え出したりできるため成長率も生存率も高くなる。

【関係のジレンマ】共同創業者の経験は、チームの問題解決緑野技能の多様性に影響する。
均一であるべきか異質性を持つべきか; 同一であればコミュニケーションが成り立ちやすく、またアイデンティティの構築もたやすい。一方、同じような弱点を持つ人ばかりにもなるし、ネットワークも広がらない。
家族や親友に頼むか否か; よく知ったもの同士でつるむと失敗しがち。関係性が壊れるのを恐れて大事な問題を議論しなくなる。関係を分け、うまくいかないときのことを予見してその際の策を練り、よく議論すべき。

【役割のジレンマ】分業は紛争のもととなる。より創業にコミットし、アイデアを持ち、人的・社会的・金融資本をより多く持つ人がCEOになりやすい。重要なのは、摩擦を避けようとしないこと、CEOの重要性を無視しないこと、地位のインフレを避けること、取締役会に味方を置こうとしないこと、共同事業者間の異なる動機を無視しないこと。

【報酬のジレンマ】 利益を調整するような報酬構造が必要となる。創業時に株式の分配を決める場合、やる気のある人を引き寄せることができるものの、モチベーションを下げたりフリーライドを助長する。いっぽう創業後に決める場合はその逆となる。過去の貢献(アイデア、資本)、機会費用(創業にあたりどれだけ犠牲にしたか)、未来への貢献(経験、コミット、地位)、モチベーションなどが勘案されているようだ。
動的に分配を決めるなら、このトレードオフを回避できる; その後の貢献によって権利を分配するのだ。

関係・役割・報酬は相互に関連する。たとえば家族や親友と立ち上げた場合は役割も報酬も平等になり、職業を通じての知己同士で立ち上げたなら階層的な組織構成・貢献に応じた報酬となる。議論を避けたり、変化を見落としたりしてはならない。

【雇用のジレンマ】立ち上げ後も、技能を持った人を集め、役割・報酬を決めねばならない。CEOは自らのネットワークを駆使して人材を獲得してくるが、投資家もまた雇用に口を出す; たとえば多くの場合CFOを任命する。どうなるかわからない初期段階では何でも屋を雇い、何をやるか決まった後は専門家を雇うとよい。営業マンは業績給を好み、エンジニアは固定給を好む。

【投資のジレンマ】さまざまな資本が必要となるものの、友人や家族から投資してもらうか、エンジェル投資家に頼むか、ベンチャーキャピタルに頼むか決めねばならない。友人や家族に頼むと失敗したときに全てを失う大きなリスクがある。エンジェル投資家の場合は規律は緩やかでよい。VCなら大きな額を借りられる。

【譲渡】創業者が退陣するときが重要な転換点。

出てくる創業者はみな魅力に満ちている。BloggerやTwitterで知られるエヴァン・ウィリアムズ、輝かしい野球経歴をもったカート・シリング、Zipcarを立ち上げたロビン・チェースなど、豊富な事例が楽しい。また手際よくまとめられていて読みやすい。創業に興味のある人にオススメ!

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(感想)
・色々意外だった。ビルゲイツみたいに、若いうちに創業してずっと辣腕を震い続けるのは稀な例なのね。あとこの種の本には珍しく、危機が生じた事例も扱っていたので面白かった。元カノと創業したからトラブった、みたいな。

・MBA生と遭うと、以下のような二種類の値踏みする視線が返ってくる;
a. 小難しくてビジネスには使えなさそうなネタを追ってるんだろうな、ネットワークもしょぼそうだ
b. もしかしたらネタに結びつくかもしれない、(駄目元でも)専門何やってるか聞いてみよっと
もちろん後者が好きなのでそんな人は全力で応援したいところ。

・スタンフォードGSBはホント起業が好きだナァ…w
posted by Char-Freadman at 06:04| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月19日

