2012年03月31日

道徳心理と相互理解

著者の研究歴及び道徳心理学の歴史を辿りながら、人々がどうして仲良くなれないのかを考察していく。

"The Righteous Mind: Why good people are divided by politics and", by Jonathan Haidt



一部は道徳心理学の第一原理について;直観が先行し、理由は後付けになる。象(感情)に乗った運転手(理性)という比喩で理解すると良いとのこと。理性は感情の奴隷であると看破したヒュームと、評判が非常に重要であると指摘したグラウコンがこの部の中心。思考実験で、害がないとしてもタブーにふれるようなことは「正しくない」と感じる人が多いとのこと。
脳は常にかつ直ぐに評価しがちであり、社会的・政治的判断は直観によって即もたらされ、身体的状況が道徳的判断に影響する。気違いは理由付けには優れているが、情には疎い。いっぽう、赤ん坊は感じることは出来るが、理由付けはできない。感情的反応は正しいときに正しい場所で生じる。
思考は投票行動に似ている。他人が自分をどう考えるか気にする、それもしばしば無意識のうちに。理由付けは自分の立場にとって正しいように当てはめられる。また嘘をつくのが非常に上手く、自分さえも騙される。理由付けによってどんな結論にでも辿り着くことができ、チームにとって自分を捧げるような行為もとる。理性の賞揚は危険。他の人に寛容になろうと提言される。

二部は第二原理について;道徳とは、被害の防止や公正以外のことも含まれている。道徳心は複数の味覚(世話、公正さ、忠誠、権威、神聖さ)として比喩がなされる。道徳の領域を拡張してみせたShwederと、忠誠や権威や神聖さについて述べたデュルケームがこの部の中心。価値の多元性を理解して欲しいとのこと。
WEIRD(英語で「変わってる」の意)ーーWestern, Educated, Industrial, Rich, Democraticーーな社会は、統計的に見てとても特殊なのだ。関係性より個人を重視しがち。文化人類的に見て、それぞれの社会で道徳は多元的である。自律性を重んじるWEIRDの価値観以外にも、コミュニティや神聖さを重視する価値観もある。そしてそれぞれの価値観は、内部では一貫性をもたらし、外部の価値観に対しては無知になりがちになる。
義務論と功利主義はともに順序付けに関しては優れているが、共感能力には劣っている。ヒュームの多元的・感傷主義・自然主義的なアプローチは現代の道徳心理学に近い。モジュールとして感情の受容体を理解すると良い。世話/害悪という基礎は子どもを世話することへの適応から生じ、残酷さを嫌悪し困っている人を助けたいと願うようになる。公正さ/インチキという基礎は協調性への報酬から生じ、善人かどうか判断し、ズルをする人を罰したいと思うようになる。忠誠/裏切りという基礎は連合を維持することから生まれ、チームプレーヤーになりうるかどうか判断するようになる。権威/服従という基礎は社会階層を維持することから生まれ、階級や地位に関して気を払うようになり、分を弁えた行動をとっているか判断できるようになる。清浄/劣化という基礎は雑食性から生じ、危ないものに注意を払うようになった。政治にあっては自由/抑圧という基礎が加わり、支配されないかどうかに気を配るようになる。公正さは利他心のみならず、正しい割合で報酬を得ているかという感覚に繋がっていく。アメリカの保守はこれら全ての価値を等しく考え、リベラルは公正・自由を重んじる。

三部は、道徳によって人は縛られるし、盲目にもなることについて。自分勝手であると同時に、群れに忠誠を誓いもする。90%は猿のように個人主義的で、10%は蜂のように群れ優先となるという比喩が使われる。進化はとても早く生じるので、遺伝子と文化がともに進化する可能性がある;宗教的精神と宗教の実践はともに進化したかもしれない。そうすることで、群れ内の協調性を高めてきたとのこと。進化論を提唱したDarwinと、人間は個人主義的とは限らないと指摘したデュルケームがこの部の中心。自己中心的とは限らず、全体の一部としても動けるのだ。政治にあっては、保守・リベラルを分けるような遺伝もあるし、自分で物語を作って適応もする。リベラルの言うように政府は会社のやり過ぎを押さえることができるし、効果のある規則もある。またリバタリアンの言うように市場は優れており、保守主義の言うように価値は多様だ。全ての人に耳を傾ける必要がある。

人間の心理に興味がある人はどうぞ!

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(関連文献)
・"Happiness Hypothesis"は第一原理について述べてるみたい。邦書も発見した!!!




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(感想)
・面白かったけどこの分野には疎いので、著者がどう学界で位置づけられているかご存知の方は是非ご一報ください。引用されるデータがどれくらいの信憑性でもって心理学会で受け入れられているのか、よくわからない。特に進化に関して。

・リベラルは保守派を「理解できない」というのはちょっと面白かった。分断ここに極まれりだナァ。

・「政治にあっては功利主義が必要悪」と述べているのもちょっと意外。地味に経済学者がdisられているけど・・・w
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2012年03月30日

公正と自由

ニュージーランドとアメリカを比較し、公正さの歴史を辿る。

"Fairness and Freedom: A History of Two Open Societies, New Zealand and the United States", by David Hackett Fischer



アメリカの政治家は自由(liberty, freedom)を強調するけど、NZの政治家は公正(fairness)を強調する。この差はどこから来るのか?NZではfairnessに関する語彙も豊富だ。語源を辿り、似て非なる意味が示されている。

fairness; 競争する人たちがいるとき、どちらかが不当な扱いを受けること無く勝負できるようになる、手続き上の正しさに関する概念。(例)fair play
equity;全てのものを同じように扱うこと。
justice;法の支配。

アメリカ移住には4つの波があった。ピューリタンは自由を求め、ヴァージニア移民は身分に応じた自由を求め、クエーカーは互酬的自由を求め、その他スコットランド移民は軍隊経験を持ち介入されない自由を求めた。ニュージーランド移住にもいくつかの波がある。19世紀以降のNZの支配者の経歴が綴られ、概ね公正を重んじていたことが示されている。イギリスが最初に植民した地域はイギリスへの服従を強いられたため自由の獲得が最大の目標となったが、次に植民した地域(NZやオーストラリア)では既に自由権は認められており公正や不平等が問題になったとのこと。

アメリカ先住民とマオリの比較がなされる。大きな差は、アメリカ先住民の言語は多様だけどマオリのそれは一元的なこと。マオリの支配が比較的暴力沙汰にならなかったことについて、啓蒙思想の影響と、ジェームズ・クックがポリネシアで雇った人物がマオリの言語に通じていたため交渉が可能であった点に原因を求めている。

入植にあたり、アメリカは荒れた土地を開墾していくという形をとったが、NZでは肥沃な土地からまず使われていくという形をとった。このためアメリカでは自由に土地を使えるかどうかが焦点となったのに対し、NZでは公平な分配が政治の焦点となった。
また移民の基準に関しても異なる。アメリカよりNZのほうが厳しく、NZに合いそうなヨーロッパ系の人が募集された。アメリカでは自活がモットーとされ、入植した民族は集住しがちでアイデンティティを持ち続けていった。いっぽうNZではイギリスとマオリを除けば他の民族は同化していった。

アメリカでもNZでも次第に参政権は拡大した。女性の参政権が初めて認められたのはNZであり、当地の運動家はアメリカに比して協力的な姿勢で運動を進めた。原住民への対応はアメリカはより過酷であった。進歩的な政権でも原住民の利益をかなえる動きはみられなかった。

外交方針については、アメリカは(1)国益をかなえ(2)世界の自由を実現するという傾向がある。NZは国益と地域における優位性・独立性・正義や公平性を重視するという傾向がある。

恐慌に対応した政策も比較される。アメリカのニューディール政策は信じられているような「大きな政府」の勝利ではない、というのもNZと比較したら政府部門の人数も税率も低いし、経済を刺激したあともみられないからだ。むしろ自由に参入できる経済を促進したという面が強い。いっぽうNZの第一次労働内閣は、社会正義の実現を目指し、多くの産業を国有化した。

軍事にあっては、閉じた社会は電撃策に優れ、開かれた社会は総力動員に優れている。アメリカもNZもともに自国の兵を大事にする。NZの歩兵は優秀であることで有名。また大戦後の経済は、改革に当たるのが左派から右派に移るという傾向が両国で見られた。政治制度の改善も進んだ。

自由を重視する姿勢には義務や責任を無視しがちという悪癖があり、公正を重視する姿勢には能力のあるものをやっかむ(tall pappy)という悪癖がある。両者はともに学ぶべき点があると結ぶ。

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(感想)
・独語にも仏語にもfairにあたる語は無いそうだ。日本語だと「公正」が近いかな?

・思想が政治や経済に与える影響って、どういう機構を通じて起きるかねえ。自分の持ってる思想が他人の持ってる思想と整合的なときなんだろうけど。各人が同じように考えて自分も同じように考えるのが有利ーースタグハントゲームみたいな感じか。

・英語は何ら得意ではないので、歴史や哲学系の人は風景描写をしたがるため読むのがしんどくなる。うう、、、余計なこと書くなよ読み取りにくくなるじゃん。。。(ロジックを眺めるのには修練を積むけど文章から風景を読み取る訓練はしないわけで。。。)
posted by Char-Freadman at 18:39| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月27日

電子書籍と画像検索

自分は電子書籍の狂信者であり、とっととデジタル化とデータ集積が進んで欲しいと願う。

たとえばこんな需要があるはずだ!

ネットサーフィンをしているとしよう。非常にインパクトの強い漫画のコマと遭遇するかもしれない。とはいえ、2chで聞いても返答が来るとは限らない。

しかし、漫画が全てデータ化されていたら、希望の画像のある漫画を検索できるようになる。マイナー雑誌の四コマ漫画だって、オタクにならなくても辿り着けるようになるのだ。

アイドルやAVなどでも同様の需要が眠っている。
posted by Char-Freadman at 10:11| 北京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月25日

経済成長と政治制度(訂正)

世界を見渡すと貧富の差に気付くだろう。経済制度が貧富の差を決定する重要な要因だけど、政治および政治制度が経済制度を決めるーーこれが本書の中心的メッセージ。

"Why Nations Fail: The Origins of Power, Prosperity, and Poverty", by Daron Acemoglu and James Robinson