金融でイイ国を作ろう

Financeはラテン語の語源からして目標という意味がある。目標を達成するにあたり手助けをするのが金融であり、インセンティブを調整したり価値を発見したり、効能は大きい。2008年の金融危機以来、金融業の発展を制限しろと声高に叫ぶ輩は多い。でも、良い社会を作るために本当に必要なのは、さらなるイノベーションでより多くの人が金融に参加できるようにすることだと説くのが本書の目的だ。



一部は今日の金融資本主義を概観する。金融業を取り巻く人々の役割と責任について述べる。
CEOは意思決定者であり、会社の価値を高めるような行動をするよう動機付けがなされる。ボーナスよりもstock optionのほうが長期を見据えた経営をするようになる。問題はある; 大きすぎて潰せないから政府が救済するであろうことを見越して過大なリスクを取ったり、給料をもらうまでは都合の悪い情報を隠しておいたりする。規制をかけるべき対象は、給料の水準ではなくその構造。たとえば給与の支払いを5年くらい伸ばしたり、政府救済が起きたら給与を奪ったりすべき。
様々な組織の描写がなされる。改善するにはいかにしたらいいかが考察される。また敵意はどこから来るのかも理解される。
投資マネージャーもまたいかに資金を運用するかを決める。市場を打ち負かすことはできないものの、IQや能力の高い人は実際に高いパフォーマンスを上げる可能性がある。シャープ比もまた実情とはかけ離れた数値に操作される可能性があるため、必ずしも信用できない。
銀行は一般人の預金をプールし、企業に貸し付ける。情報を収集してモラルハザードを防ぎ、個人にとって貯蓄は優れた運用方法であるものの、口座を持たない人はまだかなりの数いる。より多くの人が利用できるようになると良い。
投資銀行は企業がシェアを発行するのを手助けする。企業がうまく軌道に乗るよう、金融面から動機付けを行う。
不動産ローン業者は、家を買いたい人の手助けをする。不動産が永遠に値上がりするとの非現実的な仮定を置いてしまったため失敗したものの、モートゲージの発券でリスクを下げるという発想自体は間違っていない。誤解されがちだがAAAの格付けになっていたサブプライム証券の0.17%しか損失を経験していないのだ。ただ貸し付ける側と借り入れる側に情報の非対称はあるのでその解消は今後の課題。
トレーダーは価格が真の価値を表すようになるまで奔走する。脳の構造に似ており、新しい情報を瞬時に価格に反映するのだ。技術の発展により、早くかつ多様な取引を行えるようになってきた。もしかしたら不動産のデリバティブが一般的に行われ、将来の家の価格が評価されるようになっていたら、バブルは起きなかったかもしれない。新しい取引が生まれるようにするため、課税で動機付けしてはどうかという提言がなされる。
保険は事故が起きた際の損失を回避する。幾世紀にもわたるその歴史は、より多くの人を参加させてリスクをシェアするよう方向付けられてきた。長期のリスクはカバーされていないものが多く、たとえば生計はそのうちの一つ。いかなるキャリアを歩むかに関して保険をかけてはどうかとしている。
マーケットデザイナー・金融工学者はよりよい暮らしに向けて取引が行われるよう理論を発展させている。たとえば臓器移植の市場が生まれ、より体に馴染む臓器が提供されるようになった。排出権取引や、政府による安価な薬の購買と分配なども提言されてきた。ゲール・シャプレーのマッチングアルゴリズムも紹介されている。
デリバティブ業者は財の将来の取引に関して市場を作る。起源は古代ギリシャまで遡ることができ、オリーブについて取引がなされていた。天然資源の利用、婚約などオプションのようなものは多い。
弁護士や金融アドバイザーは、より多くの人が正しく金融という機会に恵まれるために必要。依頼人の利益を守るように制度を構築すべき。
ロビイストは公共心を持った人がやりがち。全ての人に発言権を与えるように政治制度を改革するとよい。
規制主体は必ずしも業界団体に取り込まれるとは限らない。
会計士や教育者はよりよい情報の伝達に必要な職。
マクロ経済を自動安定化させるような政策も必要。