一章はアメリカとメキシコの比較。経済制度の差は経路依存性がある。南米大陸を征服したスペイン人は、現地人を搾取して富を得るという方法をとった。コルテス・ピサロ・トレドといった征服者は、エンコミエンダ(大土地所有制)・ミタ(強制労働)・トラジン(食料や織物の運搬)といった収奪的な制度を導入したのだ。北米では現地人を使うことも植民した人も搾取できなかったため、土地の付与を通じ植民した人がしっかり働くような制度が作られていった。いっぽうメキシコは政治が不安定で所有権保護がおぼつかなかった。そのため銀行の発達も遅れ、産業発展に必要な資本を融通することができなくなった。現在の富豪を比較しても印象的;マイクロソフトのビル・ゲイツは競争環境で勝ち抜いたけど、テルメックスのカルロス・スリムは政治家たちに取り入って成功を収めている。
二章は成長の要因について。マラリアなどの病原体、生産的農業を許さない土壌など地理的要因が効くという仮説がある。しかし熱帯でも発達した国は多く、また病気に対抗するのが政府の役割だ。所有権制度の結果として低い生産性になっている。畜産物の利用可能性だけでは近代の経済格差を説明できない。ヨーロッパの植民地が運命の逆転を引き起こしたことも説明できない。社会規範は重要で変わりにくく制度的違いを支持するけど、宗教や倫理観や価値観は関係ない。銃や文字や洋服屋家のデザインなど新技術を導入する。鋤を導入しなかったのは、収奪されるおそれがあるのでしっかり耕作するインセンティブが無かったから。同じ宗教や同じ言語だったとしても貧富の差はある。支配者が無知だから良い政策がとられないのではなく、市民を犠牲にして自分だけが富むような政策を支配者が好むのが問題。
三章は二つの制度の比較;包括的な制度と、収奪的な制度だ。包括的な政府とは参加者が多いものを指し、所有権を保護し、歪みの無い法の支配があり、交換を促進する公共サービスを提供し、新しいビジネスの参入を許す。暴力の正統な独占が必要。経済制度と政治制度には補完性がある。収奪的政治制度はエリートに権力を集中し、経済制度はエリートに寄って吐くあられ資源を奪うために作られる。制限が無いからあたらしく独裁者を生む。コンゴや北朝鮮は収奪的制度の例で、経済成長を阻むような行為もとっている。経済成長が可能なのは、変化により政治的・経済的に打撃を被る人がそんなに居ないときだ。収奪的政府であっても、高い生産性のある活動に資源を配分したり、包括的な経済制度を維持したりするなら成長が可能かもしれない。ただしそれにはある程度の中央集権が必要であるし、もし成長したとしても不安定になる。
四章は歴史の分岐路について。中世にはペストの流行により貧農は希少になり賃金は上がりつつあった。14世紀半ばには西欧と東欧は似ていたが、17世紀になると違いが生じた。西欧の農民は封建的な義務から解放されて市場に組み込まれつつあったが、東欧では農奴として働いていた。この違いは、農民の反乱への対応から生じた。東欧では地主がよりうまく組織を作ったのだ。イギリスでは名誉革命の時期に、権力に対して制限が課され、のちの包括的経済制度の導入に繋がった。コンゴや中東、東アジアでのこのような分岐について描写がなされる。
五章は収奪的政府下での経済成長について。ソビエトでは所有権が禁止され、農業は集団的になされた。このため人々には働く動機がなく非効率な配分になったが、生産性が高い重工業に人員が割かれたためいちおうの成長はみた。1928~60年までの間、田舎から移住させるという残酷な方法で6%という高い年の成長率を観た。コンゴのカサイでは河を隔てて二つの民族が暮らしている。片方は政治革命により中央集権を達成し、収奪的ながらも恐怖による専制で少しの成長をみている。Hilly Flanksで農業が始まった。
六章は制度の発達について。セメントを発明したマヤも、コンメンダにより商業を守る法が発展したヴェネチアも、ローマも、アクスム王国も、収奪的な政府だったため成長は不安定なものとなり紛争で滅亡してしまった。包括的な政府にも逆行する。市場を拡張し毛織物の利潤を高めるような法令が出された、これはジェームスに対抗するため。ファイナンス革命も生じた。集権を続けた。
七章はイングランドについて。マグナカルタから名誉革命に至るまでの道は平坦ではなく、クロムウェルによる独裁やジェームズによる先生の強化をみたものの、最終的には包括的な政府が誕生した。これは王に対抗する大きな連合が生じたため。王は貿易の独占ができなくなった。働くインセンティブが生まれ、金融の発展や産業革命が生じ、運河や陸路の発達により発展した。
八章は多くの国家が創造的破壊を恐れチャンスを逃したことについて。ハプスブルグの統治は絶対専制で、工場に集まった貧民が対抗するようになるため産業の発展を恐れた。また鉄道建設にも反対した。絶対王政の国々、たとえばロシアのツァーや宋・明・清といった中国の王朝やエチオピア王国も産業を恐れた。
九章は奴隷貿易について。オランダ東インド会社はインドネシアにプランテーション農業をもたらした。アフリカと欧州間では、1807年に奴隷貿易が廃止されたのちは、アフリカ現地で農産物が生産されるようになった。アフリカ諸国は奴隷を捕まえて売るような収奪的制度を発展させた。アーサー・ルイスは途上国における伝統社会と産業社会とのニ階層モデルを提唱し、あたかも南アフリカはそれに当てはまるように見えた。農業に従事する黒人は労働力があふれており、白人は工業に従事し都会に住んでいた。しかし実際にはその差は制度の差によるもの。
十章は英国以外で発展した地域について。豪州への移民では、アボリジニは少なく搾取できなかったので移民たちは自分で働いた。貴族・僧職・市民と階層が分かれていたフランスでは、ルイ16世の時代にEstates Generalが生じ、それぞれの階層を代用する人物が税収を決めることになった。恐怖政治をへてナポレオンの時代になり、領土拡大を目指した。侵略にあたり、たとえばユダヤ人ゲットーの解放にみられるように、各地の封建制を壊していった。欧州列強に脅威を感じた大久保利通のような日本人は徳川政権を葬る必要を感じ、明治維新により包括的政府の登場をみた。
十一章は包括的政府の好循環について。イギリスの名誉革命で生じた包括的政府は多元的であり多くの人の利益を代表するようになり、経済制度もまた包括的になっていった。穀物法の廃止にみられる。アメリカもイギリス同様、包括的な政府に向けて徐々に進んでいった。変化が急ではないことが、摩擦を大きくしない上で重要なのだ。ニューディール政策は最高裁との確執を生んだためルーズベルト大統領は自分に従わない判事を追い出そうとしたが、司法の独立は守られた。一方アルゼンチンのペロン大統領は司法の独立の侵害に成功し、彼は独裁者として振る舞えるようになった。政治家が判事を選ぶという体制はその後も続いた。包括的政府は国家権力を制限し、包括的な経済制度をうみ、報道の自由を守るようになる。
十二章は収奪的政府の悪循環について。シエラレオネではイギリスが収奪的政府を作り、マーケティングボードで農民を搾取するという形をとった。独立後も少数による支配が続くという点は、グアテマラでも同様にみられる。エチオピアで王を追放したマルクス主義者は独裁者となった。アメリカでは南北戦争後は奴隷制が廃止されたが、南部ではジム・クロウ法により本質的には同じような黒人差別が続くこととなった。少数による政府は、少数のみを利するような経済制度を作るようになる。このため権力を奪取するメリットは大きく、紛争が続くようになる。
十三章ではなぜ政府が失敗するかについて。シエラレオネやジンバブエでは収奪的政府が収奪的経済制度を支え、紛争に次ぐ紛争になっている。コロンビアは一見民主主義的に選挙がなされているが、制度は収奪的であり、民兵組織の暗躍により市民の身柄はいつも脅かされている。アルゼンチンもまたエリートのみが政治参加できるようになっていたため、経済成長が追い抜かれる羽目になった。ウズベキスタンでは綿花栽培が学校の生徒たちによってなされ、大統領の家族により成長が阻害されている。共産圏の国家は全て収奪的で経済成長を阻むようなものだった。
十四章では包括的政府に向かった国について。ボツワナやアメリカ南部、ケ小平の中国は収奪的政府の悪循環を打ち破ることができることを教えてくれる。
十五章はまとめ。高い経済成長を誇る近年の中国をみて新しい経済の形だと指摘する向きもあるけど、包括的な政府にならない限り、中位所得の水準に達したのちは政治エリートによって成長が阻まれるだろうとみている。経済成長を計画することはできず、援助は失敗しており、それぞれの国での方針を考えねばならない。

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(関連文献)
・この分野の次のスターはこちら。ペルーの強制労働やメキシコの麻薬ギャングについて調べている。制度が重要なのはわかったので、これからは「制度のいかなる機能が」経済発展に影響するか、マニアックに追うのが流行と思われる。乗るしかない、このビッグウェーブに!

http://economics.mit.edu/grad/mdell

・アルゼンチンが遅れた理由を考察している文献。著者のEngerman, Sokoloffはとてもよく知られた経済史家で、2000年のJEPの論文で制度の重要性を指摘した。



・本書はブログもある。一つ一つが重い。。。
http://whynationsfail.com/

・アフリカの紛争がどのような形で行われているか調べたもの。上記ブログで紹介されている。



・もっとフォーマルな形での議論が見たい方はこちら。ゲーム理論と動的計画法を使って華麗にモデル化してくれてます。



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(感想)
・三行でまとめるなら、
(1)経済成長をもたらすのは多くの人が参加できる政治制度
(2)少数者からなる政治制度は反乱を恐れて有益な技術も導入しない
(3)多元的な政府も寡占的な政府もそれぞれ自己循環的
となるかな。一行でまとめるなら、経済成長には国家権力の制限が必要、ということになるか。
・たくさんのネタを載せているので、とっても読みづらい。まあ目次がよいまとめにはなってるけど。。。
・Samuelsonの教科書もソビエト礼賛してたのかー。61年版では84までにソビエト>アメリカになるなんて言ってたそうだ。
・坂本竜馬はSakamoto Ryumaじゃねえ、Sakamoto Ryomaだ!
・「孝明天皇の子明治」という表現があったけど、正確には「孝明天皇の子睦仁」のはず。
・倒幕の中心となったSatsuma, Choshu, Tosa, Akiとあるけど安芸じゃなくて肥前だよね?
(訂正)王政復古の倒幕時に実力行使に出たのは安芸藩ですね。
・謝辞に日本人名が見られないところをみるとチェックがなされなかったのかな。。。
posted by Char-Freadman at 21:11| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月23日

Memento mori

死、それは喪失。人は去りゆく者を悼む。
忘却の彼方へ追いやられることをよしとしない感情は根強く、急逝した研究者の遺作にはしばしば哀悼文が載せられる。

しかし、専門書は追悼の辞を表すにふさわしい場ではない。

人を批判するのは難しい。それが死者であれば尚更だ。故人への想いから、命題を検討する眼に濁りが生じる可能性が高まる。どんな形であれ科学の営みが妨害されるのは亡くなった人にとっても本意ではないだろうーー驚異に満ちたこの世界を解明したい、それが学術に従事する者全ての願いなのだから。

とはいえ、情念に満ちた物語は読むものの心をうち、表現されなくては惜しい価値がある。自伝や伝記といった形式にして伝えるとよいのではなかろうか。
posted by Char-Freadman at 07:46| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月08日

家賃

アメリカで家賃をいまいましく思っている人には朗報。そのとおりだ。

"The Rent Is Too Damn High", by Matthew Yglesias

http://www.amazon.com/Rent-Too-Damn-High-ebook/dp/B0078XGJXO/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1330356230&sr=8-1

アメリカでは、NYや西海岸の家賃はやたらと高い。なぜかといったら、人口密度を高めないようにする規制があるからだ。
この問題は、家賃規制で効果的に解決できると思うかもしれない。確かに既存の居住者は払う家賃が減るから得をするけど、住居の新規建設はなされなくなる。つまり、もしかしたら住めたかもしれない人が損をするのだ。
アメリカの都市で近年人口増加が著しいのは、生活費のかからない地域。職ーーチャンスーーのありそうなところをめがけて人が殺到するというアメリカの伝統は消えてしまったかのよう。これも規制のせいで、高い家賃によって実質賃金は打撃を受けている。
古典派経済学者は農業の特徴を捉えた。土地は限られているため、新しい居住者は連とを払わねばならない。でもけんせつはしない。工業革命はこの状況を一変し、土地を持つことにそれほど利益は生まれなくなった。しかし、更にサービス産業の発展によって今度は「人々の近くに住む」ことにメリットが生まれた。再び土地に価値が生まれたのだ。
投機されてるのは家ではなく、土地である。それは供給が限られているからだ。
密集についてはメリットがある。まず環境に優しい。通勤に使うガソリンが減るため。次に冷暖房効率も上がる。なぜなら、隣の部屋の室温は自室のそれに影響するから。
ジェントリフィケーションによって家賃が高額になり追い出されたという批判は外れ;もっと供給を増やせば家賃は低下するのだ。インフラ改善を人口増に伴ってのみ行うようにするとよいとしている。