二部は改善する各種の提案が述べられる。人間心理の描写が多くなされるのが特徴だろう。
射幸心も保守主義もまた人間の心の一部。金融用語は人々の反発を食らわないようなものになるとよいかもしれない。効率市場仮説はしばしば議論の的になる;我々は無関係な証拠に影響され、都合のいいお話にも影響され、自信過剰だし、周りに影響を受けるもの。こういった心理状況がバブルを引き起こすのだ。とはいえ金融がない世界、たとえばソ連の計画や中共の大躍進政策もまたバブルといえる。株式市場は全体としてみては予測がつかないけど、個々の株式をみていくとそれなりにファンダメンタルを表している;これはサミュエルソンの二分法といわれる。また配当を払わない会社のほうがキャピタルゲインが大きい。
不平等度に基づく所得税が提案されている。不平等が生じる前に税制を構築するのがよい。
農地・住宅地・会社などの所有権は各種の改革により、多くの人が恩恵に与れるようになった。金融もまた多くの人に利便をもたらすようになるべき。

冗長なものの、一般読者に語りかける平易な書き方になっています。金融の嫌いな人にオススメ!

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(感想)
・嫌われがちな職を擁護するのもまた経済学者の仕事のうちなのかもね。そういえば学部を卒業するとき当時の経済学部長が「堂々と金儲けをしてください、価値があると胸を張って良いのです」という趣旨の発言をしていた記憶がある。

・保険屋にみんなムカついてるのはそのビジネスモデルを理解していないからじゃなくて、支払うべきときに支払わないで渋るからじゃないのかな。お金に愛を込めることは事前にはやってもらって結構ですが事後には保証されません^q^

・後半部だけ読めばいいような気がしなくはない。金融の話のはずなのに税制やら寄付やらに脱線しているし。。。

・まあぶっちゃけ、金融嫌いな人は、ビジネススクールの教員が書いているというだけで読まないだろうなーw

・シラー先生は不動産価格のデータを構築したありがたいお人。前著でもそのまた前著でも心理的要因を指摘している。

・経済だけじゃ説明付かない→心理的要因に飛びつくというのは何とも不満がががが。。。アニマルスピリットって要は経済学の敗北宣言だよね。

・悪徳商人から改心して慈善家になった人としてカーネギーが紹介されていた。日本だったら笹川良一かなあ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%B9%E5%B7%9D%E8%89%AF%E4%B8%80
posted by Char-Freadman at 07:46| 北京 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月18日

アメリカの所得分布

Saezがアメリカの所得分布を一般向けに解説している。

http://elsa.berkeley.edu/~saez/saez-UStopincomes-2010.pdf

(まとめ)
・2007~2009の危機で、平均収入は17.4%減った。得に高所得層のダメージが大きかった、それは株式市場の影響
・2010年の景気回復では、トップ1%層の成長は11.6%である一方その他99%のそれはたった0.2%。失業はまだ高い。不況による平等化は一時的なもので、課税その他の介入がないと不平等化が進むようだ。
・2002~2007ーーブッシュ政権ーーに渡り、トップ1%は経済成長の恩恵のうち2/3を受けていた。
・1917~2010の不平等度はU字型; 40年代には戦争の影響で下がり、70年代からは伸びてきている
・現代の高所得層は、資産にあぐらをかく人というより、実際に働いて高い賃金を貰うというのが実態

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(関連文献)
・元ネタはこちら; "Income Inequality in the United States, 1913-1998" with Thomas Piketty, Quarterly Journal of Economics, 118(1), 2003, 1-39

・不平等に関して調べた文献増えてきてるみたい。気付いたものを挙げてこう。





・ちなみに高所得層のデータはSaezが公開している。素晴らしい。
http://g-mond.parisschoolofeconomics.eu/topincomes/

(感想)
・同じように調べようとしても日本の内閣は短命すぎて調べられないだろうなーw
・不平等はそれだけ調べても面白くないけど、税収を上げるにはどうするかとか発展して考えていくのがこのSaezの主な業績の一つ。
posted by Char-Freadman at 12:54| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年04月10日