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(感想)
・タイトルはこの演説からとったらしいw
http://www.youtube.com/watch?v=x4o-TeMHys0
『家賃高過ぎ党』とでもなるか。キャラが強烈w
http://en.wikipedia.org/wiki/Rent_Is_Too_Damn_High_Party
アメリカらしいネタですね。

・ちなみに私の住むAnn Arborではstudioでひと月$700くらいが相場。(もちろんファカルティはもっと高くて良い物件に住んでいるw)

・東京でも家賃と治安のトレードオフがあるね。実家のあたりはリアル北斗の拳とか言われていて、多分最も安い地域。

・密集のデメリットはあんまふれられてないなあ。
防災;消防車は早く着くようになるけど、延焼も早まる
防疫;救急車は早く着くようになるけど、感染も早まる
どの程度のバランスが適しているんだろう。現状の規制はやりすぎな気はするけど。
posted by Char-Freadman at 13:37| 北京 | Comment(0) | TrackBack(0) | ぶっくれびゅー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月07日

試用品

イスや机などの家具は、数時間使ってみないと自分に合っているかどうかがわからない。そこで、カフェやホテルやなによりオフィスのスペースを商品の展示場として利用してはどうだろう。

>>スターバックスのソファは人気で、どこで売っているのか店に問い合わせる人も多い。(http://ja.wikipedia.org/wiki/スターバックス より引用)

カフェなら1時間くらい、ホテルや勤務地なら数時間は使う。座り心地がいいかどうか判明するには充分だ。

週末にわざわざIKEAに出かけて長考ののち数時間費やして買うより、普段の生活で商品比較をしたほうが時間も効率的に使えそう。

あとホテルをモデルルームとして使うのはどうだろう。部屋の間取りや防音や冷暖房といった住環境を試すのにちょうど良くないか?実際に住んでみるわけだし。

例によってそんなカフェやホテルは既にあるかもしれないけどね!
posted by Char-Freadman at 05:59| 北京 | Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月06日

文明の対価

Sachsがアメリカに関してボヤいているようだ。

"The Price of Civilization: Reawakening American Virtue and Prosperity ", by Jeffrey Sachs



アメリカの価値観は崩壊しつつある。儲け過ぎなCEOや学者は社会的責任を果たしていない。富の追求にいそしむだけで、あとはどうでもいいという態度だ。税を公平にし、社会の要求に応えるように教育を行い、将来にわたり社会の連帯を維持するという管理義務を果たす、つまり「文明への対価」を支払わねばならないーーこれが著者の問題意識だ。アメリカの現状に興味のある人はどうぞ。

政府への信頼は薄く、幸福指数は伸び悩み、中位所得は横ばいで、失業率は高く、貯蓄率は低く、CEOは儲け過ぎ、政治も機能していない。経済、社会、政治、心理といった点から分析を進めていく。

市場だけでは効率性も公平も維持可能性も保証されず、政府の助けは必要。ニューディール以降、道路やダムなどのインフラ建設・地域振興・社会保障といったサービスを政府は供給するようになった。成長の守護者として信頼を積み、60年代半ばには貧困との戦いを打ち出し絶頂期となった。しかし、金本位制の崩壊・赤字予算・オイルショックといったマクロ経済的要因によってその信頼は失われ、「政府こそが問題」と言われるようになってしまった。レーガン政権は高所得者への減税・民間予算の削減・規制緩和・政府サービスの民営化といった特色がある。研究開発の資金は削られ、ウォールストリートで不届きものが私腹を肥やすようになってしまった。

市民権運動、ヒスパニックの増加、サンベルトの勃興と都市の空洞化により、アメリカは分裂してしまった。とはいえ、平等に機会が与えられるべきこと、最大限努力すること、不運な人は救うべきことといった点に関しては、概ね同意がある。ただ、誰が税負担をしているのかに大きな誤解が生じている。重い税負担をする金持ちはカリフォルニアなどの「青い州(※)」に住んでいるけれど、むしろ高い税率によって利益を得る州は民主党に反対してしまっているのだ。

グローバル経済はアメリカの立ち位置を変えた。中国その他途上国からは低賃金労働力が大量に供給されるようになったため、技能の低い労働者の賃金は低下した。いっぽう資本は移動性が高いため、各国は税率を低くして誘致している。したがってアメリカ国内では、会社は勝ち、労働者は失うものが多いという状況だ。国際協調で税率を設定し、天然資源が失われないようにせねばならない。

アメリカでは政党が弱く、各地区の代表が強い。また産業界のロビイングが強い。会社のカネが選挙キャンペーンに影響する。民主党も共和党も同じカネを目当てに、似たような政策(right-center)を打ち出すようになってしまった。軍産複合体、ウォールストリートとワシントン、石油、健康といった産業がアメリカ政治を蝕んでいる。外交も中東の石油を目的に組まれている。気候変動は人によりもたらされたという多くの科学的業績があるのに、エネルギー産業とグルになったメディアはそれに不当な疑問を投げる。

アメリカ人はメディアを過剰に使っている。平均すると、TVの前に8時間半も座っているのだ。心理学が明らかにする所によると、人の心には展性があり、衝動的になったり、無意識に行動したり中毒になったりする。過剰消費や借り過ぎといったマクロ経済要因にもなっている。インターネットは発達したものの、基本的な知識を持っている人の割合はだんだん低下しつつある。