Poor Economics 再訪

今季のJournal of Economic Literatureには、Banerjee & Dufloの"Poor Economics"への評が載っている。(Journal of Economic Literature, 2012, 50:1)
(関連; http://charkid.seesaa.net/article/211875275.html)

Martin Ravallion (pp 103-114)

・RCTもデータとして欠陥がある; 外部の妥当性がなかったり、再現可能性を欠いたり、スピルオーバーや一般均衡の効果が無視される。またインタビューされた人が一般的な貧者かどうかは不明だし、倫理的問題はあるし、政治的に問題ない地域にしか行われなかったり、良いNGOが選ばれていたりする。ただ、政策当局に対する指針にはなるだろう。
・大きな方向付けとして疑問; 貧困の罠は解決されるのか。

RCTに対して通常よくなされる批判が並ぶ。まあ、構造推定の仕事の人だしむべなるかな。

Mark Rosenzwieg (pp 115-127)

・真に貧困を離脱するのがいかなるときなのかには触れられていない; インドの緑の革命は無視されているし(※)、移住・職の流動性・産業の発展による貧農の吸収(※※)といったトピックはない。援助でいかに救いの手を差し伸べるかが本の焦点。一般読者を意識したのか、批判的な検討にはなっていない。データの欠損は無視されている。
・マラリア対策なら殺虫剤・湿地の除去といった方法があるのに、どれが一番効果的かは考慮されていない。
・誇大広告; 援助の利益は相対的には高く見せかけられているけど、絶対的水準で見たら大きくない。Progresaの学校補助は、0.66年しか学齢期を伸ばさなかったし、多分日雇い労働者にとって5セントくらいの価値しかもたないだろう。問題が大きすぎて解決する気をなくすという無力感に対抗するレトリックとはいえ過剰すぎ。
・貧者にとっての得を測るのは難しい; 賃金労働ではなく家族の一員として働くのが一般的なのだ。このため賃金のみならず、農場やその他の自営業のリターンを測らなくてはならない。また家族労働のコストも測らねばならない。また所得には大きな変動があるため、研究スパンが1年やそこらでは本当に貧者が得をしているのかは不明となる。
・虫下しの研究では大きな利得が報告されているけど、3/4のデータは失われていて、RCTの美点であるはずのデータの綺麗さはない。
・「小さく考える」のはいいけど、次に何をすればいいのかはよくわからない。

こちらは著者たちの使ったデータに踏み込んで欠陥を指摘しており、より具体的で深い。こんな批判ができるようになりたいものだ。……そして〆の言葉が痛烈;
"Thinking small may or may not have large future payoffs for the poor, but it has surely already done some good."
(拙訳)
小さく考えるってのがこれからも貧者にとっていいかどうかはわからんけど、いまのところはうまくやってるようだね。

(※)緑の革命のメリットが実はそんなにでかくはないという論文をどこかで読んだ記憶があるのだけど失念。。。誰の何てやつだったか。。。
(※※)Lewis-Ranis-Feiの、都市と農村の二重経済モデルのこと

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・邦訳がもう出ていますね、早いなぁ。補足でデータを眺められるのは素晴らしい。



http://cruel.org/books/poorecon/

細かいけど商品説明にあった「ランダム対照試行」は「ランダム比較実験」のほうがいいと思う。たしかにtrialは確率・統計の文脈だと「試行」と訳されるのが一般的だけど、疫学分野だとrandomized control trialはひとつながりとして「ランダム比較実験」と訳されることが多いから。処方箋を出すみたいなお話の流れだけに医学を範に取った方が近いのでは。
(……ただ大学教員の講義ノートでの訳って結構テキトーだけど。。。)
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少数派による説得

少数派になってしまったとき、どう説得したものだろうか?社会心理学を使い、より影響力がある相手をいかに説得するかが考察される。

"The Rules of Influence: Winning When You're in the Minority", by William Crano




影響力に関する伝統的な研究は、説得を試みる人が利用できるものが多いとの暗黙の前提があり、少なくとも言うことを聞かせられるだけはできた。信頼性を高め、強い議論をし、反抗することが難しいような状況を作ればよかった。権力にあずかれ、正しいと思われがちであり、数で上回れるというメリットが多数派に属することにはある。ニュルンベルク裁判では戦勝国の正義のもとに裁かれた。本書では少数派に属するため説得に要する資源に恵まれない人がどう対抗すべきかに焦点が置かれる。

1. グループ内にいて、多数派の正当なる一部分だと考慮されるべし。
グループ内の少数派であるか、グループ外の少数派であるかは重要な分岐。類似性を強調すること。人々が自己に関して持つ印象は大きな影響をもつ;我々と彼らを分け、我々には親切になり、彼らにはよそよそしくなる。また印象は自己充足的でもあるのだ。所属するグループが選んだ結果のものであろうとそうでなかろうと、影響を持つ分にかわりはない。

2. 粘り強くあれ。撤退や妥協をするな。
多数の人が一貫して間違った回答をすると、それに引きずられてしまうという研究がある。でも、一人だけでもその多数派に裏切り者がいれば、また正しく回答が出来るようになるという。
少人数の回答もまた、影響を持つという。とはいえ、環境にそって柔軟な対応をできるなら、一貫性を保てる。

3. 一貫性をもて。メッセージを伝え続けろ。

4. 少人数グループ内では満場一致であれ。

5. 柔軟性をもて。環境にそったメッセージを伝えろ。
交渉では、最初にふっかけて、そのあとで小さい利益を頼むと、承諾を引出しやすい。また無視無欲に見えるとなおよい。

6. 主観的な判断を客観的なものにしろ。たとえ部外者でも客観的な証拠があれば説得できるかもしれない。

ゼンメルワイスの手洗いは死亡率を下げるのに有効だったが彼の医師人生は失敗したし、2008年のカリフォルニアでのゲイの結婚禁止法は通過してしまった。これは説得の方法を誤ったためと見ている。あくまで大きな社会の一部であることを協調しないと失敗してしまうのだ。

多数派も対策してくる。
a. 少数派は部外者であるとみなす
b. その参加が組織の脅威になると喧伝する
c. 少数派は自己利益を追求しているとみなす
d. 分析し対抗する。無視したり見下したり罵倒したりするのだ。関係ない非難を大量に送って信頼性を損ねたり、繰り返し嘘をついたり、当てこすったりしてくる。非難するときは新聞の知名度がモノを言うけど、当てこすりなら新聞の知名度によらず同じくらい有効。

7. 直接的ではなく間接的に攻めろ。
中絶に関して賛成する記事を読むと、中絶についての意見は変えないものの非人に関しての意見は変わるそう。関連する内容から攻めるべし。

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(感想)
・本書ではハッキリと否定してるけど、少数派が広がるのは良いことと誤読する人もいそう; ナチの広まりを思い起こすとよい。(IEがネットスケープを駆逐したのをMicrosoft内の若きプログラマの昇進の成功譚として位置づけてるけど消費者的には、、、w)
・ゼロサムゲームの理解がおかしい。車を売りつけるディーラーと買い手がいたら、それはゼロサムゲーム。売り手の得は買い手の損になっている。
・主観を客観にするテクニック、経済学なら費用便益分析があるかな。死刑制度や中絶の是非とかは義務論を語るより実証に任せるほうが有効な制度ができると思うんだけどナァ。
・政治の文脈が多く出てくるけど、本書で強調されるようなレトリックが本当に有効だったかは疑問が…w
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2012年04月08日