過剰消費をそそのかすメディアからは目を背け、自分自身と向き合い社会のことを考えるべき。ワークライフバランス、教育、協調、生態系の保護、貯蓄、多様性の認識、といった点に関して、"mindfulness"(=注意深く考えること)を持つべし。教育効果の高い0~6歳児が貧困の犠牲になるのを食い止め、化石燃料には課税する一方で低炭素なエネルギーに補助金を与え、無駄な防衛費を削減し、幸福指数や発達指数を使いながら真の厚生に向けて国を改革する。人的資本にスピルオーバーがあるとき、地区ごとに競争があると望ましくないことが生じる;税率を低くして住民を誘致したり、金持ち同士でつるんで貧乏人が住めないような高い地価になったりする。公共財の提供は各地で行い、収入の担保は中央政府が行うべき。さしあたってはガソリン税を上げたり、付加価値税を導入したり、とにかくなんとしても税収を増やす。そして政府は明確な目標を持ち、専門家を駆使し、政策は長期的展望から描き、金権政治を廃止し、地方分権を推進するべきとする。新しい世代はより進歩的で、真の福利を推進する第三の政党が芽生えるかもしれないとみている。

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(感想)

・サックスは「偉大なる踏み台」として認識している。
「地理的要因が経済発展に効く」→「地理は効きません、効くのは制度です」by Acemoglu, Johnson, and Robinson
「ガンガン援助しようぜ」→「もっと丁寧にみましょう」by Duflo
というわけで彼とは逆の解釈を示しておこう;政府はあくまで脇役で、邪悪な鉄道王が改心したり、パソコン長者が福祉に目覚めたり、とにかくエネルギーの有り余ったヤツが牽引するのがアメリカ社会。山積する難題はすべて科学やカネーー物質的なモノーーで解決してやるぜという姿勢でいいんじゃなかろうか?

・まとめると「持てる者にじゃんじゃんカネを使わせよう」との提言なわけだ。
まったくもってブレない!!!wインフラや貧困家庭など、効果があがりそうなターゲットを探してくるのに長けているのが経済学者というもの。

・「〜べき」論をすぐにぶつからあんまり好きじゃないんだよナァ。価値観が崩壊とか、米国のかつての一流経済学者にしては使用する語彙が杜撰すぎる。。。とはいえ、「救いの手」を主張する左派の経済学者だけどハイエクやフリードマンへの理解も示している!凡百の論客とは異なり、流石。

・「真実はなかなか明らかにならない。ハ大の同僚がインサイダー取引で罰を受けたとき、大学当局は懲罰に抵抗しようとした。(中略)サマーズは規制緩和を進め、アカデミアでもウォールストリートでも栄光ある地位を占めている(2章)」「ウォールストリートとワシントンの繋がりは深い。(中略)オバマのもとではサマーズ(後略)(7章)」サマーズ・シュライファーの師弟コンビに敵意むき出しでワロタw

・(※)民主党を支持する傾向がある州のこと。

・税の国際協調についてふれており、あたかも他国の競争に巻き込まれているように書いている。でもさあ、「条約で決定された事項を議会であとからひっくり返せるようになっている国」はアメリカくらいのもんなんだけど・・・w

・「いまや海外のことではなくアメリカに興味がある」と前書きに高々と掲げているんだけど、世銀のトップの候補として出馬してるねえ。まあしっかり仕事してくれるぶんにはかまわないけど。

・Christina Romerも「要職から降りたあとに」増税を主張したとしてdisられていてワロタw経済学者に容赦ないw

・CEOの給料が高すぎるかどうかって結構議論の余地があるんだけど;

・ネットサーフィンは読書と違うって意見だけどさぁ、それSachsが老人だからじゃない?小さい頃からPCやタブレットで読み書きしてきた人だったら、普通にPCのスクリーンを通しても「読書」できるんじゃないかな。(データ求む;30年くらいかかりそうだけど。。。)

・宗教家やケネディの発言を持ち上げたり、レーガンをことあるごとに非難するSachsの書き方をナイーブだと捉える人がいるかもしれない。でも彼は若くして正教授に上り詰めた秀才で、長年にわたり要職に就いていた重要人物もある。ケネディの短所もレーガンの長所も知っているだろうし、何より政界での生存戦略に長けているだろう。「アメリカ政治を改革しよう!」という本を出版するウラには何らかの優れた意図があるんじゃないだろうか?

・たぶんほとんどの日本の読者は「多様性の認識(笑)」と聞いてもあんまりピンとこないと思う。アメリカの黒人やヒスパニックや原理主義的宗教はやることが過激で、それでもなお認めようと言っているわけです。

・読みながら結構イラつくこともあったけど、若い世代に希望をみていたのは素晴らしいの一言。自分たちの世代より開放的・多様・繋がりが多く・教育も受けているなんて、なかなか発言できるものではない。

・ちなみに「文明の対価」とはオリバー・ウェンデル・ホームズの言葉で、税金を支払うときには安全な地域に住めることに対して支払っているという意味。
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2012年03月03日

独裁の手引き

独裁者の必読書!タイトルに惹かれた。

"The Dictator's Handbook: Why Bad Behavior is Almost Always Good Politics", by Bruce Bueno de Mesquita, Alastair Smith



政府やビジネスで、政治がいかに動くかを説明するのが本書の目的。
いい政治とは何かとかは他を当たってくれとのこと。政治家個人の同期に焦点を当て、政治のルールを探っていく。
政治とは権力を得て維持すること。生き残るためには、頼れる相手は最小限にしてポストに止まり続けること。支持者になりうる人がたくさんいるとき、リーダーは好き放題やれるようになること。これが本書の中心的内容だ。

1章はelectorate theoryの概要。名目上の選択者、事実上の選択者、勝利連合の三つの次元に分ける。名目上の選択者とは、リーダーを選ぶ権利を法的に持っている人のこと。事実上の選択者とは、リーダーを「実際に」選んでいる人のこと。勝利連合とは、事実上の選択者のうちで、リーダーがオフィスに留まるために必要な支持を構成する人たちのことだ。たとえばソ連なら、全市民が名目上の選択者、共産党が事実上の選択者、その中の派閥が勝利連合となっている。それぞれ、交換可能なもの(interchangeable)、影響力のあるもの(influential)、必要不可欠なもの(essential)と呼び、区別していく。
2章は権力の座に登りつめるときについて。以下の要因が効いてくる。
現職が死にかけていること;既存の支持者はこれまでどおり権益を得られるか不安になる。
破産;カネがなければ支持は得られない。ウォッカの販売を禁止したツァーとケレンスキーはどちらもしくじった。
沈黙は金;支持者の疑いを招くことはしてはならない。ベン・ベラは失言によって放逐された。既得権益から追い出されることを恐れた支持者の反抗にあったのだ。
制度改革;勝利連合を小さくするための制度変化は政治家の好むところだ。
民主制のもとでは、立候補するには簡単だが、より多くの支持者が満足しそうなものを提供することになる。
相続;アメリカ大統領たちの20%は親戚同士ーー家族の財産を守ってくれるのは家族だけ。民主制のもとではより暴力が少なくなる。
良い政策;民主制にあっては、国民により多くのものを提供できる政策が勝つ。アイデアの競争になるのだ。戦争に疲弊したイギリス国民は、チャーチルではなく国民健康保険や福祉国家の建設を目指したアトレーを選んだ。
離間;現職の味方を分裂させること。リンカーンは奴隷に関して民主党を分裂させることに成功した。
現職が死にかけていたり、支持者にとって間違った政策を採っていたり、自己中心的になりすぎていたりしたら、対抗馬にとっては挑戦するチャンスだ。機会をうかがい、素早く実行に移すべし。
3章は権力の座を維持することについて。頼る人数はできるだけ少なくし、挑戦者を退け、仲間には適度な利益を分け与え続けねばならない。ヒューレット・パッカード、フセイン、レーニン、サミュエル・ドウといった例が挙げられている。連記投票は未熟な民主制のもとでしばしばみられる。
4章は課税について。カネは、支持者を集めるのに非常に効果的。貧者から奪い、金持ちに与えると良い。専制のもとでは少数者に頼ればいいので、税率は非常に高くなりがちだ。確かに国民全体は働かなくなるけど、独裁者が支持者に分け与えるに充分なパイだけ確保できればよろしい。
5章は政府支出について。公共財は供給するけど、ギリギリ生活するのに必要なだけあればよい。独裁のもとですら最低の教育水準や栄養は維持されることになる。
6章は汚職について。汚職があれば政権維持は容易くなる;政府に反抗的な人間に対して難癖を付けるとよい。ロシアの警官の給料は低く、汚職せねば生活が成り立たない。彼らは訴えて追放されるのを恐れて政府に従っている。
7章は援助について。独裁者のふところを暖めるだけだ。危機があると国民は立ち上がるかもしれないことを考えれば、むしろ悪と言える。確かにNGOはある種の公共財の供給に優れているけど、5章でみたように専制のもとでも最低限の水準は提供されるから、余分なカネが独裁者のもとに行くだけ。民主制の国が独裁制の国へ援助するのは、共産主義やテロリストに対抗するといった外交目的があるから。以下のように説明できる;
民主制A国;多数の国民がB国の政策を自国に有利なものに変えたいと思っている
独裁制B国;A国に有利な政策にするために満足させねばならない人の数は少ない
パキスタンのアルカイダ対応をみていると、援助をするなら結果が出たあとに支払うほうが良さそうだ。テロリストを殲滅してしまっては援助が得られなくなるという構造では、やる気が引き出せない。
8章は反抗について。政府の転覆がありえそうに思わない限り、人々は立ち上がらない(※)。地震や津波など危機が起きると、政府に反抗する人が充分な人数になる可能性がある。しかし、死者が多すぎる場合は、立ち上がることすらできなくなってしまう。ミャンマーのタン・シュエは海外援助を断り、餓死者がでるまま放っておいた。
9章は戦争と平和について。孫子曰く、(1)素早いこと(2)最初にしくじったらさっさと撤退しろとのこと。これは独裁制のもとでうまくいく方式。民主制では、(1)じっくり練る(2)勝つまでやる、という方式になる。独裁制での軍は、内外の敵に対応せねばならない。しかし民主制の軍は、敵国に専念できる。また政府のために国民が一丸となって闘う。実際、イスラエルはアラブの国々に勝利した。民主制の国は勝てそうな相手を選んで戦争し、勝った暁には自国に都合の良いように政体を変える。
10章は何をすべきかについて。コーポレートガバナンスについては、ネット上で株主同士が話し合える場を設けるのが望ましい。アメリカでは勝利連合の大きい地域ほど発展している。選挙区いじりをやめさせ(&数理政治学者とプログラマーに設定させ)、選挙人団を廃止し、移民を受け入れてより多くの人の厚生が上がるようにすると良い。観光収入を狙って市民の自由を認める権力者もいる。援助によってインターネットや携帯電話など、自由のために市民が蜂起しやすくする技術を導入すると良さそうだ。

まとめるとこうなる→独裁者五ヶ条;

一、連合は出来るだけ小さくすべし。
権力の維持に必要な人を減らすことができます。金正日万歳!

一、名目上の選挙権所持者は出来るだけ大きくすべし。
独裁者を支持する人がたくさんいるなら、反対する人を追い出すことが可能になります。レーニン万歳!

一、カネの流れをおさえるべし。
誰がパイにあずかれるかを決めるのは独裁者のアナタ。ザルダリ万歳!

一、市民は生かさず殺さず。
独裁者のアナタになりかわろうとするヤツが出てこないようにしましょう。ムガベ万歳!

一、支持者のカネで全員の生活を改善するべからず。
あまり支持者を虐めすぎると反抗します。空腹なヤツは反抗する気力もないのでパイを分け与えてやる必要は無く、味方にだけ利益をあげればいいのです。タン・シュエ万歳!