イスラムの欠陥

中東の近現代史に興味が湧いたので読んでみた。

"The Long Divergence: How Islamic Law Held Back the Middle East", by Timur Kuran



西洋と比較して、なぜうまくいかなくなってしまったのだろう?1000年頃までは概ね反映していたけど、19~20世紀になると西洋に遥先を行かれてしまった。この地位の転落が生じた理由を説明するのが本書の目的。
答えは、イスラムの制度だ。ビジネスに制限がかけられたのみならず、西洋に追いつくような法の進化がなされなかった。オスマン帝国が失敗したのは真のイスラムの理想の追求から離脱したためという仮説が棄却され、イスラムの制度自体に欠陥があったとみている。
18世紀までは、特に欠陥はなかった。カピチュレーションにより外国人は安全に商売ができたし、ワクフ(寄付)により様々なサービスが提供され、法は速やかに執行されたため特に変革する必要はなかったのだ。
しかしイスラム法の組合関係には欠陥があった;一方的に解除することが出来たし、相手が死んだら自動的に契約は終了し遺産が後継者たちに分割されてしまった。このため、多くが参加し長く続く法人が作れなくなってしまった。交換は個人的なものに留まり、会計制度は標準化されず、文書ではなく口頭で契約がなされるのが一般的なものとなった。確かにワクフは多様なサービスを提供したものの、寄付者の意思に左右された。株式会社のように運営して多くの資金を集うことができなかった。遺産はばらばらに分割されてしまった。また銀行システムや会社に関する法も存在しなかった。
19世紀以降の非ムスリムについても論じられている;非ムスリム同士の法廷が開かれ、イスラム法の制限から避けることが出来た。

中東の説明とは銘打っているものの、17~18世紀のオスマン帝国の特徴に焦点が当てられ、(時には不適切に)一般化されている。これは「途中まではうまくいっていたがうまくいかなくなった」ことを説明するため。
歴史モノなわりには大変読みやすく、中東に興味が湧いた人は是非。

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(感想)
・地理要因を無視するのはまずいような気もする。無視するなら無視するなりの理由を載せておくとよさそう。砂漠地帯・山岳地帯・石油資源など結構特異な地域だし。

・政治制度が経済にもたらす影響の分析があんまりないのが不満!w
(ご参考)
http://charkid.seesaa.net/article/260054188.html

・西洋以外と西洋との比較をするというお話はよく見かける。たとえばこんなんとか;



カリフォルニアの人は妙に親アジアなんだよな〜。
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2012年04月04日

ナサーの経済学史

ソローがタコ殴りにしてたナサーの"Grand Pursuit"、アッシェンフェルターは好意的に評しているみたいだ。

Journal of Economic Literature 2012, 50:1, 96-102

【この本がやったこと】
・1850~1950年の経済史と、当時の経済政策の文脈に沿って経済学者を配置している。
・経済学者だって血の通ったニンゲンなんだよ!
【やらなかったこと】
・ハイルブロナーの経済思想史を書き換えること。あくまでお話の登場人物。辞書代わりにはなりません。
・主張をはっきり書くこと。冗長。

ホーチミン、ジェイコブ・ヴァイナー、ロバート・ソロー、ニコラス・カルドア、フランク・ラムゼイといった人たちが主役をはる。お話はマルクスから始まり、ロンドンの黒歴史が描かれている。経済学者がいかに安楽椅子実証ーー実際に工場でデータを取ったりはしないーーに頼ってばかりであるかがわかるとのこと。そして、publish or perishは概ねアメリカの文化で、19世紀末の経済学研究はノンビリやられていたことが示されているそう。
歴史モノとして、当時の描写のなかで、KGBのスパイ・ソビエト共産党政治局員・中共工作員がしばしば出てくるのが優れている;イギリス経済は苦しんでおり、ソビエトに希望をみてしまう人もいたのだ。ケインズがお話の最重要人物であり、一次大戦・恐慌・二次大戦の処方箋を出そうと奔走した姿が描かれている。
ハイルブロナーの経済思想史のメインテーマは、資源の分配がいかになされるかの理解だった。一方この本のテーマは、「経済学者が生活水準を改善できる」という考え方かもしれない。AEAの創立者の多くが属したドイツ制度学派は、イギリスの経済学と異なるため、たとえばヴェブレンは本書で社会学者として扱われてしまっている。いっぽうフィッシャーはイギリスの分析的経済学に基礎を与えた人物として、本書の多くで出てきている。

読み物として面白く、教養としてもまあ及第点(でも多くの経済学者はイラつくだろうとのことw)、あと経済学がダイナミックな営みだと感じさせてくれるそうだ。地味にマクロ経済学の混乱がdisられている。

様子見してたけど、気になったので購読してみることにした。ゴシップ集としてはとっっっっっても楽しめそうだ。ケインズはどう見てもリア充。

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・評者はアッシェンフェルター・ディップなど労働経済学でよく知られた超重鎮。ただのワイン好き(cf. エアーズの本でも触れられた、ワインの方程式のこと)ではありません。

ワインの質=12.145+0.00117×冬の降雨+0.0614×育成期平均気温−0.00386×収穫期降雨

実証研究者だけあって経済学に対する不満は実証にあるみたいだねえ。

・ノンビリ研究、、、羨ましい、、、うぇー、、、;;

・ソローによる書評はこちら;

http://d.hatena.ne.jp/wlj-Friday/20111005/1317821182

マクロ経済学者は口が辛いなあ。睨まれないようにしとこう。くわばら、くわばら。
…ところで他の記事ではなんと当ブログを紹介してくだっている模様。ありがとうございます!
posted by Char-Freadman at 22:02| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

創造性の分解

脳科学の研究や豊富な企業のケースを駆使し、創造性はどこから来るのかを考察していく。

"Imagine" by Jonah Lehrer



1章は全体構造の把握について。右脳はかつて役立たずと考えられた時期があった。しかし右脳に欠損がある患者は、絵を描くことや皮肉の理解ができない。これは、右脳が全体構造を把握する能力を司るためだ。すべき方策をすべてなし、いらついたのちに解決策がみえてくるもの。閃きの前には右脳からガンマ波が流れてきている。

2章はリラックスについて。白昼夢の研究によると、白昼夢の中に自分がいると認識している場合に、特にひらめきがもたらされるそう。また、早朝のリラックスしている時間帯が創造的な思考には適しているとか。注意を集中させることが必ずしも創発性には繋がらず、むしろ多動性の人のほうがひらめきをもたらす可能性がある。新しい状況に古いやり方を当てはめると解けることがあり、複数の領域をまたぐとよさそうとのこと。従業員の労働時間の15%を新しい問題の追究に当てていいとする3Mの多くの成功事例が取り上げられている。

3章は多様な思考方式について。オーデンやエルデシュのように薬物を使いながら創造的な仕事をする人がいる。薬物は脳内のドーパミンを活性化する;ドーパミンは喜びを得ると同時に思考を集中させる効果を持つのだ。ドーパミンは注意を高めると同時に、アイデアを結合させもする。ワーキングメモリとなる前頭葉が活動し、より多くの情報を得られるのだ。I ハート(トランプ) NYなどの優れたデザインを手がけるミルトン・グレーザーは、芸術は仕事だという。繰り返し繰り返し、もうその先にはいけないくらいまでアイデアを洗練し続けるのが彼のやり方だ。ワーキングメモリーは重要、というのも必要な思考が現れるまで注意を払い続ける必要があるから。アイデアは再帰的に結合し続けることで豊富になる。
憂鬱な気分は閃きを減らすものの注意力は高める。まるでアンフェタミンのように働いている。作家に鬱病や躁鬱病者が多いのはそのため。
問題が多様なら解決策もまた多様。久々に会った人の名前を忘れているとき、ちょっと努力すれば思い出せるのにと感じるだろう。この「知っているという感覚」のおかげで、どちらの思考方式を当てはめればよいかわかる。袋小路に追いつめられたようであればシャワーでも浴びてリラックスするとよいし、もう少しすれば解けるというときはとことん集中するのがよい。

4章は自我の解放について。ヨーヨーマは演奏の際にミスを恐れず、むしろそれが自分らしい表現に繋がるという。研究によると、ジャズの即興演奏では、自分を表現するという脳の部位が活性化されているようだ。プロサーファーのクレイは、自閉症ーー想像力の欠如と一般には考えられているーーであるため、むしろ波をよく理解できている。ハリウッドの喜劇養成所では、自分を抑制しないことを学ぶ。前行性痴呆症の人は、自分を抑制する脳の機能が欠けていくため、新世界が開けたように感じ芸術に興味を持つようになる。