まもらねば、ぶるうすがしかる。
資源があるときは、労働に頼らなくとも搾取ができるため、独裁が蔓延りがち。

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(感想)
・政治学の研究書のはずなのにビジネス書みたいなハウツー本になっててワロタw
・妥当な仮定、わかりやすいロジック、当てはまる例多しと、実に読みやすい。豊富な事例を通して、独裁へのロマンが打ち砕かれること請け合い。政界での生存戦略を追及しているのは独裁でも民主制でも一緒で、結果が異なるだけ。
・中国の人権政策とかロシアが偉大な国に回帰するとかいう表現に対して、主語はなんだよといちゃもんを付けていたのが素晴らしい!そういう政治文学語る人は文学部に行ってもらいたいところだ。ゲーム理論と統計を使ってぐりぐりやるのがさっさと主流にならないかなあ。何言ってんだコイツと思ってた学者(ハーバーマス、フーコー、ロールズ)がまとめてdisられててほっこり^p^ 葬られてしまえ。
・なのでこの本で「アメリカが〜」とか「独裁制が〜」とか「民主制が〜」と表現されるときは、それぞれ「アメリカの大統領が〜」とか「大きな連合の国では〜」とか「小さな連合の国では〜」という表現の省略形となっている。
・ただ「共産主義を恐れたアメリカは〜」という表現はちょっとひっかかった。アメリカ大統領(=アメリカの一般国民の総意)はなんで共産主義を恐れるの?
・「Oxfordは独裁者養成校」ワロタwたしかにそのとおりw
・リアリストな書き方になってて、「残酷だけど政治戦略としては効果的だよね、わあすごい」という表現が至る所にみられる。普通に痛罵するよりこうやって皮肉をきかせてるほうが好きだなー。
・(※)これはスタグハントゲームといって、銀行の取り付け騒ぎと同じ構造;http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%82%B0%E3%83%8F%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0
自己充足的な期待というヤツです。
・経済学者は優しすぎるという罵倒は珍しい!「援助は独裁者を増長させるだけ」という表現に開発経済学者は腹を立てるかもしれない。ただ、ランダム実験その他で蓄積された知恵自体は、まともな政府になった暁には、役に立つようになる。(おそらくその有効性は本書の著者も認めるところ。)それは、戦時中の人体実験が、戦後の医薬の発展に寄与したのと似たような構造だ。必要悪。それはそれ、これはこれ。
・FIFAやIOCの汚職にまみれた姿が描かれている。ロゴがちょっとでも似てたら訴追されたり、店の名前を強制的に変えさせられたり、権利者って横暴だなあ。数億も支払ってまで経済効果あるのか?地域の首長に利をもたらすだけではないのか?という気がしてきた。
・何がinfluentialとessentialをわけ、interchangeableとinfluenceを分けるんだろう・・・。

dictator.gif
posted by Char-Freadman at 02:21| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年03月01日

AIDSの起源

AIDSの起源を辿ってみた。

"The Origins of AIDS", by Jacques Pepin



1章は基本知識。DNAは代を重ねれば重ねるほど多様になる。最も細菌が多様なアフリカに起源がありそうだ。
2章はチンパンジーについて。種によって広がる細菌の型が違う。
3章は発生期について。1930年代のコンゴでの鉄道建設にあたった労働者の中に、AIDSとおぼしき症状の患者が多数いるようだ。分子時計を利用し、1921年頃に発生したのではないかと推測している。
4章はチンパンジーからヒトへの感染経路について。ポリオワクチンにチンパンジーの血液が混ぜられたためだとか、チンパンジーの血液をヒトに注射していた実験のせいだとか、臓器移植の実験のせいだとかいった仮説は棄却されている。ハンターもしくは料理人から感染したのではないかと推測され、感染確率の概算がある。
5章は中央アフリカの歴史について。植民地時代には労働力の必要から、男に偏った人口比になってしまった。これがキンシャサでの売春の温床になった。
6章は多様な売春の形態がいかに需要を埋め、HIV-1の拡大に繋がったかをみていく。「自由婦人(Free woman)」と呼ばれる人ーー家事やおしゃべりや性労働ーーから、学費のための性労働、あるいは売春宿での労働者と、売春は多様。
7章はHIVやHBVやHCVがいかに拡大したかをみていく。注射針と注射器の殺菌処理は不完全だった。
8章は仏領赤道アフリカとカメルーンについて。眠り病との戦いで、移動治療という有効な方法が生み出された。
9章はベルギー領コンゴについて。最初の感染者がここにいたとは考えにくいものの、レオボルドヴィルはウイルスの広まるもととなった。HIV-1がもっとも多様なのも、最も古いものが見つかったのもここ。
10章はその他の免疫不全を引き起こすウイルスについて。
11章はアフリカからアメリカ大陸への感染拡大について。ハイチの労働者が感染し、拡大したとみている。
12章は売血について。血漿の売買により拡大してしまった。
13章はグローバル化について。
14章ではあり得る感染のシナリオについて、確率を概算している。P.t.troglodytesは昔から住んでいたため、ハンターが感染するということもあったかもしれない。でも感染が広まるようになったのは、一人で何人もの客を相手にするような職ができてから。
15章はまとめ。ヨーロッパの植民により、売春が利益を生むようになったこと。注射針や注射器が汚いまま再利用されていたこと。これらの二つによってエイズの拡大がもたらされてしまった。たとえ良い意図を持っていたとしても、最悪の結果に繋がることがあるということを、肝に銘じねばならない。

アフリカに興味のある人にオススメ!

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・アフリカの歴史は淡々と事実を応だけで気分が沈んでくる。。。
・血清治療も医原病の温床になっちゃうとは。使える有効な治療法が限られてしまう難しさ。なんとかならんのかなー。
posted by Char-Freadman at 02:38| 北京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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