5章は外部について。傷心からバーテンダーに挑戦しヒットするカクテルを生み出したプログラマーや、欧州旅行で見かけた人形をヒントに生まれたバービー人形、自社で解けない科学的問題をネットで懸賞にかける薬品会社イーライリリーのInnoCentiveなど、解決策は外部からもたらされることが多い。作家もまた作品の校正の際は寝かせた後にすべきと言われる。子どものように若々しく恐れを知らない心意気があれば、ずっと生産性を高め続けることができる。

6章はチームの重要性について。ブロードウェイのミュージカルでは、見知ったもの同士だけで組んでも、まったく見知らぬもの同士で組んでも、ヒットすることがないことが研究により明らかになった。ジョブスはピクサーの建物を設計したとき、カフェやら土産店やらトイレやら重要なものを全て中心部に押し込んだ。それは社員同士が偶然遭って思いもよらない会話を始めるよう狙ったため。より多くのメッセージを送りあうトレーダーが、より稼いでいる。褒めあうだけのブレインストーミングより、批判をしあう討議のほうがより生産的;たとえ間違っても、グループが直してくれると信じるから、発言するようになる。ナイキやピクサーの成功例が取り上げられている。

7章は都市について。多くのものが集積するというメリットがある。特許取得は同じ都市に住む人同士で起きがち。歩行者は早歩きで少し居心地は悪いものの、相互干渉が新しいアイデアをもたらす。ボストンのルート128はかつて大企業が集まっていたが、水平方向にアイデアが行き来せず上意下達となってしまい、サンノゼ周辺のシリコンバレーに追い抜かれる結果となった。人が増えるほどに都市は加速していく。イスラエルでは91%の都市人口率を誇り、皆が皆を知っている。予備役の必要から「弱い連帯」が人々の間に生まれており、これがハイテク企業の集積地になっている理由の一つかもしれない。

8章は天才たちの集積について。アイデアは失われることなく、他のアイデアを刺激する。シェイクスピアはマーロウなど同時代の劇作家たちや歴史書から盗用し、文学史に名を刻むような傑作を残した。アイデアが広がるには必要な方針がある;エリザベス期のイングランドは文芸の検閲が緩くなり、また貿易で人の繋がりが多様になった。多数のアーティストをニューオーリンズから輩出するNCAAは、徒弟制で生徒たちに「作りながら学ばせる」というやり方をとっている;創造性は教えることが可能なのだ。リスクを取ることも重要。

創造性に興味がある人にオススメ。

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(感想)
・ボブディランの歌に言及したり詩文の解説をする節があったけど、洋楽や英文学に疎いのでさっぱりわからんからまとめから割愛してしまいました。ご了承ください。知らんもんは知らん。

・探すのを止めたとき 見つかることもよくある話で;ミネルバのフクロウはたそがれに飛びますね。

・脳科学の研究紹介の部分は大変わかりやすかった。一方それを利用して各種の創造的行為を説明する部分にはなんか胡散臭さが残ってる感じが。。。ヤクをやれば必要な知識を持ってるみんなが数学解けるの?とか詩人になれるの?といった疑問が湧くわけで。

・大学はコーヒー飲む時間を設けるとよさそうだね。交流ということで。

・都市に言及するんだったらやっぱ東京を語って欲しいな〜。古本屋街・スポーツ店街・楽器屋街・電気街が立ち並ぶ東京は例としてうってつけだし。

・大学院生向けにまとめるとこうなるか
(i)早起きしろ&メモをこまめにとれ
(ii)コーヒーアワーやセミナーに行ってとにかく人と話せ
(iii)指導教員や上司の手足として四の五の言わずにまず働け
posted by Char-Freadman at 01:40| 北京 | Comment(4) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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